指田文夫の「さすらい日乗」

さすらいはアントニオーニの映画『さすらい』で、日乗は永井荷風の『断腸亭日乗』です 日本でただ一人の大衆文化評論家です

『帝銀事件』

2021年03月31日 | テレビ
1948年1月、豊島区椎名町の帝国銀行椎名町支店で起きた毒殺事件。
1980年にテレビ朝日で放映されて見たが、やはり大変に面白い。監督は森崎東で、彼はテレビ映画も結構作っているが、これがベストだと思う。
主人公の平沢貞通役の中谷昇が非常な好演である。
中谷は、二枚目で芝居も上手いが、脇役が多く、これという作品がないが、これは彼の代表的作品だと思う。

      

平沢は、当時はかなり名をなしていたペンペラ画家で、毒殺事件などの関わる人ではなかった。
だが、刑事の一人に、犯人が類似事件で使った名刺から、その交換相手を異常に捜査する男がいて、これを田中邦衛が演じてこれも大熱演。
田中が、平沢のいる小樽から逮捕して、東京に護送するが、ここは列車に新聞記者等が乱入して大騒ぎになる。ここでは使われていないが、列車での様子は、ニュース映画で撮影されていたと思う。
事件で生き残った人による「面通し」があり、銀行員の一人が木村理恵で、彼女は犯人と似てないとの証言をする。木村も後に日活ロマンポルノに出ることになるが、ここでは清純派。

だが、起訴され裁判になると、なんと有罪で死刑になる。
殺人の凶器である「毒物」も特定されず(青酸性毒物であり、かなり特異な毒物である)、入手先も一切不明という「異常な証拠」だった。
そして、歴代の法務大臣は死刑の執行許可を与えず、平沢は39年間を獄中で過ごし、95歳で死ぬ。
えん罪事件の典型というべきだろうが、平沢貞通は、かなり異常な人間で、ここで中谷昇は、大変によく演じていると思う。
日本映画専門チャンネル

『大日向村』

2021年03月30日 | 映画
1940年の東京発声映画作品、原作は和田伝、脚本は八木隆一郎、監督は豊田四郎。豊田は、私が好きな監督だが、この時期は、朝鮮での徴兵志願を描く『若き姿』などと同様、国策に準じる作品で意外な感じがする。


                               
冒頭に大日向村の説明があり、長野県南佐久群で、名前とは逆に谷間の村で、陽が差さず、耕地もすくないので、穀物栽培の他、養蚕でやっと生きている寒村。
村の産業組合長河原崎長十郎のところに、村長になった中村翫右衛門が来たところから始まる。村長は、当時は県知事の指名だったと思う。
二人は、村を救うには抜本的な策が必要だと一致し、それは満州移民だとなる。
村で講演が行われ、講師は
「移民は武装移民であり、片手に銃、片手に鍬だ」と扇動する。
まさしく国策移民であり、農村の人口過剰と満州の開発を同時に可能とする策だとされた。実に愚かしいことである。しかも、移住先は北満でソ連との国境地帯だったのだからひどい。
1945年8月にソ連が国境を越えてきたとき、関東軍はすでに主力は南方に行ってしまっている上に、残りの部隊も住民を残して最初に逃げたのだから。日本軍は天皇を守る軍であり、国民を守る軍隊ではなかった。
いろいろあるが、ついには分村して満州に行くことになる。
村の油屋への借金があり、これが問題だが、実際は国から補助金が出て解決したようだ。油屋というのは、村で唯一の食料品屋だと思う。
万歳三唱で、第一団は出ていき、次も続くぞとなる。
だが、その後の悲劇は有名だろう。
ドキュメンタリーでも、敗戦時、さらに戦後日本に戻ってきてからの村人の苦闘は本当に悲劇的で、国が作った悲劇である。
ラピュタ阿佐ヶ谷






『国葬』

2021年03月29日 | 映画
1953年3月5日、スターリンが死ぬ。これを200台のカメラ、さらにラジオ録音のアーカイブを使って再現した作品。退屈と言えば退屈だが、実に面白い。

まず、飛行場に各国の代表が来る。東ドイツ、ポーランド、チェコスロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリアなどの東側の国の首脳たち。西側では、イギリス共産党の代表、フィンランドの首相など少ない。日本は、まだ国交回復前であり、日本共産党も分裂時代だったので、なし。
ここには出てこないが、中国の周恩来は来ている。

