(2022・2・7)、軍事的緊張が続くウクライナ問題をめぐって、フランスのマクロン大統領とロシアのプーチン大統領がロシアで5時間も会談した。普通は首脳会談といえば、事務方が十分論点を詰め調整をしたうえで、最後にセレモニー的に短時間やるのが通例だ。ところがどうだ。首脳が5時間もサシでやりあう。心意気が感じられる。だが写真を見ると長いテーブルをはさんで4メートルの距離をおいて対面している。テーブルの使い方が逆だ。こんな変な使い方は見たことない。この会談には5時間からは会談への意欲を、4メートルからは両者の警戒心を感じる。
ロシアのウクライナ侵攻が迫っているという情勢を平和的に打開するために、フランスとドイツが対立するロシア・アメリカの仲介の役を買って出て、ロシア、ウクライナ、アメリカ首脳との会談を1週間ほどの間につめこんでいる。
ロシアの要求は、①ウクライナ、ジョージアをNATOに加盟させないを中心に、②核兵器を自国領土以外に配備しない、③1997年以降東欧に配備された部隊、兵器を撤去、④ロシア・NATOの境界近くの軍事演習停止、⑤ロシアの隣国への攻撃システム配備やロシア国境付近への兵器配備の停止だ。(「朝日新聞」まとめ)
私から見ればこれらの要求は正しいと思う。アメリカがNATOという軍事同盟をどんどん拡大してロシアへの軍事包囲を強めているのは事実だ。旧東欧旧ソ連から独立した国がロシアへの反発から国家主権を主張するのは当然だが、NATO側が旧ソ連の流れを引くロシアを軍事的に包囲すべくNATOの勢力範囲を拡大するのは緊張を高めるもので、賛成できない。国連憲章の考えは軍事同盟を広げて他国を威圧・威嚇することを禁止し、全加盟国が参加する集団安全保障を確立することだ。ソ連が崩壊し、ソ連中心の軍事同盟ワルシャワ条約機構が1991年消滅して以降、アメリカ独り勝ちの軍事情勢の下、なおさらNATOの拡大という路線はとるべきではない。軍事同盟は日本の現実でもわかるように、盟主の軍隊を駐留させる。NATOではベルギー、オランダ、ドイツ、イタリア、トルコにアメリカの核が配備されているとみられる。軍事同盟とはいえ、他国に核を配備して別の国を威嚇するのは国連憲章の精神に反し容認できない。ロシアは、1997年時点でNATOに加盟していなかった国(ブルガリア、ルーマニア)からの外国軍の撤退を要求しているが、両国は反発している。主権の問題だから反発は理解できるが、配備をどんどん拡大するのは賛同できない。NATO軍のロシア近辺での軍事演習停止を求めるのももっともだ。軍事演習というのは実際の戦争を想定した練習だ。国連憲章的にも要求は正しい。北朝鮮近辺で米韓合同軍事演習が1年のうち何か月にもわたって繰り返され、金正恩殺害を含む演習をしていたことは明らかな国連憲章違反だ。国の存立を脅かす威嚇だ。拉致が許されないのと同様、これも許されない。ロシア近辺への威嚇も許されない。ロシア近辺でのNATOの軍事演習が明白な威嚇であって許されないのだから、ロシアが昨年来ウクライナ国境線に大部隊を動員して軍事演習を繰り返してウクライナを威嚇しているのは容認できるはずがない。ロシアは自分が正しいとして要求していることを、現に今同じことをより大規模に展開している。その矛盾にも気づかないのだろうか、面の皮の厚さは尋常ではない。ロシア近国への攻撃システム配備や国境付近への兵器配備の停止要求はもっともだ。この要求をするのだからウクライナへもロシアは同様の態度をとるべきだ。
ロシア・プーチン政権がアメリカと並ぶ世界の2大帝国主義として21世紀の緊張の震源地となっている。ロシア系住民が多いなど屁理屈をつけてクリミア半島を侵略併合したのは2014年だ。言い分に部分的に正しいところがあっても、プーチンは平気で侵略併合をして恬として恥じない。
だが、プーチンに新たなウクライナ侵攻をさせてはならない。和平への道を探らなければならない。フランス、ドイツの真摯な努力は称賛に値する。ロシアはNATOへの要求を5つにまとめているのだから、これを俎上に載せて協議をすることが一番だ。NATO加盟と加盟後の軍の配備の問題は、当事国の主権の問題でもあり、いまどうこうすることはできない。とすれば、とりあえず④⑤が検討の対象になるだろう。ロシア軍もNATO軍もロシア・ウクライナ国境線での軍事演習を停止すること、ついで国境線から撤退することを協議することだ。ロシアがNATOに対して要求しているのだから、同じ論理でロシアもこれを受け入れるべきだし、そうしないと最低限の道理もたたない。実際のフランスの調停ではこの線までは行ってないのだろうが、可能性はある。北朝鮮問題で数か月に及ぶ米韓軍事演習が停止されたことが、朝鮮戦争終結、北朝鮮の核ミサイル問題解決の1歩か2歩手前まで行ったことが想起される。プーチンの侵略性は相当だが、アメリカヨーロッパを相手に孤立感も相当なものだろう。仏独の努力に期待するところ大だ。
ところで、プーチンといえば、ファーストネームはウラジミール。ウラジミール、シンゾウと呼び合っていた安倍前首相は友達なのだから、ウラジミール冷静になってと話しかけてもいいのではないだろうか。でも千島問題では29回も親しく会談したというのに、完全にもて遊ばれてしまった。
ウクライナはヨーロッパの問題だから日本が出る場面ではないかもしれないが、問題はアメリカ追随でない独自の外交姿勢を持っているかどうかだ。イラク戦争の時、国連の査察委員会がイラクの大量破壊兵器所持がほぼないことが証明される段階で国連を抑え込んでアメリカは侵略戦争に及んだ。そのとき日本は国連の活動をろくに検証することなく、アメリカに追随し侵略を称賛した。当時、査察委員会の活動は世界に報道され、査察の3分の2は終わった、あと3分の1査察すれば、大量衣破壊兵器はないということが証明されるというところまで行った。ところがその道を閉ざした。仏独は即時の姿勢をとったが、日本は自主的判断力を放棄して侵略の共犯者となった。私たちが持っているレベルのイラク情報を小泉首相らは与えられていなかった。裸の王様状態で間違った判断をしてもアメリカ様様であれば怖くないとばかりに態度だけはおおきかった。アメリカに対しては内弁慶の日本政府は、こんどのオミクロン水際対策でも米軍には大甘、検査スルー。こんな日本政府が国際問題で世界で堂々とものをいう国と渡り合えるはずもない。基準ははっきりしている。国連憲章だ。