
5月24日から25日にかけて、ロシアによるウクライナの町や都市へのミサイル・ドローンによる攻撃が相次ぎ、トランプ米大統領は25日、一向にウクライナ戦争を終わらせようとしないロシアのプーチン大統領への不満を繰り返し記者団にぶちまけた。そして、その数時間後にはSNSに「プーチンは完全に狂ってしまった」と書き込んだ。
超大国とされる国の大統領が、他の国の大統領を名指しで狂人呼ばわりするのは、極めて異例のこと。
深刻な異常事態であると、元フジテレビの情報デスク、解説委員の松本方哉氏。
トランプ大統領の、プーチン大統領を狂人呼ばわりしたことで、さらに興味深いのは、多くのメディアや国際関係者が、このトランプ発言を事実上ほぼ無視したことだったと、ジャーナリストの松本方哉氏。
理由は簡単だ。トランプ大統領の発言は、もはや国際社会に響かなくなっているのだ。「どうせ、トランプはプーチンの“しもべ”だから、大した制裁の動きは取らないだろう」という反応の表れとも取れる。ことプーチン大統領の話になると打ち出しは派手だが、強気に出た後は、ぱらぱら火の粉が落ちてしぼんでしまう花火のようにしりつぼみになるのが「トランプの発言力」だと、人々は考え始めていると、松本氏。
少なくとも過去40年余りで言えば、共和党のレーガン元大統領から民主党のバイデン前大統領までの歴代米国大統領は民主主義を守り、権威主義の独裁者を許さないとの視点に立ち、それが矜持でもあったはずだと、松本氏。
トランプ大統領が、プーチン大統領を「おかしくなった」と主張したのは、祝日のゴルフを終えてワシントンへ戻る途上、同行記者団に捕まったから答えたような気の抜けた場。
ワシントンへ戻っても、やはり国家安全保障会議が緊急開催される気配などまったくなかったと、松本氏。
政見の現状は、国家安全保障の担当補佐官だったマイク・ウォルツ氏は1カ月前に国連大使に更迭されており、はたまたホワイトハウス内のNSC(国家安全保障会議)も「トランプ大統領に楯突くディープステートの官僚がいる」として300人規模の大組織から50人以下の地味な組織に強制解体する動きの途上にある。これまでの「大統領に諸政策を提言する集団」から「大統領の決めたことを実行するのが役割のグループ」に、規模も役割も大幅縮小する動きの真っただ中。
トランプ大統領はウクライナに対して、ロシア軍から身を守る高性能の武器を緊急供与したり、大規模人道支援を発表したりすることもなかった。記者団に「何らかの制裁を検討する」とは述べたものの、欧州諸国の対ロシア追加制裁に加わるのは否定的なままで、発言の翌日には「プーチン氏の様子を2週間ほど見守る」と発言はさらにトーンダウンした。要はやる気など皆無なのだと、松本氏。
プーチン氏におもねる姿勢は変わっておらず、「プーチンの得になること、有利になること以外は何もしない路線」を国際社会の多くの人々はよく分かっていたので、トランプ氏が一時的に騒いでもしらけた目で見るだけだったのだ。一部の米民主党議員が揶揄するような“腰抜けトランプ”の面目躍如であったとも。
トランプ2.0政権がスタートして100日が過ぎたが、この4カ月余りで、トランプ1.0政権(2017年~2021年)との大きな相違が明確化してきたと、松本氏。
松本氏は、トランプ1.0政権の最終段階を「重要な乗員(補佐官)たちが脱出してしまい、炎と煙を吐いて墜落しつつある航空機」に例えたと。
そして、今年1月20日に再スタートした2.0政権については、新たな航空機に変容して、再度滑走して空へ舞い上がった、と当初は考えていたのだそうです。
だが、4カ月経って分かってきたのは、実はトランプ1.0政権の墜落する航空機の中に国際社会ごと全員が戻っただけだった、という事実だと松本氏。
墜落の速度は速まり、揺れも前回よりひどいと。
1.0政権では米共和党のためにトランプ政権を成功させようという共和党中道派や保守本流の勢力から参加した有能な閣僚や補佐官たちが政権内にいた。
共和党として政権を正しく運営しようという人物が、共和党保守本流の思想、行動原則を強く押し出して、政策を実行し続けた。
そうしたメンバーの中には、国家安全保障会議のジョン・ケリー元補佐官やジョン・ボルトン元補佐官、ジェームズ・マティス国防長官らがおり、結局彼らは皆、トランプ大統領と正面からぶつかって辞任するに至った。トランプ氏には、自分の利益と評判とMAGA(米国を再び偉大に)勢力に褒められる成果しか眼中になかったからだ。
トランプ2.0政権にはこうした「共和党の基本思想が大統領職より上位にある」と考える閣僚が一人も存在しない。閣僚選別の段階で、「トランプへの忠誠心」だけが重要なファクターとなったと、松本氏。
1.0政権では、閣議はそれでも皆が意見を出し合う場という雰囲気があったが、2.0政権の定例閣議ではどの閣僚もまるで北朝鮮政府の会合かと思うような甘ったるいトランプ大統領への忠誠心を明かす発言のオンパレードとなっている。
しかも、忠誠心だけで閣僚の座を得た人物が、自分の言動を批判する省庁内の官僚については「ディープステート」のレッテルを貼ってクビにするため、国防総省やCIAなどの省庁も上手く機能していないと指摘されているのだそうです。
トランプ1.0政権には共和党の次期大統領の座を狙って、トランプ政権で名乗りを上げたいとの野心を胸に、次代の大統領を目指して活躍する行動派タイプの閣僚も存在していた。
国務長官として北朝鮮との非核化交渉を強力に進展させ、トランプ大統領と金正恩委員長による3回の直接会談開催にこぎ着けることに成功したマイク・ポンペオ元国務長官や、国連大使として対ロシア、対中国のタカ派米外交を徹底的に追求して名をあげたニッキー・ヘイリー氏がこのタイプだと、松本氏。
いずれも自ら策を練り、積極的に動いて成果をものにしてきた人物だが、2人ともトランプ2.0政権からは締め出されてしまったと。
1.0政権で活躍したこの2人がトランプ2.0政権から締め出された事実は、政権発足当初は「再び動くか」と期待された北朝鮮外交や国連外交が進展しない大きな理由となっている。マルコ・ルビオ国務長官はいまのところはトランプ氏に対して、三歩下がってボスの影を踏まないような姿勢を貫いている。ルビオ外交と呼べるような見せ場は見られない。
