「高知ファンクラブ」 の連載記事集1

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三郎さんの昔話・・・花嫁おばけ

2010-11-17 | 三郎さんの昔話

花嫁おばけ


旧の八月十五日の名月も過ぎ秋も半ばに近い頃、数元さんは高知のお町で、そちこちと見たり聞いたりして充分に楽しんで、父母への土産に干しうるめを少し買い、空弁当といっしょに風呂敷包みにし、こうもり傘にさし、さおかたぎで、日暮れの道をいそぎ足で山道へ、たったか、たったか精出して、十時頃やっと高知ー本山の中間、「中之川」の山頂にかかった。

 


 今夜は天気のせいか月影もおぼろで、雑木の混んだ草道はなかなかで、小溝や道かげに落ちまいと目をさらにして急ぎもどりよったら、向こうからこちらへ、まっ白いものが木陰に見えかくれしながら来よる。

 


 こまがりを曲がると、たまるかパット出会うた。見会うと数元さんも、むこうも両方が一間ばあづつ飛びしさった。おおーとヒャーと双方が声をだしたが、喉でかすれて消えた。


 それもそのはず、見たその姿は白むくの衣装に高島田、角隠しの白巻きが櫛にもつれてたれさがり、顔はまっ白く、片手は胸に片手はぶらり、白むくの裾は乱れて白足袋はだし、数元さんは未だ恐いことに出会うたことなかったが、頭を血が走った。

 
 こりゃほんたい花嫁お化けか古狐かあーと、下腹に力をぐっと入れて、返事をせえー。
 相手はふるえながら、とろけた目で見ていたが、ひょろひょろと後ずさりして、ばったりかやり気絶した。


 しばらくためらったが、起きん。こりゃおかしい。そろーと寄って手に触れてみたら人間のぬくもりじゃ。
 でも、こんな夜中の山中に花嫁が、と不審に思ったが、おぼろ月影に見る顔は、やっぱり人間じゃ。 いそいで抱き起こし、おまん誰ぜよ、と揺すりながら呼びよったらやっと気がつき、静かに泣きながらの物語り。

 


  私は伊勢川で、いやとゆうのに聞き入れてもらえず、今夜、式じゃったが、相手がどうしてもいやで、式の途中間をみて逃げ出し、新改の叔母の家へ身を隠すつもりで走りよった、と。


 いんまのおくれで腰が抜け足がたたん。一人ではもう、よう行かん言うので数元さん、しかたなく同情して、背負うたり引っぱったりしながら新改の家まで連れて行き、叔母さんに喜ばれ朝御馳走になって、昼頃やっと大石に帰りついたと。


  夜中の山中で花嫁と出会うて、まっこと恐かったぜよ、と数元さん度々話した。

 


 


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