弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

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「⑥顕著な事業者性」の有無を判断する際に考慮すべき事情

2011-07-30 | 日記
Q143 「⑥顕著な事業者性」の有無を判断する際には,どのような事情を考慮する必要がありますか?

 『労使関係法研究会報告書』では,「以下のような事情から、顕著な事業者性が認められる場合には、判断要素の総合判断の結果として、労働者性が消極的に解され得るものと考える。」とされています。

○自己の才覚で利得する機会
・ 契約上だけでなく実態上も、独自に営業活動を行うことが可能である等、自己の判断で損益を変動させる余地が広範にある。
○業務における損益の負担
・ 相手方から受託している業務で想定外の利益や損失が発生した場合に、相手方ではなく労務供給者自身に帰属する(ただし、相手方が一方的に決定した契約により、労務供給者が一方的に損失を被るような場合は、事業者性が顕著であると評価される訳ではない。)。
○他人労働力の利用可能性
・ 労務供給者が他人を使用している。
・ 契約上だけでなく実態上も相手方から受託した業務を他人に代行させることに制約がない。
○他人労働力の利用の実態
・ 現実に、相手方から受託した業務を他人に代行させる者が存在する。
○他の主たる事業の有無
・ 相手方から受託する事業以外に主たる事業を行っている。
○機材、材料の負担
・ 労務供給者が、一定規模の設備、資金等を保有している。
・ 業務に必要な機材の費用、交通費、保険料、修理代などの経費を、実態として労務供給者が負担している(ただし、相手方が一方的に決定した契約により労務供給者側による機材等の経費の負担が求められている場合は、事業者性が顕著であると評価される訳ではない。)。

弁護士 藤田 進太郎

「⑤広い意味での指揮監督下の労務提供,一定の時間的場所的拘束」の有無を判断する際に考慮すべき事情

2011-07-30 | 日記
Q142 「⑤広い意味での指揮監督下の労務提供,一定の時間的場所的拘束」の有無を判断する際には,どのような事情を考慮する必要がありますか?

 『労使関係法研究会報告書』では,「以下のような事情がある場合に、広い意味での指揮監督下の労務提供や、労務供給の日時、場所についての一定の拘束が肯定的に解されるものと考える。ただし、これらの事情がない場合でも直ちに広い意味での指揮監督下の労務提供や一定の時間的場所的拘束が否定されるものではない。」とされています。

○労務供給の態様についての詳細な指示
・ 通常の委託契約における業務内容の指示ないし指図を超えて、マニュアル等により作業手順、心構え、接客態度等を指示されている。
・ 相手方から指示された作業手順等について、事実上の制裁があるなど、労務供給者がそれらを遵守する必要がある。
・ 業務を相手方の従業員も担っている場合、当該業務の態様や手続きについて、労務供給者と相手方従業員とでほとんど差異が見られない。
・ 労務の提供の態様について、労務供給者に裁量の余地がほとんどない。
○定期的な報告等の要求
・ 労務供給者に対して業務終了時に報告を求める等、労務の提供の過程を相手方が監督している。
○労務供給者の裁量の余地
・ 業務量や労務を提供する日時、場所について労務供給者に裁量の余地がない。
○出勤や待機等の有無
・ 一定の日時に出勤や待機が必要である等、労務供給者の行動が拘束されることがある。
○実際の拘束の度合い
・ 労務供給者が実際に一定程度の日時を当該業務に費やしている。

弁護士 藤田 進太郎

「④業務の依頼に応ずべき関係」の有無を判断する際に考慮すべき事情

2011-07-30 | 日記
Q141 「④業務の依頼に応ずべき関係」の有無を判断する際には,どのような事情を考慮する必要がありますか?

