ID物語

書きなぐりSF小説

第51話。東京サイボーグ農園、始動。7. 西部劇

2011-12-13 | Weblog
 (数日後、そのオーディション当日。A国海軍の兵士と、その関係者が20人ほども集まった。よせばいいのに、カウボーイや南北戦争の兵士のコスプレしているやつまでいる。本物ではないから、かっこよくて、ピカピカ。)

ジーン。農園で採用するんですか?。

奈良。ボランティアだ。交通費や食事代は出す。保険も。

土本。恐いほど決まっている。本物の国だから、当然か。

エド。日本の時代劇といっしょだよ。あれを日本人以外がやると、どこか変。

軍関係者1。空き缶に当たればいいんですか?。

奈良。親子連れに受けないと意味がない。かっこよく頼む。

軍関係者1。聞いたか、者ども。やるぞ。

 (馬に乗る組と、乗らない組に別れる。
 仮設の柵の上に、所狭しと空き缶が並んでいる。2mほどの幅の柵が5つ用意されている。空き缶にはレーザーの受信装置があって、空き缶のどこかに当たると、音がして、派手に光る。とにかく、25個ほどの空き缶のどれかに当たらないと、全然様にならない。
 拳銃とライフルは5セットずつしかないから、交代で撃って行く。小さな発射音はするけど、撃った瞬間の衝撃はない。次第に、離れた位置から撃つ。
 さすがに軍関係者で、しかも、ウエスタンに関心のある奴等、急速に慣れて行く。自分たちで話し合って、効果的な距離だとか、的の配置を決めて行く。
 だいたい分かったので、キャシーがジョーンズとトーキョーでデモ。ジョーンズは救護服のまま、2丁拳銃のホルダ付きのベルトを付けている。トーキョーは、古風なライフルを抱えて、馬に乗っている。)

キャシー。開始!。

 (映画で研究したらしく、両機とも格好付けて撃つ。外れもあるけど、まずまず当たる。観客から、拍手。オーディションの面々も目を見開いている。)

軍関係者2。なんか、すごいものを見た。

軍関係者1。だが、あれは軍事ロボットのはず。愛敬で外したのかな。

キャシー。あれで精一杯です。トップクラスの人間には、絶対に追い付けない。

軍関係者2。最低限、あの線は必要って事だ。やるぞ。

 (まあとにかく、小火器のプロが必死になっているわけだ。様になっているし、すさまじい命中率。3名ほど、格好だけのふざけたやつがいたが、たちまち仲間に排除されてしまった。結局、ほとんどが合格。休暇を互いに取り合って来るので、人数は必要だろう、ということで、全員採用。
 合格祝いに、不合格者も含めてセイリュウで東京湾クルーズ。中でバーベキューを楽しむ。台所が狭いから、少しずつ作っては配る。操縦しているのは、赤に身を包んだつよし。料理人は鳥羽と志摩。キャシーとジーンがお相手。ケントもいる。自動人形は、ジョーンズたちとケイコとジョー。)

軍関係者2。狭いな。

軍関係者1。だが、快適だ。この密室内でバーベキューしても、びくともしない。

軍関係者2。こんな用途を考えていたとか。

ジーン。そうでしょうね。ケント、どうなの?。

ムーア。この船は、外洋に出ることを考えている。何もない海原だ。食事は数少ない楽しみの一つ。

キャシー。よく考えた。

ムーア。A国ID社に強く要望したのだ。うまく作られている。

軍関係者2。このモニタはよくできている。軍艦並みだ。

軍関係者1。どれどれ。ヨーロッパ系の感じだ。要約が激しい。

軍関係者2。しかし、言いたいことはよく分かるぞ。さすがに計測器のID社。

軍関係者1。やりすぎだ。…、不審船だぞ、こいつは。

軍関係者2。よく操作した。

軍関係者1。すぐ分かるって。何か脅す手段はないか。

志摩。ミサイル型観測機を飛ばすか、小型航空機を向かわせるか。

軍関係者1。後者だ。

志摩。ジョーンズはホワイトに、トーキョーはブラックに乗ってくれ。

ムーア。水中モーターを農園基地から発信させる。

志摩。全速でこちらに合流させて。

ムーア。了解。

ジーン。何が始まるのよ。

ムーア。調査だ。多分、相手は逃げると思う。

志摩。ホワイト、ブラック、発進。怪しい船の上空を3回突っ切ってくれ。

ジョーンズ(通信機)。了解。

 (轟音と共にホワイトとブラックがほぼ同時に発進。比較的静かとは言え、民間ジェット機並みの音はする。)

