弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

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残業時間の長さと仕事熱心さ

2012-01-17 | 日記
Q62 残業時間が長いのは仕事熱心だからだとは思いませんか?

 結果を出している優秀な社員の残業時間が長いという話であれば,その優秀な社員に関しては,結果を出すために必要な仕事をするために,残業時間が長くなっているのかもしれません。
 しかし,残業時間ばかりが長くて勤務成績がいつまでたっても良くならない社員が,仕事熱心だと考えることはできません。
 本当の意味で仕事熱心な社員であれば,いい結果を出すのは時間の問題のはずです。

弁護士 藤田 進太郎

最近の残業代に関する相談の傾向

2012-01-17 | 日記
Q61 最近,残業に関する相談は,どのようなものが多いですか?

 以前は,残業するよう指示しても残業してもらえなくて困っているといった紛争が多かったようですが,最近ではそういった相談はほとんどありません。
 最近多いのは,(不必要に)残業をして残業代を請求してきたり,長時間の残業によりうつ病になったから損害を賠償して欲しいと請求してきたりする(退職した)社員の対応などです。
 つまり,最近の経営者は,社員にどうやって残業してもらうかで悩んでいるのではなく,残業した(と主張する)社員からの残業代請求や,うつ病になった(と主張する)社員の対応で悩んでいるというのが実情です。

 日本経済の実情を反映してか,最近は残業して残業代を稼ぎたいという社員が多く,残業禁止が組合差別であるといった主張さえされることがあります。
 社員が,所定労働時間外に長時間,オフィス内に残っている状態は,使用者にとって「リスク」であるということをよく理解する必要があります。

弁護士 藤田 進太郎

終業時刻を過ぎても退社しないままダラダラと会社に残っている社員に対する対応

2012-01-17 | 日記
Q60 終業時刻を過ぎても退社しないままダラダラと会社に残っている社員がいる場合,会社としてはどのような対応をすべきですか?

 残業するように指示していないのに,社員が終業時刻を過ぎても退社しないまま会社に残っているのが常態となっていて,それを上司が知っていながら放置していた場合に,当該社員から,黙示の残業命令があり,使用者の指揮命令下に置かれていたなどと退職後に主張されて,終業時刻後の在社時間について残業代割増賃金)の請求を受けることがあります。
 使用者としては,その時に帰りたいと言ってくれればすぐに退社させていた,今になって残業代の請求をしてくるのは不当だ,などと言いたくもなるかもしれませんが,残業してまでやらなくてもいいような仕事(所定労働時間内でやれば足りるような仕事)であったとしても,現実に仕事らしきものをダラダラとしていたような事案で労働時間性を否定するのは,なかなか難しいものがあり,生産性の低い在社時間が労働時間と評価されて残業代の請求が認められることも珍しくありません。
 また,在社時間が長い社員から,うつ病になったのは長時間労働のせいだなどと主張され,損害賠償請求を受けることも珍しくありません。
 使用者としては,終業時刻後も不必要に会社に残っている社員に対しては,速やかに仕事を切り上げて帰るよう指示すべきでしょう。

 仕事を切り上げて帰るよう指示しても帰ろうとしない社員に対しては,単に口頭で帰るよう伝えただけでは足りず,現実に仕事を止めさせ,会社建物(仕事をする部屋)の外に出すのが望ましい対応です。
 口では仕事を切り上げて帰れと言っていたとしても,会社(特に,仕事をする部屋)に残っているのを知りつつ放置していたのでは,無用のリスクが残ることになってしまいます。
 懇親等の目的で,仕事が終わった後も社内に残っているのを容認する場合は,最低限,タイムカードの打刻をさせるなどして,労働時間が終了していることを明確にしておく必要があります。
 ただ,訴訟になると,「労働時間の終了前にタイムカードに打刻するよう強要されて(上司が勝手にタイムカードを押して),残業させられた。」などといった主張をする社員もいますので,やはり,仕事と関係のないことは,仕事をする部屋の外(できるだけ会社建物の外)で行うようにするのが望ましいところです。

弁護士 藤田 進太郎

労働時間性が問題となりやすい時間

2012-01-16 | 日記
Q59 労働時間性が問題となりやすいのは,どのような時間についてですか?

