(クリスマスイブ。私(奈良)は休暇をもらっている。正月直前から忙しくなるからだ。でも、教授はまだ情報収集部のオフィスに詰めている。日本の企業は、正月を挟んで3日ずつ休むパターンが多い。最後まで、連絡調整するつもりだ。)
伊勢。来週早々に、2機の自動人形を引き取りにY国本部に行く。教授はどうされます?。
大江山。行きたいが、忙しい。あちらでも連絡は取れるか。
伊勢。8時間の時差。こちらが昼は、あちらは早朝。
大江山。深夜よりはましか。行くことにする。
伊勢。奥様は。
大江山。妻とは一緒に行く。昼間は私だけ別行動になりそうだ。
伊勢。手配します。
大江山。手配って、ホテルの予約か。
伊勢。目的地の本部航空部門の工場は、小国のY国の、さらに首都のはるか郊外にある。工場の宿泊施設に泊まるのがいい。
大江山。首都とはどれくらい離れている。
伊勢。約200km。高速道を利用して、クルマで2時間。高速道は無料。
大江山。フリーウェイか。妻に聞いてみる。小国でも、首都には文化遺産が多そうだ。
伊勢。もちろんです。田舎風の街だけど、一日中歩いたって飽きない。すばらしい文化もある。訪れた日本人は必ずびっくりする。
大江山。ID社のすごみを裏打ちしている、って訳だな。そっちは妻に任せよう。
伊勢。じゃあ、本部の首都本社に連絡します。誰か、案内を付けましょう。
大江山。何もかもお世話になる。だが、ありがたい話だ。ご負担でなければ受けます。
伊勢。ところで、もし、よろしければ本部社員相手にご講演願えませんか。
大江山。それがこちらからのギブになる。いいでしょう。日本のサイボーグ計画について、私の見解を講演します。
伊勢。すばらしいお土産です。よかった。
大江山。伊勢さん。見かけ通りの鋭い方だ。美人だし、歩く姿なんて抜群。私の教室に誘いたいくらいだ。
伊勢。だめ。私の技能が生かせないもの。
大江山。最後の謎だ。情報収集部の。
伊勢。知ったところで、ちっとも面白くない。私が、ここにいる理由。そして、A31が配属された理由。
大江山。平凡そうに見える奈良氏が部長で、あなたが副部長格な理由。
伊勢。そうね。本部航空部門長なら、ホイホイとしゃべりそう。リリとエスの資質を見いだし、自動人形を表舞台に引き出した立役者。
大江山。世界を支配する多国籍企業の重役級。会えるのか。
伊勢。当然。あちらは教授の行動について、興味津々ですわ。なにせ、大国日本のサイボーグの動向を握る男。
大江山。興味は国防関連か。
伊勢。それもあるけど、科学技術動向が関心事。私たち日本ID社情報収集部と同じ。
大江山。どんな計測機を作るか。…、航空部門って何だ。
伊勢。観測用車両など、計測機の運搬手段を企画、設計、製造する部門。宇宙から深海まで、何でもやる。
大江山。ロボットもサイボーグも計測機の運搬手段か。何となく関連する。
伊勢。きっと教授は気に入られる。教授が航空部門長を気に入るかは微妙と思いますけど。
大江山。さては、個性があるんだな。
伊勢。筋金入りの航空マニア。部下も。その手の話が好きなら、いつまでも話が続く。逆に、付いて行けないと、面白くない素人と判断されてしまう。
大江山。あなたはどうだ。
伊勢。私は飛行機が操縦できたから、話をしてもらえた。航空部門でも飛んだ。
大江山。何か売り込むための技能がいるな。飛行機、クルマ、船。
伊勢。ロケット。サイボーグ。
大江山。サイボーグか。たまたま、近い領域ということで代表になってしまったが、直接の研究者でもなければ、マニアでもない。
伊勢。政府って、そういうことするのね。SFとかマンガとかは?。
大江山。人並みに。
伊勢。奈良さんは子供のころ、宇宙服を着た兵士の人形で遊んだ。その話を航空部門長にしたら喜んでしまって、それじゃあ一つ、奈良部長が喜ぶサイボーグを作ってやろう、ってことになった。
大江山。航空部門長がID社の自動人形計画を牛耳っているのか。
