ID物語

書きなぐりSF小説

第24話。暴れん坊教授。15. 伊勢と教授

2010-04-30 | Weblog
 (クリスマスイブ。私(奈良)は休暇をもらっている。正月直前から忙しくなるからだ。でも、教授はまだ情報収集部のオフィスに詰めている。日本の企業は、正月を挟んで3日ずつ休むパターンが多い。最後まで、連絡調整するつもりだ。)

伊勢。来週早々に、2機の自動人形を引き取りにY国本部に行く。教授はどうされます?。

大江山。行きたいが、忙しい。あちらでも連絡は取れるか。

伊勢。8時間の時差。こちらが昼は、あちらは早朝。

大江山。深夜よりはましか。行くことにする。

伊勢。奥様は。

大江山。妻とは一緒に行く。昼間は私だけ別行動になりそうだ。

伊勢。手配します。

大江山。手配って、ホテルの予約か。

伊勢。目的地の本部航空部門の工場は、小国のY国の、さらに首都のはるか郊外にある。工場の宿泊施設に泊まるのがいい。

大江山。首都とはどれくらい離れている。

伊勢。約200km。高速道を利用して、クルマで2時間。高速道は無料。

大江山。フリーウェイか。妻に聞いてみる。小国でも、首都には文化遺産が多そうだ。

伊勢。もちろんです。田舎風の街だけど、一日中歩いたって飽きない。すばらしい文化もある。訪れた日本人は必ずびっくりする。

大江山。ID社のすごみを裏打ちしている、って訳だな。そっちは妻に任せよう。

伊勢。じゃあ、本部の首都本社に連絡します。誰か、案内を付けましょう。

大江山。何もかもお世話になる。だが、ありがたい話だ。ご負担でなければ受けます。

伊勢。ところで、もし、よろしければ本部社員相手にご講演願えませんか。

大江山。それがこちらからのギブになる。いいでしょう。日本のサイボーグ計画について、私の見解を講演します。

伊勢。すばらしいお土産です。よかった。

大江山。伊勢さん。見かけ通りの鋭い方だ。美人だし、歩く姿なんて抜群。私の教室に誘いたいくらいだ。

伊勢。だめ。私の技能が生かせないもの。

大江山。最後の謎だ。情報収集部の。

伊勢。知ったところで、ちっとも面白くない。私が、ここにいる理由。そして、A31が配属された理由。

大江山。平凡そうに見える奈良氏が部長で、あなたが副部長格な理由。

伊勢。そうね。本部航空部門長なら、ホイホイとしゃべりそう。リリとエスの資質を見いだし、自動人形を表舞台に引き出した立役者。

大江山。世界を支配する多国籍企業の重役級。会えるのか。

伊勢。当然。あちらは教授の行動について、興味津々ですわ。なにせ、大国日本のサイボーグの動向を握る男。

大江山。興味は国防関連か。

伊勢。それもあるけど、科学技術動向が関心事。私たち日本ID社情報収集部と同じ。

大江山。どんな計測機を作るか。…、航空部門って何だ。

伊勢。観測用車両など、計測機の運搬手段を企画、設計、製造する部門。宇宙から深海まで、何でもやる。

大江山。ロボットもサイボーグも計測機の運搬手段か。何となく関連する。

伊勢。きっと教授は気に入られる。教授が航空部門長を気に入るかは微妙と思いますけど。

大江山。さては、個性があるんだな。

伊勢。筋金入りの航空マニア。部下も。その手の話が好きなら、いつまでも話が続く。逆に、付いて行けないと、面白くない素人と判断されてしまう。

大江山。あなたはどうだ。

伊勢。私は飛行機が操縦できたから、話をしてもらえた。航空部門でも飛んだ。

大江山。何か売り込むための技能がいるな。飛行機、クルマ、船。

伊勢。ロケット。サイボーグ。

大江山。サイボーグか。たまたま、近い領域ということで代表になってしまったが、直接の研究者でもなければ、マニアでもない。

伊勢。政府って、そういうことするのね。SFとかマンガとかは?。

大江山。人並みに。

伊勢。奈良さんは子供のころ、宇宙服を着た兵士の人形で遊んだ。その話を航空部門長にしたら喜んでしまって、それじゃあ一つ、奈良部長が喜ぶサイボーグを作ってやろう、ってことになった。

大江山。航空部門長がID社の自動人形計画を牛耳っているのか。

伊勢。いいえ。数多い支援部門の一つ。発言力は大きいけど、決定はできない。自動人形の生産計画などは、専門の委員会が元締め。政策を決定しているのは、ほんの3人ほどとのうわさ。ついでに、自動人形の中枢部の技術動向を決定しているのも、別の3人ほど。

大江山。ほどって、知らないのか。

伊勢。知らされていない。機密らしい。理由は知らない。

大江山。大赤字の自動人形が、こともあろうに量産。私企業にとっては、機密だろうな。

伊勢。社長とかがいれば、その人の責任なんでしょうけど、経営トップとは関係ないところで動いている。

大江山。巨大多国籍企業。妖怪か怪獣みたいなものだ。実体があるのやらないのやら。

伊勢。教授は飛行機やクルマのおもちゃで遊んだとか。

大江山。当然。電池で地上を這い回る旅客機とか、紙のカードで動作をプログラムするプラモデルとか。

伊勢。飛ぶ飛行機は?。

大江山。あれだ。輪ゴムで飛ぶやつ。細い木と紙でできている。

伊勢。大昔のグライダーみたいなの。

大江山。多分、そうだろう。マニアはいるらしいが、私はマニアではない。

伊勢。話が続かないか。

大江山。サーボとか、個々の技術に興味はあるが、酒の肴にはならない。

伊勢。困ったわね。社交上も魅力ある男になっていただかないと。

大江山。何を企んでいる。

伊勢。新しい少年少女の自動人形よ。航空部門長、あなたの話をじっと聞いて、そのアンドロイドたちに性格を与えるはず。

大江山。もう改造はおおむね終わっているんだろうが。

伊勢。でも、まだ完成品として引き渡された訳ではない。最終調整までに食い込めば、かなり性格を注文できるはず。

大江山。イチとレイか。

伊勢。それが名前。ワンとゼロ。オンとオフ。単純。どっちが女よ。

大江山。イチ(Ichi)が兄で、レイ(Rei)が妹。でも、性別は変わるんだろう?。

伊勢。だから、中性的な名前を。なるほど。性格に付け加えることは?。

大江山。モデルになってくれた鈴鹿くんと芦屋くんの掛け合いは面白い。どちらも、全然負けていないけど、芦屋くんが勝手に振る舞うのを許すと見せかけて、鈴鹿くんは結構陰険。結局、思い通りに操縦している。

伊勢。あらあ、よくお気づき。

大江山。大変な信頼関係。絶対に裏切らないと分かっていないと、あんな激しいやり取りはできない。

伊勢。二人とも動く凶器ですもん。

大江山。まじで恐そうだ。

キキ。誰が行くの?。

伊勢。奈良さんと私は行かないといけない。あなたとケイマさんはどうする?。

キキ。ケイマは今週末に行く。伊勢さんより少し早く着く。私はID社の輸送系で運ばれる。

伊勢。虎之介は行く。鈴鹿と志摩はどうしようかな。

キキ。鈴鹿さんはモデルの一人だから、行けばいい。

伊勢。そうね。オタクへの謝礼も込めて。志摩も連れて行こう。行かないと、リリが寂しがりそう。

キキ。何よ、その理由。空木さんはエスと一緒にシリーズBで戻る。

伊勢。あと4人乗れるわね。

キキ。A31はどうする?。

伊勢。空飛ぶ自転車が間に合うらしい。航空部門長が見たがっていた。もちろん、あなたの自転車も。

キキ。モグは。

伊勢。イチとレイの発着の都合があるから、連れて行くか。面倒だから、四郎と五郎も。

キキ。結局、全員。

伊勢。そうなった。

キキ。関さんも誘おうよ。

伊勢。連絡してみる。…、行くって。即答。

大江山。班関係で、行きたい人があるか、探ってみる。

伊勢。たいそうなツアー。航空機をチャーターできるかな。聞いてみる。

大江山。発想が違う。さすがID社。

 (結局、空木のシリーズBとは別に、ID社の専用機を飛ばすことになった。Y国から来るのだと。普通の旅客機を改造したものだ。ちょっとうるさいけど、中は広々と空間を使っていて、快適なはず。政府関係は大江夫妻と関も含めて、12人が来ることになった。私と伊勢と鈴鹿とA31が乗る。四郎と五郎も同乗して、乗客にサービス。空木とエスのシリーズBには、志摩と虎之介とケイマとキキが乗ることになった。ケイマのスケジュールに合せて、週末に出る。)

第24話。暴れん坊教授。14. 湖底の荷物

2010-04-29 | Weblog
モグ。新車両が来た。

大江山。新車両とは何だ。

モグ。教授が以前お乗りになった社用車。2台あって、新しい方だから新車両。

大江山。特注の方だな。

モグ。そうだ。

大江山。この暗いのに無灯火。警察に捕まるぞ。

アン。敵に気付かれないため。必要な措置。

 (キキたちが入ってきた。)

キキ。来たわ。アン、ご苦労さん。教授、ご無事で。

大江山。まだ何も起こってない。

キキ。何が起こってもおかしくない状況。

鈴鹿。教授、おはようございます。コンソールを使います。

大江山。自動人形は、誰が来たのだ。

鈴鹿。キキとエスと四郎と五郎。虎之介の他に空木くんも来た。

大江山。第二部隊フルキャスト。

鈴鹿(通信機)。虎之介、行ってちょうだい。

芦屋。了解。トラックを追う。

キキ。行ってくる。

大江山。どこに行くのだ。

キキ。研修施設の屋根。相手の監視。

 (キキはモグの屋根から空飛ぶ自転車で発進。小さな湖。研修施設にはすぐに着いた。)

大江山。用意周到。

鈴鹿。相手は小型魚雷を持っていた。こちらも十分な覚悟が必要。

 (雨は上がったが、まだ厚い雲。夜が明けたらしく、少しずつ明るくなってきた。
 トラックに乗っていた乗員は、施設には入らず、そのままボートを浜に降ろす。)

芦屋。エスと五郎、行ってくれ。水中で待機。

空木。おれも行く。

芦屋。水中活動は初めてだろうが。

空木。本部で訓練は何度もやった。湖でも。

芦屋。わかった。気をつけて。

 (空が明るくなってきた。雲が晴れそうな勢い。ボートは棚の上に到達。空木とエスと五郎は展開して、何が起こるのかを監視している。ところが、ボートは止まったまま。何をするでもなし、乗っている3人の男は暇そう。わざとらしく、釣竿などを垂れている。トラックに残っている一人に至っては、悠々と新聞を読んでいる。)

鈴鹿。何これ。何かを待ってるの?。

芦屋。怪しい。うかつに行動しない方がいい。空木、エス。悪いが、そのまま遠巻きにしてくれ。

空木。了解。

モグ。また来た。今度もトラック。積荷は隠している。

アン。で、こっちを観察している。あ、研修施設に向かった。

鈴鹿。虎之介、どこにいるの?。

芦屋。道路脇。

鈴鹿。クルマを隠してよ。

芦屋。何でだよ。堂々と監視してればいい。

鈴鹿。クルマが来た目的が分からないじゃん。

芦屋。不穏当なことはして欲しくない。威嚇は必要だ。

鈴鹿。んもう。そっちで勝手にやってよ。

芦屋。そうさせてもらう。

大江山。奈良部長が指揮を取るのではないのか。

アン。無駄。この2人と1機は勝手に動く。志摩さんがいたら、志摩さんも。部長が指令しなくても反対しても、展開は同じ。だから、指令した。責任が取りやすいように。

大江山。じゃあ、第一部隊の役目は後始末か。

アン。そう。本来の自動人形の役目。

大江山。だんだん真相が分かってきた。あとは、あの一人の役割が分かればおしまい。

アン。そのうち分かる。

鈴鹿。何をごそごそ言ってるのよ、アン。余計なことは言わないの。

アン。クルマが新車両の脇を通過。しっかり見られた。

鈴鹿。見られただけで何も起こらなかった。そろそろ砂浜に出る。

アン。出た。止まった。

キキ。すぐに行動しない。状況把握に悩んでいるみたい。

大江山。ボートで釣りしてたって、不自然ではないからな。

アン。不自然。このくそ寒い田舎で3人のおっさんがスーツ姿で釣り。

大江山。不自然だ。いつ気付くか。

 (途中のクルマも不自然だし、釣り船も不自然。でも、どうでもよくなったらしい。運転席の男は荷台に移動し、もう一人の男と2人でゴムボートを用意する。ウェットスーツを来た2人の男が出て、ボートに3人が乗る。釣り船のそばだけど、2人が潜った。)

芦屋。エス、トラックの荷台を調査してくれ。

 (エスはうまく回り込んで、荷台に潜り込む。うむ、魚雷と書いた箱がある。器用に開ける。間違いない、当たれば爆発する、本物の魚雷だ。)