 私の個人的印象としては,
① 終業時刻後退社までの在社時間
② 出社後始業時刻までの時間(朝礼等の時間を含む。)
③ 休憩時間
④ 出社後作業現場までの移動時間や作業現場から会社に戻るまでの移動時間(会社から自動車で作業現場に向かう場合等。)
⑤ スキルアップのための研修・訓練の時間
等の労働時間性について,労使の認識に齟齬が生じやすく,労働時間性が問題となりやすいという印象です。
 特に,「① 終業時刻後退社までの在社時間」については,要注意です。

弁護士 藤田 進太郎

労基法37条所定の残業代(割増賃金)算定の基礎となる労基法32条の労働時間

2012-01-16 | 日記
Q58 労基法37条所定の残業代(割増賃金)算定の基礎となる労基法32条の労働時間は,どの範囲の時間を指すのですか?

 労基法上の労働時間に該当するか否かは,労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるかどうかにより客観的に定められ,当該労働を行うことを使用者から義務付けられ,またはこれを余儀なくされたときには,当該行為は特段の事情のない限り,使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ,当該行為に要した時間は,それが社会通念上必要と認められる限り,労基法上の労働時間に該当するものと考えられています(三菱重工業長崎造船所事件最高裁第一小法廷平成12年3月9日判決)。
 ただし,労働時間性について最高裁判例があるとはいえ,その判断基準が抽象的なため,残業代(割増賃金)請求がなされた場合には,労使間で労働時間性について争いが生じることがあります。

弁護士 藤田 進太郎

四谷麹町法律事務所 トップページ 平成24年1月15日(日)

2012-01-15 | 日記
 四谷麹町法律事務所所長弁護士藤田進太郎東京)は,健全な労使関係の構築を望んでいる会社経営者のお手伝いをしたいという強い思いを持っており,使用者・経営者側弁護士として,労働問題の予防・解決に力を入れています。
 労働審判を申し立てられたり,団体交渉を申し入れられたりするなど,労働問題でお悩みでしたら,弁護士藤田進太郎にお気軽にご相談下さい。

 近年,労働問題が急増し,弁護士に対する相談件数が増加しています。
 しかし,労働問題に関するリスク管理が不十分な会社がまだまだ多く,無防備な状態のまま,労働者から労働審判を申し立てられたり,労働者が加入した合同労組から団体交渉を申し入れられたりして多額の解決金の支払を余儀なくされて初めて,対策を検討し始める会社経営者が多いというのが実情です。
 会社経営者が,労働問題に対して適切に対応することができなかったために大きなダメージを被り,社員に裏切られたとか,詐欺にあったようなものだとか,社員にも裁判官にも経営者の苦労を分かってもらえないだとか,法律が社会の実情に合っていないだとか嘆いてがっかりしている姿を見ていると,本当に残念な気持ちになります。
 せっかく一生懸命育ててきた会社なのですから,労働問題で大きなダメージを被って取り返しがつかない結果になる前にしっかり対応しておかなければなりません。

 弁護士藤田進太郎東京)は,健全な労使関係の構築を望んでいる会社経営者のお手伝いをしたいという強い思いを持っており,経営者側専門弁護士の立場から,労働問題の予防解決に特に力を入れています。
労働審判団体交渉に対する対応等のため,労働問題の予防解決を中心業務としている経営者側弁護士をお探しでしたら,弁護士藤田進太郎東京)にご相談下さい。

四谷麹町法律事務所
所長弁護士 藤田 進太郎

四谷麹町法律事務所 サービス内容ページ

2012-01-15 | 日記
サービス内容

1 労使紛争の予防解決
 四谷麹町法律事務所所長弁護士藤田進太郎は,健全な労使関係の構築を望んでいる会社経営者のお手伝いをしたいという強い思いを持っており,経営者側専門の立場から,
① 解雇に関する紛争の予防・解決
② 残業代に関する紛争の予防・解決
③ 問題社員対応④ 労働審判・労働訴訟の対応
⑤ 団体交渉労働組合対応
⑥ 長時間労働,うつ病,セクハラ,パワハラ,石綿吸引,じん肺等に関する損害賠償請求の対応
等の労使紛争の予防解決に特に力を入れています。
  労働問題の予防解決を中心業務としている経営者側弁護士をお探しでしたら,弁護士藤田進太郎にご相談下さい。

