遊爺雑記帳

ブログを始めてはや○年。三日坊主にしては長続きしています。平和で美しい日本が滅びることがないことを願ってやみません。

日本のエネルギー安全保障

2007-03-11 15:49:53 | EEZ 全般
 「石油はコモディティー(市場商品)だ。必用ならばニューヨーク市場で買ってくればよい」昨年の秋の外務省首脳の発言だそうです。
 石油は、お金さえ出せばマーケットから買えるコモディティーなのか。産油国との関係次第で供給量が左右される戦略資源なのか...。日本のエネルギー戦略が、二つの見方の間を大きく揺れ動いたのだそうです。繰り返しますが、昨年秋の事なのだそうです。
 読売新聞で、3/7から始まった「資源争奪 第2部 問われる戦略」という連載に書かれている話です。
 政府の長期展望の欠如や、国際社会で優先されるべき戦略の後追いでの国益の損失を、思い知らされる記事です。
 
 原油価格の高騰によって世界的な資源争奪戦が起き、産油国が自国資源を囲い込む「資源ナショナリズム」も高まっている。原油の99.6%を輸入に頼る日本はエネルギーの安定供給を確保するために何をすべきか。
 日本が採用すべき戦略を考える。

 「石油はコモディティー(市場商品)だ。必用ならばニューヨーク市場で買って来ればよい」
 昨年秋、国際社会のイラン制裁論議が高まり、イランからの原油輸入の途絶が懸念された。この時、外務省首脳が楽観的意見を述べると、経済産業省・資源エネルギー庁の幹部が急いで説明に走った。
 「ニューヨーク商業取引所は原油の価格を決めているだけです。現物の石油は売っていません」


 1970年代の石油危機時代には、安定供給の確保が至上命令で、原油輸入に占める自主開発原油の比率を30%に増やす目標が掲げられていました。そして、その中心的役割は、石油公団が担っていました。
 ところが、'90年代に原油価格が下がると、日本政府は「石油はもはや市場商品になった」と、石油製品の販売、輸入を市場メカニズムに委ねる自由化に乗り出したのでした。と同時に、石油公団の巨額赤字問題が表面化したのでした。

 2000年、石油審議会の開発部会小委員会の中間報告で、資源開発から政府が手を引き、民間主導で行う方針を打ち出し、エネ庁でも市場原理派が優勢になったのだそうです。
 原油の自主開発目標は撤廃され、石油公団の解体も決まりました。

 ところが、中国やインドなどの新興国の需要増で、原油価格は2003年ごろから急騰し始め、同時に、産油国が自国の資源を国家管理下におく資源ナショナリズムが高まったのです。
 
 2000年、日本のアラビア石油が持っていたサウジアラビア・カフジ油田の権益が失効したのは、サウジ側から提案された2,400億円の鉄道の建設・贈与を日本政府が拒否したためだった。日本最大の自主開発油田だったカフジ油田には40~50億バレルの原油が残っていた。時価で計算すれば、30兆円前後になる。

 「ここ数年、中国や韓国がアフリカで同様の鉄道建設を見返りにして、油田の権益を取得している。日本政府はわずかな資金協力を渋るべきではなかった」
 当時、アラビア石油の社員として現地にいた石油工業連盟の庄司太郎・企画調査部長が悔しがる。
 日本エネルギー経済研究所の内藤正久理事長は「石油が再び戦略物資になったとき、フランス、イタリアなど欧州の国々が潮流の変化に素早く対応し、国家の関与を強めたのに、日本は遅れてしまった」と指摘する。

 現在、日本の自主開発原油の比率は15%にすぎない。
 日本の石油開発会社は欧米の国際石油資本の10分の 1程度の規模しかなく、民間主導の資源確保には限界がある。
 エネルギーの確保は国の安全保障に直結する。政府の役割をどう位置づけるか、長期的な視点に立った国家戦略の確立が求められている。