           
モスクワの労働者円柱ホールという場所に、遺体が安置され、それを弔問する人々の列が延々と続く。中には、緑の葉の中に、白や赤の丸い花輪を持ってくる人も多い。気が遠くなるほどの列が続き、中には泣いている女性もいる。
それは、ソ連の地方でも行われていて、モスクワの状況と音楽がラジオで放送されていて、地方の少数民族も弔意を表している。
そして、遺体が運び出され、これまたすごい列を作って、粛々と赤の広場へと向かっていく。列の最初には、勲章を持った軍人の列。自分が出した多数の勲章を持っていたのか。
遺体は、馬が引く馬車で、そろそろと進んでいき、建物の中に入る。

ここから追悼集会で、司会は後に首相となるフルシュチョフ、最初の弔辞はマレンコフ。昔、新宿の流しにマレンコフという方がいたが、どこが似ているのか。
次は、ベリヤ、秘密警察のベリヤだが、これもまた議会の副議長などの職があるのには驚く。裏の本職の他、表の職もあったのだ。
最後は、モロトフ。モロトフカクテル(火焔瓶)のモロトフで、彼とベリヤは、後に失脚し、粛正されてしまう。火焔瓶は、対戦車の最も原始的で有効な武器で、関東軍もノモンハン戦で兵士に使わせた。
そして、最後に号砲、ソ連の巨大なSLと船の汽笛、石油の油田や工場でも民衆の弔意がつづられる。ここは、結構感動的だった。
スターリンの死は、戦争と戦後の耐乏生活を耐えてきた市民にとっては、ある種の解放感だったのか。
スターリンの大きさは、今のわれわれには想像できない。日本の天皇に、行政、政治、軍事の総ての権力を付与したようなものだろうか。
後のスターリン批判以前なので当然だが、彼の能力が賛美される。だが、彼は、革命以前の非合法時代、ソ連共産党の事務局長で、2000人の党員の本名、暗号名、連絡方法を暗記していたという。まるでコンピュータであり、さらに著作も多く、それも共産主義のみならず、言語論、芸術論もあり、現在では誤謬を指摘されいるが、著作者としてもすごいのだ。
最後、彼の時代に、1700万人の者が虐殺、投獄、流刑され、1500万人が飢餓で死んだとのタイトルが入る。
全体の約半分はカラー映像で、当時からソ連にもカラーフィルムはあったのだ。
横浜シネマリン




『ブリット』

2021年03月29日 | 映画
1968年のアメリカ映画、イギリスの監督ピーター・イェーツの最初のハリウッド作品。
サンフランシスコでのカーチェスのみの映画だと思い込んでいたが、結構面白い。

             
市警の刑事のステーブ・マックイーンは、州上院議員ロバート・ボーンからの裁判の証人ロスの保護を命じられる。その裁判の内容はよくわからないが、突然そ襲われて、その証人がアパートで死んでしまう。
ボーンは、マックイーンの不手際を批難するが、彼は逆に、部屋の鍵が開けられていたことで、ボーン自体も事件に絡んでいると推測する。
ロバート・ボーンは、なんとも怪しい人間だが、警察の上層部は、「彼は警察行政に理解がある」として従うように命じる。
だが、彼は一向に構わず、一人で射殺犯を追う。
彼らは、組織の金を横領して逃亡したロスを殺しにシカゴから来たのだが、本当は替玉だった。
最後は、サンフランシスコの坂道を効果的に利用したカーチェイスになるが、さらに国際空港に逃げ、一時は滑走路での追いかけになるが、戻って空港構内で、マックイーンは、犯人を射殺する。
彼の恋人は、ジャクリーン・ビセットで、特にどうという役柄ではないのに、わざわざ出ているのは不思議。当時、私の周辺でも人気のあった女優だった。
ムービープラス


『忠臣蔵』

2021年03月28日 | 映画
市川中車について書いたので、彼が出た東宝の『忠臣蔵』を見る。
監督は稲垣浩で、東宝の俳優の総出演、さらに松竹の市川段四郎や団子、大映系の香川良介らも出ている豪華版。
原節子の最後の作品でもあるのは有名だろう。

