書評「サピエンス全史」(1)野心的人類史 文科系
例によって、要約付きの書評をしていくが、なんせこの本は題名が示すとおりハードカバー2冊合計500ページを優に超えてびっしりという大部なもの。ほぼ全部読み終わったが、人類史をその通りの順を追って紹介してみても仕方ないので、この本の特徴とか、目立った章の要約とかをやっていく。その第1回目として、この本の概要と特徴。
オクスフォードで博士号を取った40歳のイスラエル人俊秀の歴史学者が書いた世界的ベストセラー本だが、何よりも先ずこの本の野心的表題に相応しい猛烈な博識と、鋭い分析力を感じさせられた。中世史、軍事史が専門とのことだが、ネット検索にも秀でていて、古今東西の歴史書を深く読みあさってきた人と感じた。ジャレド・ダイアモンドが推薦文を書いているが、このピューリッツァー賞学者のベストセラー「銃、病原菌、鉄」や「文明崩壊」(当ブログにこの書の書評、部分要約がある。06年7月8、19、21日などに)にも匹敵する守備範囲の広い著作だとも感じさせられた。両者ともが、一般読者向けの学術書をものにして、その専門が非常な広範囲わたっている人類学者の風貌というものを成功裏に示すことができていると思う。
まず全体が4部構成で、「認知革命」、「農業革命」、「人類の統一」、「科学革命」。このそれぞれが、4、4、5、7章と全20章の著作になっている。
「認知革命」では、ノーム・チョムスキーが現生人類の言語世界から発見した世界人類共通文法がその土台として踏まえられているのは自明だろう。そこに、多くのホモ族の中で現生人類だけが生き残り、現世界の支配者になってきた基礎を見る著作なのである。
「農業革命」は言わずと知れた、奴隷制と世界4大文明との誕生への最強の土台になっていくものである。
第3部「人類の統一」が、正にこの作者の真骨頂。ある帝国が先ず貨幣、次いでイデオロギー、宗教を「その全体を繋げていく」基礎としてなり立ってきたと、読者を説得していくのである。貨幣の下りは実にユニークで、中村桂子JT生命誌研究館館長がここを褒めていた。ただし、ここで使われている「虚構」という概念だが、はっきり言って誤訳だと思う。この書の中でこれほどの大事な概念をこう訳した訳者の見識が僕には疑わしい。哲学学徒の端くれである僕には、そうとしか読めなかった。
第4部は、「新大陸発見」という500年前程からを扱っているのだが、ここで語られている思考の構造はこういうものである。近代をリードした科学研究は自立して深化したものではなく、帝国の政治的力と資源・経済とに支えられてこそ発展してきたものだ、と。
さて、これら4部を概観してこんな表現を当てた部分が、この著作の最も短い概要、特徴なのである。
『さらに時をさかのぼって、認知革命以降の七万年ほどの激動の時代に、世界はより暮らしやすい場所になったのだろうか?・・・・もしそうでなければ、農耕や都市、書記、貨幣制度、帝国、科学、産業などの発達には、いったいどのような意味があったのだろう?』(下巻の214ページ)
日本近代史の偏った断片しか知らずに世界、日本の未来を語れるとするかのごとき日本右翼の方々の必読の書だと強調したい。その事は例えば、20世紀後半からの人類は特に思い知るべきと語っている、こんな言葉に示されている。
『ほとんどの人は、自分がいかに平和な時代に生きているかを実感していない』
『現代は史上初めて、平和を愛するエリート層が世界を治める時代だ。政治家も、実業家も、知識人も、芸術家も、戦争は悪であり、回避できると心底信じている』
と語るこの書の現代部分をこそ、次回には要約してみたい。こんな自明な知識でさえ、人類数百年を見なければ分からないということなのである。げに、正しい政治論には人類史知識が不可欠かと、そういうことだろう。第4部「科学革命」全7章のなかの第18章「国家と市場経済がもたらした世界平和」という部分である。
(続く)
例によって、要約付きの書評をしていくが、なんせこの本は題名が示すとおりハードカバー2冊合計500ページを優に超えてびっしりという大部なもの。ほぼ全部読み終わったが、人類史をその通りの順を追って紹介してみても仕方ないので、この本の特徴とか、目立った章の要約とかをやっていく。その第1回目として、この本の概要と特徴。
オクスフォードで博士号を取った40歳のイスラエル人俊秀の歴史学者が書いた世界的ベストセラー本だが、何よりも先ずこの本の野心的表題に相応しい猛烈な博識と、鋭い分析力を感じさせられた。中世史、軍事史が専門とのことだが、ネット検索にも秀でていて、古今東西の歴史書を深く読みあさってきた人と感じた。ジャレド・ダイアモンドが推薦文を書いているが、このピューリッツァー賞学者のベストセラー「銃、病原菌、鉄」や「文明崩壊」(当ブログにこの書の書評、部分要約がある。06年7月8、19、21日などに)にも匹敵する守備範囲の広い著作だとも感じさせられた。両者ともが、一般読者向けの学術書をものにして、その専門が非常な広範囲わたっている人類学者の風貌というものを成功裏に示すことができていると思う。
まず全体が4部構成で、「認知革命」、「農業革命」、「人類の統一」、「科学革命」。このそれぞれが、4、4、5、7章と全20章の著作になっている。
