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遠いいこえ
2
それまでは、房江は高台にある娘の家に時折来ては、
「良くもまあこんなところに住むはなえ。便利な家が
あるというのに」 と軽口を叩いては育子の顰蹙を買ったものだった。が、その事件が持ち挙がってからというもの、房江は家を出ようとはしなくなり、
「体が怠いし、足が重たいしな・・・」
と弱音を吐くようになったのだった。
房江が訪ねてこなくなると心配になり、頻繁に電話のダイヤルを回す育子の姿があったのだった。口では嫌味の応酬をしていても根の部分ではしっかり結ばれている母と娘の絵図を逢沢はみていて心が和むのだった。
逢沢も育子も十年前に買った高台の家で終日机に向かうか、採話旅行で集めた民話を分類し、カセットを回しながら原稿に起こすと言う作業をしていたから、房江が来ても一人ぽっちにすることもなく面倒が見られるのだった。
育子は房江の後を継ぎ女教師になったが、
「私には、可愛い子供達に序列を付けることは出来ないわ」と言ってさっさと辞め、童話の研究を始め、童話作家になっていた。少し悩んだあと踏切り良く割り切れたのは二人の間に子供がいなかったからだろうかと逢沢は考えたものだった。育子が眉を曇らせながら答案用紙に赤ペンを走らせる育子の顔は、蛍光灯の明かりの下でまるで能の痩せ女の表情だったのだ。
「私は、つくづく思うの。子供達の頭と心に理解させるようには教えることはできないって。つらいわ、どうすればいいと思う」と、育子は湿った言葉を逢沢の方へ鉛筆を転ばすように問ったのだった。
「現今の教育のカリキュラムでは、置いてきぼりになる子がいても仕方がないのではないか。そのように教育しているのだから」
「それが嫌なのよ。それは教育ではないわ。なぜ、なぜなの、どうして理解していない子がいるのに教科書のページを捲らなくてはならないのよ」
「辞めたいのか」
「ええ、辞めたいわ」
「逃げるのかい」
「逃げたいわ」
「じぁや、そうしたらいい」
「ええ、そうするわ」
「何の解決にもならんぞ」
「別の方法を考えるわ」
「別の方法をねえ」
「あるでしょう、別になにかが」
「うん、あるだろう」
逢沢は、だんだんと人相の悪くなっていく育子の顔を見るのが辛くなり、育子の行動に任せたのだった。現金なもので教師を降りた育子は溌剌とした身体と精神をと取り戻して年相応の容姿になったのだった。逢沢は近くの短大で日本文学を教えながら、民話の研究をしていた。原稿を書かないときには育子は逢沢の手伝いをした。民話の本を逢沢と育子の共著で何冊か出版していた。それが二人の子供のようなものであった。
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皆様御元気で・・・ご自愛を・・・ありがとうございました・・・。
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あいつは加奈子を抱いた。この日から加奈子は自分で作った水槽の中で孤独な魚と化した。
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1982年、まだ美しかった横浜―風変わりなおんぼろ塾で、あたしたちは出会った。ロケット花火で不良どもに戦いを挑み、路地裏を全力疾走で駆け抜ける!それぞれが悩みや秘密を抱えながらも、あの頃、世界は輝いていた。大人へと押しあげられてしまったすべての人へ捧げる、あなたも知っている“あの頃”の物語。
作者のブログです・・・出版したあとも精力的に書き進めています・・・一度覗いてみてはと・・・。
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