2 企業法務・訴訟対応
 顧問先企業の法務全般・訴訟対応を行っています。

3 企業再建・倒産処理
 顧問先企業の再建を支援しています。
 また,倒産処理,破産管財業務等にも従事しています。

4 その他
 顧問先企業関係者からの様々な相談に応じています。
 労働問題に関する講演,執筆活動を行っています。

弁護士 藤田 進太郎

法内残業に対する残業代支払の要否

2012-01-15 | 日記
Q56 所定労働時間が7時間の事業場において,1日8時間までの時間帯(1時間分)の法内残業について,残業代を支払わない扱いにすることはできますか?

 所定労働時間が7時間の事業場において,1日8時間までの時間帯(1時間分)の法内残業については,強行的直律的効力(労基法13条)を有する労基法37条の規制外ですので,労基法37条に基づく残業代割増賃金)の請求は認められず,法内残業分の残業代を支給する義務が使用者にあるかどうかは,労働契約の解釈の問題となります。
 例えば,1日の所定労働時間が7時間の会社において,最初の1時間残業した部分(法内残業)については労基法37条に基づく残業代割増賃金)の請求は認められず,就業規則や個別合意に基づく残業代請求が認められるかどうかが検討されることになります。
 強行的直律的効力(労基法13条)を有する労基法37条の規制外の問題である以上,理屈では法内残業については残業代を支給しない扱いにすることもできることになります。

 もっとも,「労働契約の合理的解釈としては,労基法上の労働時間に該当すれば,通常は労働契約上の賃金支払の対象となる時間としているものと解するのが相当である」(大星ビル管理事件最高裁第一小法廷平成14年2月28日判決)と考えるのが一般的ですから,法内残業時間の賃金額について何の定めもないからといって,直ちに賃金を支払わなくていいことにはなりません。
 法内残業時間の賃金額に関する明示の合意がない場合は,割増をしない通常の賃金額を支払う旨の黙示の合意があるものと解釈して賃金額を計算すべきことになるのが通常です。
 仮に,法内残業時間の残業代を不支給にするとか,通常の賃金額よりも低い金額にするとかいった場合には,明確にその旨を合意するなどして,労働契約の内容としておくべきでしょう。

弁護士 藤田 進太郎

常時10人未満の労働者を使用する使用者と残業代(労基法上の時間外割増賃金)の支払

2012-01-15 | 日記
Q55 常時10人未満の労働者を使用する使用者については,残業代(労基法上の時間外割増賃金)の支払に関し,例外が定められていると聞いたのですが,それはどのようなものですか?

① 物品の販売,配給,保管若しくは賃貸又は理容の事業
② 映画の映写,演劇その他興行の事業
③ 病者又は虚弱者の治療,看護その他保健衛生の事業
④ 旅館,料理店,飲食店,接客業又は娯楽場の事業
のうち,常時10人未満の労働者を使用する使用者
については,労基法施行規則25条の2第1項により,労基法32条の規定にかかわらず,1週間につき44時間,1日につき8時間まで労働させることができるとされていますので,1週間については44時間を超えて労働させて初めて,残業代(労基法に基づく時間外割増賃金)の支払が必要となります。

 なお,この例外規定が適用される場合であっても,1日当たりの労働時間は8時間が上限とされていますので,1日8時間を超えて働かせた場合には,残業代時間外割増賃金)の支払が必要となります。
 1週間につき44時間を超えて働かせた時間についてだけ残業代を払えばいいと誤解されていることがありますので,ご注意下さい。

弁護士 藤田 進太郎

労基法上,使用者が残業代(割増賃金)の支払義務を負う場合

2012-01-15 | 日記
Q54 労基法上,使用者が残業代(割増賃金)の支払義務を負うのはどのような場合ですか?