アン。奈良さんに知らせる。

鈴鹿。そうしてちょうだい。

 (水中では、ダイバーが魚雷が発射されたことを確認。周囲を調査するけど、何もない。空木と五郎は、遠くに離れている。何かの間違いだろうと結論したらしい、ボートに戻る。釣り船の男が声をかけた。)

男11。大変ですね。こんな寒いのに水中の調査。

男21。ああ、これも仕事なのでな。そちらさん、何か釣れたのか?。

男11。場所が悪かったみたいだ。魚がいる湖と聞いて来たんだが。

男21。あちらのキャンプ場の近くの岩場なんかがよく釣れるらしい。

 (モグ内にて。)

アン。よく知っている。調査結果と同じ。

鈴鹿。そうなの。土地勘があるんだ。

 (ふたたび湖上。)

男11。こちらに来て、暖まりませんか。

男21。ああ、そうする。やたらと寒い。

 (ゴムボートをつないで、3人の男が小型のプレジャーボートに乗り移る。全員で暖房器具で暖まりながら、差し障りのない話をしている。)

鈴鹿。空木くん、この隙に棚を調査して。

空木。やってみる。

 (コクウにはアクティブソナーなどの軍事センサーが付いている。五郎には、IDセンサが付いていて、アナライザーも持っている。果たして、箱の中身は大半が酒のようだが、一部に機械部品のような反応が。火薬の反応もあるから、兵器のようだ。目印のため、箱を斜めにしておく。)

鈴鹿。これで終りかな。軍がこちらに向かっているそうだし、シリーズGを一基残して、引き上げよう。

芦屋。簡単だったな。

 (しばらくして、軍用風のトラックがモグのそばを通りすぎた。)

アン。軍じゃない。どっちかの増援。あるいは新たな勢力。

モグ。軍の車両に似せてある。

鈴鹿。まあた、ややこしくなった。

芦屋。あまり変わらないだろう。どうせ軍は来る。出入り口はそこだけ。2団体であろうと、3団体であろうと、一網打尽。

鈴鹿。どうするか、見てようよ。

 (トラックが到着。乗っていたのは、運転手を含めて6人。自動小銃を持っている。元からいた連中は全員、威力を知っているようで、おとなしくしている。ダイバーはボートからロープを持って水中へ。ボートの全員が引っ張って、箱の一つを陸揚げする。ダイバーの一人が開ける。酒だった。最後に来た連中は話し合っていたが、軍が来ない間に、引き上げるらしく、いそいそとトラックに乗った。)

鈴鹿。生け捕りにできないかな。

芦屋。けが人が出るぜ。

鈴鹿。軍が来るまでじらすのよ。

芦屋。簡単に言うな。

 (だが、何とか間に合った。今度は正真正銘の軍の車両だ。全速で、突っ込んで行く。新車両の傍を通って、砂浜の入り口をふさぐ格好で止まり、機関銃を威嚇発砲する。)

大江山。荒っぽいな。

アン。けが人を最小限にするため。

 (最初の釣りをしていた連中は、軍の関係者らしい。全員投降したので、証拠の荷物を引き上げる。連絡は行ってたらしい。中身の兵器を確認。本部に連絡している。
 モグのそばには、軍の乗用車がやってきた。鈴鹿が出て、説明する。
 しかし、往生際の悪いやつがいるらしい。2人が冷たい湖に逃げ出した。そして、2分もしないうちに沈んでしまった。)

芦屋。助けよう。五郎、向かえ。空木、行けるか。

空木。行ってみる。

 (虎之介は説明のため、研修所の浜にでる。空木と五郎が、一人ずつ引っ張ってきた。軍が保護して、車両に運び込む。本部から知らせがあったらしく、虎之介の説明は簡単ですんだ。鈴鹿がキキに引き揚げを指示。キキは発進して、モグに戻ってきた。虎之介とエスと空木と五郎は、新車両でモグに合流する。)

大江山。なるほど、調査と後始末の部隊だ。あの冷たい湖で活動するには準備が必要。自動人形なら、すぐに飛び込める。

アン。せっかくの教授の休日がめちゃくちゃ。

大江山。いや、自動人形のことがよく分かった。大変な収穫だよ。アン、モグ、ありがとう。

アン。引き揚げるの?。

大江山。そうしよう。湖の調査は、軍とかち合うだろう。

 (軍の許可を得て、シリーズGとシリーズHを回収。全員、東京に引き上げる。)

第24話。暴れん坊教授。13. 教授の休日3

2010-04-28 | Weblog
 (早朝6時。シリーズGを発進させる。観測開始だ。湖岸は意外にバラエティに富んでいて、岩が出ていたり、木が覆いかぶさっていたり、砂浜だったり。釣りのスポットを探すようなものだ。教授とアンはコンソールの前に座り、シリーズGからのデータを見て行く。)

大江山。水面下の世界だ。よく分かる。

アン。魚はお休みの時間みたい。

大江山。そのようだな。ええと、キャンプ場がここを含めて2カ所と、向こうの砂浜近くにどこかの企業の研修施設。

アン。今は無人。砂浜はプライベートではない。誰でも入れる。

大江山。ただでさえ辺鄙で小さくて、けっして風光明媚とは言えない湖。実際上、他には誰も行くまい。

アン。多分、そう。だからかな。何か沈めている。

大江山。昨日発見したのか。どれどれ、これか。すぐ沖の湖底に棚のような設備があって、確かに箱がいくつも置いてある。こんな感じで、酒を寝かせる話があったな。そのたぐいだろう。

アン。温度の変化がないから。

大江山。酒蔵としては、条件がいいのじゃないかな。

アン。話が飛躍している。調べようか。

大江山。位置からして、明らかに、あの研修施設の私物。散歩がてら、目に入りました、くらいならいいだろう。

アン。シリーズGが近づいたら、調べる。

 (シリーズGは予定通り、調査しながら湖を巡回する。だから、その施設の近くに来るのに、30分もかかった。)

大江山。やっと、例の棚の調査か。

アン。近づく。

 (シリーズGは時速20kmほどでどんどん近づく。と、反応あり。)

アン。魚雷が2発、発射された。棚の隅の箱から。小型。

大江山。シリーズGを破壊に。

アン。それ以外の目的はない。

 (でも、外れ。小型魚雷は2基ともシリーズGの傍を通り過ぎてしまい、目標を失ってふらふら進み。沈んでしまった。)

大江山。何だったんだ。

アン。シリーズGは小さすぎる。潜水艇か何かを想定していた。

大江山。じゃあ、モグがうかつに近づいていたら、撃沈されたのか。

アン。その可能性あり。疑義のある施設。調査の必要あり。

大江山。どうするんだ。

アン。奈良さんに知らせた。もうすぐ、連絡してくると思う。

奈良(通信機)。おはようございます。教授。

大江山。おはよう、奈良部長。

奈良。アンから連絡がありました。鈴鹿と虎之介と、若干の自動人形を向かわせます。危険ですので、近づかないでください。

アン。監視は続行する。

奈良。そうしてくれ。

大江山。警察に届けないでいいのか。

アン。まだ何も分かってない。魚雷は爆発しなかったから、状況証拠のみ。

大江山。確かに。調べの段階か。

アン。もう一基のシリーズGも遠くに待機させる。待っている間に、朝食を作る。

大江山。私が作る。トーストと紅茶でいいか、って、アンは純アルコールだったな。

アン。そう。

大江山。私の分だけ自分で作る。

アン。そうしてください。サラダの取り置きがある。召し上がってください。

大江山。いただくよ。

 (朝食が終り、何もすることがないので、教授はインターネットでニュースのチェックなどを。1時間ほど経過。モグが反応した。)

モグ。クルマが来た。

大江山。芦屋くんたち、速かったな。

モグ。ID社の車両ではない。おそらく、敵。

大江山。何だと。

モグ。ヘッドライトで照らして、こちらを見ている。男が4人乗っている。

大江山。これか。何という感度。こちらからは丸分かりだ。

 (小型のトラック。積荷はボートだ。)

アン。たしかに怪しい。

大江山。分かるのか。

アン。分かる。視線と仕草で。

大江山。そのあたりは、調整されていた。

モグ。こちらは怪しいとは思われなかったようだ。去って行く。

大江山。季節外れだが、キャンプ場だからな。どこに行く。

モグ。研修施設のある湖岸。予想だが。

アン。そこしか行けない。道は袋小路。

第24話。暴れん坊教授。12. 教授の休日2

2010-04-27 | Weblog
 (教授は午睡。ふと気付くと、モグが動いている。)

大江山。動いているのか、モグ。

モグ。そうだ。湖に観測機を設置する。

大江山。アンは?。

モグ。運転席にいる。

 (教授は助手席に移動。モグは水上モードで、ほんの少し湖に出ただけ。アンは救護服に戻っている。何かトラブルがあったときに備えてだろう。)

大江山。シリーズGを使うのか。

アン。そう。その前に、定置観測と中継器としてシリーズHを発射した。

 (教授は助手席のモニターを切り替える。シリーズHの位置がでてきた。)

大江山。要所に配置か。シリーズGは今からだな。

アン。シリーズHの配置完了。シリーズG、1基発射。

 (モグにはシリーズGが2本ある。そのうち、1基を発射管から出したのだ。ゆっくり、湖底の地図ができ上がって行く。)

大江山。湖底の地図を作るのが目的か。

アン。そう。あと、生物分布の解析を狙う。

大江山。魚群探知、あるいは、湖底のセンシング。

アン。今回は汎用調査。どちらも目標。想定されていない反射は、調査の必要あり。

大江山。面白そうだ。私も潜れるのかな。

アン。ドライスーツと水中スクータは用意した。でも、それほど安全な仕掛けではない。教授は経験がおありですか。

大江山。ない。

アン。困った。志摩さんでもいたら、講習会をするのに。

大江山。ドライスーツは、またの機会にするよ。モグで潜ったらどうだ。

アン。興味があれば、ご指示ください。

大江山。よくできたロボット。ID社が目もくらむような金額で買い取った理由が分かる。かならず役立つと考えたんだ。

アン。高かったけど、実費に近い。二束三文。

大江山。全機買い取ったんだろう?。

アン。一台残らず。ありがたかった。私たちは必ず恩に報いると誓い合った。必ず。

大江山。…。(これだ、自動人形の不気味な反応。全機買い取ったのは、自動人形技術のすべてを確認したかったから。恩を売るつもりではなかろう。この手の反応は、サービスプログラムのしわざと評価されているが、それにしても不気味。)

 (でも、アンはすぐにいつものアンに戻ってしまった。)

アン。地図ができた。シリーズGを回収する。夕食後まで予定なし。

大江山。人間なら、ここで地図を見て検討しているはず。それができないんだ。

アン。そう、できない。教授はどうされますか。

大江山。人工知能の威力を見せてもらうよ。素人の私がこれはと思った地点と、アンの評価が同じかどうか。

アン。楽しみ。湖岸に移動して、少し休む。

 (アンはモグを後退させて、湖岸に上げる。アンはベッドにはいって睡眠動作に入ってしまった。教授は運転席に移動。冬の早い夕方。しかも、雲がかかっている。暗くなってきた。そして、雨が降り出した。
 教授は考える。伊勢は恐いけど、頭がいいし、いいところもある。こうやって、自動人形の動作を私に観察させようとしたのだ。アンは初期型で反応が素直。性格も良い。自動人形の入門にはぴったりだ。
 運転席でも調べ物はできる。湖底の地図を見ながら、インターネットからの情報を参考にして、教授は生物観察のスポットを決めて行く。この件に関しては、教授は素人だ。でも、考えるのが楽しいらしく、一所懸命に作業している。
 アンは夕食の支度に起きたらしい、キッチンから音が聞こえる。カレーのにおいがしてきた。普通に洋風カレーのようだ。匂いがいいので、教授は席を立ってキッチンに出た…。)

大江山。何だー、その格好は。

アン。水着エプロン。

大江山。わざわざ解説するなーって、要望したのは私か。

アン。そう。

大江山。何で水着なのだ。

アン。食後にすぐ、水中調査する。プログラム通り。

大江山。救護服で潜れるだろうが。このくそ寒いのに、その…、色っぽい水着。いかん、頭がクラクラしてきた。

アン。機材の設置場所を確認するだけ。この格好で十分。

大江山。誰かの意図を感じる。

アン。当然、一人しかいない。

大江山。あの悪魔女。やってくれたな。

アン。できた。一緒に食べよう。

 (その、なんというか、目立つところがいつもより数段目立っていて、しかも何かする度に目に入る。)

大江山。みごとな体形だ。いつからだ。

アン。開発された当初から。

大江山。奈良部長の趣味ではないんだな。

アン。最初の1年ほどは気にならなかったみたい。外見は女性でも、女性らしい仕草ができなかった。

大江山。動物の心を導入してからだな、色っぽくなったのは。

アン。うん。食べようよ。

大江山。おっと忘れかけていた。

 (たしかに、それとなく、さりげなく、色っぽさをアピールするような仕草をする。うむ、仕込んだのは私(奈良)だ。私も同様のシチュエーションでさんざん振り回された。)