軍関係者1。うわわわっ、垂直発進したのか。

ムーア。その通りだ。蒸気ロケットだから、こちらにほとんど影響はない。

軍関係者1。肝が冷えた。

軍関係者2。向こうもそうらしい。ミサイルを発射したぞ。

志摩。ホワイト、ブラック、すんででかわして水中に逃げろ。

 (ホワイトとブラックは、改良型のカワセミ号で、しかもケントの念入りな調整が入ったらしい。どうやら、A国海軍の軍事技術をたっぷり仕込んでいる。海面付近でほぼ停止し、ふわりとコースを変え、ミサイルを海中に沈めてから、自分も沈む。)

軍関係者1。今度はどうなってるんだー。

ムーア。ミサイルをかわして、水中に逃げた。

軍関係者1。解説してもらわないと、訳が分からん。

軍関係者2。向こうもそのようだ。こちらに向かってくる。

ムーア。対戦車砲のようなものを持ち出した。セイリュウ、水中モーターを接続。潜れ。

セイリュウ。了解。

 (セイリュウはずぶずぶと沈んで行く。代りに、ホワイトとブラックが、怪しい船の目の前から空中に飛び出す。さすがに、逃げ出した。一目散に、東京湾の出口を目指す。)

志摩。ホワイトとブラックを回収。ケイコ、飛んでくれ。

ケイコ。了解。

 (セイリュウは浮上し、ホワイトとブラックが着艦。代りにケイコが飛び出して、怪しい船を追跡。)

軍関係者1。夢でも見ているようだ。ロボットが翼を出して飛んでいる。

キャシー。ケイコは世界最強の自動人形よ。あれを凌駕する自動人形は、存在しない。

ムーア。我が軍の開発したロボットだ。とくと威力を見ろ。

軍関係者2。ああ。追跡する。

キャシー。こちらを破壊する気だった。

志摩。一発目は、脅しだろう。東京湾で、よくやる。

ジーン。政府の反応があったみたい。そちらの空軍機が現れた。

ムーア。勇敢だな。ミサイル持った相手に。

志摩。ん、通信機だ。はいはい、志摩です。…、羽鳥からだ。何やってんだよーって。

キャシー。ミサイル戦よ。

志摩。説明する。…、余計なことしやがって。そいつは、こちらも追いかけているんだと。撤退しろって。

軍関係者1。ここで、撤退しろだと?。無視しろ。

志摩。困ったな。さる事情で、無視するわけには行かない。みなさんをそちらの基地に送るから、それでいいかい?。

軍関係者1。そうしてくれ。

志摩。基地に直行する。

ムーア。蒸気ロケットを使おう。艦艇を要請する。

志摩。雷電、水中モーターを切り離して、水中翼で進んでくれ。

雷電。了解。

 (向こうは高速艇とは言え、普通の船だ。セイリュウの方がずっと速い。)

軍関係者2。追越しちまったぞ。

軍関係者1。早い方がいいだろう。ほら、迎えが来た。

 (全員、ジョーンズとトーキョーにだっこされて哨戒艇に飛び乗る。セイリュウは離脱。)

鳥羽。結局、何したんだ、おれたち。

雷電。言われるがままに挑発した。

ジーン。ありがとう。多分、役だってる。こちらにも、そちらにも。

志摩。そう祈るよ。

 (A国軍が追い付いたのを確認して、ケイコを帰還させる。農園に向かう。)

ケイコ。いきなり作戦だったの?。

志摩。それに近い。相手の正体や目的は知らない。

ケイコ。ミサイルを撃ってきた。交戦よ。

志摩。単なるテロ集団かもしれない。あるいは、ただの密輸とか。

ケイコ。証拠が少なすぎるか。

志摩。うん。少ない。憶測するしかない。


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