指田文夫の「さすらい日乗」

さすらいはアントニオーニの映画『さすらい』で、日乗は永井荷風の『断腸亭日乗』です 日本でただ一人の大衆文化評論家です

『国葬』

2021年03月29日 | 映画
1953年3月5日、スターリンが死ぬ。これを200台のカメラ、さらにラジオ録音のアーカイブを使って再現した作品。退屈と言えば退屈だが、実に面白い。

まず、飛行場に各国の代表が来る。東ドイツ、ポーランド、チェコスロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリアなどの東側の国の首脳たち。西側では、イギリス共産党の代表、フィンランドの首相など少ない。日本は、まだ国交回復前であり、日本共産党も分裂時代だったので、なし。
ここには出てこないが、中国の周恩来は来ている。

           
モスクワの労働者円柱ホールという場所に、遺体が安置され、それを弔問する人々の列が延々と続く。中には、緑の葉の中に、白や赤の丸い花輪を持ってくる人も多い。気が遠くなるほどの列が続き、中には泣いている女性もいる。
それは、ソ連の地方でも行われていて、モスクワの状況と音楽がラジオで放送されていて、地方の少数民族も弔意を表している。
そして、遺体が運び出され、これまたすごい列を作って、粛々と赤の広場へと向かっていく。列の最初には、勲章を持った軍人の列。自分が出した多数の勲章を持っていたのか。
遺体は、馬が引く馬車で、そろそろと進んでいき、建物の中に入る。

ここから追悼集会で、司会は後に首相となるフルシュチョフ、最初の弔辞はマレンコフ。昔、新宿の流しにマレンコフという方がいたが、どこが似ているのか。
次は、ベリヤ、秘密警察のベリヤだが、これもまた議会の副議長などの職があるのには驚く。裏の本職の他、表の職もあったのだ。
最後は、モロトフ。モロトフカクテル(火焔瓶)のモロトフで、彼とベリヤは、後に失脚し、粛正されてしまう。火焔瓶は、対戦車の最も原始的で有効な武器で、関東軍もノモンハン戦で兵士に使わせた。
そして、最後に号砲、ソ連の巨大なSLと船の汽笛、石油の油田や工場でも民衆の弔意がつづられる。ここは、結構感動的だった。
スターリンの死は、戦争と戦後の耐乏生活を耐えてきた市民にとっては、ある種の解放感だったのか。
スターリンの大きさは、今のわれわれには想像できない。日本の天皇に、行政、政治、軍事の総ての権力を付与したようなものだろうか。
後のスターリン批判以前なので当然だが、彼の能力が賛美される。だが、彼は、革命以前の非合法時代、ソ連共産党の事務局長で、2000人の党員の本名、暗号名、連絡方法を暗記していたという。まるでコンピュータであり、さらに著作も多く、それも共産主義のみならず、言語論、芸術論もあり、現在では誤謬を指摘されいるが、著作者としてもすごいのだ。
最後、彼の時代に、1700万人の者が虐殺、投獄、流刑され、1500万人が飢餓で死んだとのタイトルが入る。
全体の約半分はカラー映像で、当時からソ連にもカラーフィルムはあったのだ。
横浜シネマリン




『ブリット』

2021年03月29日 | 映画
1968年のアメリカ映画、イギリスの監督ピーター・イェーツの最初のハリウッド作品。
サンフランシスコでのカーチェスのみの映画だと思い込んでいたが、結構面白い。

             
市警の刑事のステーブ・マックイーンは、州上院議員ロバート・ボーンからの裁判の証人ロスの保護を命じられる。その裁判の内容はよくわからないが、突然そ襲われて、その証人がアパートで死んでしまう。
ボーンは、マックイーンの不手際を批難するが、彼は逆に、部屋の鍵が開けられていたことで、ボーン自体も事件に絡んでいると推測する。
ロバート・ボーンは、なんとも怪しい人間だが、警察の上層部は、「彼は警察行政に理解がある」として従うように命じる。
だが、彼は一向に構わず、一人で射殺犯を追う。
彼らは、組織の金を横領して逃亡したロスを殺しにシカゴから来たのだが、本当は替玉だった。
最後は、サンフランシスコの坂道を効果的に利用したカーチェイスになるが、さらに国際空港に逃げ、一時は滑走路での追いかけになるが、戻って空港構内で、マックイーンは、犯人を射殺する。
彼の恋人は、ジャクリーン・ビセットで、特にどうという役柄ではないのに、わざわざ出ているのは不思議。当時、私の周辺でも人気のあった女優だった。
ムービープラス