大江山。これ以上接近したら、手を出しそうだ。

アン。大丈夫。それは起こらない。

大江山。何かあるのか。

アン。すぐに分かる。それに、寝ぼけて手を出したら、反撃する。大丈夫。

大江山。こちらはちっとも大丈夫じゃない気がする。

アン。手加減できない。軍事コードだから。

大江山。明らかに勝敗が着くまで、止まらないか。

アン。そう。

 (アンは今度は食器洗いまでした。教授にやらせると、皿を破損してしまいそうだ。エプロンを取って、アナライザーなどを身に付け、ドアを出て行く。
 視界から消え、やっと落ち着いた教授は、運転席に行き、モニターでアンの行動を追跡する。アンが言ったとおりだった。単にシリーズHが埋もれたりするなど、不都合になってないかを確認するだけ。ついでに、湖岸付近をソナーや目視で探索。当然ながら、他に誰もいないようだ。
 運転席からはほとんど何も見えない。真っ暗で雨が打つ山の奥の湖。思わず教授はアンに声をかけてしまった。)

大江山(通信機)。アン、大丈夫か、寂しくないか。

アン。大丈夫。脅威は検出できない。こうして、教授と通信できる。安心。

 (考えてみれば、動く計測機が観測動作しているだけだ。外見が人形なだけだ。教授はさっきから、自分にそう言い聞かせている。
 湖岸をめぐるのに、1時間ほどかかった。アンがモグに入ってきた。教授がバスタオルを差し出すと、アンは髪と身体を拭く。そして、教授の手を引っ張って、ソファに座る。そうだ、こんなときは、働いてくれたお礼に軽く肩を抱くのだった。クロでもタロでも同じ。)

大江山。アン、冷たいな。

アン。すぐに暖かくなる。

 (体温を上昇させるために、燃料電池がフル稼働しているらしい。息が速くなっている。)

大江山。不思議だ。安心感しか湧かない。隣にいる君が、暖かくなってくる人形にしか見えない。

アン。私は、反応する人形。それだけの存在。

 (それでも不埒なことをしでかす男は、少数ながらいるとは思うものの、普通なら大丈夫。ふと、アンが教授を見つめている。観察しているような不思議な視線。そう、家畜が人間を観察するのと同様、心を探っているのだ。)

大江山。何か分かるのか。

アン。私たちは敵対しない。それを確かめている。

大江山。正直だな。

 (ものの2分で、アンは離れた。)

アン。お茶でも入れる?。

大江山。その前に、身体を洗ったらどうだ。

アン。そうする。シャワーを使う。

 (教授は再び運転席に移動。スケジュールを確かめる。明日、早朝から観測開始。朝はシリーズGを巡回させるだけ。午前と午後にアンが注目スポットで生物観察。夕にはシリーズGを巡回させてから、全観測機を引き上げる。さらに一泊して、終了。
 アンがシャワーを終え、救護服を着て助手席にやってきた。他の服にするのが面倒だったらしい。)

アン。教授、お先。

大江山。ああ。調べ物をしてから、こちらは適当に眠るよ。シャワーは早朝に使うと思う。

アン。承知しました。

第24話。暴れん坊教授。11. 教授の休日1

2010-04-26 | Weblog
 (大江山教授、居心地がよいらしく、情報収集部のオフィスから撤退する気配は無い。今日は伊勢を相手にサイボーグ技術の抜けが無いかのチェック。)

大江山。簡単ではない。

伊勢。ご自分で言ったでしょう?。人工生命体を作るって。

大江山。やればやるほど、目の前のアンが奇跡に見えてくる。

アン。もしもーし、大丈夫ですか。

キキ。で、いまどこに引っかかってるのよ。

大江山。皮膚センサーはどこもやりたがらない。

伊勢。変位センサーと温度センサーを適当にちりばめるだけ。

大江山。なんだが、配線をどうするのかなど、難題がたくさん。A国軍、よくやっておいてくれた。

伊勢。化学センサーはどうするんですか?。

大江山。ゼロにはできない。

伊勢。当然です。嗅覚障害は想像以上に不便。

大江山。家庭用の落としどころだな。火事センサーにガスセンサー。

伊勢。台所ですか。こりゃだめだ。お疲れで。

大江山。弱音は吐きたくないが、燃え尽き症候群もごめんだ。

伊勢。自律神経症状は?。眠れないとか。

大江山。それはない。

伊勢。じゃあ、休むだけで大丈夫。ちょっと旅してきたらいかがですか。名目は調査ということにして。誰か行ってくれる?。

キキ。何の調査よ。

伊勢。教授は海派ですか?、山派?。

大江山。どちらもいいが、どちらかというと山。湖のそば。

伊勢。ジロと一緒に行けば、いろいろ解説してくれる。

大江山。クロやエスも面白そうだ。

伊勢。もう余裕って感じ。じゃあ、アン、行きなさい。

キキ。何でそうなるのよ。

伊勢。一番心配してくれているみたい。

 (単に表情が乏しいだけだ。おすましした感じ。この機体の特徴だ。)

キキ。アンは単に表情がと…。

伊勢。志摩ー、来てくれる?。

志摩。お呼びで。

伊勢。教授が山の湖岸で2泊3日の休息を取る。手配して。今すぐ。

志摩。キャンプ場。閑散としてそうだ。

伊勢。だからいいのよ。休みになる。なるべく静かなところ。モグを使おう。

志摩。運転はおれ。

伊勢。そんなの休息にならないわよ。一人でぼーっと一日。

大江山。死んでても分からない。

伊勢。そのためにアンをそばにおくのよ。料理はできるわね。

アン。任せてください。がってんです。

伊勢。ほら、やる気満々。気が変わらないうちにどうぞ。

大江山。家と教室に連絡しておく。

 (大江山教授、お疲れのようで、よく考えないまま、伊勢に言われるままに旅に出る。
 モグ内。教授が運転してモグがナビゲートする。便利なやつ。)

モグ。もうすぐ着く。近場だ。

大江山。ああ、でも、ずいぶん山奥の感じ。

モグ。すぐ先、右折してくれ。

大江山。分かった。

 (キャンプ場にやってきた。他には一組だけ。それも、片付けの真っ最中。)

大江山。こんな季節にキャンプというのもどうかしている。

アン。休むために来た。これでいい。

大江山。救護服か。便利だな。

アン。歩き回るときは、これが便利。あとで着替える。

大江山。肌寒い。中に入っていた方が良さそうだ。休ませてもらう。

アン。ちょっと回ってくる。

大江山。探索か。

アン。そう。

大江山。付き合えなくてすまぬ。

アン。他の機会でいい。

 (アンはとててと行ってしまった。教授はモグ内に入る。)

モグ。室温はいかがか。

大江山。ああ、快適だ。

モグ。何か音楽でも。

大江山。いや、今は不要だ。

 (教授はコンソールに移動。アンの位置を確認している。)

大江山。森の中に入っている。何か見つけたのかな。

モグ。連絡するか。

大江山。いや、いい。何か脅威を感じたら、アンから連絡してくれるだろう。

モグ。そのとおりだ。私にも検出能力はある。

大江山。役立つな。

 (教授はモニターで、モグの各部をチェックし始めた。よい機会と思ったらしい。ふと、プログラムを見つけた。)

大江山。何か計画されているのか。

モグ。教授は調査のために来られたと聞いた。

大江山。そういえば、伊勢くんが言ってたな。何の調査だ。

モグ。湖の一般的調査。特に生物系の。

大江山。湖に繰り出すのか。

モグ。それは明日。これが予定表。変更があるなら指示してくれ。

 (予定表がモニタに表示される。アンとモグを使って、一般的な調査をする。伊勢が仕込んだらしい。)

大江山。単に建前じゃなかったんだ。自動人形の自律観測能力の調査。

モグ。そのようだ。

大江山。じゃあ、アンは観測中か。いや違う、予定表にはない。

アン。帰った。今の季節でも、結構野菜が採れた。

大江山。料理に加えるのか。

アン。そう。今から作る。その前に着替え。

大江山。つまり、探索ついでに山菜の収集か。着替え?。運転席に移動する。

アン。ロボットの着替え。気にすることはない。

大江山。そちらが気にしなくても、こっちが気になる。

アン。うぶな教授。

大江山。気にするな。料理はなんだ。

アン。山菜チャーハン。それでいい?。

大江山。楽しみだ。頼む。

 (教授は運転席に移動。こちらにもモニタがある。目の前には湖。対岸を表示する。そう、光学アレーだ。尋常の解像度ではない。)

大江山。何だこれは。普通のレンズじゃない。まだ拡大できるのか。

 (木の葉の一枚一枚の形が識別できる。そこまでだが。)

モグ。光学アレー。アンドロイドで実現できなかったので、私に搭載された。

大江山。三つ目になるからな。四つ目でも五つ目でもいいが。なるほど。

アン。教授、できました。お試しあれー。

大江山。ん、おやじギャグのつもりか。

アン。え、どこが。

大江山。もういい。うわあーっ、何だその顔は。

アン。四つ目のナゾー。

大江山。肝が冷えた。紙をはっつけただけか。すぐに外せ。気味悪い。よく知っているな、そんなキャラクタ(註: 黄金バット)。私の年代には周知だが。

アン。すぐ外す。

大江山。それに、その格好はなんだ。もろにメイド服ではないか。

アン。嫌い?。

大江山。気に入ったぞ。いや、こほん。ほどほどにするように。

 (ソファで一緒に山菜チャーハンを食べる。)

大江山。付き合ってくれるのか。

アン。味覚センサーの校正。お味どう?、教授。

大江山。うまい。塩味がほどほどでよい。

アン。よかった。スパイスの効き具合は?。

大江山。いろいろうるさい連中はいるだろうが、私の好みの範囲だ。よくやった。

アン。うれしい。

大江山。食材は志摩の選択か。

アン。そうだけど、私に責任がある。何か。

大江山。絶妙の組み合わせだ。これは鳴門か。

アン。そうだなるー。

大江山。苦しいぞ、そのギャグは。

アン。失敗した。

大江山。普段からは分からない面白いキャラクタだ。

アン。よく言われる。

大江山。姿はお人形さんだな。小さな女の子に人気がでそうだ。

アン。それを狙ったらしい。生きている人形。

大江山。うわあ、季節外れの恐怖物語。

アン。大切にしてくれなきゃ恨んでやる。

大江山。乗っているな。

 (食器の片付けは教授がやった。)

第24話。暴れん坊教授。10. 人工筋肉

2010-04-25 | Weblog
 (それからというもの、しばらくは、大江山教授はサイボーグ研の賛同企業を求めて、企業回りが続く。虎之介と一緒に行くわけだが、自動人形はキキだったりアンだったりジロだったり四郎と五郎だったり。
 本日は人工筋肉を作ってくれそうな数少ない企業の一つを訪問。四郎と五郎が付いて行く。応接室で、係の到着を待つ。)

芦屋。ロボットらしく、普通にモーターと減速器ではだめなんですか?。

大江山。A国軍も、最初はそちらで考えたみたいだ。だが、何らかの理由により、筋肉と同じ仕組みのアクチュエータを使うことになった。

芦屋。今はゴムの一種。

大江山。そうだ。ID社に来たばかりのころは、形状記憶合金を応用した頑丈なもので、それなりに重かった。軽量化に成功したのはID社の功績。さすがにこの部分はID社の技術力が高くて、追い付くためには新開発が必要だ。

芦屋。だからパートナー探し。

大江山。その通り。ID社の技術は優れてはいるものの、大変な価格だ。性能は多少劣っても、劇的にコストを削減しないといけない。研究開発できる企業はほんの一握り。

芦屋。開発の鍵を握っている。

大江山。できなくても、芦屋くんの言うように、モーターに戻せばいい。補助的に形状記憶合金を使えば、軽くできる。

五郎。システムとしてはひどく違う。

大江山。その意味では、開発の鍵を握っている。どこであきらめるかを明確にしないと。

社長。すみません、いま現場が忙しいらしく、私しか残っておりません。

大江山。大企業の社長。そんなおそれ多い。

社長。大江山教授と聞いただけで、だれもがしり込み。結局、私しか残らない。恐縮です。そちらが、開発目標の一つとなるID社の自動人形。

大江山。そうです。何か。

社長。筋肉を触らせてください。

芦屋。五郎、頼む。

五郎。はい。

 (五郎は救護服を脱いで、上半身裸になる。社長が触れたり、握ったりして確かめて行く。)

大江山。何か分かりますか。資料をお見せしましょうか。

社長。何かのゴムだ。電気で制御しているのか。

大江山。そうです。ですから、貴社を訪問しました。技術力のある。

社長。新開発になる。市場があるかな。

芦屋。サイボーグやアンドロイド以外の。

社長。ええ。

芦屋。計画ではこの五郎と同じようなロボットを2千万円で売るらしい。5年後を目処に。高級車並みには売れるかもしれない。

大江山。もっと短期間で売れないといけないんだろう。

社長。はっきり言えば、そうです。

大江山。小型モータの特性が優れているから、よほどのことがないと代替にならない。油圧や空気圧もライバル。長所と言えば、本物の筋肉と同じで、ほとんど音がしないし、いわゆる機構部分がない。

社長。制御とエネルギー供給は大変な問題。確かに我が社でも、細々と研究している連中はいます。でも、主流ではない。

大江山。あきらめて帰るか。

社長。研究している連中を呼んでみましょうか。何か意見が聞けるかもしれない。

大江山。じゃあ、それを最後に。

 (社長は電話している。でも、一回では済まなかった。2回、3回とかけ直している。)

