09-6-24
今年の梅雨は梅雨らしい。雨の日に、昔買って読んだ本を引っ張り出して読んだ。
上の写真は最近の新潮文庫の文庫本だが、読んだのは角川文庫の文庫本(昭和36年初版)で、
字が小さくかなずかいも古く読みにくかったが、それはそれで、少し情緒があった。昭和41年5月
読了とメモがしてあったので、43年前、22歳の時という計算になる。遠い昔のことだ。
藤村が信州小諸を拠点にして歩き回ったさまざまな土地や情景が、千曲川支流の鹿曲川近辺に
生まれ育った自分にとって、何か懐かしく、またほほえましく思うことが沢山あった。
再読もいいものだと感じた。
出版社/著者からの内容紹介
『若菜集』刊行ののち,私塾の教員として信州小諸で6年間を過ごした藤村(1872-1943)は,千曲
川にのぞむその地の人々の暮らしや自然を詩情豊かに描いた.
この小品集は,そのなかから作者自身が若い人たちのために選び,明治末から大正初期にかけて
雑誌『中学世界』に連載したものである.改版.(解説 井出孫六)
【国土交通省ホームページより】
信州を潤し、藤村が愛した清らかな流れ-千曲川-
千曲川は、長野県川上村、埼玉県秩父市、山梨県山梨市の3県の境にある甲武信ヶ岳にその源を
発し、佐久、上田の2つの盆地を経て長野市のある長野盆地にて最大の支川犀川を合流します。
長野市の東縁を流下すると、治水の難所である立ヶ花狭窄部をぬけ飯山盆地を貫流後、新潟県境
にいたり信濃川と名を変えます。途中の支川を合流させると流域面積7,163km2、流路延長214kmの
日本最長河川である信濃川の長野県内部分をいいます。
小諸なる古城のほとり(島崎藤村 「落梅集」(明治34)所収)
小諸なる古城のほとり ・
雲白く遊子悲しむ ・
緑なす(はこべ)は萌えず ・
若草も藉(し)くによしなし ・
しろがねの衾(ふすま)の岡辺 ・
日に溶けて淡雪流る ・
あたゝかき光はあれど ・
野に満つる香(かをり)も知らず ・
浅くのみ春は霞みて ・
麦の色わづかに青し ・
旅人の群はいくつか ・
畠中の道を急ぎぬ ・
暮れ行けば浅間も見えず ・
歌哀し佐久の草笛 ・
千曲川いざよふ波の ・
岸近き宿にのぼりつ ・
濁り酒濁れる飲みて ・
草枕しばし慰む ・
語釈
【小諸】 長野県北佐久郡の町。現在の小諸市。
【古城】 維新前は牧野氏一万五千石の居城。現在は懐古園という公園になっている。
【遊子】 旅人。
【はこべ】 なでしこ科の越年性草本。春の七草の一つ。
【藉くによしなし】 藉くすべもない。
【しろがね】 銀色。雪におおわれたさまの形容。
【衾】 夜具。ふとん。
【浅間】 浅間山。
【佐久】 小諸を中心とする郡の名。
【いざよふ】 進みもせず退きもせず、ためらうこと。
【濁り酒】 精製しないで白く濁った下級の地酒。
【草枕】 旅。旅情。