英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

NHK杯将棋トーナメント 3回戦 羽生善治三冠×佐藤和俊六段

2016-12-18 13:53:10 | 将棋
 実は「将棋雑感」として、竜王戦、王将戦、棋王戦、叡王戦などの棋戦状況を述べた後、羽生三冠の現況(叡王戦準決勝敗退、王将リーグ陥落)を嘆いた後、「今年度は、(三冠防衛に加え)朝日杯優勝、NHK杯優勝、名人挑戦権獲得で我慢しておこう」と結ぶつもりだったが、一抹の不安を抱き、NHK杯を観た後に記事を書くことにした。
 不幸にも予感が的中し、間抜けな遠吠えを吐かずに済んだのは幸いだったと思うことにした。

 佐藤和俊六段は2003年四段デビューし、現在38歳。通算成績は280勝181 0.6073と六割を超えており、竜王戦は二組に在籍している。今期は、19勝12敗 0.6129、NHK杯は一回戦で加藤桃子女王、二回戦では屋敷九段を破っており、油断はできない相手だ。ただ、順位戦はC級二組と低迷している(今期は4勝2敗)ので、佐藤六段には申し訳ないが、“安全パイ”と思っていた。準々決勝の相手の村山NHK杯選手権者にも負ける可能性は低く、準決勝進出は堅いと思っていた。

 将棋は、後手佐藤六段の「三間飛車+藤井システム」の構えに、先手羽生三冠がミレニアム囲いで対応。虚々実々の駆け引きから、長期戦模様となった。
 佐藤九段が端を攻める展開となり、形勢はともかく、羽生三冠が自玉の危険に注意を払わなければならない局面が続いた。
 それでも、反撃を見せながら佐藤六段の攻めを急かせ、やや羽生三冠が“余している”局勢となった。(「余している」という表現は、気取っている気がしてあまり好きではないが、絶妙な表現なような気もする)

 しかし、……113手目▲6八玉と9七の成香の圧力から遠ざかった手に対し、△4八銀と先手玉の右側に銀を配置し挟撃体制を築いた局面。


 その銀を攻めた▲5八玉が羽生三冠らしい柔軟で強い指し手………


 ところが、その4八の銀に繋げて打った△5九銀打が△5七香以下の詰めろになってしまった。


 第1図の△4八銀は詰めろではない。しかし、▲5八玉△5九銀打と進んだ第3図では、先手玉に詰めろが掛かっている。つまり、羽生三冠の▲5八玉は1手パスに等しかった。終盤の1手パスは非常に罪が重い。しかも、第3図では後手の攻めを振り解きにくくなっている。
 第1図では、▲6一桂成と後手玉に迫っておけばはっきり手勝ちだった。▲6一桂成に対し△5九銀打には▲7八玉で大丈夫だ。
 上記の変化で、△5九銀打に対し▲5八玉と逃げると△5七香で詰む。この変化を考えると、第2図の▲5八玉が如何にまずかったか………


 この敗局で「羽生、衰えた」と言う人は多いだろう。
 反論するのは難しいし、私自身、ショックが大きい。
 この将棋で感じたのは、負け惜しみに聞こえるかもしれないが「NHK杯方式(持ち時間15分+考慮時間10回)の早指し将棋の実力は、依然トップ」である。
 しかし、「その早指し力は以前に比べて3%くらい低下している」のではないだろうか?それでも、その読みの量は他の棋士よりかなり上回っているのだが、30秒では結論を出せないことが増えている。読みが深く、量が多ければ正しい指し手を選択できるとは限らない。余計な読みが判断を誤らせることだって多い(長考した手が悪手になることも多い)。勘と直線的読みだけで指す「10秒将棋」なら、羽生三冠は恐ろしい勝率を上げるような気がする。

 ▲5八玉と指した時、「29秒」まで秒を読まれて、ぎりぎり玉を5八に滑らすように指した。おそらく、ぎりぎりまで読んで確信を持てないまま指したと思われる。
 これまでにもこのような着手はあったが、結果的に間違った手を選ぶことは少なかった。しかし、最近は結果的に拙い手を選んでしまうことが増えてきた。おそらく、読みのスピードが30秒換算でで1~2秒遅くなっている。つまり、今まで28秒で読み切れていた変化が読み切れず、踏み込めない着手が増えてきている。
 それと、これまでは考慮時間を残して、ぎりぎりの状況に備えてきたが、この将棋では考慮時間も早めに消費してしまっていた。

 長時間の将棋でも、終盤に間違えることが増えており、最近は考慮時間を残すように努めているようだ。早指戦でも考慮時間を残すよう留意すれば、やはり、最強ではないだろうか?


【追伸】
 戸辺七段の解説は歯切れも良く、指し手の変化も的確に示して面白い。
 しかし、兄弟子、振り飛車党ということで、形勢判断が佐藤六段寄りになっていたように思う。

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2 コメント

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競り合い負け (勝手新四朗)
2016-12-20 22:14:12
私は端に手を付けられたところでは、羽生3冠が苦しいと観ていました。振り飛車側の4枚美濃が恐ろしく固く、なかなか詰めろが掛からない状況だったので先手が勝ち難いきょくめんだな~と・・・。しかしながら、英さんがおっしゃるようにチャンスがありながら競り合い負けするのは、絶対的な強さに衰えがきているのは事実のようです。
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羽生三冠がリードしていたのですが ()
2016-12-20 23:47:36
勝手さん、こんばんは。

 難解な攻防でしたが、佐藤六段が馬を見捨てて端攻めに命運を預けた勝負手で、先手に嫌味が多い将棋になりましたが、やはり、少々無理があったようで、1図では先手優勢がはっきりしてきたと考えます。

>英さんがおっしゃるようにチャンスがありながら競り合い負けするのは、絶対的な強さに衰えがきているのは事実のようです。

 全否定はしませんが、まず「チャンスがありながら」という表現は肯定できません。局面をリードしていたのですから、「勝ち切れなかった」が適切だと思います。
 だも、絶対的な強さに陰りが出てきているのは否定はできません。
 主要因は2つ。
 まず、他の棋士のレベルが上がってきたこと。これには将棋ソフトを利用することによる研究の精度が高くなったことが大きいです。(楽して強く?なる傾向は嫌ですね)
 それはともかく、序盤で遅れを取る事や、精力を傾けなければならなくなった事で、終盤の余力がなくなってしまったと考えます(長時間の将棋)。
 早指し将棋においてはトップクラスであるのには間違いないのですが、読みの速度が低下したことにより、1.5秒ほど時間が足りなくなり、間違えてしまうことが多くなったと考えます。
 この現象にたいしては、まず、自分の直感を信用し、読み切れない時には第一感のてを着手するようにすればいいのではないかと考えます。
 
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