民事訴訟費用の確定

2023-12-22 13:56:42 | 民事手続法

【例題】Xは、Yに対する1000万円の支払を求める損害賠償請求訴訟を提起したところ、600万円の請求を認める一部認容判決が言い渡された。この訴訟において、Xは訴訟提起手数料などを負担している。

民事訴訟費用等に関する法律:民訴費用法

民事訴訟費用等に関する規則:民訴費用規則

 

[訴訟費用の主な種目]

・「訴訟費用」は民訴費用法2条が列挙する(1号から18号まで)。□研究15

・私見では、費用計算書は、次のような順序と構成で起案している。

〈本案〉(※さらに第一審と控訴審を分ける)

[1]訴え提起手数料(民訴費用法2条1号、3条1項、別表第一の下欄)

[2]訴状副本等及び第1回口頭弁論期日被告呼出状各送達費用(民訴費用法2条2号、11条1項1号、別表第一の下欄)

[3-1]戸籍謄本・資格証明書(民訴費用法2条7号)

[3-2]不動産登記事項証明書(民訴費用法2条7号)

[3-3]固定資産評価証明書(民訴費用法2条7号)

[4]書類の作成及び提出費用(民訴費用法2条6号、民訴費用規則2条の2第1項、民訴費用規則別表第二)

[5]調査嘱託や送付嘱託のため納付した費用

[6-1]本人の出頭旅費(民訴費用法2条4号イ、民訴費費用規則2条1項)

[6-2]本人の出頭日当(民訴費用法2条4号ロ、民訴費用規則2条2項)

[7-1]代理人の出当旅費(民訴費用法2条4号イ、民訴費費用規則2条1項)

[7-2]代理人の出頭日当(民訴費用法2条4号ロ、民訴費用規則2条2項)

[8]判決正本送達費用:なお、和解調書の送達費用は訴訟費用に含まれず、執行費用となる(たぶん)。

<訴訟費用額確定処分申立事件>

[ⅰ]催告書送付費用

[ⅱ]訴訟費用額確定処分正本送達費用

 

[種目の各論:郵送料関係]

・実務的に面倒なのは、電子納付(or予納郵便切手)のうちで具体的に使われた額の確認である。書記官に電話で確認するか、訴訟記録を閲覧することになる。

・本案では、「訴状副本送達費用/嘱託関係の費用/判決正本送達費用」程度の区分が穏当か。なお、真ん中の「文書送付嘱託等のために納付した費用」は「手数料以外の費用(民訴費用法11条1項1号)」に分類するのが正しいはずだが(たぶん)、私見では「文書又は物の送付費用(民訴費用法2条9号)」として処理された実績(?)がある。

・「相手方への直送費用」は訴訟費用に含まれないので(最一決平成26年11月27日民集68巻9号1486頁)、当事者の自己負担となる。□研究25-6

・催告書送付費用の予納の要否:後述のとおり、[1]訴訟費用が案分負担とされた場合、裁判所書記官から相手方への催告が必須となるので、申立人は「催告書送付費用の計上と納付」が必要となる。通常は、普通郵便代で足りるか(たぶん)。[2]他方で、訴訟費用が相手方全部負担とされた場合、多くは催告は不要となるので費用計算書への計上も不要(たぶん)。

・訴訟費用額確定処分正本送達費用の予納の要否:催告書送付費用とは別に、最終的に相手方(+自分)への正本送達費用を郵券で予納する必要がある。自分や相手方が書記官室で送達を受けるならば予納は不要。

 

[種目の各論:訴状の添付書類関係]

・訴訟費用として認められるのは、「当事者の法定代理人を明らかにする」「法人代表者資格を明らかにする」「不動産事件ゆえに不動産登記の提出が法定されている(民訴規則55条2項)」「訴額を明らかにする」といった目的を要する。それ以外の単なる書証として提出しただけではダメ。

 

[種目の各論:書類の作成及び提出費用]

・基本単価:1件につき「1,500円」となる。2つの訴えが併合された場合も「1件」である。□研究45

・主張書面加算:陳述された主張書面の数によって加算される。「通算6~20通:+1,000円」「通算21~35通:+2,000円」となる。□研究45-6

・書証加算:取り調べられた書証の数によって加算される。「通算16~65通:+1,000円」「通算66~115通:+2,000円」となる。枝番号も「1通」とカウントする。□研究46