2.0政権にも、ポンペオ氏やヘイリー氏のように、自らの考えで活動計画を立案し、トランプの覚えめでたいことを確認した上で、成果を得るために活躍する人物・イーロン・マスク氏がいた。
だが、時に執務室内でトランプ大統領よりも目立つ態度が「政権の和を乱す人間は排斥する」と公言してきたスージー・ワイルズ首席補佐官の不興を買い、トランプ氏には惜しまれながらも就任4カ月足らずでホワイトハウスから消えることとなったと、松本氏。
2.0政権にないもう一つの重要な要素が、1.0政権でトランプ外交を背後から支えたヘンリー・キッシンジャー国務長官のような「賢人」の存在だとも。
キッシンジャー氏がこの世を去って以降、トランプ氏に仕えるのは自己利益を求める人ばかりで、真の「賢人」は存在しなくなったと、松本氏。
かくして、相互関税による大混乱からウクライナ戦争やガザ問題の混迷まで、いまやトランプ大統領は自分の利益や評判、MAGA勢力に褒められる成果しか考えていない。そして、深い考えもなしに手に触れるものは、すべて壊れてしまうような惨状になっているとも。
わずか4カ月の段階で、トランプ氏の意見を真正面から受け止めるのは疲れるだけだと多くのアメリカ人も国際社会の人々も考え始めるようになったと、松本氏。
ニューヨーク・タイムズ紙が行った最近の世論調査でも、回答者の3分の2がトランプ氏の2期目を「混沌としている」と答え、59%が「怖い」と回答。
54%の人がトランプ氏が大統領の職務についていることに反対している。トランプ氏に一票を投じるべきではなかったと考える米国人の割合は増えるばかりなのだそうです。
このまま操縦不能なトランプ政権が続けば、いや、すでに「レームダック化」が見え始めているとも言えそうだと、松本氏。
ウクライナ戦争を巡っては6月1日にウクライナ側がロシアの中心部深くにドローンを送り込み、複数のロシア空軍基地を一斉攻撃する「蜘蛛の巣作戦」と呼ばれる特殊軍事作戦を実施した。ロシア戦略爆撃機の34%を破壊する大きな勝利を得たが、この特殊作戦の実施について特筆すべきは、ウクライナのゼレンスキー大統領が、事前にトランプ大統領には一言も明かさないまま作戦を実行したことだと、松本氏。
この作戦は、国際社会の面前でプーチン大統領の顔に泥を塗った格好になったが、同時にトランプ大統領の顔もつぶしたと言えるだろう。ウクライナを負ける運命にある貧しい小国扱いして、プーチン大統領の下僕に成り下がったままなら、重要な秘密は明かせないとウクライナから面と向かって宣言されたも同然だからだと。
トランプ大統領は、最近の関税戦争で、中国に続いて欧州連合(EU)にも態度を軟化させ、英フィナンシャル・タイムズ紙の論説委員から「TACO(Trump Always Chickens Out=トランプはいつも腰砕け)」という言葉を送られて激怒したのだそうです。
トランプ2.0政権が常に自滅するようなTACO型行動を繰り返す悪影響で、米国民の嫌トランプ気分が高まり、来年の中間選挙で共和党が上下両院を取り落とせば、現政権と国民の乖離が大きくなっていくと考えられる。その最悪の事態が起きた時に、冷静さを失ったトランプ大統領がどう動くかが懸念されると、松本氏。
1期目は、新鮮な手法で習近平やプーチンをリードしてたトランプ氏。それは優秀なスタッフを募って的確な情報を得られていたから。
2期目は、イエスマンを数多く取り揃え。そのぷん裸の王様化。
プーチンには翻弄され、習近平にもしたたかに対抗され、トランプ流ディールは不調。
辞書の中で最も好きな言葉と言う「関税」戦術も、最も被害を被るのは、米国の消費者や企業とは、気ずいているのかどうか。
中間選挙でも、共和党の勝利は叶うのか。トランプ政権の支持率の行方は!
# 冒頭の画像は、迷走が続くトランプ大統領

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超大国とされる国の大統領が、他の国の大統領を名指しで狂人呼ばわりするのは、極めて異例のこと。
深刻な異常事態であると、元フジテレビの情報デスク、解説委員の松本方哉氏。
イーロン・マスクが去ってレームダック化が進むトランプ政権、浮き彫りになった第一次政権時との「決定的な違い」 | JBpress (ジェイビープレス)
2025.6.6(金) 松本 方哉
■もはやトランプ大統領の「暴言」も国際社会に響かない
「私はこれまでロシアのウラジーミル・プーチンと非常に良好な関係を築いてきたが、彼に何かが起こったようだ」
5月24日から25日にかけて、ロシアによるウクライナの町や都市へのミサイル・ドローンによる攻撃が相次ぎ、少なくとも12人が死亡、数十人が負傷したことを受けて、トランプ米大統領は25日、一向にウクライナ戦争を終わらせようとしないロシアのプーチン大統領への不満を繰り返し記者団にぶちまけた。そして、その数時間後にはSNSに「プーチンは完全に狂ってしまった」と書き込んだ。
超大国とされる国の大統領が、他の国の大統領を名指しで狂人呼ばわりするのは、極めて異例のことである。ましてやその国が5580発の核弾頭を保有する世界最大の核保有国ロシアであることを考えると、深刻な異常事態である。
だが、この出来事がさらに興味深いのは、多くのメディアや国際関係者が、このトランプ発言を事実上ほぼ無視したことだった。「トランプ大統領、プーチン大統領を狂人と指摘」という見出しの記事が国内外の主要メディアに掲載されはしたが、なんの切迫性も緊張感も、あるいは記事自体のパンチも感じられなかった。
理由は簡単だ。トランプ大統領の発言は、もはや国際社会に響かなくなっているのだ。「どうせ、トランプはプーチンの“しもべ”だから、大した制裁の動きは取らないだろう」という反応の表れとも取れる。ことプーチン大統領の話になると打ち出しは派手だが、強気に出た後は、ぱらぱら火の粉が落ちてしぼんでしまう花火のようにしりつぼみになるのが「トランプの発言力」だと、人々は考え始めている。
■初めからロシアへの制裁など「やる気なし」
そもそも過去の米国大統領であれば、直ちにホワイトハウスで国家安全保障会議を開催し、国務省、国防総省、CIA(中央情報局)に対して事態の把握と警戒の強化を呼びかけただろう。
