昨日、第一ラウンドは、金正恩の圧勝、ディールが特異とするトランプは内容では敗けと観たと書かせていただいていました。
諸説が引き続き披瀝されています。産経の古森義久・ワシントン駐在客員特派員と、黒田勝弘・ソウル駐在客員論説委員が対談しておられます。
北側が会談の中止をほのめかしたところ、トランプ大統領が中止の書簡を送りつけ、北が折れることで実現した今回の首脳会談。黒田氏はこのトランプ大統領の中止発表が正解だったと評価されています。
古森氏は、金正恩が会談を求めてきた理由について、ワシントンの専門家の間では、『恐怖』のひと言で受け止められているのだと。北が今までのやり方を変えざるを得ないところにまで追い込まれたと感じたとも。
この金正恩氏が米国との初の首脳会談の開催にこだわった理由については、黒田氏も、「予測不可能なトランプ氏が、核・ミサイル問題を口実に軍事的攻撃をしてくるかもしれないという恐れ」を理由にあげておられます。
会談の評価について、古森氏は親しみの態度を表し合い会談したことに『おかしい』という声も米国にあると指摘しながらも、非現実的なシーンが現実になったとの感慨だと。
黒田氏は、具体論は先送りとなってしまった。米朝和解ショーに終わったと。
トランプ大統領が、一旦中止の書簡を送ったのは効果があったが、そこで時間をかけ金正恩を追い詰めれば、記者会見で『非核化の具体策を得られなかったのは時間がなかったから』と弁明しなくてもよい内容になった可能性があったが、秋の中間選挙など国内向けに自分の点数にしようと逆に会談開催を焦った。今回の米朝ディールは、会談中止に焦ったふりをしてトランプを喜ばせた金正恩の勝ちだと。
古森氏は、現時点で見ると両方がそれなりの『実』をとったと。
北側が最重要の核政策を変えるといって会談を求めてきたわけで、これは米側の勝利だと。「CVID」の文言が明記されなかったと言われているが、事前に『ボルトン外し』が伝えられながらも首脳会談に同席したことで明示されているが、共同声明には「CVID」の『C』にあたる『完全(Complete)』が『朝鮮半島の完全な非核化』という文言としてあると指摘。トランプとしては『C』にすべてが包括されているという認識なのだと。
今後の北朝鮮情勢について、古森氏は「金独裁体制が不安定になり、危機に陥る可能性がある。普通の指導者のふりをし、独裁体制の柱である核兵器を放棄し、経済援助を受け入れようとしている。北の『普通の国』化だが、それにより独裁体制の基盤は弱くなる」と。
黒田氏は「(対話交渉が続く間)北は核保有国の“待遇”を楽しむことになる。一方で非核化ポーズで国際社会を安心させ、話の分かる金正恩イメージと対外開放イメージを振りまきながら、制裁解除をはじめ経済建設のための利益追求に向かうだろう」と。
日本について、黒田氏は「日朝首脳会談の実現を急ぐべきだ。時流に乗るというのでなく活用すべき」と。
古森氏は「自分の国の安全保障を自ら考え、自ら実行することが求められてきている。これまで当然と思ってきたことが当然ではなくなるだろう」と。
昨日書いたことの繰り返しとなりますが、第1ラウンドを勝利した金正恩は今後どのような態度をとるのか、第1ラウンドが自分の負けとトランプが自覚した時、どう変身するのか。
二国間貿易の課題を抱える日米関係の状況で、安倍、トランプの関係はどうなるのか。
刻々と変化する世界情勢。目が離せませんね。
# 冒頭の画像は、共同声明に署名した金正恩とトランプ大統領。
シソ
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諸説が引き続き披瀝されています。産経の古森義久・ワシントン駐在客員特派員と、黒田勝弘・ソウル駐在客員論説委員が対談しておられます。
【ベテラン特派員 米朝語る】金正恩氏を変えた「恐怖」 古森義久特派員「東アジア情勢激変、高笑う中国」 黒田勝弘特派員「体制保証のツケ、どう取り戻す」 - 産経ニュース ベテラン特派員 米朝語る 2018.6.14
トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の史上初の首脳会談について、米朝関係を長年にわたり取材し続けてきた本紙の古森義久・ワシントン駐在客員特派員と、黒田勝弘・ソウル駐在客員論説委員は、金正恩氏が米国との初の首脳会談の開催にこだわった理由について「恐怖」をともに挙げた。
古森特派員は「北朝鮮がほほ笑み外交に転じた年初以前は、ワシントンでは『軍事攻撃』という言葉が北問題で頻繁に出ていた。北が今までのやり方を変えざるを得ないところにまで追い込まれた」と分析。黒田特派員も「何をやり出すか分からない予測不可能なトランプ氏が、核・ミサイル問題を口実に軍事的攻撃をしてくるかもしれないという恐れ」を理由にあげた。
首脳会談で最大の焦点だった北朝鮮の非核化について古森特派員は、両首脳が署名した共同声明で「非核化をすれば北朝鮮の安全を保証するという考えがにじみ出ており、トランプ氏が北側に折れなかったことの証左だ」と分析。一方、黒田特派員は「北朝鮮は米朝交渉を一種の戦争と考えているはずだから、米国をはじめとした国際社会は『戦争も辞さず』という覚悟がないかぎりこの交渉には勝てない」と厳しい見方を示した。
北朝鮮の今後の動きについては「金独裁体制が不安定になり、危機に陥る可能性がある」(古森特派員)、「経済建設のための利益追求に向かう」(黒田特派員)との見通しを述べた。
◇
古森義久・ワシントン駐在客員特派員と、黒田勝弘・ソウル駐在客員論説委員の発言詳細は以下の通り。(本文敬称略)
--史上初めて米朝の首脳が向かい合った
古森「最初に金(キム)正恩(ジョンウン)とトランプが両国の国旗の前で長い間、握手していたシーンが印象に残った。超大国で民主主義国家のリーダーが、独裁国家の危険な人物と対等に見える形で握手し、親しみの態度を表し合い会談したことに『おかしい』という声も米国にある。非現実的なシーンが現実になったとの感慨だ」
黒田「2人とも破格的な指導者なのでサプライズ(驚くべき成果)を期待したが完全に裏切られた感じで、『まったくサプライズがなかったのがサプライズ』という皮肉な結果だ。最大の関心は、北朝鮮に非核化の具体的道筋と確実な核放棄を約束させることだったが、先の板門店での文在寅・金正恩会談と同じく抽象論だけで、今回も具体論は先送りとなってしまった。米朝和解ショーに終わったといえる」
--北朝鮮の非核化は実現できるのか
古森「北の核開発をめぐる最初の米朝合意となった1994年の『米朝枠組み合意』のころからワシントンを中心に取材を続けてきたが、3代にわたる『金独裁体制』をとる北が核を放棄することは絶対にないと考えてきた。核は金独裁体制を支える基盤だからだ。しかし、今年5月25日以降『もしかしたら非核化が実現するんじゃないか』と思うようになった。前日24日にトランプが突如『会談中止』を通告したが、北朝鮮側はすぐさま『いつでも会う用意がある』などと言い出した。この様子を見て北の必死さが分かった。それほど金正恩が追い詰められているということだ。ワシントンの専門家の間では、金正恩が会談を求めてきた理由について『恐怖』のひと言で受け止められている。このままでは経済制裁の重圧が増し、米側が軍事オプションの比重を増すと考えたのだろう。北がほほ笑み外交に転じた年初以前は、ワシントンでは『軍事攻撃』という言葉が北朝鮮問題で頻繁に出ていた。北が今までのやり方を変えざるを得ないところにまで追い込まれたと感じた」
■北を追い詰めた恐怖が対話に
黒田「年明けから金正恩が対話路線に転じ、対外関係改善に乗り出した背景は2点ある。何をやりだすか分からない予測不可能なトランプが、核・ミサイル問題を口実に軍事的攻撃をしてくるかもしれないという恐れと、制裁強化による経済難だ。4月の中央委員会総会では、核開発は完成したから今後は経済建設が目標と決めた。しかしどちらかというと前者の意味が大きい。前者はすぐ体制崩壊につながるが、後者は慢性的な問題。北がこだわる体制保証というのは、とにかく戦争をしかけないでくれという意味だ。したがって体制保証と核放棄とが取引になっているのだが、共同声明では体制保証の約束の方が強く出ていて核放棄の約束はない。トランプからすると今後は、核放棄の具体化という金正恩への貸しというかツケを取り戻す番になるが、北相手では制裁や軍事的脅威など脅しと圧力抜きにはツケもなかなか取れない。幸い制裁は続けるとは言っているが」
