英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

第65期王将戦第3局 不可思議な将棋

2016-02-05 23:27:25 | 将棋
第65期王将戦第3局は羽生名人が勝ち、シリーズ成績を2勝1敗とした。

 ゆったりとした進行で、32手目を羽生名人が封じ手終了。

 指し掛け図は31手目、封じ手直前の局面。


 2手前に先手の郷田王将が▲2五銀(第1図)と3四の歩取りを見た手に対し、後手の羽生名人が放置して悠々△5四銀と上がる。さらに、郷田王将が▲6八玉と居玉を避けて間合いを計った局面だ。

 序盤で後手から△8八角成▲同玉と角交換しているので1手損しているうえ、3四の歩を取られそう。自陣付近で戦いが始まり後手玉は居玉で薄い(主戦場の2筋とは離れているという利点もある)。大丈夫だろうか?と図を凝視したが、羽生名人の真意は分かるはずもない。

 中継の封じ手予想解説によると
(1)△3三銀……▲2四歩から銀交換して先手ペース。▲3六歩を突いていないので、角で飛車のコビンを狙われることがない
(2)△4四歩……本命視された手。以下▲3四銀△2四歩▲3五角(▲2四同飛は△3三歩▲2五銀△2三歩)△3三歩(変化図1)。先手は銀をどう助けるか。(a)▲2三歩は△同銀▲同銀成△同金▲4四角△4二玉(変化図a)で、先手の角が狭いのが気になるようだ。(b)▲2四角△4二飛(△3四歩を可能にして△4五歩を見せる)▲2五銀△4五歩▲7九玉△6二玉(変化図b)はどうか。先手は角を手放しているものの、長引けば歩得が生きる。(a)と(b)の違いは7七銀の働きで(8八銀型と比べて)、(a)が角の逃げ場所を減らしているのに対し、(b)は壁銀を解消した得だけが残る。
(3)△3五歩……平藤七段の予想手。銀の退路を断つ意味。
(4)△3三桂
(5)△5二玉……▲3四銀を誘った意味で、△2四歩▲3五角△3三歩▲2四角△3四歩なら銀得の後手有利。▲2四角が王手にならないので、先手は銀を助けるのに苦労する。ただ、△5二玉に▲7九玉と手を渡されると、玉上がりがプラスになるかは難しい。
(6)△6五歩……記録係の西山初段の予想。3筋の歩を取らせて、△3六歩▲同歩△6四角を作った意味。
(7)△1四歩……長沼七段が予想。本当は△4四歩を予想したが、みんな同じだとつまらないとのこと。強い先生の意見を参考にしたらしい。




 木村八段と飯塚七段の封じ手予想は、(1)△4四歩が一押し。「形勢は難しいものの、後手は苦労しそうだ」が一致した見解だ。

 羽生名人の封じ手は(7)△1四歩!
 直前の▲6八玉に呼応した手で、
「▲3四銀△2四歩▲3五角となったときに、やや先手の角が狭い。△1三角と反撃する味もあります。ただ、▲1六歩と受けられても得になるかどうか難しい」(木村八段)
「△1三角の筋があると、▲6八玉は悪形になる可能性もあります。▲3五角打ったあとに▲5六歩と角の逃げ場所を作ると、玉が角に狙われやすくなってしまいます」(木村八段)
「△2四歩▲同銀△2三歩のような変化のときに生きてきます」(長沼七段)

 羽生名人らしい柔らかい手と評判。
 ただ、「先手が8八銀の形で▲1六歩と指すと、平成11年の真田-金沢戦と同一局面になります。△2四歩▲2三歩△2五歩▲2二歩成△同金▲2五飛△3三桂▲2八飛△2六歩▲同飛△3五銀という華々しい展開になりました。その将棋は2六飛を2八に引いてますので、8八銀のままなのです。本局は▲7七銀の一手が入っていて、その将棋に比べれば先手が得をしています」(長沼七段)

 実戦も、郷田王将は1時間20分の長考で▲1六歩。
 さらに△9四歩▲9六歩。第1図からずっと間合いの計り合い。
 そして△4五銀で3四の歩に紐を付け、ついに▲3四銀を回避。
 これに対し郷田王将は▲3八金!

「▲3八金!」「わかんない」「わかりません」。木村八段と飯塚七段が悲鳴を上げる。…(by中継棋譜解説)
長沼七段も異筋に感じたらしく、この後ずっと△4九角の筋を気にしていた。

 結局、△2四歩と後手から2四へ歩を突きだして、2、3筋の睨み合いは解消。

 しかし、以下▲3六銀△同銀▲同歩△2三銀▲4六角△5二金と第二次陣立て戦に………

 その後も、押し、引き、突き、引っ張り込みなど捻じりあいが続き、ようやく終盤の様相が呈してきたのは夕方になっていた。
 おそらく、第2図の後、郷田王将が角を打った辺り以後は羽生名人がリードしていて、その後、二転三転(微差)して、終盤では羽生勝勢になったと思われる。
 傍目では「ゆったりとした一日目」とか「間合いを詰める」とか簡単に言えるが、当の対局者は水面下、深く深く限界まで潜り、読み続けたのではないだろうか?


 ところで、指し掛け図で「△3三銀は▲2四歩から銀交換して先手ペース」と却下されていたが


 巷(将棋ソフト検討)では、△3三銀が第一候補手だったらしい。
 疑問図は△5四銀と▲6八玉の交換はないが、▲2四歩△同歩▲同銀△同銀▲同飛△2三歩▲2八飛までは一本道。
 初級・中級講座で
「飛車先交換に3つの利」と並んでよく言われるのは、
「攻めの銀と(玉の)守りの銀の交換は、攻撃側の得」

 疑問図からの指し手は、まさにこの兵法に合致し、棋理に明るい者なら即行で排除しそうだ。
 しかし、▲2八飛と引いた局面での後手の指し手は難しいが、例えば△5二金と陣形を整備すると意外に難しいような気がする。


 相掛かり戦の後手が飛車先歩交換を急がない指し方も最近指されるようになってきている。
 「振り飛車には角交換(を狙え)」は死語になりつつある。
 「居玉は避けよ」も藤井システムでは無視している。

 これまでの定説が覆されてきており、この“守備銀攻撃銀交換法則”も絶対とは言えないかもしれない。
 羽生名人に「疑問図の△3三銀はどうなのか?」と訊きたいところだ。

 巷の噂を検証した棋士が疑問図のような△3三銀を指す日は、近いのかもしれない。

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