また、米国連大使に命じて、国連の場での緊急の安全保障理事会の開催を呼びかけ、民主主義を旗印に掲げるアメリカとして同盟国と一致団結し、ウクライナへの残虐な軍事侵略を止めようとしないプーチン氏とロシア政府に対して非難決議の一本でも取りまとめるために全力を尽くしたことであろう。
少なくとも過去40年余りで言えば、共和党のレーガン元大統領から民主党のバイデン前大統領までの歴代米国大統領は民主主義を守り、権威主義の独裁者を許さないとの視点に立ち、それが矜持でもあったはずだ。
他方、トランプ大統領が、プーチン大統領を「おかしくなった」と主張したのは、祝日のゴルフを終えてワシントンへ戻る途上、同行記者団に捕まったから答えたような気の抜けた場であった。
誰もが考えたように、ワシントンへ戻っても、やはり国家安全保障会議が緊急開催される気配などまったくなかった。
そもそも、国家安全保障の担当補佐官だったマイク・ウォルツ氏は1カ月前に国連大使に更迭されており、はたまたホワイトハウス内のNSC(国家安全保障会議)も「トランプ大統領に楯突くディープステートの官僚がいる」として300人規模の大組織から50人以下の地味な組織に強制解体する動きの途上にある。これまでの「大統領に諸政策を提言する集団」から「大統領の決めたことを実行するのが役割のグループ」に、規模も役割も大幅縮小する動きの真っただ中なのだ。
また、トランプ大統領はウクライナに対して、ロシア軍から身を守る高性能の武器を緊急供与したり、大規模人道支援を発表したりすることもなかった。記者団に「何らかの制裁を検討する」とは述べたものの、欧州諸国の対ロシア追加制裁に加わるのは否定的なままで、発言の翌日には「プーチン氏の様子を2週間ほど見守る」と発言はさらにトーンダウンした。要はやる気など皆無なのだ。
プーチン氏におもねる姿勢は変わっておらず、「プーチンの得になること、有利になること以外は何もしない路線」を国際社会の多くの人々はよく分かっていたので、トランプ氏が一時的に騒いでもしらけた目で見るだけだったのだ。一部の米民主党議員が揶揄するような“腰抜けトランプ”の面目躍如であった。
■2.0政権の閣議はまるで北朝鮮政府の会合のよう
4月29日にトランプ2.0政権がスタートして100日が過ぎたが、この4カ月余りで、トランプ1.0政権(2017年~2021年)との大きな相違が明確化してきた。
筆者は第一次トランプ政権について、拙著『トランプVS.ハリス─アメリカ大統領選の知られざる内幕』(幻冬舎新書)の中で、トランプ1.0政権の最終段階を「重要な乗員(補佐官)たちが脱出してしまい、炎と煙を吐いて墜落しつつある航空機」に例えた。
そして、今年1月20日に再スタートした2.0政権については、新たな航空機に変容して、再度滑走して空へ舞い上がった、と当初は考えていた。
だが、4カ月経って分かってきたのは、実は、1月20日の就任式当日に起こったことは、トランプ1.0政権の墜落する航空機の中に国際社会ごと全員が戻っただけだった、という事実だった。墜落の速度は速まり、揺れも前回よりひどかった。
思えば、1.0政権では米共和党のためにトランプ政権を成功させようという共和党中道派や保守本流の勢力から参加した有能な閣僚や補佐官たちが政権内にいた。自身のビジネスセンスを最大の売りにした“トランプ流”のやりたい放題には賛同しかねるが、共和党として政権を正しく運営しようという人物が、共和党保守本流の思想、行動原則を強く押し出して、政策を実行し続けた。
そうしたメンバーの中には、国家安全保障会議のジョン・ケリー元補佐官やジョン・ボルトン元補佐官、ジェームズ・マティス国防長官らがおり、結局彼らは皆、トランプ大統領と正面からぶつかって辞任するに至った。トランプ氏には、自分の利益と評判とMAGA(米国を再び偉大に)勢力に褒められる成果しか眼中になかったからだ。
トランプ2.0政権にはこうした「共和党の基本思想が大統領職より上位にある」と考える閣僚が一人も存在しない。閣僚選別の段階で、「トランプへの忠誠心」だけが重要なファクターとなったためだ。
1.0政権では、閣議はそれでも皆が意見を出し合う場という雰囲気があったが、2.0政権の定例閣議ではどの閣僚も「大統領の偉大な指導力のおかげで、政策は大成功している」と、まるで北朝鮮政府の会合かと思うような甘ったるいトランプ大統領への忠誠心を明かす発言のオンパレードとなっている。
しかも、忠誠心だけで閣僚の座を得た人物が、自分の言動を批判する省庁内の官僚については「ディープステート」のレッテルを貼ってクビにするため、国防総省やCIAなどの省庁も上手く機能していないと指摘されている。
■トランプ氏に仕えているのは自己利益を求める人ばかり
また、トランプ1.0政権には共和党の次期大統領の座を狙って、トランプ政権で名乗りを上げたいとの野心を胸に、次代の大統領を目指して活躍する行動派タイプの閣僚も存在していた。
国務長官として北朝鮮との非核化交渉を強力に進展させ、トランプ大統領と金正恩委員長による3回の直接会談開催にこぎ着けることに成功したマイク・ポンペオ元国務長官や、国連大使として対ロシア、対中国のタカ派米外交を徹底的に追求して名をあげたニッキー・ヘイリー氏がこのタイプである。
いずれも自ら策を練り、積極的に動いて成果をものにしてきた人物だが、2人ともトランプ再選には共和党員として反対の姿勢を打ち出したために、トランプ2.0政権からは締め出されてしまった。
ポンペオ氏は最近、カナダのオタワで記者会見した際に、カナダを米国の51番目の州にしたがっているトランプ大統領の態度を受け流し、「カナダは自国の主権を維持すると確信している」と、カナダ国民にエールを送り、前のボスの神経を逆なでしてみせた。
一方、ヘイリー氏もテレビの政治番組の中で、「私たちはウクライナ国民の友人になる必要があり、彼らがわれわれに(支援を)懇願する態度を取らせる必要などない」と述べて、ウクライナを見捨てようと動くトランプ2.0政権を間接的に批判している。