古森「共同声明をみると『トランプ大統領は北朝鮮に安全の保証を与えると約束し、金正恩委員長は朝鮮半島の非核化を完結するための固く揺るぎない約束を再確認』と一つの文章で書かれている。非核化をすれば安全を保証するという考えがにじみ出ており、トランプが北側に折れなかったことの証左だ」
黒田「北に核放棄をさせるという意味での非核化実現はきわめて困難だ。北にとっては完全武装解除になるからだ。その意味で北は米朝交渉を一種の戦争と考えているはずだから、米国をはじめとした国際社会は『戦争も辞さず』という覚悟がないかぎりこの交渉には勝てない。現在は軍事オプションがなくなり、対話と交渉の局面。政権が代わればどうなるか分からない米国頼みの『体制保証』など北も心底では信じてはいないので、核放棄の展望は難しい」
--首脳会談を行ったことが北を利するのか
黒田「トランプは事前段階での北の態度に不満でいったん中止を発表した。今考えるとあれが正解だった。北は長年、米朝直接交渉に焦がれてきたのだから、あそこでもっと冷たくして北をさらにじらせればよかったが、二人三脚の文在寅・金正恩の“もみ手”に負けてしまった。トランプ自身、記者会見で『非核化の具体策を得られなかったのは時間がなかったから』と弁明しているが、会談開催を焦らず時間をかけ金正恩を追い詰めればよかった。基本的に米朝会談の動機は北にあったのに、トランプはそれを無視し、秋の中間選挙など国内向けに自分の点数にしようと逆に会談開催を焦った感じがする。本人がよく知っているように交渉や取引は焦った方が負けだ。今回の米朝ディールは、会談中止に焦ったふりをしてトランプを喜ばせた金正恩の勝ちだ」
古森「現時点で見ると両方がそれなりの『実』をとった。会談までの経緯をみれば、北側が最重要の核政策を変えるといって会談を求めてきたわけで、これは米側の勝利といえるだろう。今後は北が『すぐやる』とした非核化をどう行動で示すかが最大の鍵だ。それが進まなければ追加制裁も可能で、軍事攻撃以外にもまだまだできることはあり、北は弱い立場だ。トランプについて『中間選挙のため』との解釈が多いが、これは違う。トランプほど公約を実現している大統領はそうはいない」
--共同声明では米政府が求める「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)の文言が明記されなかった
古森「CVIDという文言が入らなかったのは時間がなかったからで、共同声明は大まかな確認という位置づけだろう。だが、共同声明にはCVIDの『C』にあたる『完全(Complete)』が『朝鮮半島の完全な非核化』という文言としてある。トランプとしては『C』にすべてが包括されているという認識で、CVID政策を引っ込めたということはない。CVIDを主張した大統領補佐官(国家安全保障問題担当)のボルトンが、事前に『ボルトン外し』が伝えられながらも首脳会談に同席したことからも明らかだ」
■拉致問題、歴代米政権で最大の協力
--首脳会談では日本人拉致問題の提起があった
黒田「『アメリカ・ファースト』のトランプがよく提起してくれたと思う。トランプの対北融和策を受けて米国では今後、世論的には『北の人権問題はどうなった?』との声が高まるので、日本人拉致問題のアピールチャンスは増える」
古森「拉致問題は日本が解決すべき問題だが、これまでの歴代米政権の中でもトランプは最も強く協力してくれている。首脳会談に同席したボルトンは拉致問題について最も熟知している米高官の一人だ。今後、米朝の和平構築プロセスの中でトランプが拉致問題を折に触れて提起してくれると思うが、それだけでは解決できないとみられる。日本として独自にどうするかが、米朝首脳会談後の国家的な課題だ」
<中略>
■「朝鮮戦争終戦」が次の目玉?
