英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

相棒 season13 第5話「最期の告白」

2014-11-13 22:12:41 | ドラマ・映画
「真実を明らかにしても、何も変わらないし、誰も幸せにならない。
 でも、不幸になる人はいるんです」(享)
「どんな事情があれ、我々、警察官は真実から目を背けてはならない。
 僕はそう思いますよ」(右京)

    (本筋とは外れるが、享のセリフの接続詞「でも」は文脈とは合致していない気がする)

 おそらく、多くのレビューでこの会話が記事のトップに挙げられていると思う。
『相棒』シリーズの大きなテーマ
≪右京の正義「犯した罪は適正な方法で適正に裁かれなくてはならない」の暴走?し、相棒が異を唱える≫
という、右京とコンビを組む者の宿命というべき試練の回だった。

今回、右京が問題視した点
①司法取引 ②証拠の捏造 ③冤罪


①司法取引
 右京は司法取引に向けての動きや司法取引の功罪についての一般論を語ってはいたが、司法取引に対する右京の考えは述べていなかった。
 右京にとって問題なのは、司法取引が法制化されていれば正当な捜査であり、法制化されていない現在においては違法捜査であるということ。
 今回の冤罪、それにまつわる司法取引が表ざたになり、念願である司法取引の法制化の妨げになるという観点から、峯秋は右京の動きにストップを掛けようとした
 「法は人々の生命や財産を守るものだ(司法取引も法制化されれば、人々を守れるものなのだぞ)」と主張。
 しかし、「今の法が守られないなら、新しい方を作ったところで同じ運命をたどる(適正に機能しない)」と右京は一蹴。

②証拠の捏造
 証拠の捏造(隠滅)をしてしまっては、警察・検察・裁判のシステムが機能しなくなってしまう。
 もちろん、右京も正当でない捜査は認めない立場、姿勢で、今回でも追及している。
 しかし、最近、右京もハッタリやペテン的手法を取ることが多いので、糾弾する言葉が遠慮がちに聞こえてしまった。

③冤罪
 右京は「やってはいない罪で裁かれていいはずはありません」と峯秋に主張。
 峯秋も「冤罪はあってはならない」と述べたが、もちろん(笑)建て前。刑事部長には“どうでもよい”と本音を漏らす(司法取引の法制化の妨げになるのが困る)。冤罪が発覚したら、“トカゲの尻尾切り”をすれば済むこと(実際、今回もそうなった)
 
今回の件を考察
 岩倉から「第1の事件を白状するから、第2の事件の証拠品のベビー用靴下を削除してくれ」と持ちかけられ、≪事件が解決するのなら≫と応じる。
 変な申し出でその真意を知ろうとせず、≪自ら殺人事件を認めるというのだから、犯人に違いない≫と思い込もうとした。
 変な申し出(取り引き)に疑問を持たなかったのだろうか?それはともかく、岩倉の犯行かどうかを検証すべきであったのは言うまでもないが、おそらく、岩倉の犯行ということには疑念を持ったはず。だからこそ、後日、現場に岩倉の指紋を付けさせたのだ。
 将棋で言えば、これが決定的悪手。自白を信用して送検した“杜撰な捜査”と法制化されていない“司法取引”で済んだのだが(これも困るが)、証拠捏造をしてしまったので、故意の悪質な“不正捜査”になってしまった。

 ちょっと、人情ドラマ的思考になってしまうが、人情派の代表とも言うべき“はぐれ刑事”・安浦刑事なら、「おまえ、なんでそんなことを言うのや?」と、変な取引を持ちかけた岩倉の心の奥を見極めようとしたのではないだろうか?
 右京も使う“非常手段”として、証拠隠滅になってしまうが、証拠品リストからベビー用靴下を外すという選択肢もあったのでないだろうか。
 もちろん、安浦刑事なら「ふたりも殺しておいて、“良い父親”になろうとするのは無視が良すぎやしないか。人生舐めたらあかんぞ」と諭すにちがいない。(私は『はぐれ刑事、純情派』のファンではありません。ちょっと、説教くさかったので)

そして、主題の
「杉下さんは正しいかもしれない。
 正しければ、それでいいんですか?」
について

 杉下は享の問いかけに
「話はそれだけですか?」と無視。さらに、
「まだ、出来ることがあります」と、病院に保管された滝沢の血液を確保し、冤罪の立証に動く。

 一連の特捜係の動きによって
・所轄の事件担当者が退職させられた
・殺人の罪を余計に被ってまで娘の贈り物が血で汚れていた事実を隠そうとしたことが露見した
・その真実を知った娘が深く傷ついた