1.0政権で活躍したこの2人がトランプ2.0政権から締め出された事実は、政権発足当初は「再び動くか」と期待された北朝鮮外交や国連外交が進展しない大きな理由となっている。マルコ・ルビオ国務長官はいまのところはトランプ氏に対して、三歩下がってボスの影を踏まないような姿勢を貫いている。さらにはトランプ氏と彼のMAGA支持者に忠誠心を見せることに必死で、ルビオ外交と呼べるような見せ場は見られない。
ちなみに2.0政権にも、ポンペオ氏やヘイリー氏のように、自らの考えで活動計画を立案し、トランプの覚えめでたいことを確認した上で、成果を得るために活躍する人物がいた。政府効率化省(DOGE)を率いてきた実業家のイーロン・マスク氏だ。
だが、派手なパフォーマンスで、時に執務室内でトランプ大統領よりも目立つ態度が「政権の和を乱す人間は排斥する」と公言してきたスージー・ワイルズ首席補佐官の不興を買い、トランプ氏には惜しまれながらも就任4カ月足らずでホワイトハウスから消えることとなった。
■確かにマスク氏の言動には賛否あったが、彼の存在がなくなったことで、トランプ2.0政権を目立たせるような力のある屋台骨が一本なくなってしまった感じだ。
また、2.0政権にないもう一つの重要な要素が、1.0政権でトランプ外交を背後から支えたヘンリー・キッシンジャー国務長官のような「賢人」の存在だ。トランプ氏自身もキッシンジャー夫妻をよくホワイトハウスのパーティーに招き、彼の言うことには素直に耳を傾けたことで知られる。
だが、キッシンジャー氏がこの世を去って以降、トランプ氏に仕えるのは自己利益を求める人ばかりで、真の「賢人」は存在しなくなった。これもまた2.0政権にとっては、大きな痛手である。
確かにマスク氏の言動には賛否あったが、彼の存在がなくなったことで、トランプ2.0政権を目立たせるような力のある屋台骨が一本なくなってしまった感じだ。
また、2.0政権にないもう一つの重要な要素が、1.0政権でトランプ外交を背後から支えたヘンリー・キッシンジャー国務長官のような「賢人」の存在だ。トランプ氏自身もキッシンジャー夫妻をよくホワイトハウスのパーティーに招き、彼の言うことには素直に耳を傾けたことで知られる。
だが、キッシンジャー氏がこの世を去って以降、トランプ氏に仕えるのは自己利益を求める人ばかりで、真の「賢人」は存在しなくなった。これもまた2.0政権にとっては、大きな痛手である。
■バイデン前大統領の「がん隠蔽責任追及」で混迷する民主党
かくして、相互関税による大混乱からウクライナ戦争やガザ問題の混迷まで、いまやトランプ大統領は自分の利益や評判、MAGA勢力に褒められる成果しか考えていない。そして、深い考えもなしに手に触れるものは、すべて壊れてしまうような惨状になっている。
わずか4カ月の段階で、トランプ氏の意見を真正面から受け止めるのは疲れるだけだと多くのアメリカ人も国際社会の人々も考え始めるようになった。
ニューヨーク・タイムズ紙が行った最近の世論調査でも、回答者の3分の2がトランプ氏の2期目を「混沌としている」と答え、59%が「怖い」と回答している。そして、54%の人がトランプ氏が大統領の職務についていることに反対している。トランプ氏に一票を投じるべきではなかったと考える米国人の割合は増えるばかりだ。
このまま操縦不能なトランプ政権が続けば、遠くない将来に地面に激突して国際社会に被害が広がるだろう。いや、すでに「レームダック化」(政権の残りが少ないことで政治が回らなくなること)が見え始めているとも言えそうだ。
それでもトランプ氏がツイているのは、米民主党側が党ぐるみで「バイデン前大統領の前立腺がん」を隠していた懸念が出ていることだ。バイデン氏が在任中に認知能力の低下が指摘されたのは、実は治療に使うホルモン療法の後遺症であった可能性が新たに浮上しており、この事実をバイデン家、民主党指導部が知っていたのではないかとの疑惑が浮上したのである。
「誰が何を知っていたか」が焦点になり、民主党内に責任論が渦巻く混迷状態に陥っており、上層部が一掃されて新たな人々が浮上しない限り、未来が見通せない状況になっている。
こうした中、冒頭のウクライナ戦争を巡っては6月1日にウクライナ側がロシアの中心部深くにドローンを送り込み、複数のロシア空軍基地を一斉攻撃する「蜘蛛の巣作戦」と呼ばれる特殊軍事作戦を実施した。ロシア戦略爆撃機の34%を破壊する大きな勝利を得たが、この特殊作戦の実施について特筆すべきは、ウクライナのゼレンスキー大統領が、事前にトランプ大統領には一言も明かさないまま作戦を実行したことだ。
この作戦は、国際社会の面前でプーチン大統領の顔に泥を塗った格好になったが、同時にトランプ大統領の顔もつぶしたと言えるだろう。ウクライナを負ける運命にある貧しい小国扱いして、プーチン大統領の下僕に成り下がったままなら、重要な秘密は明かせないとウクライナから面と向かって宣言されたも同然だからだ。
このウクライナの軍事的快挙を受けて、ロシアとウクライナの間で行われた2日の直接会談は、2時間遅延して始まり、わずか1時間で終わった。今回も停戦へ向けた具体的な進展は見られなかった。
トランプ大統領は、最近の関税戦争で、中国に続いて欧州連合(EU)にも態度を軟化させ、英フィナンシャル・タイムズ紙の論説委員から「TACO(Trump Always Chickens Out=トランプはいつも腰砕け)」という言葉を送られて激怒した。
トランプ2.0政権が常に自滅するようなTACO型行動を繰り返す悪影響で、米国民の嫌トランプ気分が高まり、来年の中間選挙で共和党が上下両院を取り落とせば、現政権と国民の乖離が大きくなっていくと考えられる。その最悪の事態が起きた時に、冷静さを失ったトランプ大統領がどう動くかが懸念される。
難飛行を続けるアメリカは一体どこへ向かおうとしているのだろうか。
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【松本 方哉/まつもと・まさや】
