利害関係人を加えた訴訟上の和解

2016-08-25 17:48:47 | 民事手続法

2019-06-05:記載を整理して文献を追記した。

【例題】甲車(X所有、P運転)と乙車(Y所有運転)の物損事故において、甲車所有者Xが乙車運転者Yに対する損害賠償請求訴訟を提起した。Yによる別訴提起がなされないまま審理が進み、裁判官の和解勧試の結果、XYは「過失割合30:70」との内容で事実上の合意に至った。次回期日で和解成立となる見込みだが、XYとしては、一回的解決のため、甲車運転者Pも加えて訴訟上の和解を成立させたい。

 

[建前的な処理]

・【例題】においては、「YがPに対する別訴を提起(+本件訴訟との併合上申)→併合→XYPが揃って訴訟上の和解」という処理が考えられる。しかし、訴状作成の手間や別訴提起にかかる手数料(+郵券)がムダに感じるだろう。

・これ以外に、「XがPに対する訴訟告知→Pが(Xに)補助参加→XYPが揃って訴訟上の和解」という処理も(一応)考えられる。補助参加申出の手数料は500円。□梅本1006、講義案(1)266-8

 

[実情:利害関係人としての和解への参加許容]

・以上のような煩雑を嫌い、直截に「Pを本訴に参加させて訴訟上の和解を実現する」との方法が考えられる。民事訴訟において利害関係参加を定めた(民事調停法11条のような)規定は存在しないものの、裁判実務と学説は一致して、Pが「利害関係人」として訴訟上の和解に加入することを認める。□旧民訴法;兼子305、吉戒468/新民訴法;講義案(1)296、新堂367、伊藤460、重点講義上681

・利害関係人の範囲に制限はないし、Pが利害関係参加するのに(明文規定がない以上)格別の方式はない。【例題】では、[1]期日間での和解条項案すり合わせの際、X代理人から「Pを利害関係人参加させる」ことが事実上伝えられる→[2]X代理人がP委任状を提出→[3]期日にX代理人兼P代理人が出頭して和解成立、との簡易な流れが可能であろう(P代理人から期日当日に口頭で参加の申立てがあった、という処理か)。これに対し、P(代理人)から「利害関係人参加申出書」が提出される取扱いもあるし、裁判所から提出の指示がされる場合もあろう(例えば、東京地裁民事20部では申出書の提出を求めているか)。□吉戒470、講義案(1)296-7、LIBRA14

・Pが参加するにあたり、申立手数料は不要である(なお、民事調停では500円を要する)。□吉戒470

・和解に参加したPは、和解調書の「当事者の表示」欄に「利害関係人」として表示される。和解調書が債務名義となるとき、Pは「債務名義に表示された当事者」の一人として執行力を受ける(民執法23条1項1号)。なお、Pに対しても、執行に先立つ和解調書正本の要送達性(民執法29条)が要求されるだろう。□吉戎471、講義案(1)297,361

・Pに選任された代理人は「利害関係人訴訟代理人」と表示される。なお、X代理人がP代理人も兼任する場合は、利益相反(弁護士職務基本規程27条・28条)に注意。

・訴訟上の和解が成立する事案では、民訴法68条の原則にしたがって訴訟費用を各自負担とするのが通例化している。利害関係人に発生するものは「和解の費用」(民訴法68条)なので、条項は「訴訟費用及び和解費用は各自の負担とする。」となる。□講義案(1)344

・応用問題について講義案は次のように整理している;[1-1]「利害関係人が出頭した受諾和解」は認める余地あり。[1-2]「利害関係人が不出頭の受諾和解」は不可。[2]「利害関係人が加わる裁定和解」には消極的。□講義案(1)355-6,360-1

 

[利害関係人参加の理論]

・本来の「訴訟上の和解」は訴訟係属する当事者XY間でおこなわれる。□伊藤455

・この理解からは、訴訟が係属しないPの加入は「訴訟上の和解そのもの」には該当せず、むしろ民訴法275条が規定する「訴え提起前の和解」の性質をもつと説かれる。例えば、兼子305「〔Pとの関係では〕起訴前の和解に準じたものが、混合すると見られる」、三ヶ月442「この場合はこの者との関係では起訴前の和解に準ずる行為があり、これと本来の訴訟上の和解が混合しているとみればよい」。条解1474〔竹下守夫・上原敏夫〕、新堂367、新基本法コンメ192〔川嶋四郎〕も兼子説に依拠しているか。

・以上の通説的見解に対し、伊藤460「第三者と当事者との間の和解が起訴前の和解の要件(民訴法275条1項)を満たしているかについては疑問があり、起訴前の和解との説明は、比喩の域を出るものではない」、梅村1006「・・・第三者の訴訟当事者としての加入と解すべきである」。

・結局、「第三者が訴訟上の和解に参加すること」は明文もないし理論的には疑義も残るものの(議論に実益なし?)、次のように言えるか(身も蓋もないが);

[1]実体的には私法上の和解と異ならないので、許容してもOK。□吉戒468

[2]特に実害がない。

[3]訴訟上の和解を成立させるためには、利害関係人の和解加入を認めるべきケースがある。□伊藤460、高橋概論240「必要もあり、効用もある」

 

三ヶ月章『民事訴訟法』[1959]

兼子一『新修民事訴訟法体系〔増補版〕』[1965]

☆吉戒修一「和解調書作成上の問題点」後藤勇・藤田耕三編『訴訟上の和解の理論と実務』[1987]

高橋宏志『重点講義民事訴訟法(上)』[2005]

☆裁判所職員総合研修所監修『民事実務講義案1〔四訂版〕』[2008]

梅本吉彦『民事訴訟法〔第4版補正第2刷〕』[2010]

兼子一原著『条解民事訴訟法〔第2版〕』[2011]

新堂幸司『新民事訴訟法〔第5版〕』[2011]

伊藤眞『民事訴訟法〔第4版〕』[2011]

「特集 東京地裁書記官に訊く-交通部編ー」LIBRA2013年8月号p2~

高橋宏志『民事訴訟法概論』[2016]

加藤新太郎・松下淳一編『新基本法コンメンタール民事訴訟法2』[2017]

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