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遠いいこえ
6
夏の日、真昼の余熱がまだ漂い淀んでいる時、房江が突然に逢沢の家から姿を消した。
逢沢と育子は、慌てて走った。房江の嫌いな逢魔が時が近づいていたからだ。気付くのが遅かったと逢沢は後悔した。二人で今度出版する「民話における男と女」のゲラ稿に朱を入れていたのだった。房江は自分の部屋で昼寝をしていたのを育子が確認していた。その時刻が三時頃であった。校正が一段落付いたので、お茶でもと台所へ立った時に房江の部屋を育子が覗き声を掛けようとしたが良く眠っていたので踵を返したのだった。それから四時間、二人は仕事に夢中になっていたのだった。房江のことが心配になって声を掛けると居なかったのだ。庭に飛びだし、家の周りを探し回った。育子は、
「おかあさん!」
と息をきらして汗を拭き拭き房江の名を呼んだ。声が薄暮の空に吸い込まれていた。
「どうしたのです?」
二人の慌ただしい姿に隣に住む安木老人が声を掛けた「おばあちゃんがいないのです」育子が口をとがらせて言葉を蹴飛ばしたのだった。
「ああ、おばあちゃんなら、沖に行くのはどちらですかいのう、と言って山を下りましたよ」
「何時のことでしょうか?」
育子が咳込んで問った。
「あれは私が洗濯物をしまっていた時でしたから・・・。五時頃でしょうか」
「育子、今日は何日だ」
逢沢は育子に日時を確認するように問った。
「ああ、今日はあの家を解体する日・・・」
「そうなんだ・・・」
逢沢は車庫へ走った。
「皆様御心配をお掛けしまして、すいません」
と言いながら育子も逢沢の後を追った。
車のエンジンを掛けるのももどかしく、二人は山を下りたのだった。
房江は、逢沢と育子が考えていたように、綺麗になくなった家の後に呆然と立ち尽くしていたのだった。家の残材は一かけらもなかった。その跡に山土が敷き詰められ、整地されていた。房江は、仏間があった辺りに立ち尽くしていたのだった。房江の頬を沈みかけた太陽が赤く染めていた。正に房江の怖がる逢魔が時が来ようとしていた。房江の顔は謡曲の「藤戸」の老婆、怨念を秘めて踊る痩せ女の面のように見えた。
「おかあさん」
育子が小さく言葉を落とした。
「やめておこう。そっと見ていてあげよう」
逢沢は育子を制した。房江の長い影が山土の上に伸びていた。その影が時折風に吹かれるように揺れた。だが、影も段々と暗やみに呑み込まれていった。それは、逢魔が時に人が消えていなくなると言う言い伝えを肯定しているようだった。
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皆様御元気で・・・ご自愛を・・・ありがとうございました・・・。
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あいつは加奈子を抱いた。この日から加奈子は自分で作った水槽の中で孤独な魚と化した。
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1982年、まだ美しかった横浜―風変わりなおんぼろ塾で、あたしたちは出会った。ロケット花火で不良どもに戦いを挑み、路地裏を全力疾走で駆け抜ける!それぞれが悩みや秘密を抱えながらも、あの頃、世界は輝いていた。大人へと押しあげられてしまったすべての人へ捧げる、あなたも知っている“あの頃”の物語。
作者のブログです・・・出版したあとも精力的に書き進めています・・・一度覗いてみてはと・・・。
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