
中国の大手食肉加工業者・上海福喜食品の話題が沸騰しています。当然予想されたことですし、国内で表彰されている大手でさえそうなのですから、他企業もおして知るべしといえます。日本でも、2000年の集団食中毒事件と2002年の牛肉偽装事件を起こした雪印グループ(雪印食品と雪印乳業の市乳部門が雪印メグミルクとして復活)があり、偉そうにいえることではありませんが...。
背景には、激しいコスト競争が招いた誤ったコストダウンがあったのでした。
家電業界や半導体が激しいコスト競争で、日本企業は敗退し韓国、台湾、中国の企業が台頭していますが、日本企業を撤退に追い込んだ代表格のサムスンも、スマホ以外のこの関係では日本企業同様に利益が出なくなっているのだそうですね。
そして、そのサムスンを追い上げている中国企業でさえ、やがては生産拠点を中国以外の国に移転せざるを得なくなると唱えるのが、大前研一氏
歴史は繰り返すといいますが、米国の後姿を追いかけ追い抜いた日本企業が、韓国企業に追い抜かれ、その韓国企業を追い抜こうとしている中国企業も安泰ではないと言うのです。
スマートフォンで絶好調だった韓国サムスン電子の業績が振るわない。その一方で、急成長を続け、サムスン電子を脅かす存在になってきた中国家電大手も曲がり角を迎えているようだ。
スマホの低価格化などで9年ぶりの減収減益
サムスン電子が7月8日に発表した2014年4~6月期の連結決算は、営業利益が7兆2000億ウォン(約7200億円)と前年同月比24%減少した。売り上げも減少し、9年ぶりの減収減益となった。
主力のスマホで先端部品の調達が滞り、競争力が低下したことや、需要が中低価格機にシフトする市場構造の変化などが影響したと見られる。
サムスン電子は李健煕(イ・ゴンヒ)会長によって大きく成長してきた企業だ。しかし5月10日に病に倒れて以来、李会長は完全には回復できていない。
そんな中、サムスン電子の業績は悪化している。
<中略>
“快進撃”も一皮むけばかなり危うい事業構造
<中略>現在のサムスン電子は、利益の大半がIT・モバイル機器、すなわちスマホによって占められている。サムスン電子といえども、家電製品ではほとんど利益を出せていない。
IT・モバイル機器に次いで稼いでいる半導体は、外販もしているが自社製スマホの部品としても使われているものがあり、この分野でもスマホ依存が強まっている。
表面上は絶好調に見えたサムスン電子だが、実態はスマホに頼り切った事業構造だった。本業である家電製品では稼ぎを生み出せない。日本の家電メーカーも低迷していたが、実はサムスン電子もまた家電とディスプレイでは利益を出せていない。スマホを除けば日本勢とあまり変わらない収益構造になっていたわけである。
その点、日本勢はPCやスマホでは敗退したが、住宅関連や自動車部品などで手堅く稼げる状態になっている。サムスン電子はそうした事業構築ができていないので“ポスト・スマホ”の目玉を見つける作業は「これから」ということになるだろう。
年間利益を2兆円以上出していた、という“快進撃”も一皮むけばかなり危ういものだったと言える。
「アラブの春」に類似した「サムスンの春」の可能性も
今、世界的にスマホの需要は中低価格機にシフトしており、100ドルのスマホが中心になってきた。「100ドル・スマホ」時代に、サムスン電子がコスト競争力を失うのは必然と言える。現在、「100ドル・スマホ」を牽引しているのは、台湾のメディアテックに設計と半導体の製造までを委託し、中国で組み立てている低コストメーカーだ。
<中略>
独裁者が去った「アラブの春」でその後の再建がうまくいっていない状況と類似した「サムスンの春」、となる可能性はある。李会長による“独裁体制”が崩壊したとき、サムスン電子は群雄割拠になってしまうかもしれない。
<中略>
また、サムスン電子は時価総額ベースで韓国の国内総生産(GDP)の20%に匹敵する大きさなだけに、その混乱は韓国経済にも大きな影響を及ぼすことになる。
<中略>
人件費の高騰などで中国の国内市場に陰り
一方、韓国メーカーを脅かす存在となってきた中国メーカーも、曲がり角を迎えているようだ。
<中略>
中国国内の市場の陰りが直接影響しているものと解釈すべきだろう。
中国で人件費が高騰したのは、労働者の共感を得ようと焦っている共産党が強制的に賃上げを各社に要請しているからだ。生産性の向上や労働者の質の評価で賃金を決めていく、という資本主義社会では当たり前のプロセスをここ5年くらい認めていない。
一方的に「最低でも15%くらい上げろ!」と市当局が通達してくる。多くの企業はそうした共産党のやり方に辟易としているが、撤退コストやレイオフなどの費用も高騰しており、企業は前にも後ろにも進めないで困惑している。中国政府は「雇用が競争の結果もたらされる」という基本を理解していないので、民衆の人気取り政策をこのまま続けると思われる。
