「高知ファンクラブ」 の連載記事集1

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三郎さんの昔話・・・怖い(首吊り)

2010-11-25 | 三郎さんの昔話

怖い(首吊り)

 今から六十五年ほど前で、私が六、七歳のころは恐ろしいことばかり。
 そのころの町(本山町)の人口は四、五百人で、戸数はせいぜい百五、六十戸の小さい町。電気が出来て、この町へついたのもほんの二、三年前、それでも一戸に五燭か十燭かの電灯がついたので、昔にくらべると家々が明るくなって、人々が夜長をするようになった。
 暑い夏の夜は、近所のおとなが寄り合うて、うちわでバコバコと蚊を追いながら、怖い話の話しくらべで夜がふける。
 そんな怖い話を聞きとうないのに、女子供はつい聴き入って、体がゾーンとして涼しくなって早よう寝る。
 「おんしゃーたまるかねや。こないだ一本松で首吊った娘の話聞いたかや。おらも聞いたが、しょーむごいねや。
 あの子はこまい時、ふた親が死んで遠縁のあそこへ貰われて来たがじゃと。
 育ての親が、もう娘になったというので、ある男のくへ嫁入りせえと、ひどう迫ったけんど、娘は好きなええ男があって、親に事をわけて話したが、何としても聞いてくれず、食うものもろくに食わさずに、昼は仕事にこき使い、朝に晩に折檻責めで、好きな人とはいっしょになれず、自分の生まれ合いが悪いがじゃと、せっぱい辛抱しよったが、か弱い娘心は耐え切れず、ある夜家を抜け出し、ふらふらと何時ともなしに一本松の下へ来ちょったと。
娘は腰紐を解いて紐のはなに小石をくくり、松の枝にほうり掛けて吊り下げ、はなを結んで、灯明台の石段から、紐に首を入れて飛んだと。
 その首を吊って死んだ娘が、まだ少しぶらーんと揺れよる。そこへ天神前の平八が仕事帰りに町で一杯ひっかけ、ええ機嫌で一本松へ通り掛かった。 薄月明かりの大松に何やら長あーいものがぶら下がっちゅう。こわごわ寄ってみてびっくり。 色白の顔に髪が乱れて垂れ下がり、両手はぶらり、裾は乱れて赤いおこしに白い足。
 平八はびっくりしてヒョロヒョロと後ずさりして、尻餅ついた、こしゃ(腰は)抜けた。 頭からスーッと血が下がり、色まっ青になって声ふるわし、首吊りじゃーっと何度も叫んだが、喉でかすれて人には聞こえず、仕方なく平八ごそごそ這うて、近い家へ這い込み一本松の方へ指さし、ふるえる声で、く、く、首吊りじゃー。
 その家の人もしょうびっくりしたが、近所の人を呼び集めて、連絡するやら、後始末に一晩中かかったと。」
 あの一本松は、しょう枝ぶりがええけ、前から首吊りするくじゃと。 悪い晩にはちょいちょい火玉が飛ぶのを見る、言いよるけのう。日が暮れたら女や子供は一本松はよう通らんと。
 この話はほんと惨いことよのう。迷わず成仏しいや。 南無阿彌陀仏、南無阿彌陀仏。 そんならまた、明日の晩に話そう。

 

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