伊勢。いいえ。数多い支援部門の一つ。発言力は大きいけど、決定はできない。自動人形の生産計画などは、専門の委員会が元締め。政策を決定しているのは、ほんの3人ほどとのうわさ。ついでに、自動人形の中枢部の技術動向を決定しているのも、別の3人ほど。
大江山。ほどって、知らないのか。
伊勢。知らされていない。機密らしい。理由は知らない。
大江山。大赤字の自動人形が、こともあろうに量産。私企業にとっては、機密だろうな。
伊勢。社長とかがいれば、その人の責任なんでしょうけど、経営トップとは関係ないところで動いている。
大江山。巨大多国籍企業。妖怪か怪獣みたいなものだ。実体があるのやらないのやら。
伊勢。教授は飛行機やクルマのおもちゃで遊んだとか。
大江山。当然。電池で地上を這い回る旅客機とか、紙のカードで動作をプログラムするプラモデルとか。
伊勢。飛ぶ飛行機は?。
大江山。あれだ。輪ゴムで飛ぶやつ。細い木と紙でできている。
伊勢。大昔のグライダーみたいなの。
大江山。多分、そうだろう。マニアはいるらしいが、私はマニアではない。
伊勢。話が続かないか。
大江山。サーボとか、個々の技術に興味はあるが、酒の肴にはならない。
伊勢。困ったわね。社交上も魅力ある男になっていただかないと。
大江山。何を企んでいる。
伊勢。新しい少年少女の自動人形よ。航空部門長、あなたの話をじっと聞いて、そのアンドロイドたちに性格を与えるはず。
大江山。もう改造はおおむね終わっているんだろうが。
伊勢。でも、まだ完成品として引き渡された訳ではない。最終調整までに食い込めば、かなり性格を注文できるはず。
大江山。イチとレイか。
伊勢。それが名前。ワンとゼロ。オンとオフ。単純。どっちが女よ。
大江山。イチ(Ichi)が兄で、レイ(Rei)が妹。でも、性別は変わるんだろう?。
伊勢。だから、中性的な名前を。なるほど。性格に付け加えることは?。
大江山。モデルになってくれた鈴鹿くんと芦屋くんの掛け合いは面白い。どちらも、全然負けていないけど、芦屋くんが勝手に振る舞うのを許すと見せかけて、鈴鹿くんは結構陰険。結局、思い通りに操縦している。
伊勢。あらあ、よくお気づき。
大江山。大変な信頼関係。絶対に裏切らないと分かっていないと、あんな激しいやり取りはできない。
伊勢。二人とも動く凶器ですもん。
大江山。まじで恐そうだ。
キキ。誰が行くの?。
伊勢。奈良さんと私は行かないといけない。あなたとケイマさんはどうする?。
キキ。ケイマは今週末に行く。伊勢さんより少し早く着く。私はID社の輸送系で運ばれる。
伊勢。虎之介は行く。鈴鹿と志摩はどうしようかな。
キキ。鈴鹿さんはモデルの一人だから、行けばいい。
伊勢。そうね。オタクへの謝礼も込めて。志摩も連れて行こう。行かないと、リリが寂しがりそう。
キキ。何よ、その理由。空木さんはエスと一緒にシリーズBで戻る。
伊勢。あと4人乗れるわね。
キキ。A31はどうする?。
伊勢。空飛ぶ自転車が間に合うらしい。航空部門長が見たがっていた。もちろん、あなたの自転車も。
キキ。モグは。
伊勢。イチとレイの発着の都合があるから、連れて行くか。面倒だから、四郎と五郎も。
キキ。結局、全員。
伊勢。そうなった。
キキ。関さんも誘おうよ。
伊勢。連絡してみる。…、行くって。即答。
大江山。班関係で、行きたい人があるか、探ってみる。
伊勢。たいそうなツアー。航空機をチャーターできるかな。聞いてみる。
大江山。発想が違う。さすがID社。
(結局、空木のシリーズBとは別に、ID社の専用機を飛ばすことになった。Y国から来るのだと。普通の旅客機を改造したものだ。ちょっとうるさいけど、中は広々と空間を使っていて、快適なはず。政府関係は大江夫妻と関も含めて、12人が来ることになった。私と伊勢と鈴鹿とA31が乗る。四郎と五郎も同乗して、乗客にサービス。空木とエスのシリーズBには、志摩と虎之介とケイマとキキが乗ることになった。ケイマのスケジュールに合せて、週末に出る。)