--今後の北朝鮮情勢は
古森「金独裁体制が不安定になり、危機に陥る可能性がある。普通の指導者のふりをし、独裁体制の柱である核兵器を放棄し、経済援助を受け入れようとしている。北の『普通の国』化だが、それにより独裁体制の基盤は弱くなる」
黒田「対話と交渉が続くのでその間、北は核保有国の“待遇”を楽しむことになる。一方で非核化ポーズで国際社会を安心させ、話の分かる金正恩イメージと対外開放イメージを振りまきながら、制裁解除をはじめ経済建設のための利益追求に向かうだろう」
--日本は変化する北問題にどう対応すべきか
黒田「結果的に金正恩と会っていないのは日本の首相、安倍晋三だけになった。慌てることはないが、拉致問題という日本固有の課題と国交正常化というカードを持つ日本としては、日朝首脳会談の実現を急ぐべきだ。時流に乗るというのでなく活用すべきで、金正恩にとっても拉致問題は父の時代の案件だから独自の対応はできるだろう」
古森「自分の国の安全保障を自ら考え、自ら実行することが求められてきている。東アジアの安全保障環境の変化で、これまで当然と思ってきたことが当然ではなくなるだろう」
トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の史上初の首脳会談について、米朝関係を長年にわたり取材し続けてきた本紙の古森義久・ワシントン駐在客員特派員と、黒田勝弘・ソウル駐在客員論説委員は、金正恩氏が米国との初の首脳会談の開催にこだわった理由について「恐怖」をともに挙げた。
古森特派員は「北朝鮮がほほ笑み外交に転じた年初以前は、ワシントンでは『軍事攻撃』という言葉が北問題で頻繁に出ていた。北が今までのやり方を変えざるを得ないところにまで追い込まれた」と分析。黒田特派員も「何をやり出すか分からない予測不可能なトランプ氏が、核・ミサイル問題を口実に軍事的攻撃をしてくるかもしれないという恐れ」を理由にあげた。
首脳会談で最大の焦点だった北朝鮮の非核化について古森特派員は、両首脳が署名した共同声明で「非核化をすれば北朝鮮の安全を保証するという考えがにじみ出ており、トランプ氏が北側に折れなかったことの証左だ」と分析。一方、黒田特派員は「北朝鮮は米朝交渉を一種の戦争と考えているはずだから、米国をはじめとした国際社会は『戦争も辞さず』という覚悟がないかぎりこの交渉には勝てない」と厳しい見方を示した。
北朝鮮の今後の動きについては「金独裁体制が不安定になり、危機に陥る可能性がある」(古森特派員)、「経済建設のための利益追求に向かう」(黒田特派員)との見通しを述べた。
◇
古森義久・ワシントン駐在客員特派員と、黒田勝弘・ソウル駐在客員論説委員の発言詳細は以下の通り。(本文敬称略)
--史上初めて米朝の首脳が向かい合った
古森「最初に金(キム)正恩(ジョンウン)とトランプが両国の国旗の前で長い間、握手していたシーンが印象に残った。超大国で民主主義国家のリーダーが、独裁国家の危険な人物と対等に見える形で握手し、親しみの態度を表し合い会談したことに『おかしい』という声も米国にある。非現実的なシーンが現実になったとの感慨だ」
黒田「2人とも破格的な指導者なのでサプライズ(驚くべき成果)を期待したが完全に裏切られた感じで、『まったくサプライズがなかったのがサプライズ』という皮肉な結果だ。最大の関心は、北朝鮮に非核化の具体的道筋と確実な核放棄を約束させることだったが、先の板門店での文在寅・金正恩会談と同じく抽象論だけで、今回も具体論は先送りとなってしまった。米朝和解ショーに終わったといえる」
--北朝鮮の非核化は実現できるのか
古森「北の核開発をめぐる最初の米朝合意となった1994年の『米朝枠組み合意』のころからワシントンを中心に取材を続けてきたが、3代にわたる『金独裁体制』をとる北が核を放棄することは絶対にないと考えてきた。核は金独裁体制を支える基盤だからだ。しかし、今年5月25日以降『もしかしたら非核化が実現するんじゃないか』と思うようになった。前日24日にトランプが突如『会談中止』を通告したが、北朝鮮側はすぐさま『いつでも会う用意がある』などと言い出した。この様子を見て北の必死さが分かった。それほど金正恩が追い詰められているということだ。ワシントンの専門家の間では、金正恩が会談を求めてきた理由について『恐怖』のひと言で受け止められている。このままでは経済制裁の重圧が増し、米側が軍事オプションの比重を増すと考えたのだろう。北がほほ笑み外交に転じた年初以前は、ワシントンでは『軍事攻撃』という言葉が北朝鮮問題で頻繁に出ていた。北が今までのやり方を変えざるを得ないところにまで追い込まれたと感じた」
■北を追い詰めた恐怖が対話に