              
中車は、言うまでもなく吉良上野で、いやらしさたっぷりに嬉々として演じている。浅野内匠頭は、加山雄三で、これかこれかというほどに虐められる。
幕開きから、浅野の切腹まで1時間かかり、この吉良の嫌らしさがたっぷりである。そこには、例の畳替えのシーンもあり、ここには柳家金語楼らも出ている。
冒頭は、興津に本物の勅使一行が逗留話で、本陣の主人は森繁久弥で、彼らが費用を払わず、「書付け」だけでケチなことを明かす。女房は当然にも淡路恵子。

判官切腹から転じて赤穂城になり、松本幸四郎の出番。
1961年の幸四郎一門の松竹から東宝への移籍は、演劇的には菊田一夫の期待に反して大した成果を残さなかった。ただ、この『忠臣蔵』や、岡本喜八監督の『侍』など、映画での成果はあったとは皮肉なことである。

大石の伏見での享楽も出てきて、撞木町の茶屋での幇間三木のり平の踊りも楽しい。
森繁久弥は、興津に来た大石らとの交遊でまた出てくる。
江戸に来ては、吉良邸の工事の大工の棟梁のフランキー堺の娘で、絵図面を米屋の手代夏木陽介に渡す星由里子との恋愛。さらに、討ち入りの夜に情死してしまう池内淳子と宝田明との場面も、市井を描くことの上手い稲垣らしい抒情性ががある。
ともかくオールスターなので、いちいち書かないが、本当に豪華である。
中で三船敏郎は、俵星玄蕃で、あまり為所はなく、千坂兵部は志村喬なので、他作品では権謀術作を巡らすが、ここではあまり術作はない。
音楽は、伊福部昭、美術は伊藤熹朔で、衣装の色が昔の草木染め風なのがさすがである。最近の時代劇では、キンキラの豪華色彩で白けるが、そうしたところは一切ない。

現在から考えると、この豪華作品は東宝映画の頂点で、この頃からスタッフ、キャストのリストラが進行し、10年後には、三船敏郎の三船プロがテレビ映画で『大忠臣蔵』を作るようになり、多くのスタッフは移行することになるのだ。
日本映画専門チャンネル

「文春4月1日号」を読む

2021年03月27日 | 政治
「週刊文藝春秋4月1日号」を読む。
言うまでもなく、菅総理大臣の問題である。
今回は、横浜駅東口周辺の飲食店の出店をめぐる利権である。
菅総理が、小此木彦三郎議員の秘書だったことは有名で、小此木彦三郎議員は、運輸族で、そのつながりで国鉄、JRに強い影響力を持っていた。

           
それを利用したのが、横浜駅エキナカの飲食店の出店である。その店はキャラバンコーヒーの系列で、横浜駅のナカへも出店していて、この喫茶店の最大の売物は、パンケーキだというのだから、大いに笑える。
いろいろな疑惑が書かれているが、結構微妙な犯罪で、贈収賄か脱税くらいで、検察が捜査するには少し罪が小さいと思う。
いずれにしても、菅義偉は、見たとおり「小悪党」という感じだ。
とうてい、雲霧仁左衛門のような大悪党ではないようだ。
総理大臣は、その時代を象徴すると言われるが、小悪党の菅義偉が総理と言うことは、今の時代が小さいと言うことなのだろうか、非常に興味深いことである。

『雲霧仁左衛門』

2021年03月27日 | テレビ
NHKBSの『雲霧仁左衛門』が終わった。歌舞伎から映画まである雲霧の話だが、宮川一郎の脚本が面白いので、最後まで見られた。
そして、雲霧の中井貴一、総領子分の伊武雅人、さらに下っ端の柄本佑、今回は金を取られる尾張の豪商の鶴田忍など、配役も豪華で面白かった。
一番驚いたのは、七化ケの女が内山理名だった。
さらに、第一は雲霧の中井貴一であろう。
普通は善人役の中井が、悪人を演じていることだ。
彼の父親の佐田啓二も、映画『君の名は』を代表に、メロドラマの主人公、善人役専門だった。

           
だが、晩年は『悪の紋章』や『甘い汗』など、悪人を演じている。
特に面白いのは、『甘い汗』で、そこでは普通は悪人役の山茶花究が、悪人でヤクザの手下になっているらしい佐田に、靴屋の店を騙し取られることだ。
その撮影の最中に佐田は、交通事故で死んでしまったので、一部は特撮の写真と映像の挿入になっている。
役者という者は、善人役だと馬鹿らしくなって、悪人役をしたくなるものなのだろうか。




