「高知ファンクラブ」 の連載記事集1

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三郎さんの昔話・・・山姥

2010-11-25 | 三郎さんの昔話

山姥

 昔、嶺北の山里に、もさくとひょうたという仲良しの木こりが住んでいました。
 秋もなかば、紅葉をちりばめたきれいな奥山で、仲良しの二人はせっせと木を切り、働いていました。
 お日様も高くなり昼が来た。もさくがひょうたに、「腹がへったで弁当にしようか。」
ひょうたも、「おお、腹がへった。食べてひと休みするか。」言うて二人が木陰によってきた。
 ひょうたが、もさくに、「そこにあるおらの“ねこ”を取ってくれえ。」言うて、猫の皮で作った尻すけを取ってもらい、越しに敷いて二人が弁当を食べようとしたとき、ヒヤアイ風がそよっと吹いてきた。
 二人が座っている後ろの薮がザワーザワーとゆらいだ。二人がこわごわ後ろをふりむいてビックリぎょうてん。
頭は白髪のザンバラ、長い一本角がビューと出て目玉はギラリと光り、口は耳まで裂け、牙が二三本、体は痩せてごつごつ、爪は一寸ほど延びた恐い手で小枝にかきつき片手はぶらり、着いた着物はぼろぼろで見るからに恐ろしい山姥が、かすれた恐い声で、「猫はどこじゃ、猫はー。おらは食いたい腹へったー。」と。 それを聞いた二人は色青ざめガタガタ身震いし、腰が抜けて足が立たんようになり、かきつきおうて転げるようにしてやっと家に帰ったが、震えがとまらず熱が出て三日ばあ寝込んだと。
 山姥とはほんとに怖いぜよ。山では猫の皮で作った尻すけを「猫」と絶対言はれんということです。
 この話を今になって考えてみますと、二つのことが考えられます。
 一つは、子供に山は怖いところであると。人を襲うものは熊、山犬、狼、蛇、ハミなど、それに怪我、山中では迷って方角が立たなくなる。
 これらは危機につながるので、山はおそろしい所と子供をいましめた話であろう。
 もう一つは、昔の山の農家はほんの一部を除いて一般に貧しかったと思う。昔の映画での『姥捨て山』は全国的にあったのでは。
 貧しくて食べるにこと欠く時代、食糧は少なく、子供は増えるは、年老いた老母は長生きで死にそうにない。死にとうても死ねない。 親子が話し合うて泣く泣く老婆を山に捨てた。
 それでも命のある老婆は山をさまよい、草や木の実を、山芋や山葡萄、あけびと食べれるものをあさって生き延びていた。
 木こりの懐かしい人声を聞いて静かに近寄っていた。家で猫を可愛がっていた老婆は、「ねこ」と聞いて思わず「ねこ」と声が出た。
 たがいに見合うと木こりもびっくりしたが、老婆もびっくりした。
 そのとき食べていた木こりの弁当は散らかった。その食べ物は家で日頃食べていた御馳走じゃ、老婆は腹から食べたい・・・と悲鳴に似た声が出た。
 こう考えてみると、山姥はほんとに居たのかも知れない。
 別に聞いた話。内のばあさん、カルシュームの塊が頭でふとって角が出来よるけ、それで恥ずかしゅうてちっとも外へ出んようになった、と。
 それに年寄ると、手足の爪が堅くなり、延びる。 身が減って頬骨が張り、歯は抜けて二三本残ると牙に見える。それに白髪のざんばらでは、見るほどに恐ろしい。知らん人が見たら、山姥じゃ。
 げに恐ろしい、哀れな話です。
 

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