四郎。社長でもよく知らない研究なのかな。

大江山。無理なこと言ったのかも。頃合いをみて、退散しよう。

社長。やっと見つかった。社のプロジェクトからは外れている。自費で研究している連中がいるのみです。

大江山。熱心なこと。

社長。どうします?。見せられるようなものではありません。話はできるでしょうけど。

大江山。うーん。

四郎。行ってから考えればよい。

五郎。意欲がある人たちなら、研究に引き込んだらいい。知識だけでも役立つ。

大江山。そうしようか。

社長。工場です。クルマで1時間ほど。

大江山。行ってみます。

 (教授と社長は社用車で工場に向かう。ちょっと田舎になりかけの地にあった。)

工場長。わざわざお越しいただいて、恐縮です。そちらが大江山教授。

大江山。私が大江山秀範です。

工場長。では、さっそく。

 (案内されたのは会議室。3人が待っていた。)

社長。どれだ、研究中の人工筋肉というのは。

技術11。汚いところです。ここでお話を。

社長。ものはあるのか。

技術12。ありますけど、見せられるほどのものでは。動作原理も周知。

社長。なら開示して大丈夫だな。

技術11。それはそうですけど。

 (渋る技術者を説得して、現場に行く。工場の片隅。社内で実験することは許可されていたらしい。技術の人からは、おもわぬ専門用語が次々にでてくる。)

社長。よく研究しているようだな。

技術11。ええ。これが今やっている組み合わせ。電圧をかけると…、ほら縮む。

社長。すばらしいではないか。しっかり収縮しているぞ。わずかだが。

大江山。わずかでいい。てこの原理で動きを拡大するから。大きさもいい。直径1mm程度だ。

技術11。そちらがID社の自動人形。

大江山。そうだ。本物だ。

技術11。触っていいですか?。

五郎。触ってくれ。

技術11。機能性ゴムだ。資料は見られるのかな。

芦屋。あるはずです。

 (近くの端末で調べる。)

技術11。今研究中のとは原理が違う。トランジスタみたいな感じだ。超微細加工にものを言わせている。

社長。そうか。だめか。

技術12。そのとおり。これじゃ、安く作れません。軍事技術か、宇宙技術か。

社長。いや、そう言う意味で言ったのでは。

技術11。研究をこちらにシフトするか。

社長。今、非実用と言った。

技術12。何とかなりそうな気がしてきた。うまいアイデアがあるんです。部外者がいるから言えませんけど。

社長。そうなのか。今までいくらかかっている。

 (細々とやっているのだから、それほど費用がかかっているわけではない。)

社長。その倍出す。できるか。

技術11。ギャンブルになる。

社長。それでいい。成功する可能性があるのだな。

技術12。やってみます。

 (これは遠い旅の始まりの一歩だった。開発は成功したが、性能的には大したことが無かった。でも、業界の競争は熾烈。ニュースを聞いた他の大手が、研究開始。開発競争に火がついたのである。)

第24話。暴れん坊教授。9. キキと虎之介の演技

2010-04-24 | Weblog
 (ということで、教授は次の日から賛同者集めのための企業回りに余念がない。ちょうどいいので、虎之介とキキを付ける。もちろん、こちらの裏稼業も兼ねてだ。
 企業の小さな会議室で担当者を待つ。)

キキ。いきなり軍用車まで作っている巨大企業にアタック。よく門前払い食わない。

芦屋。ひとえに大江山教授の名前だよ。

大江山。丁寧に扱われたようで、実質的に門前払いを食らうことも多い。楽ではない。

総務1。これはこれは、サイボーグ計画の大江山教授。わざわざお越しいただいて、ありがとうございます。どのような用件でしょうか。

 (大江山教授は状況を説明する。持ってかえって、検討する、役員会に必ず出すと言ってくれた。)

芦屋。前向きなのか、後ろ向きなのか、さっぱり分からん。

キキ。役人の検討しますは、何もしないってことよ。

大江山。私企業だから、ちょっと違う。なにせ、国の計画だ。丸無視はまずいと考えるはずだ。妥協点を探ってくるだろう。せっかく来たんだ。何か見たいものはあるか。

芦屋。国防関連。いいんですか?。

大江山。頼んでみよう。

 (案内を一人付けてくれた。オフィスビルだから、製造現場ではないが、資料をたくさん見せてくれた。)

大江山。よく分かるようだな。

キキ。虎之介さんの唯一の得意技。

芦屋。余計なお世話だ。おれにとっては大切なんだ。

大江山。監視は必要だろう。大手だからまさかとは思うが、不埒な部下がいないとも限らない。

芦屋。これなんか参考になりませんか?。

大江山。どれどれ。確かに欲しい技術だが、売ってはくれんだろう。どうなんだ?。

総務2。売り物ではありません。共同研究しているだけです。内容は分かりますよ、こちらの資料です。

芦屋。肝心なところが隠されている。

大江山。当然、企業秘密だ。そうか、このあたり、直観が働くんだ。こっちはどう考える。

 (教授は、いくつか資料を見せ、虎之介の感想を聴く。この男、嘘はつけない。自分の知っている限りのことを答えてしまう。)

大江山。さすがID社情報収集部の精鋭。企業活動が丸裸になる。

総務2。あの、何かの調査ですか?。

大江山。来年度、国立サイボーグ研究所というのを設立する予定なのだ。だから、関連するどの分野がどの程度研究されているかには、大いに関心がある。

総務2。それなら、私ではなく、技術の人間がいいかも。呼んで来ます。

 (しばらくしたら、手ぶらで戻ってきた。)

総務2。研究所にご案内したらって、逆提案を受けました。お時間ありますか?。

大江山。どうするかな。今日は他はあきらめるか。日本を代表する企業の研究所。悪くない。

キキ。行ってみたい。

総務2。私がご案内します。

 (タクシーを拾って郊外へ。かなり広い研究所。庭園の中に建物が散在する感じ。)

大江山。広大な敷地だな。

総務2。古くからありますもの。こちらです。

 (約束通り、技術者を一人つけてくれた。大江山教授が主に質問する。機械の知識はあるけど、軍事に関する知識はそれほどでもないことが分かって、技術者は安心してペラペラしゃべる。おかげで、虎之介の知りたいことが手に取るように分かる。)

芦屋。来てよかった。面白い。

大江山。気に入ったか。

キキ。ええ、日本有数の技術を誇る企業。見応えがある。

技術1。そちらはロボットだ。もしかして、ID社の自動人形。

キキ。そうです。キキと言います。

技術1。驚いた。みんなに見せていいかな。

総務2。そんな特別なロボットですの?。

技術1。大変な技術が投入されている。みれば分かる。

総務2。マネキンが歩いているだけのように見えた。

技術1。わざわざそうしている。恐く見えないように。

大江山。短時間なら見せていい。意見が聞きたい。

技術1。用意します。

総務2。あらら、行ってしまった。いいんですか?。見学が中断した。

大江山。意見が聞ける方がありがたい。

 (しばらくすると、連絡があって、1階の会議室に来るようにだと。)

総務2。行ってみるか。どこか知らないけど。

 (で、来てみたら、会議室というより、講義室、いや、ホールと言っていい。入るなり、キキー、の声がかかる。キキは手を振って愛敬を振りまく。)

芦屋。30人はいる。仕事中じゃないのか。

大江山。たぶん部長クラスもいる。自動人形、おそるべし。…、まだ増えるようだぞ。

技術1。みなさん、お忙しいところ来ていただいてありがとうございます。ええと、どういった事情でお越しに。

総務2。こほん。私から説明します。

 (総務の人から、経緯が説明される。でも、来ているのは技術者ども。そんなのどうだっていいや、の感じ。いきなりコスプレしてよの要望。)

キキ。衣裳は?。

技術2。あるよ。気に入ったら着てくれないかな。

キキ。なんであるのよ。

技術2。秘密。

 (いきなりゴスロリ風のメイド服だ。ちょっとぶかぶかだけど、キキは何とか着こなす。)

キキ。あんた、着たことあるでしょ。

技術2。秘密。

芦屋。忘年会かなんかだろう。キキ、モップを持って、おれと立ち回りしよう。

キキ。そうするか。

 (しばらく情報収集部にいたせいか、虎之介も慣れたもの。適当に立ち回る。やんやの拍手。)

技術2。じゃ、次はこれ。

キキ。うむむ、その手のゲーム風セーラー服。できすぎ。

 (キキは音楽の相談。ちょうど良さそうなCDがあったので、クチパクで歌う。振り付けは以前やったもの、虎之介が付き合う。今度も拍手喝采。)

技術2。いやー、よかった。来た甲斐があったよ。

総務2。あきれました。

 (すかさず大江山教授がマイクを奪って、サイボーグ研にご協力をとのPR。会場がざわつく。経済的なキキを開発すると勘違いした者、続出。質問が相次ぐ。30分と時間を区切って交歓会。キキと握手したり、声をかわしたり。人気だ。サインにも応じている。)

総務2。申し訳ありません。こんなことなら断っていました。

大江山。いや、よかった。意見がたくさん聞けた。収穫だ。ありがとう。

 (教授はほくほく。何かご褒美をと教授が言ったのだが、キキはサイボーグ研が成功してからにしてくださいと、律儀に断った。教授が約束を忘れなかったのは、言うまでもない。
 この訪問の副次効果は大きかった。技術者のネットワークで、サイボーグ研でのアンドロイド開発が話題になったのだ。それで、大江山教授は殺到する協力の申し込みに、逆に困ることになるのである。でも、それは少し先の話。)

第24話。暴れん坊教授。8. 会社設立

2010-04-23 | Weblog
 (教授に暇などない。今度は、私と伊勢が夕食に誘われた。相談があるというのだ。クロとアンを連れて行く。)

奈良。高級そうな洋食レストラン。

大江山。今夕は私のおごりだ。

伊勢。そうは行きません。意図がありあり。社費から教授を招待したことにして出しますから、お構いなく。

大江山。まいったな。そう警戒せずとも。

伊勢。どうせ、金の流れに関係あることなんでしょうが。

大江山。ずばりそうだ。

 (とにかく注文する。フランス料理コースだ。ワイン付き。)

奈良。サイボーグ研究所の準備研究班の成功を祈って、乾杯。

大江山。乾杯。ふうっ、落ち着いた。みなさん方も科学者。

伊勢。そうです。奈良さんは獣医ですけど、動物行動学でもいささか名が知れている。

大江山。ええ、調べました。伊勢さんは、生化学の話題が多い。分子生物学も少々。

伊勢。ええ。好きですね。研究していると幸せ。

大江山。調査よりも。

伊勢。でも、私のレベルでは食べて行けないので、同じこと。この職場は気に入っています。

大江山。感じとして、政府からサイボーグ研究所設立の補助金は出そうだ。

伊勢。あら、早くもそんなことが分かるんですか。

大江山。まあ、あちらこちらから、ちらほらと。

伊勢。政治家。

大江山。嗅覚は必要。この仕事をしている限り。それで、政府の補助金の性格はご存じですな。

伊勢。そんなに知っているわけではないけど、要するにひも付き。維持費などには使いにくい。

大江山。それで十分。財団が設立できればいいのだが、昨今の状況ではまず無理。

伊勢。だから、バックアップのための会社を設立。いいんですか?、そんな灰色のことをして。

大江山。まっとうな商売していれば大丈夫。

伊勢。冗談じゃなかったんだ。

大江山。あらら、常識と思っていたが。

伊勢。教授。私たちの仕事はご存じのはず。団体や会社の動向の調査。しばしば財務省まで出てくる。

大江山。だから、まっとうな商売が必要。

伊勢。教授ともあろうものがサル回答。隠れ蓑を提供する話など、もってのほか。そのあたりの段ボール箱に札束を入れておく方が、よっぽどまし。

大江山。しーっ、声が大きい。

伊勢。素直に寄付を集めれば済むこと。教授が一声かければ、何億と集まるんでしょうが。

奈良。普通に会社を作ればいいではないか。失敗したらつぶれるけど。資金の迂回とか、ちょこざいなことをしない限り、大丈夫だろう。

伊勢。それも大変よ。サイボーグ研究所を維持しながら、普通の会社の社長。想像を絶する。

奈良。それより、商売を考えよう。サイボーグが完成したら、大手のやらないことで細々と商売するとして、それまで、何とか関連技術でやって行けるような商売。

大江山。ふー、どうなることかと思った。

奈良。教授はシステムとソフトウェアに関心があった。そちらはいかがですか?。

大江山。私の夢だ。

奈良。ID社はいくつか基本ソフトを持っているから、それを元にしてシステムとして顧客に納入すればいい。4人とかのソフトウェア技術者が確保できたら、何とかなる。

大江山。あと営業と秘書。

奈良。お詳しいようだ。システム用の基本ソフトはサイボーグ、というか普通にロボットにも必要。そちらの研究を分担すればいい。サイボーグ研究所はハードウェア寄り。その方がやりやすいでしょう。