黒田「年明けから金正恩が対話路線に転じ、対外関係改善に乗り出した背景は2点ある。何をやりだすか分からない予測不可能なトランプが、核・ミサイル問題を口実に軍事的攻撃をしてくるかもしれないという恐れと、制裁強化による経済難だ。4月の中央委員会総会では、核開発は完成したから今後は経済建設が目標と決めた。しかしどちらかというと前者の意味が大きい。前者はすぐ体制崩壊につながるが、後者は慢性的な問題。北がこだわる体制保証というのは、とにかく戦争をしかけないでくれという意味だ。したがって体制保証と核放棄とが取引になっているのだが、共同声明では体制保証の約束の方が強く出ていて核放棄の約束はない。トランプからすると今後は、核放棄の具体化という金正恩への貸しというかツケを取り戻す番になるが、北相手では制裁や軍事的脅威など脅しと圧力抜きにはツケもなかなか取れない。幸い制裁は続けるとは言っているが」
古森「共同声明をみると『トランプ大統領は北朝鮮に安全の保証を与えると約束し、金正恩委員長は朝鮮半島の非核化を完結するための固く揺るぎない約束を再確認』と一つの文章で書かれている。非核化をすれば安全を保証するという考えがにじみ出ており、トランプが北側に折れなかったことの証左だ」
黒田「北に核放棄をさせるという意味での非核化実現はきわめて困難だ。北にとっては完全武装解除になるからだ。その意味で北は米朝交渉を一種の戦争と考えているはずだから、米国をはじめとした国際社会は『戦争も辞さず』という覚悟がないかぎりこの交渉には勝てない。現在は軍事オプションがなくなり、対話と交渉の局面。政権が代わればどうなるか分からない米国頼みの『体制保証』など北も心底では信じてはいないので、核放棄の展望は難しい」
--首脳会談を行ったことが北を利するのか
黒田「トランプは事前段階での北の態度に不満でいったん中止を発表した。今考えるとあれが正解だった。北は長年、米朝直接交渉に焦がれてきたのだから、あそこでもっと冷たくして北をさらにじらせればよかったが、二人三脚の文在寅・金正恩の“もみ手”に負けてしまった。トランプ自身、記者会見で『非核化の具体策を得られなかったのは時間がなかったから』と弁明しているが、会談開催を焦らず時間をかけ金正恩を追い詰めればよかった。基本的に米朝会談の動機は北にあったのに、トランプはそれを無視し、秋の中間選挙など国内向けに自分の点数にしようと逆に会談開催を焦った感じがする。本人がよく知っているように交渉や取引は焦った方が負けだ。今回の米朝ディールは、会談中止に焦ったふりをしてトランプを喜ばせた金正恩の勝ちだ」
古森「現時点で見ると両方がそれなりの『実』をとった。会談までの経緯をみれば、北側が最重要の核政策を変えるといって会談を求めてきたわけで、これは米側の勝利といえるだろう。今後は北が『すぐやる』とした非核化をどう行動で示すかが最大の鍵だ。それが進まなければ追加制裁も可能で、軍事攻撃以外にもまだまだできることはあり、北は弱い立場だ。トランプについて『中間選挙のため』との解釈が多いが、これは違う。トランプほど公約を実現している大統領はそうはいない」
--共同声明では米政府が求める「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)の文言が明記されなかった
古森「CVIDという文言が入らなかったのは時間がなかったからで、共同声明は大まかな確認という位置づけだろう。だが、共同声明にはCVIDの『C』にあたる『完全(Complete)』が『朝鮮半島の完全な非核化』という文言としてある。トランプとしては『C』にすべてが包括されているという認識で、CVID政策を引っ込めたということはない。CVIDを主張した大統領補佐官(国家安全保障問題担当)のボルトンが、事前に『ボルトン外し』が伝えられながらも首脳会談に同席したことからも明らかだ」
■拉致問題、歴代米政権で最大の協力
--首脳会談では日本人拉致問題の提起があった
黒田「『アメリカ・ファースト』のトランプがよく提起してくれたと思う。トランプの対北融和策を受けて米国では今後、世論的には『北の人権問題はどうなった?』との声が高まるので、日本人拉致問題のアピールチャンスは増える」
古森「拉致問題は日本が解決すべき問題だが、これまでの歴代米政権の中でもトランプは最も強く協力してくれている。首脳会談に同席したボルトンは拉致問題について最も熟知している米高官の一人だ。今後、米朝の和平構築プロセスの中でトランプが拉致問題を折に触れて提起してくれると思うが、それだけでは解決できないとみられる。日本として独自にどうするかが、米朝首脳会談後の国家的な課題だ」
<中略>
■「朝鮮戦争終戦」が次の目玉?
