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非公開会社における取締役の辞任・解任

2020-03-30 13:32:29 | 契約法・税法・会社法

2025-04-05追記。

【例題】株式会社であるP社には、取締役Bがいる。

(case1)BからP社へ辞任の申入れがあった場合。

(case2)P社がBを解任する場合。

 

[取締役の辞任(1):通常の場合]

・会社と役員との法律関係は「委任に関する規定」が適用される(会社法330条)。したがって、役員は、会社に辞任の意思表示をすることをもって、いつでも辞任することができる(民法651条1項)。意思表示をする相手方は代表者となるが、唯一の代表者が辞任する際は取締役全員を相手方とする。唯一の取締役が辞任する際には、幹部従業員に辞任の意思表示受領権限を与えた上でその者を相手方とする処理がある。□神田238,221、江頭(9)416-7、足立浅川伊藤14-5

・取締役が辞任した場合、2週間以内に、「その者の退任による変更の登記」を申請する(会社法913条3項13号、915条1項、商業登記法54条4項)。辞任における添付書類(=「証する書面」)は「辞任届」、解任の場合は「株主総会議事録」となる(商業登記法54条4項)。資本金1億円以下の会社では、1件につき登録免許税10,000円。□神崎131-2,134、神田221、江頭401

・辞任が会社にとって不利な時期であった場合、当該退任取締役は損害賠償義務を問われる(民法651条2項)。□江頭(9)417

 

[取締役の辞任(2):欠員が出る場合]

・取締役会非設置会社における取締役の法定の員数は1人であるが(会社法326条1項)、定款の任意的記載事項(会社法29条)の一つとして、さらに員数を限定(上限や下限)を定めることも可能。

・唯一の取締役が辞任する際には、幹部従業員に辞任の意思表示受領権限を与えた上でその者を相手方とする処理がある。□江頭(9)416-7

・当該取締役の辞任によって員数が欠けてしまう場合、同人は、後任者が就任するまで取締役としての権利義務を有し(=役員権利義務者)(会社法346条1項)、その間、退任の登記もできない(最三判昭和43年12月24日民集22巻13号3334頁)。したがってこの場合、会社は、臨時株主総会を開催して、新取締役を遅滞なく選任する必要がある(会社法329条1項、976条22号)。□柴田28,127-8、神田223、江頭(9)416

 

[取締役の辞任(3):自身が取締役の地位にないことの確認請求]

・自らが取締役を辞任したにもかかわらず、会社がこれを認めない場合に、「辞任を主張する者×会社」の間で取締役の地位不存在確認請求訴訟を提起することが考えられる。□足立浅川伊藤6,7

・請求の趣旨:「原告が被告の取締役の地位にないことを確認する。」□足立浅川伊藤9

・請求原因事実:確認の利益を基礎付ける「原告の取締役の地位に争いがあること」のみで足りる。もっとも、実際は、先行して抗弁(株主総会での取締役の選任決議、就任の承諾)を自白し、合わせて再抗弁である「取締役の辞任」を主張立証することになろう。□足立浅川伊藤11

・なお、通常は登記手続を求めることがゴールになるだろうから、不存在確認に加えて取締役退任登記手続請求も併合する必要がある。□足立浅川伊藤10-1

 

[取締役の解任]

・取締役の任期途中であっても、原則として、株主総会の普通決議をもって、いつでも、理由を問わず、取締役を解任することができる(会社法339条1項)。□神田222、江頭(9)418

・議題と議案:選任の場合であれば、「取締役1名選任の件」が議題(※会社法298条1項2号の表現では「株主総会の目的事項」)となり、その議題に関して具体的に決議に付す「某氏を取締役として選任する。」が議案となる。これに対し、解任の場合は、選任と同様に「取締役1名解任の件/取締役某氏を解任する。」との形式で表現されるものの、理論的には、特定の誰かを解任することまでが議案に含まれると解されている。□田中161-2

・招集:非公開会社では、取締役から株主に対し、株主総会の日の1週間前まで(←定款で短縮可)に招集通知が発せられる必要がある(会社法299条1項)(※)。非取締役会設置会社における株主総会は一切の事項について決議できるので(会社法295条1項、309条5項本文)、原則として、議題をあらかじめ定める必要はないし(会社法299条4項、298条1項2号)、招集通知の要式も法定されていない(電話や口頭でもOK)。あえて解任議題を定める場合には、解任対象である取締役の氏名と解任理由を記載した「株主総会参考書類」を添付する(会社法施行規則78条)。□柴田100,103,126、江頭(9)337-8,347

