弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

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転勤命令を拒否した正社員の懲戒解雇

2013-08-21 | 日記
転勤命令を拒否した正社員を懲戒解雇することができますか?

 転勤命令自体が無効の場合は,転勤命令拒否を理由とする懲戒解雇は認められません。
 他方,有効な転勤命令を正社員が拒否した場合は重大な業務命令違反となるため,転勤命令拒否を理由とした懲戒解雇は懲戒権の濫用にはならないのが通常ですが,裁判例の中には,社員が転勤に伴う利害得失を考慮して合理的な決断をするのに必要な情報を提供するなどの必要な手順を尽くすべきとするものもあります。
 懲戒解雇のような退職という重大な効果を伴う懲戒処分について裁判所は有効性を慎重に判断する傾向がありますから,転勤命令が有効であることが明らかな事案であったとしても,拙速な懲戒解雇は差し控え,当該正社員が翻意して転勤命令を受け入れる見込みがほとんどなくなったことを立証するための客観的証拠が十分に集まってから懲戒解雇に踏み切るべきと考えます。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

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転勤命令の濫用

2013-08-21 | 日記
転勤命令が権利の濫用になるのはどのような場合ですか?

 使用者による転勤命令は,
① 業務上の必要性が存しない場合
② 不当な動機・目的をもってなされたものである場合
③ 労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき
等,特段の事情のある場合でない限り権利の濫用にならないと考えられています(東亜ペイント事件最高裁第二小法廷昭和61年7月14日判決)。

 ①業務上の必要性については,東亜ペイント事件最高裁判決が,「右の業務上の必要性についても,当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく,労働力の適正配置,業務の能率増進,労働者の能力開発,勤務意欲の高揚,業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは,業務上の必要性の存在を肯定すべきである。」と判示していることもあり,企業経営上意味のある配転であれば,存在が肯定されることになります。
 退職勧奨したところ退職を断られ,転勤を命じたような場合に,嫌がらせして辞めさせる目的の転勤命令だから,②不当な動機・目的をもってなされた転勤命令として権利の濫用となり,無効となると主張されることが多いですから,このような場合は,嫌がらせして辞めさせる目的の転勤命令ではないと説明できるようにしておく必要があります。
 社員の配偶者が仕事を辞めない限り単身赴任となり,配偶者や子供と別居を余儀なくされるとか,通勤時間が長くなるとか,多少の経済的負担が生じるといった程度では,③労働者の不利益が配転に伴い通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとはいえません。
 ③労働者の不利益が配転に伴い通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるか否かを判断する際は,単身赴任手当や家族と会うための交通費の支給,社宅の提供,保育介護問題への配慮,配偶者の就職の斡旋等の配慮がなされているか等も考慮されることになります。

 ③に関し,就業場所の変更を伴う配置転換について子の養育又は家族の介護の状況に配慮する義務があること(育児介護休業法26条)には,注意が必要です。
 育児,介護の問題ついては,本人の言い分を特によく聞き,転勤命令を出すかどうか慎重に判断する必要があります。
 本人の言い分をよく聞かずに一方的に転勤を命じ,本人から育児,介護の問題を理由として転勤命令撤回の要求がなされた場合に転勤命令撤回の可否を全く検討していないなど,育児,介護の問題に対する配慮がなされていない場合は,転勤命令が権利の濫用で無効とされるリスクが高まることになります。
 裁判例の動向からすると,特に,家族が健康上の問題を抱えている場合や,家族の介護が必要な場合の転勤については,労働者の不利益の程度について慎重に検討した方が無難と思われます。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

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