--今後の北朝鮮情勢は
古森「金独裁体制が不安定になり、危機に陥る可能性がある。普通の指導者のふりをし、独裁体制の柱である核兵器を放棄し、経済援助を受け入れようとしている。北の『普通の国』化だが、それにより独裁体制の基盤は弱くなる」
黒田「対話と交渉が続くのでその間、北は核保有国の“待遇”を楽しむことになる。一方で非核化ポーズで国際社会を安心させ、話の分かる金正恩イメージと対外開放イメージを振りまきながら、制裁解除をはじめ経済建設のための利益追求に向かうだろう」
--日本は変化する北問題にどう対応すべきか
黒田「結果的に金正恩と会っていないのは日本の首相、安倍晋三だけになった。慌てることはないが、拉致問題という日本固有の課題と国交正常化というカードを持つ日本としては、日朝首脳会談の実現を急ぐべきだ。時流に乗るというのでなく活用すべきで、金正恩にとっても拉致問題は父の時代の案件だから独自の対応はできるだろう」
古森「自分の国の安全保障を自ら考え、自ら実行することが求められてきている。東アジアの安全保障環境の変化で、これまで当然と思ってきたことが当然ではなくなるだろう」
北側が会談の中止をほのめかしたところ、トランプ大統領が中止の書簡を送りつけ、北が折れることで実現した今回の首脳会談。黒田氏はこのトランプ大統領の中止発表が正解だったと評価されています。
古森氏は、金正恩が会談を求めてきた理由について、ワシントンの専門家の間では、『恐怖』のひと言で受け止められているのだと。北が今までのやり方を変えざるを得ないところにまで追い込まれたと感じたとも。
この金正恩氏が米国との初の首脳会談の開催にこだわった理由については、黒田氏も、「予測不可能なトランプ氏が、核・ミサイル問題を口実に軍事的攻撃をしてくるかもしれないという恐れ」を理由にあげておられます。
会談の評価について、古森氏は親しみの態度を表し合い会談したことに『おかしい』という声も米国にあると指摘しながらも、非現実的なシーンが現実になったとの感慨だと。
黒田氏は、具体論は先送りとなってしまった。米朝和解ショーに終わったと。
トランプ大統領が、一旦中止の書簡を送ったのは効果があったが、そこで時間をかけ金正恩を追い詰めれば、記者会見で『非核化の具体策を得られなかったのは時間がなかったから』と弁明しなくてもよい内容になった可能性があったが、秋の中間選挙など国内向けに自分の点数にしようと逆に会談開催を焦った。今回の米朝ディールは、会談中止に焦ったふりをしてトランプを喜ばせた金正恩の勝ちだと。
古森氏は、現時点で見ると両方がそれなりの『実』をとったと。
北側が最重要の核政策を変えるといって会談を求めてきたわけで、これは米側の勝利だと。「CVID」の文言が明記されなかったと言われているが、事前に『ボルトン外し』が伝えられながらも首脳会談に同席したことで明示されているが、共同声明には「CVID」の『C』にあたる『完全(Complete)』が『朝鮮半島の完全な非核化』という文言としてあると指摘。トランプとしては『C』にすべてが包括されているという認識なのだと。
今後の北朝鮮情勢について、古森氏は「金独裁体制が不安定になり、危機に陥る可能性がある。普通の指導者のふりをし、独裁体制の柱である核兵器を放棄し、経済援助を受け入れようとしている。北の『普通の国』化だが、それにより独裁体制の基盤は弱くなる」と。
黒田氏は「(対話交渉が続く間)北は核保有国の“待遇”を楽しむことになる。一方で非核化ポーズで国際社会を安心させ、話の分かる金正恩イメージと対外開放イメージを振りまきながら、制裁解除をはじめ経済建設のための利益追求に向かうだろう」と。
日本について、黒田氏は「日朝首脳会談の実現を急ぐべきだ。時流に乗るというのでなく活用すべき」と。
古森氏は「自分の国の安全保障を自ら考え、自ら実行することが求められてきている。これまで当然と思ってきたことが当然ではなくなるだろう」と。
昨日書いたことの繰り返しとなりますが、第1ラウンドを勝利した金正恩は今後どのような態度をとるのか、第1ラウンドが自分の負けとトランプが自覚した時、どう変身するのか。
二国間貿易の課題を抱える日米関係の状況で、安倍、トランプの関係はどうなるのか。
刻々と変化する世界情勢。目が離せませんね。
# 冒頭の画像は、共同声明に署名した金正恩とトランプ大統領。
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