伊勢。来週早々に、2機の自動人形を引き取りにY国本部に行く。教授はどうされます?。
大江山。行きたいが、忙しい。あちらでも連絡は取れるか。
伊勢。8時間の時差。こちらが昼は、あちらは早朝。
大江山。深夜よりはましか。行くことにする。
伊勢。奥様は。
大江山。妻とは一緒に行く。昼間は私だけ別行動になりそうだ。
伊勢。手配します。
大江山。手配って、ホテルの予約か。
伊勢。目的地の本部航空部門の工場は、小国のY国の、さらに首都のはるか郊外にある。工場の宿泊施設に泊まるのがいい。
大江山。首都とはどれくらい離れている。
伊勢。約200km。高速道を利用して、クルマで2時間。高速道は無料。
大江山。フリーウェイか。妻に聞いてみる。小国でも、首都には文化遺産が多そうだ。
伊勢。もちろんです。田舎風の街だけど、一日中歩いたって飽きない。すばらしい文化もある。訪れた日本人は必ずびっくりする。
大江山。ID社のすごみを裏打ちしている、って訳だな。そっちは妻に任せよう。
伊勢。じゃあ、本部の首都本社に連絡します。誰か、案内を付けましょう。
大江山。何もかもお世話になる。だが、ありがたい話だ。ご負担でなければ受けます。
伊勢。ところで、もし、よろしければ本部社員相手にご講演願えませんか。
大江山。それがこちらからのギブになる。いいでしょう。日本のサイボーグ計画について、私の見解を講演します。
伊勢。すばらしいお土産です。よかった。
大江山。伊勢さん。見かけ通りの鋭い方だ。美人だし、歩く姿なんて抜群。私の教室に誘いたいくらいだ。
伊勢。だめ。私の技能が生かせないもの。
大江山。最後の謎だ。情報収集部の。
伊勢。知ったところで、ちっとも面白くない。私が、ここにいる理由。そして、A31が配属された理由。
大江山。平凡そうに見える奈良氏が部長で、あなたが副部長格な理由。
伊勢。そうね。本部航空部門長なら、ホイホイとしゃべりそう。リリとエスの資質を見いだし、自動人形を表舞台に引き出した立役者。
大江山。世界を支配する多国籍企業の重役級。会えるのか。
伊勢。当然。あちらは教授の行動について、興味津々ですわ。なにせ、大国日本のサイボーグの動向を握る男。
大江山。興味は国防関連か。
伊勢。それもあるけど、科学技術動向が関心事。私たち日本ID社情報収集部と同じ。
大江山。どんな計測機を作るか。…、航空部門って何だ。
伊勢。観測用車両など、計測機の運搬手段を企画、設計、製造する部門。宇宙から深海まで、何でもやる。
大江山。ロボットもサイボーグも計測機の運搬手段か。何となく関連する。
伊勢。きっと教授は気に入られる。教授が航空部門長を気に入るかは微妙と思いますけど。
大江山。さては、個性があるんだな。
伊勢。筋金入りの航空マニア。部下も。その手の話が好きなら、いつまでも話が続く。逆に、付いて行けないと、面白くない素人と判断されてしまう。
大江山。あなたはどうだ。
伊勢。私は飛行機が操縦できたから、話をしてもらえた。航空部門でも飛んだ。
大江山。何か売り込むための技能がいるな。飛行機、クルマ、船。
伊勢。ロケット。サイボーグ。
大江山。サイボーグか。たまたま、近い領域ということで代表になってしまったが、直接の研究者でもなければ、マニアでもない。
伊勢。政府って、そういうことするのね。SFとかマンガとかは?。
大江山。人並みに。
伊勢。奈良さんは子供のころ、宇宙服を着た兵士の人形で遊んだ。その話を航空部門長にしたら喜んでしまって、それじゃあ一つ、奈良部長が喜ぶサイボーグを作ってやろう、ってことになった。
大江山。航空部門長がID社の自動人形計画を牛耳っているのか。