 使用者が労働者に対し,1週間につき40時間,1日につき8時間を超えて労働をさせた場合,法定休日に労働をさせた場合,午後10時から午前5時までの間(深夜)に労働をさせた場合には,労基法37条に基づき,原則として,残業代割増賃金)の支払義務を負うことになります。

弁護士 藤田 進太郎

高年齢者雇用安定法9条の高年齢者雇用確保措置

2012-01-09 | 日記
Q163 高年齢者雇用安定法9条の高年齢者雇用確保措置として,どれが取られることが多いのでしょうか?

 厚生労働省の「今後の高年齢者雇用に関する研究会」が取りまとめた「今後の高年齢者雇用に関する研究会報告書」によると,平成22(2010)年の時点において,雇用確保措置を導入している企業の割合は,全企業の96.6%であり,そのうち,
① 定年の引上げの措置を講じた企業の割合 → 13.9%
② 継続雇用制度を導入した企業の割合    → 83.3%
③ 定年の定めを廃止した企業の割合      → 2.8%
となっています。
 高年齢者雇用安定法9条の高年齢者雇用確保措置としては,②継続雇用制度を導入している企業の割合が,圧倒的に多くなっています。

弁護士 藤田 進太郎

社外の合同労組に加入して団体交渉を求めてきたり,会社オフィスの前でビラ配りしたりする。

2012-01-05 | 日記
Q23 社外の合同労組に加入して団体交渉を求めてきたり,会社オフィスの前でビラ配りしたりする。

 社内の過半数組合との間でユニオン・ショップ協定(雇われた以上は特定の組合に加入せねばならず,加入しないときは使用者においてこれを解雇するという協定)が締結されている会社の場合,ユニオン・ショップ協定を理由に,社内の労働組合を脱退して社外の合同労組に加入した社員を解雇することができないか検討したくなるかもしれませんが,「ユニオン・ショップ協定のうち,締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名されたが,他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は,右の観点からして,民法90条の規定により,これを無効と解すべきである(憲法28条参照)。」とするのが最高裁判例(三井倉庫港運事件最高裁第一小法廷平成元年12月14日判決)ですので,ユニオン・ショップ協定を理由に,当該社員を解雇することはできません。

 社外の合同労組からの団体交渉申入れであっても,原則として応じる必要があります。
 社内組合が唯一の交渉団体である旨の規定(唯一交渉団体条項)のある労働協約が締結されていたとしても,団体交渉拒否の正当な理由とはならず,団交拒否は不当労働行為となります。

 会社オフィス付近での街宣活動が正当な組合活動と評価される場合には,懲戒処分,差止請求,損害賠償請求等をすることはできません。
 他方,正当な組合活動を逸脱するようなものについては,懲戒処分,差止請求,損害賠償請求等が認められる余地があります。

 施設管理権との関係では,労働組合またはその組合員が,使用者の許諾を得ないで企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは,原則として使用者の施設管理権を不当に侵害するものであり,正当な組合活動とはいえません。
 他方,会社敷地内での組合活動であっても,一般人が自由に立ち入ることができる格別会社の職場秩序が乱されるおそれのない場所での組合活動は,使用者の施設管理権を不当に侵害するものとはいえないと評価されることになります。
 会社オフィス前でのビラ配りは,使用者の施設管理権を不当に侵害するとはいえないのが通常です。

 組合活動としてなされる文書活動であっても,虚偽の事実や誤解を与えかねない事実を記載して,会社の利益を不当に侵害したり,名誉,信用を毀損,失墜させたり,あるいは企業の円滑な運営に支障を来たしたりするような場合には,組合活動として正当性の範囲を逸脱すると評価することができ,懲戒処分,損害賠償請求等の対象となります。
 したがって,ビラ配りがなされた場合は,ビラの内容をチェックし,対応を検討すべきこととなります。