※手続の例外(1):株主全員の同意があれば、招集手続を省略できる(会社法300条本文)。招集がなくても、株主全員が開催に同意して出席した総会も適法である。□神田190、江頭328-9、島村佐久間52

※手続の例外(2):株主が1人しかいない一人会社においては、招集手続は不要であるのはもちろん、いつでも・どこでも株主総会を開催できる。□神田190、柴田280、島村佐久間52

・取締役の出席:取締役は、株主総会において株主からの求めに応じた説明義務を負うので(会社法314条本文)、この意味で株主総会への出席義務が課せられているといえる(会社法施行規則72条3項4号により議事録記載事項ともされている)。この反対に、株主が取締役の欠席を不問にすることで、株主でない取締役の出席を排除することも許容されるか。□神田202、龍田前田201、柴田101

・普通決議:法定の定足数は議決権の過半数であるが(会社法309条1項)、取締役の解任決議の定足数に限っては、定款で3分の1まで引き下げることができる(会社法341条;それ以外の議題については、定足数を完全に排除することも可)。決議要件は、出席株主の議決権の過半数である(会社法309条1項)。□神田203,222,220

・議事録の作成:株主総会の議事については、議事録を作成する必要がある(会社法318条1項、会社法施行規則72条)。もっとも、株主総会議事録の記載には特別の法的効果はない。□江頭(9)374ー5

・取締役の解任は、決議の成立をもって直ちに効力が発生し、本人への告知を要しない(最三判昭和41年12月20日民集第20巻10号2160頁[ただし、取締役会による代表取締役の解任決議事案])。□江頭(9)419

・解任された取締役は、その「正当な理由」がないことを主張して損害賠償請求をする余地がある(会社法339条2項)。「損害=解任されなければ在任中や任期満了時に得られた利益」となろう。□神田222、江頭400、島村佐久間146-9,129

 

[退職慰労金の支給]→《「賃金」「給与」の性質》

・退任取締役に対する退職慰労金の支給は、「報酬」の一種として株主総会決議事項となる(会社法361条)。実務上は、通常の報酬より緩やかな決議方法が是認されており、取締役(過半数)への白紙一任がなされることが多い。□江頭463-4,357-8参照、島村佐久間173

・オーナーと決裂して退任に至った取締役については、「総株主の同意」「従業員としての地位」などを認定して退職慰労金の支給を認める救済裁判例がある。□江頭465、島村佐久間173-4

・所得税法は、「給与所得・退職所得」を広く捉えるので、取締役の報酬が「給与所得」とされるのと同様、退職慰労金も「退職所得」(所得税法30条1項)とされる。なお、退職所得の算定においては「(収入金額-退職控除額)×1/2」という平準化が認められているものの、取締役としての勤続年数が5年以下の者については、平準化が受けられない場合があるので注意。□坂田101,105-6、田中253、国税庁ウェブサイト

 

[補足:取締役と労働保険・社会保険]→《法人破産申立てにおける雇用関係の処理》《休職と社会保険・労働保険の処理》

・原則的に役員は雇用保険の被保険者とはなり得ないものの、労働者的性格の強さが肯定されれば雇用保険への加入が認められることがある。この例外ケースでは、退任(辞職)に伴って雇用保険の処理が必要となる。□厚生労働省ウェブサイト

・他方、「適用事業所で働き、職務の対価として報酬を受ける関係が常用的である」取締役(代表取締役を含む)については、厚生年金保険・健康保険の被保険者となる。□年金事務所ウェブサイト

 

柴田和史『類型別 中小企業のための会社法〔第2版〕』[2015]

神崎満治郎『商業登記法入門』[2015] ※崎は「大」でなく「立」

島村謙・佐久間裕幸編著『Q&A 中小企業経営に役立つ 会社法の実務相談事例』[2016]

江頭憲治郎『株式会社法〔第7版〕』[2017]

龍田節・前田雅弘『会社法大要〔第2版〕』[2017]

坂田真吾『実務に対応する 税務弁護の手引き』[2018]

田中亘『会社法〔第2版〕』[2018]

神田秀樹『会社法〔第22版〕』[2020]

丹下将克・内林尚久・伊藤圭子「株式会社の役員の解任の訴えをめぐる諸問題」判例タイムズ1506号5頁[2023]※2025-01-19追記

足立拓人・浅川啓・伊藤圭子「取締役の地位存在・不存在確認の訴えをめぐる諸問題」判例タイムズ1515号5頁[2024]※2025-01-19追記

江頭憲治郎『株式会社法〔第9版〕』[2024]

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