伊勢。いいえ。数多い支援部門の一つ。発言力は大きいけど、決定はできない。自動人形の生産計画などは、専門の委員会が元締め。政策を決定しているのは、ほんの3人ほどとのうわさ。ついでに、自動人形の中枢部の技術動向を決定しているのも、別の3人ほど。
大江山。ほどって、知らないのか。
伊勢。知らされていない。機密らしい。理由は知らない。
大江山。大赤字の自動人形が、こともあろうに量産。私企業にとっては、機密だろうな。
伊勢。社長とかがいれば、その人の責任なんでしょうけど、経営トップとは関係ないところで動いている。
大江山。巨大多国籍企業。妖怪か怪獣みたいなものだ。実体があるのやらないのやら。
伊勢。教授は飛行機やクルマのおもちゃで遊んだとか。
大江山。当然。電池で地上を這い回る旅客機とか、紙のカードで動作をプログラムするプラモデルとか。
伊勢。飛ぶ飛行機は?。
大江山。あれだ。輪ゴムで飛ぶやつ。細い木と紙でできている。
伊勢。大昔のグライダーみたいなの。
大江山。多分、そうだろう。マニアはいるらしいが、私はマニアではない。
伊勢。話が続かないか。
大江山。サーボとか、個々の技術に興味はあるが、酒の肴にはならない。
伊勢。困ったわね。社交上も魅力ある男になっていただかないと。
大江山。何を企んでいる。
伊勢。新しい少年少女の自動人形よ。航空部門長、あなたの話をじっと聞いて、そのアンドロイドたちに性格を与えるはず。
大江山。もう改造はおおむね終わっているんだろうが。
伊勢。でも、まだ完成品として引き渡された訳ではない。最終調整までに食い込めば、かなり性格を注文できるはず。
大江山。イチとレイか。
伊勢。それが名前。ワンとゼロ。オンとオフ。単純。どっちが女よ。
大江山。イチ(Ichi)が兄で、レイ(Rei)が妹。でも、性別は変わるんだろう?。
伊勢。だから、中性的な名前を。なるほど。性格に付け加えることは?。
大江山。モデルになってくれた鈴鹿くんと芦屋くんの掛け合いは面白い。どちらも、全然負けていないけど、芦屋くんが勝手に振る舞うのを許すと見せかけて、鈴鹿くんは結構陰険。結局、思い通りに操縦している。
伊勢。あらあ、よくお気づき。
大江山。大変な信頼関係。絶対に裏切らないと分かっていないと、あんな激しいやり取りはできない。
伊勢。二人とも動く凶器ですもん。
大江山。まじで恐そうだ。
キキ。誰が行くの?。
伊勢。奈良さんと私は行かないといけない。あなたとケイマさんはどうする?。
キキ。ケイマは今週末に行く。伊勢さんより少し早く着く。私はID社の輸送系で運ばれる。
伊勢。虎之介は行く。鈴鹿と志摩はどうしようかな。
キキ。鈴鹿さんはモデルの一人だから、行けばいい。
伊勢。そうね。オタクへの謝礼も込めて。志摩も連れて行こう。行かないと、リリが寂しがりそう。
キキ。何よ、その理由。空木さんはエスと一緒にシリーズBで戻る。
伊勢。あと4人乗れるわね。
キキ。A31はどうする?。
伊勢。空飛ぶ自転車が間に合うらしい。航空部門長が見たがっていた。もちろん、あなたの自転車も。
キキ。モグは。
伊勢。イチとレイの発着の都合があるから、連れて行くか。面倒だから、四郎と五郎も。
キキ。結局、全員。
伊勢。そうなった。
キキ。関さんも誘おうよ。
伊勢。連絡してみる。…、行くって。即答。
大江山。班関係で、行きたい人があるか、探ってみる。
伊勢。たいそうなツアー。航空機をチャーターできるかな。聞いてみる。
大江山。発想が違う。さすがID社。
(結局、空木のシリーズBとは別に、ID社の専用機を飛ばすことになった。Y国から来るのだと。普通の旅客機を改造したものだ。ちょっとうるさいけど、中は広々と空間を使っていて、快適なはず。政府関係は大江夫妻と関も含めて、12人が来ることになった。私と伊勢と鈴鹿とA31が乗る。四郎と五郎も同乗して、乗客にサービス。空木とエスのシリーズBには、志摩と虎之介とケイマとキキが乗ることになった。ケイマのスケジュールに合せて、週末に出る。)