 その上、真実を明らかにしても
・真犯人の滝沢は既に死亡している
・冤罪が明らかになっても、死刑は免れない

 マイナスに比較して、プラスがほとんどない(大勢に影響がない)。
 プラスの点を上げるとしたら、
・罪を被っていたこと、娘へのプレゼントの真実を隠していたことをを告白できた滝沢の心が晴れたこと
・愚かな父の愛ではあるが、娘がそれを素直に受け止められたこと(これについては後述)

 元上司が苦境に陥り、娘が傷つくことが深刻過ぎて、享は右京の行為が承服し難かった。


 右京は、先述したとおり
「やってはいない罪で裁かれていいはずはありません」と冤罪を正すことが絶対。
 しかし、それだけではない。享の訴えに対して返した言葉
「どんな事情があれ、我々、警察官は真実から目を背けてはならない」
 これが、右京の根底の信念である。


 強盗殺人の真実を見極めようとしなかった担当刑事、不正捜査をした事実から目を背け、
その結果、冤罪を引き起こしてしまった。
 さらに、冤罪を起こしてしまったという事実からも目を背け、それを隠ぺいしようとした。
 警察を辞めなければならないという状況は、その報いで、当然受けるべきである。
 さらに、真実を公にすることで、岩倉の娘が傷ついたというのも、真実から目を背けてしまった警察全体の責任であり、娘の「こんな、話聞きたくなかった。今さらなんなのよ~!」と言う叫びも受け止める責任がある。

「“結果オーライ”でおざなりにやり過ごしてしまい、不正の痛みを正面から受け止めないと、不正な捜査や冤罪はなくならない」

 そういう右京の断固たる信念だと私は解釈する。


 
 さて、今話の脚本は、私が“要注意脚本家”のひとりとして、マークしている金井寛氏である。
 今回は、“右京の正義の暴走”をテーマに、単なる“助手”ではなく、右京の信念に納得できない享の葛藤を描いた点は評価できる(上から目線でごめんなさい)。

 しかし、疑問に感じたことも多かった。
①抱える事件が多いとか、成績が上がらず焦っていたなどの切迫した状況でないのに、岩倉の申し出に乗り、証拠捏造、証拠品リストの操作など不正な捜査をしてしまうのは不自然

②岩倉にしても、強盗殺人を犯した直後に、娘の妊娠とベビー用靴下が結びついて、親心が湧いたこと。さらに、血で汚れたプレゼントであることが明らかになることを恐れるほど、親心があったとは思えないし、殺人の罪を被るというのも天秤が釣り合わない。

③真実を知った娘が、父の愚かな親心を知り、愚かとは思いながらも父に向き合えるようになり、感謝されるというのは強引。右京の行為を無理やり正当化して、“良い話”でまとめてしまった。
 強盗殺人の血塗られた戦利品を、“父親ぶったプレゼント”として渡されたという事実は、どう取り繕っても許せない。
せめて、人を殺めてしまったことを悔いて、自首する決意をして、有り金をはたいたというのなら、まだしもだが。

④この話の、一番のキーポイントは、岩倉の心情である。
 なのに、右京たちが岩倉に会いに行かないのは変。チャーシューのないチャーシュー麺である。


【ストーリー】番組サイトより
 右京(水谷豊)と享(成宮寛貴)が留置場に入れられる。発端は4日前。食事をしていた2人は、無銭飲食でわざと捕まろうとしている男・滝沢(佐藤正宏)と知り合う。体調も思わしくない様子の彼は、どうしても年越しを拘留施設で迎えたいのか、「5年前に人を殺した」と口走る。そのただならぬ様子に引っ掛かりを覚えた右京たちが、当時の事件を調べると、目黒区で起きた連続強盗殺人が浮かび上がってくる。しかし、岩倉(ダンカン)という男が犯人として捕まっており、既に死刑が確定していた。ただ、これまでの経緯から、この件に冤罪の可能性を感じた右京たちは、捜査を担当した中根署に出向く。そこは、享が特命係に移籍する前に刑事をしていた所轄署で、岩倉を取り調べたのは元上司の堀江(山口良一)だった。

その後、右京と享はなぜ拘置されることになったのか?
冤罪の可能性が出てきた連続強盗殺人の真相は…!?
事件はやがて、警察組織を揺るがす一大事へと発展していく!

ゲスト:山口良一 ダンカン 佐藤正宏 佐藤めぐみ

脚本:金井寛
監督:近藤一彦
コメント (4)
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