大江山。あなたを助教授にしたい。

奈良。社長を兼任できるんですか?。

大江山。兼任できる。明日から企業回りして、その手の話もしよう。

奈良。担当部署を紹介します。例によって、ID社以外の製品を推薦されることもありますけど、笑って許してください。

大江山。あははは、面白い会社だ。よくつぶれない。

アン。信用第一。誠実に商売していれば、なんとか食べて行ける。

大江山。末端までよく教育されている。いい会社だ。伊達に世界企業ではない。

アン。社名は。

大江山。簡単に行こう。サイボーグソフトウェア株式会社。奈良さん、伊勢さん、株主になってください。優待します。

伊勢。一つ投資してみようかしら。

奈良。ああ、私も。面白そうだ。

第24話。暴れん坊教授。7. プロモーションビデオ

2010-04-22 | Weblog
 (情報収集部オフィスにて。)

奈良。ふぁっくしょん。ついに風邪ひいたか。

伊勢。うわさよ。大江山教授。また何かたくらんでいる。今度のターゲットはあなた。

大江山。奈良部長。今帰った。

伊勢。帰ったですって。

大江山。付いてきてくれ。話は歩きながらだ。

アン。プロモーションビデオを作るんですって。

奈良。来るべき国立サイボーグ研究所のか。

大江山。さすが、ID社の部長。察しがいい。そのとおりだ。あなたの協力が必要だ。ぜひお願いしたい。

奈良。断る段取りは用意されていないようだな。

伊勢。退路を断つ。さすがトップの国立大教授。

奈良。すぐに支度します。自動人形は必要ですか。

伊勢。当然よ。キキ、クロ、行きなさい。鈴鹿、秘書役お願い。

鈴鹿。行ってくる。

 (地下鉄から私鉄に乗り換え。その制作会社というのにはすぐに着いた。)

社長。ようこそおいでいただきました。話はうかがっています。責任者を紹介しますので、会議室にお越しください。

 (会議室には、マネージャとシナリオライタが待っていた。机の上にはわんさか資料が乗っている。あっと言う間に調べたらしい。)

社長。春にも始動する国立サイボーグ研究所のプロモーションビデオ。楽しい作品になりそうだ。

大江山。話題になって、関連企業から協力が殺到するような内容にして欲しい。有能な技術者と資金を確保するため。

幸野(男性)。マネージャの幸野です。がんばります。こちら、シナリオライタの上山さん。

上山(女性)。上山です。よろしく。サイボーグって、この宇宙服。

 (資料から空木とコクウの写真を取り出す。ID社のホームページにあったものだ。)

大江山。そう。電子の頭脳の入った宇宙服。周りの状況を判断して、人間に助言。耐熱耐寒、パワーアシスト。人間の活動範囲を広げる。

上山。福祉にも役立つ。

大江山。そちらはほどほどに。医療福祉は、とりあえず範囲外です。

上山。わかりました。そちらがロボット。ビデオに出していいんですか。

大江山。奈良部長、どうですか?。

奈良。もちろんOKです。総務は反対しないはず。すぐ後で確認をとります。

大江山。このキキは演技派ロボット。どんな役でもできる。

上山。セーラー服とかメイド服の写真があった。違和感がなくしっくり来る。大変な技術。

 (大江山教授が、最終的にどんなロボットを作りたいかを説明する。そして、そのための研究所の陣容を、現在分かっている範囲で言う。
 驚いたことに、シナリオライター氏、さささっとシーンを描いて、ボードにぺたぺた貼って行く。もう、制作開始の雰囲気だ。私が呼ばれた理由が分かった。ロボットのあり得ない反応をチェックするのだ。)

上山。このネコ、しゃべれるとか。

クロ(会話装置)。しゃべれるぞ。会話装置か、腹話術を使う。

上山。腹話術って、どんな。

クロ(キキ)。こんな感じだ。分かったか。

上山。生意気なネコ。雰囲気出ている。

 (思いついたら、大胆にシーンの構成を変えて行く。)

上山。そちらの女性、精悍そう。どのようなご関係ですか?。

大江山。こちらは鈴鹿くん。自動人形のいるID社情報収集部の従業員。職種は営業。

上山。鈴鹿恵。本人。

鈴鹿。そう。私が鈴鹿恵。本名。よく知ってらっしゃる。

上山。その筋では人気者。そうだ、ちょっと待ってて。

 (何を思いついたか、シナリオライターが出ていってしまった。)

幸野。創作意欲を刺激したみたい。彼女、こんな感じの時が絶好調なんです。

大江山。そんな感じだ。

 (持ってきたのは、よりによってA国軍の制式銃の模型。鈴鹿に持たせる。うむ、恐いほどびしっと決まっている。)

上山。ちょっと恐いほど。

鈴鹿。これなに。出来の悪い模型。

大江山。その言い方は、本物を知っているということ。

幸野。撮影用の模擬銃ですよ。上山、シーンに使うのか。

上山。国会議事堂に怪獣出現。

大江山。なら、光線銃の方が似合いそうだ。説明会で使った銃、まだあります?。

奈良。ありますよ。よければ使ってください。

上山。どんな。

 (会議室にあるインターネットの端末で資料映像を見せる。宇宙戦争の芝居だ。)

上山。なんかすごい。

キキ。殺傷能力まるでなし。人畜無害の発光液の水鉄砲。単なる手品よ。

上山。シーンは5年後の想定だから、CGでパワーアップします。

 (要は、A31を擁する科学機動隊に怪獣退治で活躍させて、しかし、家庭では国立サイボーグ研究所が作ったキキなどが十分に役立つ、といった感じに仕立てるのだ。)

キキ。前半の目もくらむシーンにだまされる人、多数出現すると思う。

上山。嘘じゃないわ。

キキ。怪獣のどこが真実よ。

大江山。派手な演出を注文したのはこちらだ。怪獣は、さっきのトラックで外務省に突っ込んだ暴漢の象徴。

キキ。うまく丸め込む。

大江山。キキ、伊勢さんの反応が仕込まれているな。

奈良。うるさかったら、おとなしくさせます。

上山。いいえ、面白い。何となく会話が成立する。大したもの。

大江山。キキは絶品だ。他のロボットの反応は、ここまで行かない。

上山。さっき演技派とおっしゃったのはこのこと。シーンに合せて適切な反応をする。

奈良。いい表現だ。その通り。ただ、他の自動人形も、人間と会話はできる。たとえば、救護所で傷ついた人を慰めるのは可能。

上山。そのネコの反応と同じ。

クロ。クロという。

上山。失礼。クロちゃん、反応してくれてありがとう。

クロ。気にしなくてよい。

上山。何となく分かる。

 (シナリオはほどなく完成し、マネージャと大江山教授は値段の交渉に入った。撮影と制作は明日からだと。このビデオは後にインターネットで広まり、大変な反響を呼ぶことになる。)

第24話。暴れん坊教授。6. 研究班結成

2010-04-21 | Weblog
 (大江山教授、今日も飽きずに情報収集部オフィスで仕事。でも、本日は午後から日本サイボーグ研究所(仮称)設立のための研究班の第一回会合に出る。その準備に忙しい。)

伊勢。何だか大変。

大江山。これで日本の今後5年のサイボーグ計画が決定してしまうのだからな。政治的駆け引きをうまく調整する必要がある。

伊勢。各省庁間の。

大江山。それが第一。議員との兼ね合いもある。うまく配分しないと、どこからか恨まれて分裂する。かといって、メリハリを付けないとやる気が出ない。

伊勢。想像するだけで大変。ご苦労さんです。

大江山。へへっ、私ゃそんなのこりごり、教授もお好きね。って思っているな。

伊勢。その通りですけど、誰かがする必要がある。

大江山。交代しようか。

伊勢。奈良部長ならかろうじてできそう。私がやると、火に油を注ぐ。人望のある教授だからできる技。

大江山。皮肉に聞こえる。

伊勢。ごめんなさい。私の性格。

大江山。それでいい。

 (でも、大江山教授、伊勢から本音が聞けてうれしそう。ますますやる気になったようだ。ワープロを打つ手が快速になって行く。)

伊勢。志摩を付けましょうか、虎之介にしますか?。

大江山。芦屋くんの方がいい。害が少なそうだ。

芦屋。どういう意味だ?。

志摩。分からない方がいいと思う。

 (伊勢はかばん持ちに虎之介を指名。虎之介はまじめだ。淡々と仕事をこなす。教授に付いて霞ヶ関に行く。伊勢はアンも付ける。)

芦屋。暴漢に襲われる確率なんて、とても低いのに。

大江山。暴漢と闘ってくれるのか。

芦屋。おれにはそれしか取り得はない。その時になったら、指示に従ってください。

大江山。そうするよ。

 (でも、国会議事堂から霞ヶ関にかけては警戒厳重。蟻の這い出る隙間も無い…、はずだった。)

アン。怪しいトラックが来る。

大江山。なぜ分かるんだ。

アン。運転手の目つきが尋常でない。

大江山。一番警戒の厳重そうな外務省に向かうぞ。

 (なんて言ってる間に、虎之介とアンは走り出した。外務省に向かって。
 トラックは車止めで止まった。さすが警備当局。でも、その運転手、自動小銃を持って車外に飛び出した。警備員を狙うつもりだ。アンが叫んだ。)

アン。きゃーーーっ、発砲しないでーーー。

 (女の声だ。犯人がアンの方向に振り向く。すかさずアンはLS砲発射。音響弾と同じ効果がある。犯人は訳も分からず立ち止まってしまった。虎之介が追い付いた。犯人を殴って、自動小銃を取り上げる。警備の一人が走ってきた。他の警備員はひるんでしまっている。)

警備1。その武器をあずかります。

 (虎之介は小銃を渡す。虎之介は、犯人の懐から拳銃を奪う。やっと動いた他の警備員に、犯人は取り押さえられた。)

警備1。あなたは。

 (虎之介は携帯している軍の身分証を指し示す。警備担当が敬礼した。事件を察知した永田と関が財務省から駆けつけてきた。)

関。虎之介さん、こんなところで何してるの?。

警備1。あなたの知り合いか。

関。ええ、とても緊密な。

芦屋。たまたま、大江山教授と産業省に来ただけだ。

関。大江山教授。国立大学トップの教授。何しに来たのよ。

芦屋。研究班の第一回会合らしい。

関。何だ、護衛か。

芦屋。他に何が考えられる。

関。野暮な質問だった。

大江山。お取り込みの最中、失礼。お二人は知り合いか。

関。大江山教授。

大江山。あなたは確か、財務省の公務員。

関。財務省の関霞です。覚えていらした。

大江山。お二人は親密なんだ。

関。隠すこともありません。その通り。

大江山。想像を絶する仕掛けのようだな。ID社情報収集部。

関。ご想像にお任せします。とにかく、ご覧の通り、犯人は逮捕。教授は予定通り、研究班にご出席なさってください。

大江山。ああ、そうさせてもらう。ありがとう。

関。私は何もしていません。多分、アンと芦屋さんが対応した。

アン。そうです。

大江山。よくできたロボット。何に反応したんだ。

アン。犯人の仕草。意図ありあり。

大江山。分かるのか。

芦屋。人工知能が評価して、反応しただけ。分かってはいないはず。

アン。その通り。

大江山。何てことだ。それだけで、あの反応。

芦屋。おれだって不気味だ。どこまで巧妙にできているんだ、自動人形は。

関。A国軍の丹精込めたプログラム。実戦で鍛え抜かれている。

大江山。軍の開発が5年もかかったのは、伊達ではないんだ。

 (アンは黙ってしまった。つらい思い出があるようだ。関が察知して、アンの肩を抱く。わずかに振るえていたそうだ。)

大江山。あれか。奈良部長に聞いた。慰めないと大変なことになるって。

永田。そのようです。

 (2分もするとアンは落ち着き、関から離れた。予定通り、会合に行く。第一回目だからなのか、場所は本庁内。虎之介とアンは、離れた席でおとなしくしている。DTM手話(◎)する。)

アン。◎大江山教授が取り仕切っている。

芦屋。◎ああ、かっこいいな。晴れ舞台だ。内容は分からんが。

アン。◎だから虎之介さんをよこしたみたい。

芦屋。◎ふん、大きなお世話だ。現在の脅威は。

アン。◎検出されない。安心。

 (概要説明のあと、設立予定のサイボーグ研究所の構成のチェックと、最初のメンバーの推薦を配分する。根回しをしていたためか、文言の修正だけで済んだ。談笑にはいる。大江山教授がアンを呼び、研究班メンバーに紹介して行く。)