・相手方加算:直送すべき相手方が6名以上になると加算がある。□研究46-7

 

[種目の各論:出頭日当と出頭旅費]

・本人の旅費:「本人尋問のため、本人と代理人が揃って法廷に赴いた」場合では、各自の旅費が認められる。□研究36

[1]同一簡裁であれば「1回(往復)300円」。ただし、0.5km以下ならば0円。

[2-1]「住所地簡裁~出頭地簡裁」の直線距離で測定し(Googleマップが便利)、10km未満ならば「1回(往復)300円」。

[2-2]「10~100km」であれば「1回(往復)キロ30円」(民訴費用規則別表第一)。

[2-3]「100km~」であれば「1回(往復)キロ50円」(民訴費用規則別表第一)。ただし「301km超」の部分は「1回(往復)キロ40円」に逓減(民訴費用規則別表第一)。

・本人の日当:「1回3,950円」。「本人尋問のため、本人と代理人が揃って法廷に赴いた」場合では、各自の日当が認められる。□研究36

・代理人の旅費:文字どおり「現実に出廷したこと」を要する(一番安い1名分まで)。さらに「本人基準の旅費」が上限とされる。□研究36-7

・代理人の日当:本人と同様に「1回3,950円」(代理人が複数出頭しても1名分まで)。「期日」であれば電話やwebでもOKだが、「日時」への参加は不可。□研究35-6

 

[費用額確定手続]

・申立て:第一審裁判所(民事記録係)の裁判所書記官に宛てて、「訴訟費用額確定処分の申立書」「費用計算書」「必要な郵券」を提出する。手数料は不要。ファクス可だが、郵券は別途提出する必要がある。なお、令和4年改正により、申立て期間が「訴訟費用負担裁判が確定してから10年以内」と限定された(民訴法71条2項)。

・相手方への直送:申立てと同時に、相手方(代理人)にも「申立書」「費用計算書」を直送する。

・催告の有無:[1]申立人も訴訟費用を案分負担する場合は、書記官から相手方に対して、費用計算書等の提出が催告される(民訴規則25条1項本文)。通常は〆切が2週間程度とされることが多いか。[2]相手方のみが訴訟費用を負担する場合は、通常は訴訟記録上から負担額が計算できるので、催告は不要とされることが多いか(民訴規則25条1項ただし書)。□講義案(2)131ー2

・処分:相手方への催告が不要となる事案では、申立てから1か月程度で処分がされることが多いか(たぶん)。処分の告知方法は限定されていないものの(民訴法71条4項)、通例は送達される。なお、費用額確定手続は非訟事件手続であるため処分に既判力は生じない(ただし、記載済みの費用種目と金額について蒸し返しは不可)□講義案(2)143

・異議:処分に不服のある者は、告知日から1週間以内に裁判所への異議申立てができる(民訴法71条4項、121条)。異議申立てにあたって新たな委任状は不要か(たぶん)。この審理はもともとの係属部が行うことになろう(たぶん)。裁判所は、「異議申立て却下/原処分取消しの自判/原処分取消しの差戻し」のいずれかを決定する(民訴法121条)。却下となる場合、他方当事者は特段の反論も求められることがないだろう(たぶん)。□研究95-6、講義案(2)143ー4

・即時抗告:異議申立てに対する決定に対し、当事者は、告知日から1週間以内に即時抗告をすることができる(民訴法71条8項、332条)。即時抗告一般とおり執行停止効を有する(民訴法334条2項)。□研究96

 

[強制執行による訴訟費用の回収]

・「訴訟費用額確定処分」は債務名義となる(民事執行法22条4号の2)。強制執行一般のとおり、事件記録の存在する係(正確には裁判所書記官)に対して、正本への執行文付与(※)を申し立てることになる(民事執行法26条1項2項)。□研究94-5

※異議や即時抗告は執行停止効があるので、異議審や即時抗告審が終了してから執行文付与申立てをすることになろう。□研究94-5

・強制執行一般と同じく、送達証明を要する(民事執行法29条前段)。

 

裁判所職員総合研修所監修『民事実務講義案2〔三訂版2刷〕』[2008]

裁判所職員総合研修所監修『民事訴訟等の費用に関する書記官事務の研究』[2019]

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