新戦術の“MB1”
驚くべき新戦術だった。
小学生の頃、「なぜ、センタープレイヤー(ミドルブロッカー)が2人もいるんやろ?アタッカーを増やして、いろんな所からもっとバンバンスパイクを決めた方が点が入るやないやろか」(なぜか関西弁?)
当時はセンターのブロックの重要性を理解していなかったのだ。しかし、それからしばらくして、クイックをビシッと決めるシーンを見て、今度は「あんなに鮮やかに決まるんなら、もっと、クイックを使えばいいのに。いっそ、センターをもっと増やせばいいのに」と、現金な見方。
それはともかく、今回の“MB1”、そんな漫画的発想である。
“MB1”とは?
速攻やブロックを主な仕事にするミドルブロッカー(MB)を従来の2人から1人に減らし、空いたポジションに得点能力の高いウイングスパイカー(WS)を配した新フォーメーション。
木村沙織は次のように述べている
「初めて聞いたときはビックリ。でも、相手から点数を取ることをシンプルに考えれば『こういうフォーメーションになるのか』と感じました」
「いくらトスを速くしても、攻撃のパターンをこれ以上増やすのは難しい。アメリカやブラジルも速いバレーをしているし、同じことをしていてもいつかは相手に読まれてしまいます。日本が世界に勝つためには、いろんな工夫をしなければいけません。選手としてもチームとしても初めての挑戦だけど、たくさんの可能性があるフォーメーションです」
(記事元:『THE PAGE』の「<女子バレーボール>ベールを脱いだ「MB1」 五輪にむけ進化へ」)
正直言うと、最初は「おお!」と感心したが、何戦か観戦しているうち、それほど有効な戦術ではないように思えてきた。
☆長所
・従来とは異なる攻撃パターンを使える。その1例として、ミドルブロッカーのポジションに入った迫田の「スコーピオン」。「スコーピオン」とは、迫田がバックコートまで下がり、そこから助走を取ってセンターの位置でオープントスをスパイクする。簡単に言えば、バックセンターのポジションからバックアタックを撃つような形。ただ、もともと前衛なので、ラインを踏んでも(踏み越えても)よい
・ローテーションして後衛に下がっても、リベロと交代せずバックアタックを打つ攻撃もできる。
・MBポジションに入ったウイングスパイカーが前衛にいる時は、MBより動きがよくレシーブも得意なので、ラリー中のつなぎが良くなる
☆短所
・ミドルブロッカーと比べて身長が低いのでブロック力が落ちる
・身長が高くないので、スタンディングジャンプでの攻撃が不得意。なので、クイック攻撃が減る。また、ブロード攻撃も横移動をしての片足ジャンプなのでやはり不向き
・MBポジションに入ったウイングスパイカーが後衛に下がった時、リベロと交代しない場合がある。この場合、守備力が落ちる。
☆長所、短所を合わせて考えると、
・やはりブロック力の低下が大きい。ブロックは試合の流れを変えたり、チームの勢いを増すので、単に1点ではなく、重みが違う。
・攻撃のバリエーションは減るように思える。“MB1”へ慣れてくると効果は薄くなる
となり、有効とは思えない。
今回の日本チームの戦力
メンバー個々の実力と新戦術“MB1”との相性を考える。
今回の正セッターは中道。
経験も豊富で、トス回しも安定している。レシーブもサーブ力もある。ただ、レシーブ力は長年正セッターとしてチームをけん引していた竹下が凄すぎたので、その分のマイナスはやや大きい。
竹下との比較はともかく、ブロック力が低下する“MB1”を考えた場合、身長が低いので相性が悪い。”MB1”を駆使したいのなら、身長がありブロック力がある宮下遥を起用すべきだろう。宮下はレシーブ力も秀でている。
ワールドグランプリでも活躍したが、ゲームの後半スタミナ切れでトスが短くなる傾向があったが、彼女こそ、これからの「日本チームのセッター」だと思う。今回も全日本メンバーに入っていたはずだが、直前にメンバーから外れてしまった。何かあったのだろうか?