班員1。見るからに高度なロボットだ。高価なんだろう?。

アン。操縦者付きの貸出契約で初期費用20億円、年間維持費5億円で売り出し中。

班員1。最新戦闘機の値段だ。それなりに働いてくれるんだろうな。

大江山。お買い得ですよ。さっきも自動小銃を持った暴漢を傷つけることなく撃退した。

班員1。そんなことができるのか。大変な装置。

大江山。A国軍開発の救護ロボット。その手の動作は多数仕込まれているらしい。

班員1。高価になるわけだ。日常的には、もっと簡単な動作で役立つ。

大江山。ご指摘通り。だから、研究所を設立する。このロボットの値ごろ感は2億円。だったら買うでしょう?。

班員1。だろうな。とんでもない金持ちとか、大会社とか。

大江山。5年後にはそうなるらしい。我々は、その時点で10分の1の値段を目指す。

班員1。そんなのが成功したら、激売れする。…、プロモーションビデオを作ろう。大江山教授、予算はあるんでしょう?。

大江山。調整できる。どこに頼むかな。

班員1。私が制作会社を紹介します。気に入ったら使ってください。

大江山。奈良部長を巻き込もう。彼はアイデアマンらしい。

班員1。誰ですか?、それ。

大江山。日本のすべての自動人形を統括している男だ。

第24話。暴れん坊教授。5. 自動人形の改造

2010-04-20 | Weblog
 (翌日。大江山教授は、朝から情報収集部の虎之介の席でうんうん考えている。F国とC国から来る自動人形をどのように改造するかで悩んでいるのだ。)

奈良。教授、なにかお手伝いできることでも。

大江山。奈良部長。ありがとうございます。でも、今日一日はこうして悩んでいたい。アイデアが降臨すればおしまいですけど。

伊勢。自動人形の改造。当てはあるんですか?。

大江山。昨日、志摩くんたちからわんさか情報をもらった。整理しているところだ。

伊勢。でも、直感で分からないのなら、考えても無駄。

大江山。直感はある。検証しているのだ。内容は恥ずかしくて言えない。

伊勢。さては、正太郎とサクラ。

大江山。何で分かったんだ。

伊勢。志摩から報告を受けた。

大江山。志摩、やるな。

伊勢。あんな高度なロケット人間は、正太郎とサクラだけ。軽量のリリには同じ仕掛けが何とか付いた。でも、無理しているから最大性能は出ないはず。ケイコとキキは、元のアンドロイドのまま飛ばすことにしたから巡航速度は遅い。アンたちの空飛ぶ自転車は先ほど発注した。アンはキキより重いけど、何とか同様の最高速度にするらしい。つまり、よほどの特色がないと新造する意味がない。

大江山。さすが伊勢陽子。自動人形改良の仕掛人。その通りだ。だから、悩んでいるのだ。

伊勢。うふふ、大江山教授、ちょっといいかしら。

大江山。う、伊勢陽子。何かたくらんでるな。

伊勢。A31は最も初期の機体だけど、よく考えられている。あの4機で十分に作戦遂行可能。それが、偶然、情報収集部に配属された。A31に万能性があったから、今の自動人形の流行がある。

大江山。私がいまここにいる理由。

伊勢。そう。次に、キキとエスとモグと四郎と五郎。この組み合わせは第二実働部隊になる。教授が昨日目撃されたとおり。

大江山。エスの存在が大きかった。

伊勢。キキはすばしっこいし、狡猾。エスがいなくても、もう一つ仕掛けがあれば大丈夫。だから、空木くんが必死で考えていたけど、今まではキキが何でも何とかこなしていた。

大江山。何が言いたいのだ。

伊勢。要は自由度が大きいってこと。教授の趣味で、普通に自動人形を作ればいい。自動人形が教授の期待にこたえて、何とかしてくれる。さあ、教授の思いつきを言ってください。

大江山。誰にも言うなよ。

伊勢。わくわく。

大江山。これだ。

伊勢。なにこれ。音楽ソフト(註: 鏡音リン・レン)のイメージイラストじゃない。もろにショタコンとロリコン。

大江山。ああ、一部の腐女子に大受け。男性どもにはそれほどでもない。

伊勢。女性の方は没個性だもの。こっちの男の子、いっちゃってる。

大江山。そう、ボーイソプラノ。ぞくぞくっと来るらしい。

伊勢。教授っ、そういう趣味だったのですか。

大江山。大声で言うな。部長が何事かとこっち見ている。

伊勢。奈良さんなら大丈夫。お嬢さんがこんな感じ。弟もいる。

大江山。関係あるのか。

伊勢。分かりました。教授のお考えは。いいでしょう。さっそく各方面に伝えます。ええと、特色は。

大江山。これだ。このパラメータ。

伊勢。ジェンダーファクター。男の子の声から、女の子の声まで、境目なく連続的に変わる。教授っ、これもあなたの趣味。

大江山。単なるヒントだ。サイバー空間に生息する音楽好きの男の子と女の子。それを実空間に引っ張り出すのだ。

伊勢。いいストーリ。やってみます。この伊勢陽子にお任せあれ。

大江山。お任せって、これで終りか。

伊勢。大丈夫。今までの蓄積がありますもの。できるものはできる、できないものはできない。教授はデンと構えていてください。開発状況を逐一お伝えしますから、ご質問は随時お願いします。

大江山。ああ、手間が省けていいが…、あ、行ってしまった。ルンルンで。大丈夫かなあ。

鈴鹿。ちっとも大丈夫でない。大変なものができそう。

大江山。鈴鹿くん。聞いていたのか。

鈴鹿。最初からしっかりと。

大江山。オフレコだ。

鈴鹿。もう社内の各部門に伝わってる。オフレコは意味なし。ほら、奈良さんが外見のスケッチを描き始めている。

大江山。なんて素早い。

鈴鹿。時間がない。急がないと、思い通りのものはできない。

大江山。年末が迫っているからだな。

鈴鹿。モノリスとピナクスの改造もこんな時期だった。社内の精鋭オタクどもの尻をひっぱたいて開発を急がせた。

大江山。やはりオタクがいるのか。

鈴鹿。いままでの自動人形を見れば分かる。本部の連中も筋金入り。

大江山。じゃあ、格好のエサを与えてしまったのだ。

鈴鹿。そのとおり。制御はほとんど不可能。

大江山。なんてこと。禁断の領域に踏み込んだのだ。

鈴鹿。そのかわり、ほれぼれするようなのができるはず。期待してください。

大江山。期待って…、頭痛がしてきた。私のコピーライトが入るのか。

鈴鹿。慕ってくれますよ。発案者だって。

大江山。ううむ、しかし、取り消そうにも代案なし。二人目のアンは面白くない。

鈴鹿。じゃあ、決まり。大江山趣味の2機の自動人形、完成。

 (取っかかりさえあれば、若い連中の方が有利だ。教授はよく分かっているらしく、その後、ほとんど口出すことはなかった。伊勢はいつものようにルンルンでコンセプトを詰めて行く。
 夕方、ケイマがオフィスにやってきた。)

原田。またショタコンとロリコンロボット。

志摩。そうらしい。しかも、中性に作って、男女どちらにも傾けることができる。初期設定は、双子の姉と弟。

芦屋。キキの表情が変わるようなものだな。

原田。よく平気でいう。

芦屋。でも、メインは空を飛ばすことだろう。わざわざ思春期直前の年齢を狙ったのは、体重が軽くても不自然に見えないようにするためだ。リリより軽くするらしい。

原田。救護所で役立つのかな。

芦屋。エスよりは力がある。力が足りないのなら協力すればいいし、もともと、四郎と五郎は三郎の力の助っ人だった。

原田。じゃあ、あとは飛ばす方法だけか。正太郎みたいに翼を付けるのか、キキみたいに自転車に乗せるのか。

伊勢。もっとかっこいい方法よ。空中サーフィンさせる。

原田。伊勢さん。翼の付いたサーフボードみたいのに乗る。

伊勢。そう。寝そべって高速モード。さっき、本社のデザイン部門に計画を説明したら、即答された。

原田。患者搬送は。

伊勢。それは、タロたちの空飛ぶ自転車。リヤカーを引く。

原田。リヤカーって、まさか、焼き芋屋さんみたいに。

伊勢。グライダーみたいなのを引っ張るのよ。それだけ。

原田。単純。

伊勢。それがいいのよ。もちろん、グライダーにも制御は必要。

鈴鹿。空中サーフボードに、本当に立って乗れるんですか?。ちょっと考えただけでも危ない。

伊勢。考えの出発点よ。どうやって揚力付けるまで速度を上げるのかとか、課題がある。

志摩。でも、できたら大変だよ。自動人形の人気をかっさらってしまう。

原田。ついでに、E国とかF国とかにかっさらわれる。

伊勢。それは幸せなことよ。ここで鍛えて、文字通り世界にはばたく。発案者、大江山教授の名が全世界に轟き渡る。

大江山。お恥ずかしい。

伊勢。愛称は音楽ソフトそのままでいいのかな。

原田。登録商標とか。

芦屋。どちらも一般名称だけど、並べると引っかかるかも。

伊勢。考えた方がいい。教授、考えてください。

大江山。そうさせてもらう。

伊勢。性格は。

原田。当然、鈴鹿さんと虎之介さん。初期機動部隊向き。

芦屋。おれのちびっこ版か。

原田。そうよ。

伊勢。真っ先に突っ込んで行きそう。先を争って。

大江山。すでに完成しているな。

伊勢。基本軸が決まっただけ。忙しくなる。完成までは、気を抜けない。

 (大江山教授は、伊勢のやり方に注目している。もっとも、計画の取りまとめは、いつも通り本部航空部門が担当することになった。いくらなんでも、伊勢が直接に改造するのではないからだ。空中サーフィンは、本部でも考えていたらしく、これ幸いと検討に入った。完成予定は正月明け。Y国本部に引き取りに行く。)

第24話。暴れん坊教授。4. 夕食

2010-04-19 | Weblog
 (地下鉄でぞろぞろ繰り出す。やってきたのはちょっと高級そうな中華料理店。教授のごひいきのようだ。)

大江山。ここでいいかな。

鈴鹿。豪華そう。

大江山。普通に豪華だ。

空木。いいなあ、東京の豪華な中華料理店。思い出になるよ。

大江山。入ろう。

 (一角をしきりで取り囲んで、個室の代わりにする。大きな丸いテーブルだ。そそくさと注文する。酒はなし。お茶だけ。)

大江山。君たちはサークルとか入ってないの?。

志摩。形而上学クラブ。本棚が置いてあって、お茶を飲む。気が合えば、少人数でハイキングなどをする。

大江山。変わったクラブだな。

鈴鹿。待ち合わせ場所として選んだ。志摩とは学部が違うから。

大江山。専攻は何だ。

鈴鹿。私は文学部心理学科。ケイマは文学部西洋史科。志摩は海洋学部海洋生物学科。

大江山。それなのに、卒論を共同研究にしたのか。あきれたな。

鈴鹿。もう一人の共同執筆者の清水亜有は、理学部数学科でID本部に就職。提案者の原田銀は志摩と同じ学科だけど、こちらに籍を置いたまま、A国の国立研究所に就職してしまった。

志摩。元々、海洋学部には学際的雰囲気がある。教授の情報学も、関連分野は多岐に渡るはず。

大江山。その通り。おかげで、図書館に行って参考文献を集めるために、あっちにいったり、こっちに来たり。

鈴鹿。心理学もそんな感じ。

志摩。ロボットにもさまざまな技術が投入されている。

大江山。そして、分かりやすいアウトプットがある。ロケットなどもそうだ。

 (料理が届き始めた。)

大江山。みんなの共通点は、多国籍企業のID社と自動人形。

志摩。そうなるか。

芦屋。それ以外、ない。情報収集部は、それまで表には出なかった社内の調査部門を、顧客窓口と兼用にして情報収集がうまく行くかの試みだった。

鈴鹿。すっかり忘れていたけど、本部ではどんな評価なの?。

芦屋。もちろん、見たとおり。大成功だ。だが、それはひとえに奈良部長と伊勢さんの個性にある。

大江山。自動人形は必要だったのか?。

芦屋。まだ教授には説明できない事情がある。形式的には、奈良部長が、結成一年前から自動人形の世話をしていた。だから引き連れてきた。

大江山。解説にあったな。A国軍から買い取って、ID社で改良が行われた。

鈴鹿。でも、その時点では役立たずのままと考えられていた。だから、研究が公募された。奈良さんはそれに乗った。

原田。そのきっかけってあるの?。

鈴鹿。単に思いつきだったみたい。ロボットに獣医の助手をさせようと思ったくらいの軽い気持ちだった。

大江山。噛まれたりするからかな。

鈴鹿。そんな感じじゃないかな。このロボットたちは軍での救護用。軍には馬などの家畜がいるから、対応するプログラムはあった。つまり、最初から動物を扱うことができた。奈良さんは奈良さんで、ロボットを作れるほどの知識があった。だから、面接は短時間ですんでしまい、この4機があてがわれた。

大江山。クロ、アン、タロ、ジロ。

鈴鹿。その頃はコード名で呼ばれていた。A01、A02、A0P、A0N。これが正式名称。クロなどの愛称は、勝手に付けることができる。タロたちは情報収集部が結成されてからの愛称。

大江山。A0Pたちは家畜の世話をしていたんだ。

鈴鹿。今も東京ID社内に家畜用の設備がある。わずかだけど、獣医の仕事も舞い込む。畜舎などに計測機を納入することもあるから。

大江山。なるほど、理屈はあるんだ。エスとキキにも経緯がある。

鈴鹿。私たちは、ほとんど知らない。エスは南アジア、キキはB国で世話されていた。エスは今はY国本部付きだけど。

 (その後、日本に来た他の自動人形の話などが続いた。A31たちは時々来る質問に答えたりしていた。食事も終わり、教授は自宅に直接帰った。残りで、ぞろぞろと東京の街を歩く。ID社には歩いて帰れる距離だ。)

