yuuの夢物語

夢の数々をここに語り綴りたい

遠いいこえ 14

2007-07-10 13:40:32 | 創作の小部屋
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遠いいこえ
14
 逢沢は育子の義母と同化した義憤が創作への原動力に変わっていくのを羨ましく思えた。そこには、作者の必然が波打っていたからだった。
「いい作品にきっとなるよ。期待している。私のことなど忘れて戦時下へタイムスリップして子供達の瞳の輝きを書き上げてほしいんだ」
「今、各国で沢山の子供達が食料危機や自然の淘汰の前で、また戦争で尊い命を落としているわ。どうしてその子等の命を救えないの、助け合おうとしないの。日本が敗戦して母さんと母親が何を一番にしたかは、進駐軍に子供達への学校給食に力を貸してほしいという嘆願だったと聞いたわ。その貧困を経験している日本がどうして一番になって手貸し手を差し伸べようとしないの」
 育子は腹立たしく言葉をそこら中に播き散らした。
「その通りじゃ。子供らは飢えに苦しみ、目だけをギョロギョロとさせ、痩せこけて、腹の辺りだけが異様に脹くらんどったものじゃ。それらを知っとるこの国の国民がせんで誰が出来るというのじゃ。今のこの国にはそれが出来る。嘗てアメリカ軍が施してくれた脱脂乳とコッペパン、それでどれだけの子供達が飢えから救われたか愚かなこの国の国民は忘れたのじゃろうか・・・」
 房江の声が障子の外でした。
「かあさん、何時からそこえ・・・」
 育子は声を弾ませて言った。
「雄吉さん、育子さん、私はボケようとしたがボケられなんだ。ボケられたらなんぼか楽じゃろうと考えたんじゃが・・・・。そんなことで私がして来たことが心の中から消えるものではないって事がわかったから・・・。育子さん、明日から忙しくなるぞ、私の腹にあることをこの手で掴み出してぶち播けるからな。耳も目も使い過ぎて多少くたびれとるが、頭ははっきりしとる。『あの瞳の輝き永遠に』とか言う物語を、この私の生きてきた道、よたよたしながら転んだり躓いたりして通った道を、育子さんと遡ろうかね」
「ええ、母さん。本当の生きた言葉で綴りたいわ」
「義母さん、どうぞ入ってください」
 逢沢の周囲に立ち籠めていた空気が何だか暖かくなったように思えた。その一方で、房江の抑制が外れたのだろうか、これからが本当の意味でのボケの始まりになるのだろうか、ふと逢沢の心の隅に生まれた不安は否めなかった。それをそーと隠すように頬を少し緩めた。


愛読下さいましてありがとうございました・・・この作品は「となり」の続編です・・・。
フリーページにありますから合わせて読んでいただけたらと・・・。
今日から夏休みを頂きます・・・。なにかあったら更新します・・・。
その間に書かなくてはならないものを書き進める予定・・・。
暑さに負けずに健やかにお過ごし下さい・・・ご自愛を・・・ありがとうございました・・・。

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皆様御元気で・・・ご自愛を・・・ありがとうございました・・・。

恵 香乙著 「奏でる時に」
あいつは加奈子を抱いた。この日から加奈子は自分で作った水槽の中で孤独な魚と化した。

山口小夜著 「ワンダフル ワールド」文庫本化決定します・・・。
1982年、まだ美しかった横浜―風変わりなおんぼろ塾で、あたしたちは出会った。ロケット花火で不良どもに戦いを挑み、路地裏を全力疾走で駆け抜ける!それぞれが悩みや秘密を抱えながらも、あの頃、世界は輝いていた。大人へと押しあげられてしまったすべての人へ捧げる、あなたも知っている“あの頃”の物語。