スパイカーは、オポジット(セッター対角、スーパーエース、ライトプレーヤー)を含めると、木村、石井、新鍋。
石井が余力を感じさせるスパイクを放っていた。全力で打たなくても決められるスパイクを打てるのが魅力。時々、弱気になってフェイントやソフトアタックに逃げるのが欠点。ソフトアタックは厳しい審判ならロングコンタクト(ホールディング)を取られそうだ。
石井が良い分、木村への依存度が低くなったのが良かった。木村のバックコートでのレシーブは素晴らしかった。サーブも良い所で決めていた。
新鍋は不調だった。
先発以外のスパイカーでは、長岡がポテンシャルの高さを発揮していた。
本来、先発である江端は故障上がりで無理はさせられなかったようだ。
MBのポジションで奮闘した迫田。ブロックでは何とかワンタッチしてレシーバーを助けようとし、慣れないポジションでの攻撃も、期待に答えていた。ただ、ブロックに跳び続けつつ、動き回らないといけないので大変そうだ。
ミッドブロッカーは、最初の2戦は大竹、その後は岩坂。ブロック力が低下する“MB1”には、ブロック力がある岩坂の方が相性がよさそうだ。移動攻撃(ブロード)やクイック力は大竹の方があるが、ブロックが弱すぎる。
リベロは佐藤。前全日本リベロの佐野は強打には非常に強いが、前後左右に動くレシーブは佐野より良いように思う。
何より、アンダーパスや後衛からのトスアップが上手いのがラリー中、光る。(今回欠場の座安も、佐藤に負けないリベロ)
そんなわけで、“MB1”の戦術的有効性に疑問を感じた。さらに、”MB1”を駆使する場合の、眞鍋監督の選手起用も疑問を感じた。
驚くべき新戦術だった。
小学生の頃、「なぜ、センタープレイヤー(ミドルブロッカー)が2人もいるんやろ?アタッカーを増やして、いろんな所からもっとバンバンスパイクを決めた方が点が入るやないやろか」(なぜか関西弁?)
当時はセンターのブロックの重要性を理解していなかったのだ。しかし、それからしばらくして、クイックをビシッと決めるシーンを見て、今度は「あんなに鮮やかに決まるんなら、もっと、クイックを使えばいいのに。いっそ、センターをもっと増やせばいいのに」と、現金な見方。
それはともかく、今回の“MB1”、そんな漫画的発想である。
“MB1”とは?
速攻やブロックを主な仕事にするミドルブロッカー(MB)を従来の2人から1人に減らし、空いたポジションに得点能力の高いウイングスパイカー(WS)を配した新フォーメーション。
木村沙織は次のように述べている
「初めて聞いたときはビックリ。でも、相手から点数を取ることをシンプルに考えれば『こういうフォーメーションになるのか』と感じました」
「いくらトスを速くしても、攻撃のパターンをこれ以上増やすのは難しい。アメリカやブラジルも速いバレーをしているし、同じことをしていてもいつかは相手に読まれてしまいます。日本が世界に勝つためには、いろんな工夫をしなければいけません。選手としてもチームとしても初めての挑戦だけど、たくさんの可能性があるフォーメーションです」
(記事元:『THE PAGE』の「<女子バレーボール>ベールを脱いだ「MB1」 五輪にむけ進化へ」)
正直言うと、最初は「おお!」と感心したが、何戦か観戦しているうち、それほど有効な戦術ではないように思えてきた。
☆長所
・従来とは異なる攻撃パターンを使える。その1例として、ミドルブロッカーのポジションに入った迫田の「スコーピオン」。「スコーピオン」とは、迫田がバックコートまで下がり、そこから助走を取ってセンターの位置でオープントスをスパイクする。簡単に言えば、バックセンターのポジションからバックアタックを撃つような形。ただ、もともと前衛なので、ラインを踏んでも(踏み越えても)よい
・ローテーションして後衛に下がっても、リベロと交代せずバックアタックを打つ攻撃もできる。
・MBポジションに入ったウイングスパイカーが前衛にいる時は、MBより動きがよくレシーブも得意なので、ラリー中のつなぎが良くなる
☆短所
・ミドルブロッカーと比べて身長が低いのでブロック力が落ちる
・身長が高くないので、スタンディングジャンプでの攻撃が不得意。なので、クイック攻撃が減る。また、ブロード攻撃も横移動をしての片足ジャンプなのでやはり不向き