中国企業もやがて工場を海外へ移転せざるを得ない
そうなれば、外資だけではなく中国企業も海外に工場を移さざるを得なくなるだろう。今のところ相対的に賃金が安い内陸部に移ったりしているが、やがて日本企業のように東南アジア、バングラデシュなどに移転せざるを得なくなるだろう。
<中略>
工場撤退で雇用が減れば、当然、消費も低迷する。家電製品が売れなくなり、さらに国内生産が停滞するという悪循環に中国は今入りつつある。
日本でも、国内で家電製品が売れなくなるということを経験したが、そのときの日本メーカーは海外へ進出することで乗り切ってきた。しかし、中国はTCL集団が世界最大のテレビメーカー、ハイアールが世界最大の白物家電メーカーとされているが、売り上げの大半は中国国内の市場でしかない。
中国メーカーの動向にも目を向けるべき
中国の国内市場にブレーキがかかった今、中国メーカーは海外進出の必要に迫られているが、海外での経験が足りないので変化に対応するにはまだ時間がかかりそうだ。
日本メーカーが貿易摩擦や円高で米国での生産を始めて軌道に乗るまでには10年間はかかっている。途中でうまくいかないで撤退したケースも数多い。韓国メーカーはウォン高と言われてもなかなか米国生産ができないで、今のところ中国に逃避している。欧米での生産展開は自動車でも家電でも事ほど左様に難しいのだ。
中国では不動産バブルの崩壊が懸念されているけれども、実需の低迷と中国メーカーの行方(たとえば日本市場にダンピングするなど)にも目を向けるべきだろう。
サムスンは、産業の国際競争の構造変化をうまく乗り切り成長出来てきたのですが、こうした変化をカリスマ経営者によってもたらしたことが、そのカリスマ経営者の交代を迎えたという、特別な課題も抱えています。
それを、「アラブの春」に例え、「サムスンの春」と表現されているところは面白いですね。
独裁者のいなくなった後には春が来ると思っていたのに、混乱が増したアラブ。カリスマ経営者が居なくなるサムスンには、後継者によって春がもたらされるのか、得意のスピード経営に破綻をきたすのかは、今後の推移を世界が注目しているところですね。
日本企業を追い越したサムスンが中国企業に追いつかれようとしていることは、経営者問題にかかわらず、業界の宿命でもあり、サムスンが成長出来た、「組み立て業」の宿命ですね。
家電、半導体の次をスマホの急成長にうまく乗り企業の成長をつづけたサムスンですが、いつか来るとは解っていたスマホの陰りの起死回生の対策に追われる今日となっているのですね。
ところが、「組み立て業」は部品を仕入れて来て、部品を組み立てて出荷するのですから、その組み立てるところのコストが勝負となります。組立工程の技術や、「ベルトコンベア」から「セル生産」へなどと言った工程基本革命もありますが、それは直ぐに真似されてしまうことで、人件費、工場用地、加工費(電気、熱源)の競争となり、なかでも人件費が勝負を決めることになりますね。
その宿命を活かして成長を続けてきたのが、中国企業。(サムスンも国民の犠牲の上に成り立ってきた)その世界の工場を支えた人件費が今高騰してきて、優位性が損なわれ始めてきた。それに追いうちをかける、中国政府の人件費への規制(どこかの国の〇〇ミクスとやらも、策がないのか、評論家が突く急所なので対策のパフォーマンスなのかわかりませんが、政府トップがしきりに要請し干渉しています。)。
企業の活力で生じる人件費を、政治で強制すれば、企業が困窮することは、その企業が利益を隠して留保していない限り、明らかですね。(どこかの国では、将来不安に備えての内部留保が大きすぎると言われているのですが)
「組み立て業」のコストを左右する人件費が高騰すれば、外国企業はもとより中国企業でさえも中国以外の国へ工場移転せざるを得なくなる。
工場が海外へ脱出すれば、国内の雇用が減り、内需が減衰する。内需が減衰すれば、デフレスパイルが始まり、経済成長が衰退する。
中国経済では、バブル崩壊の主因として不動産が注目されますが、企業投資の影響による、こうした内需の減衰も併せて考慮することが必要ですね。
世界の工場としての魅力はなくても、13億の人口の内需に期待して投資を続けるといいますが、その内需にも陰りが見えてきたのですね。
中国政府は、財政出動を前倒しにして成長率の維持を計っていますが、今後を注意深く観ていく必要がありますね。
# 冒頭の画像は、李健熙サムスン会長(中央)

この花の名前は、メランポジウム・ミリオンゴールド
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