「認知革命」では、ノーム・チョムスキーが現生人類の言語世界から発見した世界人類共通文法がその土台として踏まえられているのは自明だろう。そこに、多くのホモ族の中で現生人類だけが生き残り、現世界の支配者になってきた基礎を見る著作なのである。
「農業革命」は言わずと知れた、奴隷制と世界4大文明との誕生への最強の土台になっていくものである。
第3部「人類の統一」が、正にこの作者の真骨頂。ある帝国が先ず貨幣、次いでイデオロギー、宗教を「その全体を繋げていく」基礎としてなり立ってきたと、読者を説得していくのである。貨幣の下りは実にユニークで、中村桂子JT生命誌研究館館長がここを褒めていた。ただし、ここで使われている「虚構」という概念だが、はっきり言って誤訳だと思う。この書の中でこれほどの大事な概念をこう訳した訳者の見識が僕には疑わしい。哲学学徒の端くれである僕には、そうとしか読めなかった。
第4部は、「新大陸発見」という500年前程からを扱っているのだが、ここで語られている思考の構造はこういうものである。近代をリードした科学研究は自立して深化したものではなく、帝国の政治的力と資源・経済とに支えられてこそ発展してきたものだ、と。
さて、これら4部を概観してこんな表現を当てた部分が、この著作の最も短い概要、特徴なのである。
『さらに時をさかのぼって、認知革命以降の七万年ほどの激動の時代に、世界はより暮らしやすい場所になったのだろうか?・・・・もしそうでなければ、農耕や都市、書記、貨幣制度、帝国、科学、産業などの発達には、いったいどのような意味があったのだろう?』(下巻の214ページ)
日本近代史の偏った断片しか知らずに世界、日本の未来を語れるとするかのごとき日本右翼の方々の必読の書だと強調したい。その事は例えば、20世紀後半からの人類は特に思い知るべきと語っている、こんな言葉に示されている。
『ほとんどの人は、自分がいかに平和な時代に生きているかを実感していない』
『現代は史上初めて、平和を愛するエリート層が世界を治める時代だ。政治家も、実業家も、知識人も、芸術家も、戦争は悪であり、回避できると心底信じている』
と語るこの書の現代部分をこそ、次回には要約してみたい。こんな自明な知識でさえ、人類数百年を見なければ分からないということなのである。げに、正しい政治論には人類史知識が不可欠かと、そういうことだろう。第4部「科学革命」全7章のなかの第18章「国家と市場経済がもたらした世界平和」という部分である。
(続く)
トランプ(シリアに巡航ミサイルを撃ち込む)
プーチン(クリミアを武力併合・ウクライナに軍事介入中)
オランド(中央アフリカに軍事介入)
金正恩(核開発中)
アサド(自国民に無差別空爆)
ネタニヤフ(シリアに軍事介入)
エルドアン(トルコ大統領・独裁を強化し、シリアに軍事介入中)
マドゥロ(ベネズエラ大統領・国家崩壊中)
ロウハーニー(イラン大統領・穏健派だが、シリアとイエメンに軍事介入中)
サウジアラビア(サルマーン国王・イエメンに軍事介入中
ヒトラーに比べたら、今の政治家は「平和を愛するエリート層」かもしれませんね
それに何の意味があるのか私には分かりませんが
それに金王朝は誕生から今まで反体制とされた人たちを強制収容所に送り込んだり、失政により何百万という自国民を殺害していますから、人類歴史上から見てもかなり酷いと思いますよ
それもしても随分と感情的な反論ですね
自分の気に入らない現実や文章には感情的になって相手を罵倒する
100年前の人間も今の人間も、変わっていない
恒久的な平和な時代はまだまだ遠いと実感しますね
ここに書いた10人よりも遙かに酷い人間たちがこの100倍居たかも知れない1900年頃を貴方知っているのですか? 加えて、この10例には戦争に至ってない例、集団的自衛権発動とか内乱鎮圧までも含まれてある。たほう、1900年なんぞと言えば、世界中が戦争だらけで、死者など今の何倍あったか。 この著者は、そういうことも調べた上を語っているのですよ。なんせ歴史学者ですから。歴史学者にして、世界のベストセラー著者相手にケンカを売っているのだ。こんな乏しい知識でと、上にもこう書いてあるのに。まるでドンキホーテですな!
いやはや、驚いた。
そういう次第、証拠を明日抜粋してお目にかけると上で僕は言ってるでしょ。貴方が上げた僕の著者文章のすぐ後のエントリー末尾でこんなことさえ僕は予告しているのだから。貴方のこのコメント、一体何なんだろう。他人事ながら、僕は恥ずかしいよ。
『と語るこの書の現代部分をこそ、次回には要約してみたい。こんな自明な知識でさえ、人類数百年を見なければ分からないということなのである。げに、正しい政治論には人類史知識が不可欠かと、そういうことだろう』
この100年でどれだけ平和になったかを正しく捉えなければ、未来100年は見えないでしょ? 違いますか?
お返事を書き直した拙稿が貴方の次稿と後先になってしまった。
この100年で核兵器が誕生し、核兵器は削減されるどころか拡散されている
「平和を愛するエリート層が政治を行った結果」です
確かにこれで核武装国同士が大規模戦争をする確率は低下し、昔に比べたら「平和」となったとも言えます
核保有国同士がお互いに本気で戦ってしまっては、自国が焦土と化しますから
インドとパキスタンは過去何度も大規模な戦争をする犬猿の仲ですが、核保有国同士となった現在は小競り合いに終始しています
それを平和と呼べるかは議論があるでしょうが