ジャーナリスト。1956年、東京都生まれ。上智大学卒業後、1980年フジテレビに入社。報道局記者として首相官邸や防衛庁担当、ワシントン特派員などを務める。湾岸戦争、米同時多発テロ、アフガン戦争、イラク戦争などでは情報デスク、解説委員を務めた。2003年、報道番組「ニュースJAPAN」のメインキャスターに就任。専門は日米関係、米国政治と米国外交、国際安全保障問題。妻の介護体験を機に、医療・介護問題にも取り組む。日本外国特派員協会会員、日本メディア学会会員、白百合女子大学講師。著書に『突然、妻が倒れたら』(新潮文庫)「トランプVS.ハリス アメリカ大統領選の知られざる内幕」(幻冬舎新書)がある。
2025.6.6(金) 松本 方哉
■もはやトランプ大統領の「暴言」も国際社会に響かない
「私はこれまでロシアのウラジーミル・プーチンと非常に良好な関係を築いてきたが、彼に何かが起こったようだ」
5月24日から25日にかけて、ロシアによるウクライナの町や都市へのミサイル・ドローンによる攻撃が相次ぎ、少なくとも12人が死亡、数十人が負傷したことを受けて、トランプ米大統領は25日、一向にウクライナ戦争を終わらせようとしないロシアのプーチン大統領への不満を繰り返し記者団にぶちまけた。そして、その数時間後にはSNSに「プーチンは完全に狂ってしまった」と書き込んだ。
超大国とされる国の大統領が、他の国の大統領を名指しで狂人呼ばわりするのは、極めて異例のことである。ましてやその国が5580発の核弾頭を保有する世界最大の核保有国ロシアであることを考えると、深刻な異常事態である。
だが、この出来事がさらに興味深いのは、多くのメディアや国際関係者が、このトランプ発言を事実上ほぼ無視したことだった。「トランプ大統領、プーチン大統領を狂人と指摘」という見出しの記事が国内外の主要メディアに掲載されはしたが、なんの切迫性も緊張感も、あるいは記事自体のパンチも感じられなかった。
理由は簡単だ。トランプ大統領の発言は、もはや国際社会に響かなくなっているのだ。「どうせ、トランプはプーチンの“しもべ”だから、大した制裁の動きは取らないだろう」という反応の表れとも取れる。ことプーチン大統領の話になると打ち出しは派手だが、強気に出た後は、ぱらぱら火の粉が落ちてしぼんでしまう花火のようにしりつぼみになるのが「トランプの発言力」だと、人々は考え始めている。
■初めからロシアへの制裁など「やる気なし」
そもそも過去の米国大統領であれば、直ちにホワイトハウスで国家安全保障会議を開催し、国務省、国防総省、CIA(中央情報局)に対して事態の把握と警戒の強化を呼びかけただろう。
また、米国連大使に命じて、国連の場での緊急の安全保障理事会の開催を呼びかけ、民主主義を旗印に掲げるアメリカとして同盟国と一致団結し、ウクライナへの残虐な軍事侵略を止めようとしないプーチン氏とロシア政府に対して非難決議の一本でも取りまとめるために全力を尽くしたことであろう。
少なくとも過去40年余りで言えば、共和党のレーガン元大統領から民主党のバイデン前大統領までの歴代米国大統領は民主主義を守り、権威主義の独裁者を許さないとの視点に立ち、それが矜持でもあったはずだ。
他方、トランプ大統領が、プーチン大統領を「おかしくなった」と主張したのは、祝日のゴルフを終えてワシントンへ戻る途上、同行記者団に捕まったから答えたような気の抜けた場であった。
誰もが考えたように、ワシントンへ戻っても、やはり国家安全保障会議が緊急開催される気配などまったくなかった。
そもそも、国家安全保障の担当補佐官だったマイク・ウォルツ氏は1カ月前に国連大使に更迭されており、はたまたホワイトハウス内のNSC(国家安全保障会議)も「トランプ大統領に楯突くディープステートの官僚がいる」として300人規模の大組織から50人以下の地味な組織に強制解体する動きの途上にある。これまでの「大統領に諸政策を提言する集団」から「大統領の決めたことを実行するのが役割のグループ」に、規模も役割も大幅縮小する動きの真っただ中なのだ。
また、トランプ大統領はウクライナに対して、ロシア軍から身を守る高性能の武器を緊急供与したり、大規模人道支援を発表したりすることもなかった。記者団に「何らかの制裁を検討する」とは述べたものの、欧州諸国の対ロシア追加制裁に加わるのは否定的なままで、発言の翌日には「プーチン氏の様子を2週間ほど見守る」と発言はさらにトーンダウンした。要はやる気など皆無なのだ。
プーチン氏におもねる姿勢は変わっておらず、「プーチンの得になること、有利になること以外は何もしない路線」を国際社会の多くの人々はよく分かっていたので、トランプ氏が一時的に騒いでもしらけた目で見るだけだったのだ。一部の米民主党議員が揶揄するような“腰抜けトランプ”の面目躍如であった。
■2.0政権の閣議はまるで北朝鮮政府の会合のよう
4月29日にトランプ2.0政権がスタートして100日が過ぎたが、この4カ月余りで、トランプ1.0政権(2017年~2021年)との大きな相違が明確化してきた。
筆者は第一次トランプ政権について、拙著『トランプVS.ハリス─アメリカ大統領選の知られざる内幕』(幻冬舎新書)の中で、トランプ1.0政権の最終段階を「重要な乗員(補佐官)たちが脱出してしまい、炎と煙を吐いて墜落しつつある航空機」に例えた。
そして、今年1月20日に再スタートした2.0政権については、新たな航空機に変容して、再度滑走して空へ舞い上がった、と当初は考えていた。
だが、4カ月経って分かってきたのは、実は、1月20日の就任式当日に起こったことは、トランプ1.0政権の墜落する航空機の中に国際社会ごと全員が戻っただけだった、という事実だった。墜落の速度は速まり、揺れも前回よりひどかった。
思えば、1.0政権では米共和党のためにトランプ政権を成功させようという共和党中道派や保守本流の勢力から参加した有能な閣僚や補佐官たちが政権内にいた。自身のビジネスセンスを最大の売りにした“トランプ流”のやりたい放題には賛同しかねるが、共和党として政権を正しく運営しようという人物が、共和党保守本流の思想、行動原則を強く押し出して、政策を実行し続けた。
そうしたメンバーの中には、国家安全保障会議のジョン・ケリー元補佐官やジョン・ボルトン元補佐官、ジェームズ・マティス国防長官らがおり、結局彼らは皆、トランプ大統領と正面からぶつかって辞任するに至った。トランプ氏には、自分の利益と評判とMAGA(米国を再び偉大に)勢力に褒められる成果しか眼中になかったからだ。
