都知事選告示 足元の暮らしこそ語れ
2012年11月30日
石原慎太郎氏の辞職に伴う東京都知事選が告示された。首都の新リーダーを選ぶ都民の大仕事となる。候補者は長期に及んだ石原都政の功罪を仕分けし、地に足のついた政策を競い合ってほしい。
ヒト、モノ、カネ、情報があふれ、昼間人口が千五百万人にまで膨れ上がる東京。この大都市の足元で病気や飢えで力尽き、ほっておかれる悲劇が後を絶たない。
一人暮らしのお年寄りとは限らない。障害のある子と老親といった家族が共倒れになっている。これが繁栄を誇ってきたもう一つの首都の現実だ。
急速な高齢化や独居化、貧困化が背景に浮かぶ。医療や介護、福祉の救いが届かず、地域で孤立する高齢者や障害者らは増えるばかりだ。それは同時に交通弱者や災害弱者の増大を意味している。
行政は施設を造ったり、見守りサービスを広げたりとモノとカネをあてがい、ほころびを繕おうと腐心してきた。だが、インフラ整備だけでは行き詰まらないか。
大震災と原発事故が教えたのは、信頼に根差した支え合いの大切さだ。その“住民力”は東京でも水面下で息づいているはずだ。
そんな予感を抱かせるのは、放射能から子どもを守りたいという一心でつながったお母さんたちの活躍ぶりだ。安全な環境や給食を求めて勉強を重ね、放射線量を調べた。地元の行政や議会に働きかけて態勢を整えさせた。
少子高齢化や防災に備え、そうした知恵と工夫に裏打ちされた“住民力”をもっと地域から引き出せないか。草の根に分け入って情報を発信し、元気なヒトを呼び込めるリーダーを期待したい。
日本の首都が原発とどう向き合うかは重要な争点だ。都知事は国政への影響力も大きい。
原発リスクを地方に任せて発展を遂げた大都市として、東京はけじめをつけないといけない。放射能漏れ事故を招いた東京電力の大株主としての責任も重大だ。
原発の是非を問う住民投票の機会が奪われ、都民は意思表示ができずにいる。候補者はその民意の受け皿となるよう原発への姿勢を鮮明にすべきだ。
「脱原発」を訴える主要候補者は、元自民党総務会長の笹川尭氏と前日本弁護士連合会会長の宇都宮健児氏。前神奈川県知事の松沢成文氏と前副知事の猪瀬直樹氏の主張が曖昧に響くのはなぜか。
命と暮らしを左右しかねない問題だ。どう乗り越えるのか説得力のある道筋を示してほしい。