 昨年 8月、小泉前首相がカザフスタンを訪問しました。資源の獲得を主目的に日本の首相が外国を訪問したのは、始めてで、「歴史的な資源外交」だったのだそうです。
 しかし、日本では歴史的な出来事も、中国では胡錦濤国家主席を先頭に首脳が世界中を飛び回り着々と成果を上げていることです。
 トップによる資源外交は欧州の国々も積極的に行っています。

 遅まきながらでも着手した晩年の小泉政権でしたが、その火を燃え上がらせなくてはなりません。
 資源外交は国のトップ級の交渉と同時に、技術供与が切り札となります。小泉前首相のカザフスタン訪問で、先んじられた中国から挽回に成功したのは、カザフスタンが欲しがる原発技術を持っていた為だったのだそうです。
 欧米諸国は武器供与や安全保障での協力、中国は開発援助や武器供与を見返りに資源を獲得しているのだそうです。
 軍事的な協力が出来ない日本は、民生の先進技術の供与が切り札となります。その先進技術が省エネ技術というのも、全地球、全人類を救う課題に答えるものというのが、技術立国日本の信頼を、世界から獲得でき誇らしい事でもありますが、成否は日本の政権トップ級の戦略と、行動如何です。

 その戦略ですが、石油公団が廃止されたことで、日本のエネルギー安全保障に必用な3つの機能が衰弱しているのです。
 ①民間開発会社への資金援助
 ②海外権益に関する情報収集と国内企業への仲介機能
 ③研究開発

 このうち①については、公団の一部を引き継いだ独立行政法人「石油天然ガス・金属鉱物資源機構」(JOGMEC)の機能強化が、行政改革に逆行し国家戦略を優先させることで進められ、民間開発会社への支援が、公団を超える規模で出来るようになったのだそうです。
 しかし、②については、世界各地で実績を持ち知名度の高かった公団がなくなった後は、寄せられていた権益に関する情報もほとんど入って来なくなったままです。現在、情報の窓口は、エネ庁の職員数わずか19人の石油・天然ガス課が代わって担っている状況だそうです。
 ③の研究開発費は、公団時代の110億円に対し、70億円にすぎない状況に細っています。産油国が日本に求めるのは、探鉱や開発の先端技術で、日本の切り札が民生の先端技術であるのにです。

 経済産業省の「新・国家エネルギー戦略」(昨春)では、原油の自主開発目標を復活させ、'90年代より高い40%に引き上げています。甘利経済産業相(中華朝貢大臣では心配ですが)は、07年の課題に「エネルギー外交」を挙げ、5月にカザフスタン(小泉前首相の第2弾)を訪問するとのことですが、昨年末に言い出したことが、未だ小泉さんの二番煎じのカザフスタンです。
 中国の胡錦濤主席を筆頭とする、温家宝首相他の訪問範囲と頻度には比べようもありません。後手を踏んでいるのですから、こちらの方が回数を重ねて通わねばならないのですが、国家としての戦略・戦術や情報収集体制がなく、出かけることも出来ない状況にあるということでしょう。

 国家の資源戦略の検討機関、戦略を立案・実行に必用な体制の整備、政権トップ級の外交交渉力。これら3点セットが不可欠で、急ぎ再構築が必用です。

 # 冒頭の写真は、来日したボリビアのモラレス大統領
  外務省: 日本・ボリビア首脳会談(結果概要)
  


↓ よろしかったら、お願いします。


遊爺のおすすめ本by G-Tools


コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「懲りない日本」をあざ笑う露紙 | トップ | 歴史上2国目の「安全保障協... »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
世界一の債権国 日本 (1Q3)
2007-03-12 00:14:58
 日本は現在、世界一の債権大国である。GNP(国民総生産)が500兆円だが、それと同じ500兆円ほどを世界中に貸している。
 なのに、感謝されるどころか、本当はみんな日本の敵なのだ。金を貸すと嫌われる。そんなことは当たり前なのだ。
 という記事が在ります。
 http://www.nikkeibp.co.jp/sj/column/p/52/
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

EEZ 全般」カテゴリの最新記事