弁護士 藤田 進太郎

トラブルの多い社員が定年退職後の再雇用を求めてくる。

2012-01-05 | 日記
Q22 トラブルの多い社員が定年退職後の再雇用を求めてくる。

 高年齢者雇用安定法9条1項は,65再未満の定年の定めをしている事業主に対し,その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため,
① 定年の引上げ
② 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは,当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入
③ 定年の定めの廃止
のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講じなければならないとしています。
 そして同条第2項において,過半数組合又は過半数代表者との間の書面による協定により,②継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定めることができる旨規定されています。
※ 平成22年4月1日から平成25年3月31日までは,上記「65歳」を「64歳」と読み替えることになるため(附則4条1項),雇用確保措置が義務付けられているのは64歳までですが,65歳までの雇用確保について「努力」義務が課せられています(附則4条2項)。

 平成22(2010)年において,雇用確保措置を導入している企業の割合は,全企業の96.6%であり,
① 定年の引上げの措置を講じた企業の割合 → 13.9%
② 継続雇用制度を導入した企業の割合    → 89.9%
③ 定年の定めを廃止した企業の割合      → 2.8%
ですから,トラブルの多い社員が定年退職後の再雇用を求めてくることに対する対策としては,通常は,②継続雇用制度を採用した上で,「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準」を定めるか,再雇用自体は認めた上で,担当業務内容,賃金額等の労働条件により不都合が生じないようにすることが考えられます。

 まずは,継続雇用の基準についてですが,継続雇用の基準は具体的で客観的なものである必要があり,トラブルが多い社員は継続雇用の対象とはならないといった抽象的な基準を定めたのでは,公共職業安定所において,必要な報告徴収が行われるとともに,助言・指導,勧告の対象となる可能性があります。
 健康状態,出勤率,懲戒処分歴の有無,勤務成績等の客観的基準を定めるべきでしょう。
 実際の継続雇用制度の基準の内容としては,以下のようなものが多くなっています。
① 健康上支障がないこと(91.1%)
② 働く意思・意欲があること(90.2%)
③ 出勤率,勤務態度(66.5%)
④ 会社が提示する職務内容に合意できること(53.2%)
⑤ 一定の業績評価(50.4%)

 常時10人以上の労働者を使用する使用者が,継続雇用制度の対象者に係る基準を労使協定で定めた場合には,就業規則の絶対的必要記載事項である「退職に関する事項」に該当することとなるため,労働基準法第89条に定めるところにより,労使協定により基準を策定した旨を就業規則に定め,就業規則の変更を管轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。
 高年齢者雇用安定法9条には私法的効力がない(民事訴訟で継続雇用を請求する根拠にならない)と一般に考えられていますが,就業規則に継続雇用の条件が定められていればそれが労働契約の内容となり,私法上の効力が生じることになります。
 したがって,就業規則に規定された継続雇用の条件が満たされている場合は,高年齢者は,就業規則に基づき,継続雇用を請求できることになります。

 就業規則に定められた継続雇用の要件を満たしている定年退職者の継続雇用を拒否した場合,会社は損害賠償義務を負うことになります。
 裁判例の中には,解雇権濫用法理の類推などにより,労働契約の成立自体が認められるとするものもあります。

 高年齢者雇用確保措置が義務付けられた主な趣旨が年金支給開始年齢引き上げに合わせた雇用対策であることからすれば,原則どおり,希望者全員を継続雇用するという選択肢もあり得ます。
 統計上も,継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準制度により離職した者が定年到達者全体に占める割合は,わずか2.0%に過ぎません。
 トラブルが多い点については,トラブルが生じにくい業務を担当させる(接客やチームワークが必要な仕事から外す等。)ことや,賃金の額を低く抑えること等により対処することも考えられます。

 高年齢者雇用安定法上,再雇用後の賃金等の労働条件については特別の定めがなく,年金支給開始年齢の65歳への引上げに伴う安定した雇用機会の確保という同法の目的,最低賃金法等の強行法規,公序良俗に反しない限り,就業規則,個別労働契約等において自由に定めることができます。
 もっとも,就業規則で再雇用後の賃金等の労働条件を定めて周知させている場合,それが労働条件となりますから,再雇用後の労働条件を,就業規則に定められている労働条件に満たないものにすることはできません。
 また,高年齢者雇用確保措置の主な趣旨が,年金支給開始年齢引上げに合わせた雇用対策,年金支給開始年齢である65歳までの安定した雇用機会の確保である以上,継続雇用後の賃金額に在職老齢年金,高年齢者雇用継続給付等の公的給付を加算した手取額の合計額が,従来であれば高年齢者がもらえたはずの年金額と同額以上になるように配慮すべきだと思います。