トランプ2.0政権にはこうした「共和党の基本思想が大統領職より上位にある」と考える閣僚が一人も存在しない。閣僚選別の段階で、「トランプへの忠誠心」だけが重要なファクターとなったためだ。
1.0政権では、閣議はそれでも皆が意見を出し合う場という雰囲気があったが、2.0政権の定例閣議ではどの閣僚も「大統領の偉大な指導力のおかげで、政策は大成功している」と、まるで北朝鮮政府の会合かと思うような甘ったるいトランプ大統領への忠誠心を明かす発言のオンパレードとなっている。
しかも、忠誠心だけで閣僚の座を得た人物が、自分の言動を批判する省庁内の官僚については「ディープステート」のレッテルを貼ってクビにするため、国防総省やCIAなどの省庁も上手く機能していないと指摘されている。
■トランプ氏に仕えているのは自己利益を求める人ばかり
また、トランプ1.0政権には共和党の次期大統領の座を狙って、トランプ政権で名乗りを上げたいとの野心を胸に、次代の大統領を目指して活躍する行動派タイプの閣僚も存在していた。
国務長官として北朝鮮との非核化交渉を強力に進展させ、トランプ大統領と金正恩委員長による3回の直接会談開催にこぎ着けることに成功したマイク・ポンペオ元国務長官や、国連大使として対ロシア、対中国のタカ派米外交を徹底的に追求して名をあげたニッキー・ヘイリー氏がこのタイプである。
いずれも自ら策を練り、積極的に動いて成果をものにしてきた人物だが、2人ともトランプ再選には共和党員として反対の姿勢を打ち出したために、トランプ2.0政権からは締め出されてしまった。
ポンペオ氏は最近、カナダのオタワで記者会見した際に、カナダを米国の51番目の州にしたがっているトランプ大統領の態度を受け流し、「カナダは自国の主権を維持すると確信している」と、カナダ国民にエールを送り、前のボスの神経を逆なでしてみせた。
一方、ヘイリー氏もテレビの政治番組の中で、「私たちはウクライナ国民の友人になる必要があり、彼らがわれわれに(支援を)懇願する態度を取らせる必要などない」と述べて、ウクライナを見捨てようと動くトランプ2.0政権を間接的に批判している。
1.0政権で活躍したこの2人がトランプ2.0政権から締め出された事実は、政権発足当初は「再び動くか」と期待された北朝鮮外交や国連外交が進展しない大きな理由となっている。マルコ・ルビオ国務長官はいまのところはトランプ氏に対して、三歩下がってボスの影を踏まないような姿勢を貫いている。さらにはトランプ氏と彼のMAGA支持者に忠誠心を見せることに必死で、ルビオ外交と呼べるような見せ場は見られない。
ちなみに2.0政権にも、ポンペオ氏やヘイリー氏のように、自らの考えで活動計画を立案し、トランプの覚えめでたいことを確認した上で、成果を得るために活躍する人物がいた。政府効率化省(DOGE)を率いてきた実業家のイーロン・マスク氏だ。
だが、派手なパフォーマンスで、時に執務室内でトランプ大統領よりも目立つ態度が「政権の和を乱す人間は排斥する」と公言してきたスージー・ワイルズ首席補佐官の不興を買い、トランプ氏には惜しまれながらも就任4カ月足らずでホワイトハウスから消えることとなった。
■確かにマスク氏の言動には賛否あったが、彼の存在がなくなったことで、トランプ2.0政権を目立たせるような力のある屋台骨が一本なくなってしまった感じだ。
また、2.0政権にないもう一つの重要な要素が、1.0政権でトランプ外交を背後から支えたヘンリー・キッシンジャー国務長官のような「賢人」の存在だ。トランプ氏自身もキッシンジャー夫妻をよくホワイトハウスのパーティーに招き、彼の言うことには素直に耳を傾けたことで知られる。
だが、キッシンジャー氏がこの世を去って以降、トランプ氏に仕えるのは自己利益を求める人ばかりで、真の「賢人」は存在しなくなった。これもまた2.0政権にとっては、大きな痛手である。
確かにマスク氏の言動には賛否あったが、彼の存在がなくなったことで、トランプ2.0政権を目立たせるような力のある屋台骨が一本なくなってしまった感じだ。
また、2.0政権にないもう一つの重要な要素が、1.0政権でトランプ外交を背後から支えたヘンリー・キッシンジャー国務長官のような「賢人」の存在だ。トランプ氏自身もキッシンジャー夫妻をよくホワイトハウスのパーティーに招き、彼の言うことには素直に耳を傾けたことで知られる。
だが、キッシンジャー氏がこの世を去って以降、トランプ氏に仕えるのは自己利益を求める人ばかりで、真の「賢人」は存在しなくなった。これもまた2.0政権にとっては、大きな痛手である。
■バイデン前大統領の「がん隠蔽責任追及」で混迷する民主党
かくして、相互関税による大混乱からウクライナ戦争やガザ問題の混迷まで、いまやトランプ大統領は自分の利益や評判、MAGA勢力に褒められる成果しか考えていない。そして、深い考えもなしに手に触れるものは、すべて壊れてしまうような惨状になっている。
わずか4カ月の段階で、トランプ氏の意見を真正面から受け止めるのは疲れるだけだと多くのアメリカ人も国際社会の人々も考え始めるようになった。
ニューヨーク・タイムズ紙が行った最近の世論調査でも、回答者の3分の2がトランプ氏の2期目を「混沌としている」と答え、59%が「怖い」と回答している。そして、54%の人がトランプ氏が大統領の職務についていることに反対している。トランプ氏に一票を投じるべきではなかったと考える米国人の割合は増えるばかりだ。
このまま操縦不能なトランプ政権が続けば、遠くない将来に地面に激突して国際社会に被害が広がるだろう。いや、すでに「レームダック化」(政権の残りが少ないことで政治が回らなくなること)が見え始めているとも言えそうだ。
それでもトランプ氏がツイているのは、米民主党側が党ぐるみで「バイデン前大統領の前立腺がん」を隠していた懸念が出ていることだ。バイデン氏が在任中に認知能力の低下が指摘されたのは、実は治療に使うホルモン療法の後遺症であった可能性が新たに浮上しており、この事実をバイデン家、民主党指導部が知っていたのではないかとの疑惑が浮上したのである。
