指田文夫の「さすらい日乗」

さすらいはアントニオーニの映画『さすらい』で、日乗は永井荷風の『断腸亭日乗』です 日本でただ一人の大衆文化評論家です

『お吟さま』

2021年03月20日 | 映画
1978年に作られた宝塚映画、脚本依田義賢、監督熊井啓、原作は今東光である。

                         
この話は、1962年に田中絹代監督で作られていて、結構良い作品だった。
どうして、宝塚映画でこれが作られたのは分らないが、美術の木村威夫さんの本だと、宝塚映画の他、松竹京都、大映京都も使わざるをえず大変だったとのこと。宝塚映画は、1棟しかない小さな撮影所で、その後遊園地になり、今は団体用の駐車場とホテルになっている。要は、一時期は映画に浮気したが、宝塚はやはり歌劇団だと言うことだろう。

主演は、中野良子のお吟で、相手の高山右近は、中村吉右衛門、千利休は志村喬、豊臣秀吉は三船敏郎である。
田中絹代監督版では、有馬稲子と仲代達矢で、利休は中村鴈治郎だったと思う。有馬と中野を比較するのは、長嶋茂雄と中畑清を比較するようなものだろうか。

よく見てみると、お吟は、異常なストーカーとしか見えない。ただ、この中野、三船、志村の関係を考えると興味深い。というのも、中野良子は三船プロで、三船敏郎にとって志村喬は父親のような存在なので、この映画は、その三人の関係でできているとも思える。
最後、秀吉の朝鮮出兵をめぐって利休は反対し、また秀吉から夜伽を命ぜられて、利休は、強く反対する。この場面は、秀吉の三船の方が、本当は偉いのに、利休の志村に押されているように見えるのは、さすがに志村喬と言うべきか。
ただ、この映画で一つだけ良いところがあるとすれば、音楽で、伊福部学長の音楽は、当時のキリシタンの音楽をきちんと再現したものとのことだ。
冒頭で、吉右衛門が弾くリュート、最後で中野が弾く琵琶の音楽は正しいもののようだ。
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