『燃えよNINJA]』

2021年03月26日 | 映画
欧米の人間は、ニンジャが大好きである。
以前、ポルトガル語を習っていたとき、ブラジル人の先生は、日本の武道が好きで来日し、なんとか流の師範の道場に入門し、5段とのことだった。

このひどい映画は、イスラエル製だそうで、ユダヤ系でも物真似はあるのか。原題は、「エンター・ザ・ニンジャ」で、これは『燃えよドランゴン』の「エンター・ザ・ドラゴン」である。
白装束のフランコ・ネロが、黒装束、赤装束の忍者と戦っている。
山岳地帯で、どう見ても日本ではない。日本で忍者物というと、武家の影の存在なので、暗いが、ここは陽光の下の戦いであり、その明るさに驚く。
さて、忍者屋敷に行くと、床の間に髭を生やした老師がいて、黒と赤の装束の忍者が左右に並んでいる。床の間の後ろには、忍の一字。鹿島、香取神宮の掛け軸はなし。
あの戦いは、免許授与のためのテストだったのだ。
老師は、ネロに巻物を授け、助けを求めるところに行け、と宣う。
そして、ネロは、フィリピンにマニラに着く。この映画全体は、フィリピンで撮影されたのだろう。
その郊外に農園をやっている友人がいて、その妻は、『わらの犬』のスーザン・ジョージである。
フランコらは、アフリカのアンゴラで戦ったとのことで、傭兵部隊だったのだ。アンゴラ内戦は、最後の米ソの代理戦争で、東側はソ連の代わりにキューバ兵が行った。このキューバ兵とアメリカの傭兵との戦いで、現地の風土病だったエイズが彼らに伝染し、そこからカリブ、フロリダに行って、世界へのエイズの伝染が始まったのだ。
その農場を乗っ取ろうとする悪人たちがいて、彼らとの戦いになる。

             
中に片腕が切られていて、義手の男がいて、間抜けなのだが、唯一その左腕のS字型の義手で、相手の男の一物を攻撃するのが笑えた。
悪人に雇われているのがショー・コスギで、黒装束で、ネロに対決する。
最後、二人、さらにスーザンが集まるのは、リング状の会場。
ここは、鈴木清順の『殺しの烙印』のラストの後楽園ホールを思い出させる。

このひどい映画を見て思ったのは、高倉健主演の『ザ・ヤクザ』も、彼と岸惠子が近親相姦など、ひどい部分もあったが、全体としてそうひどいところはなく、東映の俊藤浩二は、きちんと作らせていたことだ。
WOWOWプラス



『顔』

2021年03月25日 | 映画
1957年1月の松竹映画で、世の松本清張原作の最初の作品である。
監督は、京都の大曽根保康で、この人は、時代劇が多いが、こうしたサスペンスも上手い。

                           
東海道線の駅で止まっている普通列車に、特急から酔った男が、乗り換えてくる。山内明で、人を探しているが、それは岡田茉莉子。列車には、大木実も乗っている。山内は、岡田を見つけると、洗面所に連れて行き、「俺からは逃げられないぞ」と脅す。そこに大木が現れて、「洗面所はお前だけのものじゃないぞ」と言う。
岡田と山内は、争いの中で、山内は扉の外に出てしまい、指だけで捉まっているが、岡田は扉を閉めてしまい、山内の姿は消える。大木はそれを見ていて、岡田が落としたコンパクトを拾っていたことは後で分る。

救急車が病院に運ばれて来て、地元の刑事の笠智衆は、山内が指名手配犯であることに気づき、警視庁に電話させる。無免許医者で、違法な堕胎手術をしていたと言うのだ。
そこは、草津で、笠刑事は、上京して警視庁に協力するが、諸処で「田舎の男」とバカにされる。この頃の地方と東京の差は今よりもはるかに大きく、ここの悪役たちは、東京の華やかさ、明るさに憧れて上京して悪事をなすというテーマである。

お好み焼き屋で、岡田と千石規子が食事していて、二人は善人ではなく、ずっと悪事を企んで来たことが明かされる。
今度は、デパートでのファッション・ショーになり、岡田茉莉子は、スター然としていて、業界人の小沢栄太郎からは手を出されるが、それも計算の内。彼女は、クラブのリーダーの宮城千賀子から、小沢も人気も奪ってしまう。ファッション・ショーは、今のようにランウエイを走り去ると言うものではなく、階段を優雅に降りてくると言った具合。
大木は、九州の炭坑で労組のリーダーだったが、争議で首切られた男で、世間に恨みをいだいていて、警察がファッションクラブで、犯人の面通しをさせるが、「ここにはいない」と言い岡田を庇ってあげる。この捜査は、今では明らかな違法捜査。
岡田は、プロ野球選手の森美樹ともできていて、球場での練習風景もあり、どこかと思うと、小美屋の看板が見えたので、今はなき川崎球場である。この頃は、照明はあったが、外野のスタンドは低い。