空木。大江山教授、何のつもりなんだろう?。

鈴鹿。さあ、日本トップの大学教授。考えていることなんか分からないし、隠すでしょう。

原田。政治家と一緒よ。権謀術数ありあり。ご苦労さんなこと。学問成就のためには、多少の手荒い手段はやむを得ないと考えている連中。

志摩。だから、ちょっと休みに来たんじゃないかな。ずいぶん打ち解けていたよ。

芦屋。警戒感がなかった。隠すところは隠していたようだけど、ずいぶん素直に見えた。

原田。ははーん、それで伊勢さん、志摩さんと虎之介さんを教授にあてがっていたのか。ここの女性陣、みんながみんないちもつあるから。

志摩。そのわりには、アンとキキを差し向けていたけど。

原田。キキはよかったな。アンだけを見ていたときは、自動人形には個性がないと思っていたけど、キキの超絶個性を知ってしまうと、アンにも強烈な個性があることが分かる。

アン。私の個性。私の性格は変えることができる。

原田。今のアンはいつからなの?。

アン。奈良さんに心をもらってから。変わらない。

鈴鹿。人間だって、性格は変わって行くわよ。三つ子の魂百まで、っていうけど、表面的には結構変わる。

空木。鈴鹿さんは変わった。昔は近寄り難かった。

原田。想像もつかない。

志摩。そうだろう?。もっと暗かった。

原田。面影はある。ふっと暗くなる。

鈴鹿。ケイマだって。

原田。姉の存在かな。天才の姉を持つと、困る。

鈴鹿。私は…。

原田。何かあるんだ。

鈴鹿。秘密。

原田。秘密と言えば、関さんも謎。あのかたくななまでの正義感、絶対に何かある。

芦屋。おれにも詳しくは言ってくれない。その話題になったら、泣くばかりだ。

鈴鹿。カチンと来たら、迷わず発砲する。あっと言う間の反応。

原田。鍛えられている、だけでは説明できない。

志摩。そうだよ。永田さんもそうだ。不正と思ったら、表情も無く最大限の攻撃をいきなりする。

芦屋。敵にしたくない相手だ。

志摩。勝てるとは限らない。

原田。大丈夫。敵対させはしない。私が何とかする。

 (ケイマは途中で帰った。残り全員、ID社に戻る。)

第24話。暴れん坊教授。3. 自動人形の追加

2010-04-18 | Weblog
 (志摩たちがオフィスに戻ったのは夕方。伊勢が帰ってきた教授に声をかける。)

伊勢。大江山教授、お話ししてもよろしいかしら。

大江山。な、何のお話かな。

伊勢。そう緊張していただかなくとも。よいお話ですのよ。自動人形が来る。キキと交代に。

大江山。今月末に去るのは、キキ、空木くんとコクウ、エス。

伊勢。そうです。それ以前はA31だけで作戦実行していたから、特にこちらが不足することはない。便利なモグと四郎と五郎は残る。

大江山。だが、キキとエスは貴重だ。来るという自動人形はどんな姿だ。

伊勢。F国ID社からは男性。C国ID社からは女性。どちらも、今年作製された機体が導入されるので、オリジナルの機体をこちらによこす。超絶美男美女。

大江山。余った古い機体か。

伊勢。そうですけど、改造のチャンス。新品同様によみがえります。性別や体形を変えることもできる。

大江山。何と、自動人形2機を新調するのと同じこと。大変なチャンスだ。

伊勢。ですから、ぜひとも教授からアイデアをいただきたいと。

大江山。そこはかとない陰謀を感じる。しかし、提案はしてみたい。釣り針付きの虫を目の前にした魚の心境だ。

伊勢。あらあ、そんなに用心なさることはありません。改造が失敗したら、再び改造すれば済むこと。数カ月後になりますけど。

大江山。鳥型も欲しいし、贅沢な悩みだ。

伊勢。鳥型が必要なら、他動人形を注文しましょう。でも、そんなのはいつでもできる。まずは自動人形2機。お願いします。3日以内で。提案がなければ、日本人風にちょっと化粧直しした形で来る。つまり、ジロとアンみたいなのが一機ずつ増える。

大江山。誰に相談すればいいんだ。

伊勢。志摩、相談相手になってあげて。

志摩。はい。

大江山。鈴鹿くんと芦屋くんも残ってくれるかな。意見を聞きたい。

鈴鹿。はい。空木くんを呼んでいいでしょうか。

大江山。そうしてくれ。

キキ。私も残っていいかな。

大江山。そばにいてくれると、アイデアが出そうだ。頼む。エスも。

 (伊勢は勤務時間を過ぎたので、帰ってしまった。ケイマもA31もオフィスに来た。作戦会議開始。大江山教授は、若い連中に進行を任す。)

原田。じゃあ、新しい自動人形2機を発注するのと同じチャンス。

志摩。うん。

原田。教授をサイボーグにするとか。

志摩。最後の手段だな。他に提案がなければ、それで行こう。

大江山。それで行こうって、私がコクウみたいな装置の中に入るのか。

原田。そうですよ。自動人形と一緒に、どこにでも行ける。夢のよう。

大江山。下手すれば、一人と一機行方不明。

原田。だから、他に提案がなければです。

空木。サイボーグは最後にしましょう。まだ、どこで何に役立つのかさっぱり分からない。そんなのが、コクウを含めて世界に4機もある。来年末までには結論が出るはず。

大江山。待ちだな。

鈴鹿。消去法で動物型からいこうよ。ここにいるのはクロとエス。

芦屋。クロは目立たず侵入できるけど、8kgしかない。人を運ぶのは困難。

鈴鹿。三郎は大型のワタリガラスだったけど、たったの2kg。人どころか、機材もまともに運べない。

原田。大活躍だった。

鈴鹿。検出に関しては。頭がよかったし。都会でも田舎でも目立たない。

志摩。エスは役立つけど、目立つ。

エス。損している。

芦屋。恐竜型もよかったけど、エスと同じ問題がある。

大江山。恐竜型を詳しく。

 (志摩が操作して、モノリスとピナクスの恐竜型をスクリーンに映し出す。資料映像も。)

大江山。さすが、史上最強の動物。速いし、跳べるし、泳げる。

原田。銃を構えることもできる。いっぱしのSF。

大江山。うわあ、たいへん。そちらのケイコみたいなのは何だ。

鈴鹿。動物型は終了?。

志摩。そうしよう。鳥型が必要なら他動人形で注文できると言ってた。

鈴鹿。ロケット人間の正太郎とサクラ。モノリスとピナクスの周辺装置。

大江山。ショタコンなのは気のせいか。

原田。みたまま。狙い撃ちですよ。

鈴鹿。改造前のロケット兵士も活躍した。

大江山。資料画像はあるか。

 (G国ID社が作ったロケット人間の動画を出す。)

大江山。迫力満点。こけおどしに見えるが、役立った。

鈴鹿。ええ。誰もがこけおどしと考えていた。仕様もお笑いに思えた。しかし、奈良さんは活躍させた。他の自動人形では対応できない場面で。真剣に作られていたんですよ。だから、正太郎とサクラができた。

大江山。それを引き継いだのがケイコか。突然できたわけではないんだ。

志摩。正太郎とサクラは人気だったね。

鈴鹿。今でも人気だわよ。A国で。

志摩。あっと言う間にA国に連れて行かれた。

大江山。そりゃそうだろう。こんなのが活躍したら、おおごと。

芦屋。正太郎は速かったな。時速800kmで飛んだ。ケイコは300km/h。

大江山。全然違う。

芦屋。正太郎は専用のヘルメットをしていたし、ケイコより軽い。正太郎の開発コンセプトはロケット人間。ケイコは普通の自動人形を飛ばそうとした。クロとエスのオートジャイロは、高速モードでは850km/hほど出るはず。

大江山。要するに正太郎はジェット機になるのだ。

芦屋。モノリス移動メカは水深200mまで潜れる。モグが50mだから、設計思想が違った。モノリス移動メカは大きくて重い。潜水艦が地上を走っている感じだった。

大江山。話を聞けてよかったよ。

芦屋。正太郎は技術の限界を試したところがある。あれはあれでよかったけど、300km/hでも使いではあるし、高速移動が必要なら、シリーズBを呼んだ方がいい。

鈴鹿。蒸気ロケットもあるしね。

大江山。まだ見たことはない。画像では見た。

鈴鹿。蒸気ロケットは、Q国で自動人形をオートジャイロに飛び乗らせるために作った。今は、そうした周辺のシステムが充実しているから、自動人形自体に無理な設計を強いるのは、むしろ不利になっている。

原田。よく充実させた。

鈴鹿。奈良さんの愛情と、伊勢さんの才能よ。

芦屋。それで、教授はロケット人間に興味がある。

大江山。タロたちに空飛ぶ自転車を使わせてもいいんだけど。

鈴鹿。その話、どうなったの?。

原田。もう進めていいんじゃないの?。キキで成功しているから。

芦屋。今日の作戦は、エスとキキの代わりに、クロと空飛ぶ自転車に乗ったタロでも遂行できた。おそらく。

鈴鹿。コクウの空飛ぶ自転車の計画もあった。

空木。間に合わないよ。Y国に帰ってから検討する。

大江山。分かった。私が想像していたより、はるかに自動人形は深く考えられていたんだ。現場で活躍させながら、進化した。夕食をおごるよ。いいか。

鈴鹿。私たちだけで、教授の歓迎会しちゃおう。伊勢さんたちには大人の事情がありそうだから。後日、打ち解けてから。教授、こちらが歓迎します。

大江山。それじゃあ、私が半分払う。残りを君たちで払ってくれ。

鈴鹿。そうしようか。教授、ありがとうございます。

第24話。暴れん坊教授。2. 追いかけて

2010-04-17 | Weblog
 (食事が終わり、近くの公園を3人と3機で歩く。12月だ。肌寒い。でも、志摩と虎之介は普通にスーツ。サイバーグローブ(情報収集部員用特製手袋)はしている。キキと四郎は救護服。エスはそのまま。教授は長めのオーバーに分厚い手袋にマフラー。)

大江山。今日は寒い。自動人形は低温に耐えられるようだな。

四郎。普通に活動できるのは零下30℃ほどまでです。それ以下は救護服か、それに代わる装備がいる。

大江山。0℃の水中でも活動できる。

四郎。普通に活動できます。

大江山。なんてやつらだ。高温も。

四郎。一瞬なら300℃とかも突破できますが、長時間なら50℃くらいが限界。この救護服は、短時間なら炎に耐えられる。

大江山。だからいつも着ているんだ。単に自動人形であることをディスプレイしている訳ではないんだ。

 (志摩と虎之介は、周囲に気を配る。身に付いてしまっている。自動人形も、周囲に注意する。こちらは探索が目的だ。)

大江山。シークレットサービス2人に、観測用ロボット3機。贅沢な散歩。エス、何か脅威が検出されるか。

エス。あちらのベンチに座っている男、拳銃を持っています。

大江山。刑事か、ヤクザか。

エス。どちらかというとヤクザ。強力な拳銃みたい。

大江山。で、かばんを持っているぞ。中身は非合法物質とか。

芦屋。二人組の警察のパトロールが来た。知らせようか。

志摩。必要ないみたいだ。職務質問するらしい。さすがプロ。

芦屋。あっ、逃げ出した。…、日本の警察って、こんな場合に発砲しないんだな。単純に追いかけている。

大江山。こっちも追おう。

キキ。何でよ。すでに警察が対応。どうせ、末端のちんぴら。

エス。どうやら、そっちの男、取引先だったようです。ぼうぜんと見ている。こいつも拳銃持っている。

大江山。かばんを持っている。交換する気だったんだ。

志摩。すごすごと帰るようだ。

キキ。追いましょう。

大江山。何で?。

キキ。警察が追いかけてないから。

芦屋。特に刑事とかもいないようだし。ちょっとサービスするか。

 (男は通りに出て、タクシーを拾うために手を上げている。エスがするするっと進み出した。そして、隙を見て、一緒にタクシーに乗る。)

大江山。なんてヘビだ。

芦屋。よくやる。戻りましょう。モグで追いかけるんだ。

志摩。鈴鹿に持って来させるよ。

 (5分もしないうちに、鈴鹿がモグに乗ってやってきた。五郎も連れてきた。教授以下、全員乗り込む。)

鈴鹿。何よ、何があったの?。

 (志摩が説明する。)

鈴鹿。あきれた。どうせ、事務所かどっかにいっておしまい。

大江山。事務所って、その筋の事務所か。

鈴鹿。そう言ったつもり。五郎、教授に通信機をお渡しして。仮の通信機です。作戦中、持っていてください。

大江山。使い方は…、すぐに分かりそうだ。

 (でも意外なことに、タクシーは郊外に向かう。そして、着いたのは…。)

志摩。ヘリポート。ヘリコプターが待機している。

鈴鹿。うあ、エスまで乗り込んだ。隠れるところあるのかな。

志摩。うまく隠れているよ。

大江山。発進した。どこに向かうんだろう。

鈴鹿。海上ならお手上げ。

 (でも、ヘリコプターは南下。モグは追いかけるが、ヘリコプターは速い。海上に出てしまった。)