「誰が何を知っていたか」が焦点になり、民主党内に責任論が渦巻く混迷状態に陥っており、上層部が一掃されて新たな人々が浮上しない限り、未来が見通せない状況になっている。
こうした中、冒頭のウクライナ戦争を巡っては6月1日にウクライナ側がロシアの中心部深くにドローンを送り込み、複数のロシア空軍基地を一斉攻撃する「蜘蛛の巣作戦」と呼ばれる特殊軍事作戦を実施した。ロシア戦略爆撃機の34%を破壊する大きな勝利を得たが、この特殊作戦の実施について特筆すべきは、ウクライナのゼレンスキー大統領が、事前にトランプ大統領には一言も明かさないまま作戦を実行したことだ。
この作戦は、国際社会の面前でプーチン大統領の顔に泥を塗った格好になったが、同時にトランプ大統領の顔もつぶしたと言えるだろう。ウクライナを負ける運命にある貧しい小国扱いして、プーチン大統領の下僕に成り下がったままなら、重要な秘密は明かせないとウクライナから面と向かって宣言されたも同然だからだ。
このウクライナの軍事的快挙を受けて、ロシアとウクライナの間で行われた2日の直接会談は、2時間遅延して始まり、わずか1時間で終わった。今回も停戦へ向けた具体的な進展は見られなかった。
トランプ大統領は、最近の関税戦争で、中国に続いて欧州連合(EU)にも態度を軟化させ、英フィナンシャル・タイムズ紙の論説委員から「TACO(Trump Always Chickens Out=トランプはいつも腰砕け)」という言葉を送られて激怒した。
トランプ2.0政権が常に自滅するようなTACO型行動を繰り返す悪影響で、米国民の嫌トランプ気分が高まり、来年の中間選挙で共和党が上下両院を取り落とせば、現政権と国民の乖離が大きくなっていくと考えられる。その最悪の事態が起きた時に、冷静さを失ったトランプ大統領がどう動くかが懸念される。
難飛行を続けるアメリカは一体どこへ向かおうとしているのだろうか。
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【松本 方哉/まつもと・まさや】
ジャーナリスト。1956年、東京都生まれ。上智大学卒業後、1980年フジテレビに入社。報道局記者として首相官邸や防衛庁担当、ワシントン特派員などを務める。湾岸戦争、米同時多発テロ、アフガン戦争、イラク戦争などでは情報デスク、解説委員を務めた。2003年、報道番組「ニュースJAPAN」のメインキャスターに就任。専門は日米関係、米国政治と米国外交、国際安全保障問題。妻の介護体験を機に、医療・介護問題にも取り組む。日本外国特派員協会会員、日本メディア学会会員、白百合女子大学講師。著書に『突然、妻が倒れたら』(新潮文庫)「トランプVS.ハリス アメリカ大統領選の知られざる内幕」(幻冬舎新書)がある。
トランプ大統領の、プーチン大統領を狂人呼ばわりしたことで、さらに興味深いのは、多くのメディアや国際関係者が、このトランプ発言を事実上ほぼ無視したことだったと、ジャーナリストの松本方哉氏。
理由は簡単だ。トランプ大統領の発言は、もはや国際社会に響かなくなっているのだ。「どうせ、トランプはプーチンの“しもべ”だから、大した制裁の動きは取らないだろう」という反応の表れとも取れる。ことプーチン大統領の話になると打ち出しは派手だが、強気に出た後は、ぱらぱら火の粉が落ちてしぼんでしまう花火のようにしりつぼみになるのが「トランプの発言力」だと、人々は考え始めていると、松本氏。
少なくとも過去40年余りで言えば、共和党のレーガン元大統領から民主党のバイデン前大統領までの歴代米国大統領は民主主義を守り、権威主義の独裁者を許さないとの視点に立ち、それが矜持でもあったはずだと、松本氏。
トランプ大統領が、プーチン大統領を「おかしくなった」と主張したのは、祝日のゴルフを終えてワシントンへ戻る途上、同行記者団に捕まったから答えたような気の抜けた場。
ワシントンへ戻っても、やはり国家安全保障会議が緊急開催される気配などまったくなかったと、松本氏。
政見の現状は、国家安全保障の担当補佐官だったマイク・ウォルツ氏は1カ月前に国連大使に更迭されており、はたまたホワイトハウス内のNSC(国家安全保障会議)も「トランプ大統領に楯突くディープステートの官僚がいる」として300人規模の大組織から50人以下の地味な組織に強制解体する動きの途上にある。これまでの「大統領に諸政策を提言する集団」から「大統領の決めたことを実行するのが役割のグループ」に、規模も役割も大幅縮小する動きの真っただ中。
トランプ大統領はウクライナに対して、ロシア軍から身を守る高性能の武器を緊急供与したり、大規模人道支援を発表したりすることもなかった。記者団に「何らかの制裁を検討する」とは述べたものの、欧州諸国の対ロシア追加制裁に加わるのは否定的なままで、発言の翌日には「プーチン氏の様子を2週間ほど見守る」と発言はさらにトーンダウンした。要はやる気など皆無なのだと、松本氏。
プーチン氏におもねる姿勢は変わっておらず、「プーチンの得になること、有利になること以外は何もしない路線」を国際社会の多くの人々はよく分かっていたので、トランプ氏が一時的に騒いでもしらけた目で見るだけだったのだ。一部の米民主党議員が揶揄するような“腰抜けトランプ”の面目躍如であったとも。
トランプ2.0政権がスタートして100日が過ぎたが、この4カ月余りで、トランプ1.0政権(2017年~2021年)との大きな相違が明確化してきたと、松本氏。
松本氏は、トランプ1.0政権の最終段階を「重要な乗員(補佐官)たちが脱出してしまい、炎と煙を吐いて墜落しつつある航空機」に例えたと。
そして、今年1月20日に再スタートした2.0政権については、新たな航空機に変容して、再度滑走して空へ舞い上がった、と当初は考えていたのだそうです。
だが、4カ月経って分かってきたのは、実はトランプ1.0政権の墜落する航空機の中に国際社会ごと全員が戻っただけだった、という事実だと松本氏。
墜落の速度は速まり、揺れも前回よりひどいと。
1.0政権では米共和党のためにトランプ政権を成功させようという共和党中道派や保守本流の勢力から参加した有能な閣僚や補佐官たちが政権内にいた。