このように、いろいろと当時の新風俗が出てくるのも、さすがに松竹である。
吉村公三郎は、「映画は風俗を描かないといけない」と島津保次郎から言われたとのこと。この作品は、松竹京都だが、ほとんど東京付近で撮影されている。
岡田は、大木に脅されてほとんど罪状を暴かれそうになるが、大木はトラックに跳ねられて死んでしまい、森は選手を辞めて田舎に帰る。
最後、ショーの会場に岡田茉莉子がもどってきて、そこに笠智衆ら刑事が来たところでエンド。
音楽は、黛敏郎で、サスペンス映画らしい雰囲気を作っていた。







『踊子行状記』

2021年03月24日 | 映画
1955年の大映、山本富士子、市川雷蔵、勝新太郎で、今から見ればスターだが、当時は若手だったので、カラーではなく、モノクロ。

                            
どこかの殿様黒川弥太郎の誕生祝いが行われていて、山本が踊っている。
祝いで雷蔵と勝新は、殿の傍衆に抜擢されたことが言われている。
対して、不満なのが河野秋武とその兄、清水元らで、河野は酔って、札差の大口屋の市川小太夫に絡む。そこを雷蔵と勝新が止める。
雷蔵と勝新は、昔から仲が良く、隣の家に住んでいて、雷蔵の妹と勝新は夫婦になることを約している。
そこに宴席での例に小太夫が来て、進物を差し出すが、そこに河野が来て、
「俺にはないのか」とくせを付けて二人と争いになる。
そのなかで、勝新が河野を切ってしまい、河野はその場で死ぬ。
雷蔵は、「俺のことにしてくれ、お前は妹との結婚もあるので、俺がしたことにすればよい」と言い、自分が罪を被る。
そして、大口屋の知恵で、雷蔵は、山本がいる家の二階に潜む。
この山本の職業がよくわからないが、芸者のようだが、他の芸者もいて置屋のようだが、非常に広い屋敷である。
河野の兄の清水とその一党から雷蔵は狙われ、最後は山本のところにいるのを突き止められる。
言うまでもなく、最後は悪の一党は、雷蔵と勝新の力で一掃される。
黒川の殿様の寛大な処置で、勝新たちの罪は見逃され、雷蔵と山本は、旅に出るところで終わり。
本当は、ここから始まる話のようにも思えたが。
市川雷蔵に比べ、勝新はなんとも泥臭く比較にならない。
衛星劇場


『蜜蜂と遠雷』

2021年03月23日 | 映画
若者のピアノコンクールを描く作品。
かつて武満徹は、「日本映画で作曲家や音楽家を描くと、非常におかしくて参る」と書いたことがある。私も、新東宝の高島忠夫主演の作曲家の映画を見て違和感をもったことがある。
これについては、武満はどう思っただろうか。
若者のピアノコンクールとは、天才、神童同士の争いで、言ってみれば甲子園の高校野球大会のようなものだろう。
だが、甲子園で優勝など活躍した選手、特に投手でプロでも大活躍したのは、松坂大輔くらいだろう。昔は、別所毅彦も甲子園で活躍し、プロでも日本最初の300勝投手になったのだが、さすがに見ていない。
私が見たのでは、板東英二と太田幸二くらいだろう。大田は、非常に騒がれたが、結局58勝したのは立派だったと思う。

           