大江山。コントロールを外れる。どうなるんだ。

志摩。普通に周囲に反応するロボット。意味のない行動しかできない。身を守る動作はする。沖に出るなら、中継装置としてシリーズEを発射する。

大江山。その手があったか。だから、モグは重装備なんだ。

志摩。モグ自身にも自動人形の中継器が付いている。モグと奈良さんたちはID社の通信網で通信。

大江山。モグの中継器の届く範囲は。

志摩。100km程度。

大江山。なんだ、まだ当分大丈夫か。

志摩。空中で活動するための仕掛けだから、船内に入ったりしたら厄介。

大江山。とにかく、急がなきゃ。

 (幸い、エスはコントロール網を外れることはなかった。ヘリコプターは沖合い3kmほどにところにいた大型の貨物船に降りた。かばんを持った男が降りる。ヘリコプターは止めたまま。)

キキ。行ってくる。

 (キキはモグの屋根から空飛ぶ自転車で発進。貨物船に向かう。モグも水中モードで全力で追う。すぐに追い付いた。キキは貨物船のはるか上空で旋回して待機。)

大江山。なんて仕掛け。普通の調査じゃない。相手も大きそうだ。

志摩。少なくとも、貨物船とヘリコプターを持っている。

大江山。エスはどうなった。

芦屋。貨物船内の調査中。

大江山。モニタで見られるのかな。

志摩。それより、この貨物船、船底に仕掛けがある。

大江山。どれだ。

 (教授はモニターを見る。潜水艇というより、潜水艦がドッキングしている。)

芦屋。相手が悪い。永田さんに連絡する。

志摩。うん。エス、船底に近づけるかな。

エス(通信機)。やってみる。

キキ。私、着陸してヘリコプターを動けないようにする。

志摩。気をつけて。

 (キキはうまくコースを選んで、気付かれにくいように着陸。ヘリコプターに近づき、仕掛けをする。
 永田から連絡。軍が対応するので、撤退せよと。)

志摩。キキ、エス、離脱してくれ。

エス。到達した。潜水艦を発進させるつもりだ。船体側の仕掛けは簡単に壊せそうだけど、やりますか?。

志摩。やってくれ。

 (キキは空中へ、エスは船上から水中へ離脱。キキは海岸に向かう。エスはモグが回収。こちらも船から離れる。海岸はすぐだ。
 海岸でキキを拾う。軍の艦艇が近づいている。貨物船は逃げようとしない。できないからだ。)

大江山。やったな。しかし、相手側からリアクションがあるはずだ。

志摩。ええ、用心しないと。

芦屋。すでに各方面に連絡は行っているはず。相手側は、しばらくは動きが取れない。こちらとのつながりを発見したとしても、不気味がられるだけだろう。

鈴鹿。用心するってことよ。普段通り。

芦屋。分かった。用心する。

第24話。暴れん坊教授。1. プロローグ

2010-04-16 | Weblog
 (日本最高の国立大学の情報学の教授、大江山秀範は、国立サイボーグ研究所(仮称)の設立のための研究班構成の根回しに余念がない。でも、場所は東京ID社情報収集部のオフィス。虎之介の席にドンと構えている。)

志摩。教授、お茶をお持ちしました。お菓子はいかがですか。

大江山。ありがとう。お菓子は今はいい。

伊勢。教授、こんなところで仕事ははかどるんですか。

大江山。高速通信回線はあるし、電話は使い放題。ご配慮に感謝する。

伊勢。配慮も何も。さる筋からよろしくと念を押されています。

大江山。財務省か。

伊勢。よくご存じで。

大江山。あの永田といい、あなたたちといい、ここは面白そうな雰囲気がぷんぷん。アイデアが次々と沸く。

アン。どんなアイデア。

大江山。アンか。超絶美女アンドロイド。A国軍、グッドジョブだ。

アン。ほめられたの?。

大江山。それ以上の表現を思いつかないよ。

キキ。で、質問の答えは。

大江山。キキ。何でもできる演技派ロボット。よくこんなのつくった。B国ID社の功績らしいな。そう、アンドロイドに関しては、目標はずばり、君たちだ。だが、高級すぎる。誰もが喜んで買ってくれる魅力ある価格の商品を作らなければ。

キキ。そのためには、研究が必要。

大江山。そのとおり。自動人形は完成しすぎている。どこを削っても不完全なロボットになりそうだ。しかし、それではどんなにがんばっても一機数億円。一家に一台とは行かぬ。

伊勢。ロボット相手に、よく会話が続くこと。

大江山。よくできたロボット。会話ができて、うれしいよ。

伊勢。教授のご専門は?。

大江山。今か。今はバーチャルリアリティにおけるヒューマンインターフェースを集中的に研究している。

キキ。横文字ばっか。日本語にすると超つまんなかったりして。

大江山。仮想現実感における機械人間系情報交換法の研究。よけい訳が分からないではないか。

伊勢。たしかに、サイボーグに近いような近くないような。

大江山。あくまで、しかたなくだ。卒論は並列推論エンジンの研究。

キキ。なんかすごそう。音がでかくて速いとか。

大江山。このくさい芝居にも付き合うべきなのか。

アン。どっちでもいい。こちらも適当に相手する。

大江山。要はだな、システムとかソフトウェアに関心があるのだ。なのに、この国では具体的に手で触れるものにしか金が出ない。

アン。私たちには触れる。

大江山。反撃を受けそうだな。

キキ。ご用心を。A国軍が丹精を込めた動作が仕込まれている。救護所でもうろうとしているけど、筋力100%のままの男どもをけちらすのが目的。

大江山。そんなことだろうと思った。

 (教授は一所懸命にノートしている。自動人形の動作が面白いらしい。そんなの、すぐに飽きるだろうと思ったのだが、その見通しは甘かった。何しろ、アンドロイドだけでなく、サイボーグも、鳥型ロボットも、自動車ロボットも作ろうというのだ。自動人形みたいに、統一されたアイデア下で。飽きることなく、端末で調べては、これはと思う研究者に連絡を取っている。政府やら議会関係者にも電話する。)

志摩。教授、お昼にしませんか。

大江山。志摩くんか。実にいいタイミングで声をかけてくる。鍛えられているな。

 (当人の伊勢はぷいっとそっぽを向いている。)

志摩。最上階の社内レストランに行くか、近くの食堂に出かけるか。

大江山。出かけよう。

キキ。私も行く。エスと四郎を連れて。

大江山。来てくれるのか。

キキ。喜んで。

 (この機体に関しては、絶対に腹黒いものを感じる。とにかく、教授は志摩と虎之介と、キキとエスと四郎をつれて近くの食堂に。エスは四郎に巻き付いている。エスがいるから、間仕切りで一角を仕切られてしまった。)

大江山。普通の食堂だな。

キキ。もっと高級レストランがよかったとか。

大江山。いや、自動人形と一緒に歩いて普通の食堂に行くのも妙な感じがしたから。

キキ。すぐに慣れる。

大江山。はは。そうだな。お勧め料理はあるか。

志摩。チキンカツでよろしければ注文します。

大江山。それで行こう。

キキ。教授。私たちと行動を共にするのなら、ある程度の準備が必要。

大江山。拳銃を装備するとか。

キキ。いいえ。まず、その服。高級すぎて、破れでもしたら大変。

大江山。それもそうだ。

キキ。志摩さんたちの服は、軽い事故には耐えられるくらいの工夫がされている。注文してよろしいでしょうか。

大江山。ここに来るときには、その服を着るのか。

キキ。そうです。下着から靴から一切。オフィスの一角に更衣室があるから、そこで着替えるのが適当。

大江山。防炎加工とかか。

キキ。さすが教授。お察しがいい。次に装備ですけど、ID社の回線接続の通信機は常に持っていてください。どこにいるかが分かる。

大江山。それもそうだな。

キキ。デザインが選べますので、あとで志摩さんか虎之介さんに言ってください。

大江山。ああ、選んでみる。

キキ。次に時空間計。位置や方向が分かる時計。通信機能付き。

大江山。私は懐中時計を愛用している。

志摩。懐中時計もあります。腕時計が推奨ですけど。

大江山。この際、腕時計型にする。これもデザインを選ぶのか。

キキ。はいそうです。次に、アナライザー。

大江山。いったいいくつあるんだ。

キキ。あと2つ。

大江山。了解。

キキ。志摩さん、アナライザーの解説をお願いします。

志摩。教授。これです。

大江山。分析機。スコープ型だ。スペクトルを調べるとか。

志摩。そうです。ほか、いろいろ。

大江山。貸し出しだな。買えばいくらだ。

志摩。1,500万円ほど。

大江山。貸し出しにする。最後はなんだ。

キキ。作戦用フラッシュライト。これも志摩さん、お見せしてください。

志摩。これです。

大江山。普通に懐中電灯だ。

キキ。信頼性抜群。光をコントロールできる。

大江山。なるほど。スパイらしい装備だな。

キキ。できるだけ早く揃えたい。できれば、今夕までに指定してください。

大江山。あい分かったぞ。なんだか、それっぽくなってきたな。

キキ。本物です。おもちゃではありません。くれぐれも、肌身はなさず。必ず役立つし、持ってないと危険。

大江山。肝に銘じるよ。

キキ。すべて通信機能が付いているから、どれか一つ持っていれば、他の所在が分かる。

 (食事がきた。食べながら話す。)

大江山。君たちはいつからこの仕事をしているのだ。

志摩。2年前の正月です、情報収集部が結成されたのは。奈良部長、伊勢さん、鈴鹿、私の4人。他に、資料を集めたりスキャナを操作する人員。

大江山。日本の産業の科学動向をデータベース化するのが仕事だったな。

志摩。そうです。奈良さん以下私たちは、実地調査をする。私と鈴鹿は営業部隊でもある。

大江山。芦屋くんは。

芦屋。私は、臨時で加わっている。

志摩。必要なら応援にくる助っ人ですけど、キキがいるので最近は常時来ている。本来は、ヨーロッパ本部にいるはず。

大江山。キキに何かあるのか。

志摩。キキには状況を保持するための大量のパラメータが実装されている。自動人形の新展開。だから、暴走しないかどうか監視する必要があった。

大江山。暴走しだしたら、破壊する。

芦屋。そうです。

キキ。取り押さえに成功したら、元に戻されるだけだけど。

大江山。アンみたいな反応になるのだな。

キキ。ええ、そう。救護ロボットとしての自動人形。オリジナルの動作。

大江山。だが、キキはY国に行く。暴走はないと判断されたんだ。

キキ。いくつも作戦に投入されたけど、何も不都合は起こらなかった。少なくとも、ネガティブな側面はない。

大江山。慎重だ。…、作戦って、調査のことか。

志摩。そうです。

大江山。ミサイルみたいなのまであった。だから、そういうのか。

キキ。まだ全貌を明かすことはできません。教授を神経衰弱させても困りますから。

大江山。ありがたい配慮と思っておくよ。

キキ。志摩さんと虎之介さん、そして鈴鹿さんはその道のプロ。作戦行動時は常に指示にしたがってください。

大江山。分かった。あの原田ケイマは違うんだな。

キキ。彼女はオブザーバ。こちらから見たら、今の教授と同じ。

大江山。何となく分かる。銃撃戦も辞さない雰囲気だった。私が抑止になる。

キキ。さすが教授。その通り。

大江山。ギブアンドテイクか。私の役目は分かった。おとなしく、役割を果たす。

キキ。何かご質問は。

大江山。いっぱいあるけど、その都度聞くことにするよ。

志摩。そうなさってください。私か、奈良、伊勢、鈴鹿のいずれかに。

大江山。こちらからもギブアンドテイクさせてもらう。志摩くんと鈴鹿さんは4年生だったな。

志摩。そうです。某巨大総合大学の。

大江山。ああ、良い大学だ。卒業後の予定はあるのか。

志摩。もう就職しているし、ID社には内部の教育システムがあるから、学業に関しては何もありません。

大江山。惜しいな。志摩くんと鈴鹿くんは頭が良さそうだ。学問に多少の関心はあるだろう。

志摩。ありますけど、大学院の話ですか?。仕事しながら卒論だけでも大変だった。修士論文なんてとても。

大江山。安心したまえ。私がいる。

キキ。それって、教授の大学に誘っているの?。

大江山。ズバリそうだ。私の教室に来て欲しい。

志摩。うれしいですけど、入学試験があるはず。

大江山。当たり前だ。我が大学の卒業生であろうと、容赦なく落とす。

志摩。受かりそうもない。

大江山。試験の要点と参考文献は公開している。物見遊山の不真面目な学生をシャットアウトするだけ。それでも難しいが、君たちなら大丈夫だろう。

キキ。虎之介さんは員数に入ってない。

大江山。頃合いを見て、Y国に戻るんだろう?。ここで修士を取っても役に立たん。

キキ。ご謙遜を。

志摩。鈴鹿は受けるかな。連絡してみる。

 (志摩は通信機で鈴鹿に連絡。OKの返事。冗談と思ったようだ。)

志摩。入学試験を受けるですって。

大江山。さすが、ID社の精鋭。気に入ったぞ。

 (なぜかは知らぬが、教授はルンルン。キキ、悪質だぞ。)