 高年齢者雇用安定法が求めているのは,継続雇用制度の導入であって,事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではなく,事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば,労働者と事業主との間で労働条件等についての合意が得られず,結果的に労働者が継続雇用されることを拒否したとしても,改正高年齢者雇用安定法違反となるものではありません(ただし,平成25年3月31日までは,その雇用する高年齢者等が定年,継続雇用制度終了による退職等により離職する場合であって,当該高年齢者等が再就職を希望するときは,事業主は,再就職援助の措置を講ずるよう努めることとされているため,当該高年齢者等が再就職を希望するときは,事業主は,求人の開拓など再就職の援助を行う必要があります。)。
 したがって,トラブルの多い社員との間で,再雇用後の労働条件について折り合いがつかず,結果として再雇用に至らなかったとしても,それが直ちに問題となるわけではありません。

 なお,組合員差別により再雇用の期待を侵害したと認定された事案において,代表取締役個人が会社法429条1項の責任を負うとされた裁判例が存在しますので,注意が必要です。

弁護士 藤田 進太郎

管理職なのに割増賃金の請求をしてくる。

2012-01-05 | 日記
Q21 管理職なのに割増賃金の請求をしてくる。

 管理職であっても,労基法上の労働者である以上,割増賃金の請求ができるのが原則です。
 「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者,労基法41条2号)に該当する場合に,例外的に,時間外・休日割増賃金の支払の必要がなくなるということになります。
 割増賃金の支払は労基法37条で義務付けられていますが,労基法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は,労基法で定める基準に達しない労働条件を定める部分についてのみ無効となり,無効となった部分は労基法で定める労働基準となりいます(労基法13条)。
 したがって,賃金規定等で,管理職には時間外・休日勤務手当を支給しない旨規定して周知させていたり,本人から同意書を取っていたりしても,管理監督者に該当しない場合は,労基法37条に基づき,割増賃金の請求が認められることになります。

 管理監督者は,一般に,「労働条件の決定その他労務管理について,経営者と一体的な立場にある者」をいうとされ,管理監督者であるかどうかは,
① 職務の内容,権限及び責任の程度
② 実際の勤務態様における労働時間の裁量の有無,労働時間管理の程度
③ 待遇の内容,程度
等の要素を総合的に考慮して,判断されることになります。
 裁判所の考えている管理監督者の要件を充足するのは,本社の幹部社員など,ごく一部と考えられます。
 管理監督者としていた社員から労基法37条に基づく割増賃金の請求を受けるリスクを負いたくない場合は,管理監督者とする管理職の範囲を狭く捉えて上級管理職に限定し,その他の管理職には割増賃金を満額支給する扱いにしておいた方が無難です。

 管理職になった途端残業代が支給されなくなり,管理職になる前よりも給料の手取額が減るということがないようにして下さい。
 残業代対策のために管理職に就けるという発想はリスクが高いですから,やめて下さい。

 管理監督者であっても,深夜割増賃金(25%部分のみ)の支払は必要です。
 管理監督者に該当する労働者の所定賃金が,労働協約,就業規則その他によって一定額の深夜割増賃金を含める趣旨で定められていることが明らかな場合には,その額の限度では当該労働者が深夜割増賃金の支払を受けることを認める必要はありません。
 役職手当等に深夜割増賃金が含まれていると規定していたとしても,深夜割増賃金としての性質を有する部分とそれ以外の部分とを判別することができない場合は,深夜割増賃金の支払があったとは認められないことに注意が必要です。
 役職手当等のうち何円が深夜割増賃金なのか,明確に分かるよう定めておくべきでしょう。

弁護士 藤田 進太郎