さて、映画の方だが、主役は、かつて天才少女と言われたが、挫折したことのある松岡未優らで、田舎で音楽の仕事をしていて、「生活感のある音楽」などとかつての日本共産党の歌声運動のようなことを言う松坂桃李、養蜂師の父と欧州を廻っている16歳の少年森崎ウインなど。
結局は、松岡は最後の審査で敗れ、優勝は16歳の少年になる。
もちろん、甲子園優勝投手のように、プロ、つまりコンサートピアニストとして生きていけるかは誰も分らない。
それは、この映画の範疇ではない。
浜松のホールの他、いろんな会場が出てくる。ラスト近くで、水辺の会場が出てくるが、ここは保土ケ谷の横浜ビジネスパークだろう。ここでの芝居を見たことがあるが、到底まともなイベントができる場所ではない。
以前、フランツ・リストを描いた映画があり、ダーク・ボガードが演じていて、ピアノをきちんと弾いていてさすがと思った。
ここでも、松岡ほかの主人公たちは、弾いているように見えたのは、評価できると思う。
優勝した少年の名に、レビイと入っているのは、彼がユダヤ系だと示唆しているのだろうか。コロンビアアーチストのように、欧米の音楽産業はユダヤ系の世界で、小澤征爾が有名になったのも、そこと契約したからだそうだが。
ところで、遠雷はラストにあったが、蜜蜂はどこに出てきたの、気がつかなかったが。
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『お吟さま』

2021年03月20日 | 映画
1978年に作られた宝塚映画、脚本依田義賢、監督熊井啓、原作は今東光である。

                         
この話は、1962年に田中絹代監督で作られていて、結構良い作品だった。
どうして、宝塚映画でこれが作られたのは分らないが、美術の木村威夫さんの本だと、宝塚映画の他、松竹京都、大映京都も使わざるをえず大変だったとのこと。宝塚映画は、1棟しかない小さな撮影所で、その後遊園地になり、今は団体用の駐車場とホテルになっている。要は、一時期は映画に浮気したが、宝塚はやはり歌劇団だと言うことだろう。

主演は、中野良子のお吟で、相手の高山右近は、中村吉右衛門、千利休は志村喬、豊臣秀吉は三船敏郎である。
田中絹代監督版では、有馬稲子と仲代達矢で、利休は中村鴈治郎だったと思う。有馬と中野を比較するのは、長嶋茂雄と中畑清を比較するようなものだろうか。

よく見てみると、お吟は、異常なストーカーとしか見えない。ただ、この中野、三船、志村の関係を考えると興味深い。というのも、中野良子は三船プロで、三船敏郎にとって志村喬は父親のような存在なので、この映画は、その三人の関係でできているとも思える。
最後、秀吉の朝鮮出兵をめぐって利休は反対し、また秀吉から夜伽を命ぜられて、利休は、強く反対する。この場面は、秀吉の三船の方が、本当は偉いのに、利休の志村に押されているように見えるのは、さすがに志村喬と言うべきか。
ただ、この映画で一つだけ良いところがあるとすれば、音楽で、伊福部学長の音楽は、当時のキリシタンの音楽をきちんと再現したものとのことだ。
冒頭で、吉右衛門が弾くリュート、最後で中野が弾く琵琶の音楽は正しいもののようだ。
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『散歩する霊柩車』

2021年03月17日 | 映画
これは、松竹の『吸血鬼ゴケミドロ』と並び、日本映画史上に残る相当に変な作品である。
ただ、監督の佐藤肇は、東映で普通の娯楽映画も作っているので、 なぜこの映画が企画されたのかは分らない。
ただ、脚本の1人が藤田伝であることがヒントのように思う(松木ひろしとの共作)。藤田は、今村昌平が劇団俳小で演出した『パラジ』を書いた人で、後の今村の映画『神々の深き欲望』でも、脚本と助監督をやっていて、今村の持つブラックユーモアが、この映画にも反映されていると思う。
主人公の夫婦は、タクシー運転手の西村晃とバーの女給の春川ますみで、『赤い殺意』のコンビである。

          

