山上俊夫・日本と世界あちこち

大阪・日本・世界をきままに横断、食べもの・教育・文化・政治・歴史をふらふら渡りあるく・・・

奈良教育大付属小学校への教育弾圧糾弾

2024年03月04日 10時57分21秒 | Weblog
 12月だったか、関西の夕方のテレビで、奈良教育大学付属小学校で文科省の学習指導要領から逸脱した教育がおこなわれていたとして、調査がおこなわれている旨の報道があった。1月17日の奈良教育大学長のおわびの文章では、不適切事項というのは、「学習指導要領に示されている内容の実施不足(授業時数・履修年次・評価の実施不足等)、教科書の未使用」だとされている。
 テレビでは筆で行う習字が筆ペンでやられていたということもいっていた。今の時代、筆ペンで行うこともありではないか、習字が時数不足だと指弾された。3月4日の「赤旗」にこの件の特集記事が載り、全体がわかるようになった。これによると、「履修年次」の違反とされるのが、ローマ字を学習指導要領で指定された3年に加え4年でも扱ったことだ。子音と母音という抽象的概念が理解できる学年で扱うことがふさわしいという理由で行っていた。抽象的概念は4年からというのが教育学の常識として理解されている。4年でも扱うことでローマ字学習の定着を図るというのは納得できる。教育大学の付属学校は本来、教育内容、教育方法について研究、実験的授業を行い、教育の可能性を開くことを任務としている。この事例は、この任務を正しく実践している。教育大学の付属学校が文科省の指導要領をなぞることに忠実だったら、こんなつまらないことはない。それでは教育の未来はない。単なる官僚統制の模範にすぎない。
 わたしは定時制に転勤した時に、大阪教育大学付属池田高校で非常勤講師をしたことがあったが、付属池田では1970年代末、社会科の実験的な科目として「現代社会」をやっていた。現代史・政治経済を総合的に扱い現代の課題に目をむけることをねらった。これはのちに学習指導要領にも取り込まれる「現代社会」の元になったものだ。このように、教育大学付属学校は、学習指導要領に縛られることなく、それをのりこえる教育の地平を開くことが求められている学校なのだ。文科省の指示に忠実であることを誇るようでは付属学校は死んだも同然だ。
 テレビでもいっていたが、教科書を使わないことも指弾された。実態は使わないというより、教科書を乗りこえるということだ。わたしも経験があるが、正規採用される前に初めて非常勤で授業をしたとき、学力不足のためそれこそ教科書をなめるようにして授業した。今ふり返っても冷や汗ものだ。「世界史」の非常勤を2年やって、「政治経済」で正規採用された。赴任した学校では「世界史」3単位(週3時間)6クラス受け持った。幸いにも世界史だけだったので比較的勉強の時間があった。教科書をなぞるところから飛び立つことを誓った。6月、教育実習生が来たとき、ローマ史でスパルタクスの蜂起を1時間使ってやった。奴隷制国家ローマの本質がわかる。土井正興さんの本を土台に授業をつくった。生徒が食いついてきた。実習生も見に来たが世界史の面白さを感じたと反応があった。しかし教科書から出て深く掘り下げる授業はいつもいつもできるわけではない。相当な準備時間がかかる。でも、なぞる授業から飛躍するところに教員の喜びがある。奈良教育大付属で教科書を使わないと非難されたが、なぞるだけでは深まりは望めない。教科書でなく独自のプリントで授業したと非難されたが、つぎの段階に飛躍するための研究をどうして
妨害するのか。
 「赤旗」によると、同校では秋に公開研究会を行い、全国から多くの教員、研究者が訪れるという。その教育実践は『みんなのねがいでつくる学校」という本にまとめられている。「不適切」だとされた事例は、いずれも教員集団が英知を集めてつくりあげた教育実践だった。
 ことは昨年5月、奈良県教育委員会から同校において「教育課程の実施等に関し法令違反を含む不適切な事案がある」と指摘があり、大学が調査委員会つくった。24年1月17日、学長名で「不適切事案のお詫び及び報告書について」が、2月29日、同校の正規教員全員を他校に「出向」させるという処分が発表された。全教員を「出向」処分にするという前代未聞の教育への弾圧事件だ。
 ここに至るまでに、学長・副学長らは、文科省に出頭し、最終的に処分ににいたる打ち合わせをすすめていた。教育研究を進めるのが仕事の教育大学学長が、自らの配下の教員がすすめてきた教育研究と実践に死をいいわたす恥ずべき行いをした。国立大学への国家統制がここまで来ていることに暗澹たる思いがする。奈良県教育委員会が同校を教育的には理由にならない理由でやり玉にあげた、その背景、おそらくあるにちがいない政治的(右派宗教を含む)背景も追及しなければならない。
 人権としての性教育を開拓していた都立の七生養護学校への大弾圧事件のことが連想される。同じ性質の教育弾圧だ。



コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« スキーツアー無事終了 | トップ | 大阪でも鳥が来ない春 »

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事