「高知ファンクラブ」 の連載記事集1

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三郎さんの昔話・・・卯ヱ門さんと狼(二)

2010-11-25 | 三郎さんの昔話

卯ヱ門さんと狼(二)

 秋も深まり稲刈りもやっと済み、氏神様の秋祭りも先日済んでひとくつろぎ、卯エ門さん、今朝は少し日だけて起き、さしてつかえた仕事もないので、今日は草履でも五六足作るか言うて納屋の方へ行きよったら、近所の上の辺でおなごしらがワイワイと騒がしいので、庭先へ寄って見たら、こりゃたまげた。
 二三十貫もあろうかと見える大猪を、大きな狼が吠えかかり、追い回しながら、上の田んぼから下の方へ、七畝もあるうちの一番の大田へ追い詰めると、狼は猪を外へ出さんように、怒ったりおこつったりしよる。
 猪はまほこに怒って牙をむき出し、狼目がけて突きかかる。狼は身が軽いのでヒラリとかわす。 猪は小いごきがきかんので、行き過ぎてはねじりかえり突きかかるを繰り返しよる。
 卯エ門さんは急ぎ、床に置いた鉄砲と火薬と玉の入った包みを取ると、早足で下の大田へかけ下りた。
 そこで見た狼はこの春、愛宕下で喉に掛かった骨を取りのけたあの狼じゃ。
 卯エ門さん、ようしと言いながら、鉄砲に玉を込めた。田んぼの中央に仁王立ち、鉄砲をまほこに構えて、さあ来い。
 狼はねきに寄って遠吠え。猪は的が太つた卯エ門さん目がけてまっしぐら。えたりと一発ズドーンとぶっぱなした。
 玉は猪の耳の下をかすめたが突っ込んできた。パッとかわして火薬と玉を詰め始めたが、裏込めの銃はやくがかかる。
 矢おいになった猪はますます怒って突っ込んでくる。卯エ門さん玉を込めよる。動きがとれん。片足パッと上げてくぐらしたら、突き抜けてまたねじ返り、突っ込んで来る。
 またパッと片足を上げたその時、猪の牙が股をかすめたか、ズィリッとした。
 ことはない。今度はのがさん。玉は詰まった。突き込んでくる大猪にねらい定めて、ズドーンとぶっぱなした。
 狙い達わず猪のめけんに見事命中した。猪は、二間ばあ突っ込んで来て、卯エ門さんのまん前でバターンとはね返った。
 卯エ門さん大きな息をしてやっと気が落ち着き、あの狼はと、あたりを見回したが、いつの間にか姿が消えて居なくなっていた。
 卯エ門さん、やっぱりそうか、普通狼は餌を横取りしたらこじゃんと怒るが、ありゃー骨取りの恩返しに、おらに猪を追い込んで来たがじゃと。
 くつろいだ時、股下がピチャピチャーとしちょるのに気がつき、ふと見たら血がトロトロッと流れ出よる。
 あ、猪に足を上げて股くぐらしたあの時、あとは牙で引っ掛けよったな、言いもって、手で血だらけのももを下からさすり上げてきて、睾丸へさわって、これがたまるか、いのししゃ牙で、おらの金玉あ引き裂きよった。片手で裂かれた睾丸を握り、片方で鉄砲と玉包みを持って家にもどって来た。
 大きな声で、「貞よー、早よー木綿針へ糸通して持って来い。」貞さん糸を針に通しながら来て、どうしたがぜよ、と聞いたら、卯エ門さん、「いのししゃこじゃんとしとめたが、あたーおらの金玉突っ裂きよったわ、その針早ようこっちへくれー」言うて針貰い、縁に腰掛け血だらけの睾丸を、手ぬぐいで拭きながら、木綿針でぶしぶしと縫うた。
 おくれかやって見よる貞さんに、「狸の油持って来い」、塩漬けの狸油を傷口に塗り、布で睾丸を大事に包むと、縁にどっかとあぐらを組んで座り、「貞よ、おらあもういごけんけ、近所の者集めて、あの猪をさばいて、食いたいばー分けて取り、余った分は仕方がない、土居へ持って行て、安う売りさばいてもらえ。」
 近所の人は、上から猪と卯エ門さんの大決闘を、あれよあれよと見よったがじゃと。
 貞さん、卯エ門が猪の牙でやられていごけん、言うたら、近所の人みんな寄って来て、撃った猪の始末全部してくれたと。
 後から卯エ門さんの、金玉を木綿針で縫うた話を聞いた地下の人は、「卯エ門さんの度胸には、まっことおおちゃくは言えんぜよ。」と言いよったと。

塩漬けの狸油
 傷薬に最良。殺菌作用が強くて、傷につけたり、ハショブ(破傷風)も呑むといっぺんに治った。

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