冒頭、女の春川の浮気をめぐる西村との夫婦げんかがあり、西村は春川の首を絞め、次のシーンでは霊柩車が疾走していて、タイトルになる。
渥美清が運転する霊柩車は、大会社のビルの前で停まり、西村は社長の曾我廼家明蝶を呼び出す。彼は、結婚式に出ているとのことで、会館の入口に霊柩車が停まり、明蝶は困って西村と車を別のところに誘導する。
西村は、車の中の棺桶を開け、春川が死んで花の中に埋もれていることを見せる。そして遺書を見せて、「YKという男に騙されたので死ぬ」との文句を見せ、明蝶は困り、金を渡すことを約束する。
次に、大きな病院に行き、そこの医師金子信夫にも、棺桶の中の春川を見せる。
この2人は、バーの客で、春川と関係があったのだ。
そして、車は団地に戻ってくると、そこでは通夜の支度が調えられている。
だが、本当は春川は死んでおらず、明蝶から金を取るための西村と春川の芝居だった。だが、本当に春川が死んだと思った明蝶は、500万円を西村に渡す。
さらに、明蝶は団地に来て戻るとき、そこに春川とすれ違って驚いてショック死してしまう。
このように、人間の死を弄ぶがごとき作品で、日本映画では珍しい作品である。
だが、本当は春川は、金子信夫と仕組んだ話であったり、春川の若いツバメの岡崎二朗との情事があったりする。
最後は、翌日、団地によびに来た渥美清と共に、火葬場に行くが、渥美は総てを知っていて、別の墓場に霊柩車を持って行って、
「全部知っているよ」と西村を脅す。二人の争いになり、西村は渥美に勝つ。
だが、霊柩車は西村の運転で誤って大木に衝突して燃えてしまう。
まことに非常識と言えば非常識で、世の良識に逆らうような映画だった。
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長谷川初範も、65歳か

2021年03月17日 | 演劇
テレビを廻していると、NHKに長谷川初範君が出ていた。
彼も、もう65なのだ。
彼とは、私が市役所に隠れて芝居をやっていた時、大学の後輩大高正大が、横浜映画放送専門学院にいた縁で、われわれの芝居にも出てくれた。
当時から、モテモテだったが、実に爽やかな若者だった。

            
われわれの芝居では大した成果はなかったと思うが、学院の試演の劇『ええじゃないか』で大変に評価され、これで今村昌平が映画版を作る切掛になった。

ただ、この映画版は、できは良くなかった。
私は、「戦後の日本の監督では、今村昌平が一番だ」と思い、彼には駄作はほとんどないが、これは数少ないそれだと思う。
その理由は、主人公の女性たちに魅力がないからだと思う。

『fukushima 50』

2021年03月15日 | 映画
『fukushima 50』が昨日放映された。
もちろん、見なかったが、以前見たときのがあるので、以下に再録しておく。

         

フクシマ50とは、言うまでもなく2009年3月11日に起きた東日本大震災と福島の原発事故である。これは、日本の近代史に残る大事件だが、これを映画化すると、お涙頂戴の浪花節になってしまうのには唖然とした。主人公は、吉田署長を演じる渡辺健、そして当直長の加藤浩市である。原発事故が起きて、原子炉の冷却水が作用しなくり、炉内の温度が急上昇し、水素爆発の危険が起きる。吉田は、冷却の手段として「ベント」という炉内の空気を抜くことを考える。すると、当時首相の菅直人(佐野史郎)がヘリで飛来して来て、彼も「ベント」を命令する。ここは非常に滑稽に描かれていて、菅と官房長官枝野は、否定的人物とされている。この菅が言ったベントは、原発の技術者だった大前研一(平成維新の会)からの助言によるもので、正しいことだった。だが、ベントの操作は中央のコントロールパネルからはできず、当直施設内の職員によって手動ですることになる。ここが、この映画の最大の見せ場で、佐藤は「決死隊」を募り、自分も行くと言う。もちろん、全員が手を上げる。まさに涙、涙の場面である。
これでは、太平洋戦争中の特別攻撃隊と同じではないか。これでは、鶴田浩二が演じた『雲流るる果てに』と同じはないか、まるであきれるほかはない。
幸いも、ベント作業は、放射線量が強くて途中で引き返すことになり、全員無事帰ってくる。この原発事故で、一番重要なのは東電幹部の責任のはずで、これが浪花節になってしまうのはどうしたことだろうか。もともと、岸壁を10メートル以上にしておくのは、過去の歴史を考えれば当然のことで、経済的理由で10メートルにしてしまったのが、この事故の最大の原因で、それを一切描かないのは、本当におかしいと思う。私は、原発については詳しくないが、ベントよりも、最初に海水注入をすぐにやればよかったのではないかと思う。
ただ、この海水注入は、原子炉が二度と使えなくなるはずで、東電、さらに官邸も指示できなかったのだろうと思う。今更考えれば、二度と使えない云々はお笑いだが、当時は誰も思っていなかったのだろう。この50とは、福島原発で決死の覚悟で対応した東電職員50人のことだそうだが、これはやはり日本は特攻隊と思っているのだろうか。 港北ニュータウン・イオンシネマ

以上は、たぶん今も正しいと思うので再録する。