山口小夜著「青木学院物語」

作者のブログです・・・出版したあとも精力的に書き進めています・・・一度覗いてみてはと・・・。
恵 香乙さん

山口小夜子さん

環境問題・環境保護を考えよう~このサイトについて~
別の角度から環境問題を・・・。
らくちんランプ
K.t1579の雑記帳さん
ちぎれ雲さん

遠いいこえ 13

2007-07-10 00:04:10 | 創作の小部屋
imgcef60151zikdzj.gif山口小夜子さんの作品が文庫本になりました・・・。

遠いいこえ
13

 饒舌であった房江がだんだんと寡黙になっていくのだった。終日部屋から出ようとせずに、カーテンを開けてルート2を見入っていたり、庭の秋桜を食入るように見つめていたりしていた。
「お隣の安井さんのように草花とか、刺繍にとか、絵とかに関心を示してくれればいいんですけれどね」
 育子はお隣の老夫婦の生き方に共感していたから、羨ましげに言った。
「義母さんは、今までに土いじりをした事があるのだろうか」
「学校で生徒たちと稲を植えてどのように成長するかの観察をしたはずだわ。それ位しかないと思う。母さんにそんな余裕はなかったはずだし」
「五年前だったかな、安木のお爺ちゃんが倒れられたときに・・・。退院しても殆ど動けなかったお爺さんを辛抱強く看病し、専門家顔負けのリハビリーをして、今ではご自分で殆どのことが出来るまでに回復させている、おばぁちゃんの愛情の深さかなって思うんだょ」
「本当だわ。五年間二つの身体を一つの身体のようにして・・・お隣のお爺ちゃんおばぁちゃんが元気でおられたら、母さんも・・・」
「夫婦ってほんとうに素晴らしいと思うよ。おまえさんが言うように・・・。年月が別々の肉体と精神を一個の肉体と精神に変えていくのだって事、そして、一つの物に同化しょうと働きかけていく、融合反応を起こしながら、徐々に一体化していくんだね。お隣さんの姿を見ていたらそう感じてしまった。義務感とか権利とかという制約が全く感じられずに、自分が今何をなすべきかを、しなくてはならないかを自然の内に行なっているて感じだったね。心が和み潤うね」 
「ええ、母さんどうにかならないかしら。何かいい方法がないものかしら」
「今度、義母さんを連れて県北のきみが行ったという学校へ行ってみようか。民話の採取も兼ねてだがね」 
「いいかもしれないわ。まだ少し紅葉には早いけれど、あの近くにはいい湯が沢山あるし・・・」
「あるかないかわからないけれど、義母さんが初めて奉職したという学校も見たいし、そこに、原因があるとしたら現場に立ってみようじゃないか」
「私は、母さんのことを書いているけれど、現場に立って確かめたことがないのょ。昭和十八年にかあさんを引き戻して・・・」
「あの時言えなかったことをどんどん語って貰うんだ。心と身体にしみ込んだ思いの丈を存分に吐き出してもらおう。そして、これから義母さんが生きていくために何が必要なのかを引き出せるように考えてみようじゃないか」
「私、漸く書けるような気がしてきたの。母さんの青春と子供達との交友、戦時下においての教育とその背景がどのように影響を及ぼしたかという童話。母さんは子供の瞳はいつも輝いていなくてはいけないてよく言っていたわ。だから、「あの瞳の輝き永遠に」という題にするわ」
「これで漸く義母さんの後を継げそうだね」
「ええ、この作品は母さんと共著、母さんを引きずっても連れていくわ。当時の状態のなかに再び掘り込んで、自分がなした行為を反省させながながら心に怒りを呼び覚ましてあげるわ」


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皆様御元気で・・・ご自愛を・・・ありがとうございました・・・。

恵 香乙著 「奏でる時に」
あいつは加奈子を抱いた。この日から加奈子は自分で作った水槽の中で孤独な魚と化した。

山口小夜著 「ワンダフル ワールド」文庫本化決定します・・・。
1982年、まだ美しかった横浜―風変わりなおんぼろ塾で、あたしたちは出会った。ロケット花火で不良どもに戦いを挑み、路地裏を全力疾走で駆け抜ける!それぞれが悩みや秘密を抱えながらも、あの頃、世界は輝いていた。大人へと押しあげられてしまったすべての人へ捧げる、あなたも知っている“あの頃”の物語。

作者のブログです・・・出版したあとも精力的に書き進めています・・・一度覗いてみてはと・・・。
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