・MBポジションに入ったウイングスパイカーが後衛に下がった時、リベロと交代しない場合がある。この場合、守備力が落ちる。
☆長所、短所を合わせて考えると、
・やはりブロック力の低下が大きい。ブロックは試合の流れを変えたり、チームの勢いを増すので、単に1点ではなく、重みが違う。
・攻撃のバリエーションは減るように思える。“MB1”へ慣れてくると効果は薄くなる
となり、有効とは思えない。
今回の日本チームの戦力
メンバー個々の実力と新戦術“MB1”との相性を考える。
今回の正セッターは中道。
経験も豊富で、トス回しも安定している。レシーブもサーブ力もある。ただ、レシーブ力は長年正セッターとしてチームをけん引していた竹下が凄すぎたので、その分のマイナスはやや大きい。
竹下との比較はともかく、ブロック力が低下する“MB1”を考えた場合、身長が低いので相性が悪い。”MB1”を駆使したいのなら、身長がありブロック力がある宮下遥を起用すべきだろう。宮下はレシーブ力も秀でている。
ワールドグランプリでも活躍したが、ゲームの後半スタミナ切れでトスが短くなる傾向があったが、彼女こそ、これからの「日本チームのセッター」だと思う。今回も全日本メンバーに入っていたはずだが、直前にメンバーから外れてしまった。何かあったのだろうか?
スパイカーは、オポジット(セッター対角、スーパーエース、ライトプレーヤー)を含めると、木村、石井、新鍋。
石井が余力を感じさせるスパイクを放っていた。全力で打たなくても決められるスパイクを打てるのが魅力。時々、弱気になってフェイントやソフトアタックに逃げるのが欠点。ソフトアタックは厳しい審判ならロングコンタクト(ホールディング)を取られそうだ。
石井が良い分、木村への依存度が低くなったのが良かった。木村のバックコートでのレシーブは素晴らしかった。サーブも良い所で決めていた。
新鍋は不調だった。
先発以外のスパイカーでは、長岡がポテンシャルの高さを発揮していた。
本来、先発である江端は故障上がりで無理はさせられなかったようだ。
MBのポジションで奮闘した迫田。ブロックでは何とかワンタッチしてレシーバーを助けようとし、慣れないポジションでの攻撃も、期待に答えていた。ただ、ブロックに跳び続けつつ、動き回らないといけないので大変そうだ。
ミッドブロッカーは、最初の2戦は大竹、その後は岩坂。ブロック力が低下する“MB1”には、ブロック力がある岩坂の方が相性がよさそうだ。移動攻撃(ブロード)やクイック力は大竹の方があるが、ブロックが弱すぎる。
リベロは佐藤。前全日本リベロの佐野は強打には非常に強いが、前後左右に動くレシーブは佐野より良いように思う。
何より、アンダーパスや後衛からのトスアップが上手いのがラリー中、光る。(今回欠場の座安も、佐藤に負けないリベロ)
そんなわけで、“MB1”の戦術的有効性に疑問を感じた。さらに、”MB1”を駆使する場合の、眞鍋監督の選手起用も疑問を感じた。
さて、MB1ですが、ネーミングのセンスはおいといて、その戦術の発想は私は素晴らしいと思っています。確かにこれは正攻法の戦術ではなく、奇襲、あるいは野村克也監督の言う「弱者の戦法」という面があると思います。つまり、普遍的にどのチームにも通用する王道
の戦術ではなく、日本女子の現状を考えた上で、日本女子の現状に合わせて生み出された戦術だということです。
もちろん英さんもおわかりになっていらっしゃると思いますが、ずっと続いている日本女子の問題点は、強力なミドルブロッカーが存在せず、はっきり言ってコートに入っていてもミドルブロッカーが機能していない状態になっている、その結果、ウイングスパイカーに相当な負担がかかっている、ということです。
世界の強豪チームのMBと比べれば、その差は歴然としていますが、ブロック得点が少ない、というかほとんどないMB、クイック攻撃の得点も少なく、場合によっては相手のブロックがマークしてこないMB、というのが、現状の日本女子のMBの姿です。