共和党として政権を正しく運営しようという人物が、共和党保守本流の思想、行動原則を強く押し出して、政策を実行し続けた。
そうしたメンバーの中には、国家安全保障会議のジョン・ケリー元補佐官やジョン・ボルトン元補佐官、ジェームズ・マティス国防長官らがおり、結局彼らは皆、トランプ大統領と正面からぶつかって辞任するに至った。トランプ氏には、自分の利益と評判とMAGA(米国を再び偉大に)勢力に褒められる成果しか眼中になかったからだ。
トランプ2.0政権にはこうした「共和党の基本思想が大統領職より上位にある」と考える閣僚が一人も存在しない。閣僚選別の段階で、「トランプへの忠誠心」だけが重要なファクターとなったと、松本氏。
1.0政権では、閣議はそれでも皆が意見を出し合う場という雰囲気があったが、2.0政権の定例閣議ではどの閣僚もまるで北朝鮮政府の会合かと思うような甘ったるいトランプ大統領への忠誠心を明かす発言のオンパレードとなっている。
しかも、忠誠心だけで閣僚の座を得た人物が、自分の言動を批判する省庁内の官僚については「ディープステート」のレッテルを貼ってクビにするため、国防総省やCIAなどの省庁も上手く機能していないと指摘されているのだそうです。
トランプ1.0政権には共和党の次期大統領の座を狙って、トランプ政権で名乗りを上げたいとの野心を胸に、次代の大統領を目指して活躍する行動派タイプの閣僚も存在していた。
国務長官として北朝鮮との非核化交渉を強力に進展させ、トランプ大統領と金正恩委員長による3回の直接会談開催にこぎ着けることに成功したマイク・ポンペオ元国務長官や、国連大使として対ロシア、対中国のタカ派米外交を徹底的に追求して名をあげたニッキー・ヘイリー氏がこのタイプだと、松本氏。
いずれも自ら策を練り、積極的に動いて成果をものにしてきた人物だが、2人ともトランプ2.0政権からは締め出されてしまったと。
1.0政権で活躍したこの2人がトランプ2.0政権から締め出された事実は、政権発足当初は「再び動くか」と期待された北朝鮮外交や国連外交が進展しない大きな理由となっている。マルコ・ルビオ国務長官はいまのところはトランプ氏に対して、三歩下がってボスの影を踏まないような姿勢を貫いている。ルビオ外交と呼べるような見せ場は見られない。
2.0政権にも、ポンペオ氏やヘイリー氏のように、自らの考えで活動計画を立案し、トランプの覚えめでたいことを確認した上で、成果を得るために活躍する人物・イーロン・マスク氏がいた。
だが、時に執務室内でトランプ大統領よりも目立つ態度が「政権の和を乱す人間は排斥する」と公言してきたスージー・ワイルズ首席補佐官の不興を買い、トランプ氏には惜しまれながらも就任4カ月足らずでホワイトハウスから消えることとなったと、松本氏。
2.0政権にないもう一つの重要な要素が、1.0政権でトランプ外交を背後から支えたヘンリー・キッシンジャー国務長官のような「賢人」の存在だとも。
キッシンジャー氏がこの世を去って以降、トランプ氏に仕えるのは自己利益を求める人ばかりで、真の「賢人」は存在しなくなったと、松本氏。
かくして、相互関税による大混乱からウクライナ戦争やガザ問題の混迷まで、いまやトランプ大統領は自分の利益や評判、MAGA勢力に褒められる成果しか考えていない。そして、深い考えもなしに手に触れるものは、すべて壊れてしまうような惨状になっているとも。
わずか4カ月の段階で、トランプ氏の意見を真正面から受け止めるのは疲れるだけだと多くのアメリカ人も国際社会の人々も考え始めるようになったと、松本氏。
ニューヨーク・タイムズ紙が行った最近の世論調査でも、回答者の3分の2がトランプ氏の2期目を「混沌としている」と答え、59%が「怖い」と回答。
54%の人がトランプ氏が大統領の職務についていることに反対している。トランプ氏に一票を投じるべきではなかったと考える米国人の割合は増えるばかりなのだそうです。
このまま操縦不能なトランプ政権が続けば、いや、すでに「レームダック化」が見え始めているとも言えそうだと、松本氏。
ウクライナ戦争を巡っては6月1日にウクライナ側がロシアの中心部深くにドローンを送り込み、複数のロシア空軍基地を一斉攻撃する「蜘蛛の巣作戦」と呼ばれる特殊軍事作戦を実施した。ロシア戦略爆撃機の34%を破壊する大きな勝利を得たが、この特殊作戦の実施について特筆すべきは、ウクライナのゼレンスキー大統領が、事前にトランプ大統領には一言も明かさないまま作戦を実行したことだと、松本氏。
この作戦は、国際社会の面前でプーチン大統領の顔に泥を塗った格好になったが、同時にトランプ大統領の顔もつぶしたと言えるだろう。ウクライナを負ける運命にある貧しい小国扱いして、プーチン大統領の下僕に成り下がったままなら、重要な秘密は明かせないとウクライナから面と向かって宣言されたも同然だからだと。
トランプ大統領は、最近の関税戦争で、中国に続いて欧州連合(EU)にも態度を軟化させ、英フィナンシャル・タイムズ紙の論説委員から「TACO(Trump Always Chickens Out=トランプはいつも腰砕け)」という言葉を送られて激怒したのだそうです。
トランプ2.0政権が常に自滅するようなTACO型行動を繰り返す悪影響で、米国民の嫌トランプ気分が高まり、来年の中間選挙で共和党が上下両院を取り落とせば、現政権と国民の乖離が大きくなっていくと考えられる。その最悪の事態が起きた時に、冷静さを失ったトランプ大統領がどう動くかが懸念されると、松本氏。
1期目は、新鮮な手法で習近平やプーチンをリードしてたトランプ氏。それは優秀なスタッフを募って的確な情報を得られていたから。
2期目は、イエスマンを数多く取り揃え。そのぷん裸の王様化。
プーチンには翻弄され、習近平にもしたたかに対抗され、トランプ流ディールは不調。
辞書の中で最も好きな言葉と言う「関税」戦術も、最も被害を被るのは、米国の消費者や企業とは、気ずいているのかどうか。
中間選挙でも、共和党の勝利は叶うのか。トランプ政権の支持率の行方は!
# 冒頭の画像は、迷走が続くトランプ大統領

この花の名前は、ホオベニエニシダ
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