それに比べ、日本のウイングスパイカーは木村、江畑、新鍋、迫田、石井、長岡など、世界でも十分に通用する選手がだぶついています。MBを2人使っていても、たいしてブロックやクイックによる得点が期待できないのであれば、WSを一人増やした方が、得点力が増す可能性はかなり高いと言えます。(そして実際にそうなりましたね)一説によると、真鍋監督はMB0をも視野に入れているとか。懸念材料としては、ブロック力の低下が考えられますが、迫田はよく頑張ってワンタッチを取っていましたし、もう一人、本来起用されるはずだった(途中のケガで迫田と交代)長岡も、ブロックはそこそこ跳べると思います。
それより何より、現在のMBである岩坂と大竹の働きが、やはり目に見えて貧弱だと言わざるを得ません。昔の日本女子は全員がクイックに跳べる選手だった時代がありましたが、真鍋監督はそうした発想をも視野に入れているのかもしれません。要は今いる選手の特長を最大限に生かすチーム作りをする、ということです。
もう一点、セッターについてですが、私もリオでは宮下遥(又は狩野舞子)を使って欲しいと思っています。というか、たぶんほとんど誰もがそう思っていますよね。しかし、この間8、9月に行われたワールドグランプリや世界選手権アジア予選では、宮下のプレーはブロックやレシーブなどに高い能力を見せたものの、肝心のトスは不安定さを露呈し、スパイカー陣を困惑させる場面もしばしばありました。今回のMB1お披露目の大会では準備期間も短く、今までにない新しい布陣のため、セッターのトスの安定は絶対条件だったと思います。そのため、中道とその控えに永松が選ばれていたのは当然の選択だったと思われます。
宮下に対する期待は大きいだけに、今は基礎体力の強化や基本となるトスの安定のための練習に打ち込んで欲しいところです。
MB1は、まだまだ始めたばかりでまだまだ進化する可能性を大きく秘めた戦術だと思います。強力なMBが新たに出現すればまた考え直す必要もあると思いますが、現状では今のチームに合った戦術だと思われます。何よりも、リオ、東京五輪で銀、金メダルを目指して行くのであれば、ブラジル、アメリカの2強に対抗する手段としては、これが最上ではないかと思われるのですが、いかがでしょうか。
コメント、ありがとうございます。
エスカルゴさんの冷静な分析と考察を拝見すると、私の考えがぐらついてしまいます。
確かに、記事で展開した私の理論(こう述べるほど大したものではないですね)は一般論で、いささか日本女子の現状を深く考えていない点はあります。
弱いMB陣を考察したうえでの通常とMB1の比較、更に、現状のMB陣の再検証、そして、本文では全く述べませんでしたが、MB1採用における今後の影響も述べたいです。
かなり長くなりそうなので、記事として書きたいのですが、その際、エスカルゴさんのコメントを引用したいのですが、よろしいでしょうか?
多少、エスカルゴさんと対立するような内容になりそうです。もちろん、一方的に排除しようとする意思は全くなく、議論を展開することで、MB1や日本女子バレーへの理解が深まるものになると考えています。
いかがなものでしょう?
私も、今回はMB1を押していますが、懸念材料が全くないわけではありません。バリエーションが増えるイコール動きが複雑になるということ(崩れやすい弱点もある)、各国が対策を立ててきた際に大丈夫かということ(連続失点はやはり課題)、宮下がちゃんとリオに間に合うのかということ、などなどですね。しかし、大黒柱の竹下が引退し、木村、江畑、新鍋らの劣化が予想される中で、前回と同じことをやっていてリオで銅メダルを維持できるかというと、かなり怪しい気がします。
英さんのさらなる分析と議論をお待ちしています。
回答いただき、そして、ご了解くださり、ありがとうございます。
自分で持ちかけておきながら、申し訳ありませんが、記事アップは少しお待ちください。
スポーツ中継が相次いでいるのと、レギュラー記事(ドラマ)3本あるので、少しいっぱいいっぱいです。
週末にはアップできると思います。だいたいの論は頭の中に、出来上がっているのですが、もう少し整理したいのと、出来れば試合データをいくつか検証して(眺めて)みたいです。
あと、
>前回と同じことをやっていてリオで銅メダルを維持できるかというと、かなり怪しい気がします。
前回の銅メダルについては、当時も書いたと思いますが、それに関しても、別記事で述べたいと思っています。