 『労使関係法研究会報告書』では,「以下のような事情がある場合に、業務の依頼に応ずべき関係が肯定される方向で判断されるものと考える。ただし、これらの事情がない場合でも直ちに業務の依頼に応ずべき関係が否定されるものではない。」とされています。

○不利益取り扱いの可能性
・ 契約上は個別の業務依頼の拒否が債務不履行等を構成しなくても、実際の契約の運用上、労務供給者の業務依頼の拒否に対して、契約の解除や契約更新の拒否等、不利益な取り扱いや制裁の可能性がある。
○業務の依頼拒否の可能性
・ 実際の契約の運用や当事者の認識上、労務供給者が相手方からの個別の業務の依頼を拒否できない。
○業務の依頼拒否の実態
・ 実際に個別の業務の依頼を拒否する労務供給者がほとんど存在しない。また、依頼拒否の事例が存在しても例外的な事象にすぎない。

弁護士 藤田 進太郎

「③報酬の労務対価性」の有無を判断する際に考慮すべき事情

2011-07-30 | 日記
Q140 「③報酬の労務対価性」の有無を判断する際には,どのような事情を考慮する必要がありますか?

 『労使関係法研究会報告書』では,「以下のような事情がある場合に、報酬の労務対価性が肯定的に解されるものと考える。ただし、これらの事情がない場合でも直ちに報酬の労務対価性が否定されるものではない。」とされています。

○報酬の労務対価性
・ 相手方の労務供給者に対する評価に応じた報奨金等、仕事の完成に対する報酬とは異なる要素が加味されている。
・ 時間外手当や休日手当に類するものが支払われている。
・ 報酬が業務量や時間に基づいて算出されている(ただし、出来高給であっても直ちに報酬の労務対価性は否定されない。)。
○報酬の性格
・ 一定額の支払いが保証されている。
・ 報酬が一定期日に、定期的に支払われている。

弁護士 藤田 進太郎

終業時刻を過ぎても退社しないままダラダラと会社に残っている社員に対する対応

2011-07-30 | 日記
Q60 終業時刻を過ぎても退社しないままダラダラと会社に残っている社員がいる場合,会社としてはどのような対応をすべきですか?

 残業するように指示していないのに,社員が終業時刻を過ぎても退社しないまま会社に残っているのが常態となっていて,それを上司が知っていながら放置していた場合に,当該社員から,黙示の残業命令があり,使用者の指揮命令下に置かれていたなどと退職後に主張されて,終業時刻後の在社時間について割増賃金の請求を受けることがあります。
 使用者としては,その時に帰りたいと言ってくれればすぐに退社させていた,今になって残業代の請求をしてくるのは不当だ,などと言いたくもなるかもしれませんが,残業してまでやらなくてもいいような仕事(所定労働時間内でやれば足りるような仕事)であったとしても,現実に仕事らしきものをダラダラとしていたような事案で労働時間性を否定するのは,なかなか難しいものがあり,生産性の低い在社時間が労働時間と評価されて残業代の請求が認められることも珍しくありません。
 また,在社時間が長い社員から,うつ病になったのは長時間労働のせいだなどと主張され,損害賠償請求を受けることも珍しくありません。
 使用者としては,終業時刻後も不必要に会社に残っている社員に対しては,速やかに仕事を切り上げて帰るよう指示すべきでしょう。

 仕事を切り上げて帰るよう指示しても帰ろうとしない社員に対しては,単に口頭で帰るよう伝えただけでは足りず,現実に仕事を止めさせ,会社建物(仕事をする部屋)の外に出すのが望ましい対応です。
 口では仕事を切り上げて帰れと言っていたとしても,会社(特に,仕事をする部屋)に残っているのを知りつつ放置していたのでは,無用のリスクが残ることになってしまいます。
 懇親等の目的で,仕事が終わった後も社内に残っているのを容認する場合は,最低限,タイムカードの打刻をさせるなどして,労働時間が終了していることを明確にしておく必要があります。
 ただ,訴訟になると,「労働時間の終了前にタイムカードに打刻するよう強要されて(上司が勝手にタイムカードを押して),残業させられた。」などといった主張をする社員もいますので,やはり,仕事と関係のないことは,仕事をする部屋の外(できるだけ会社建物の外)で行うようにするのが望ましいところです。

弁護士 藤田 進太郎

割増賃金(残業代)請求との関係で使用者が労働時間を把握することのメリット

2011-07-30 | 日記
Q67 割増賃金(残業代)請求との関係で,使用者が労働時間を把握することにメリットはありますか?

 近年では,労働者の労働時間を管理する義務は使用者にある(平成13年4月6日基発339号「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」)のだから,それを使用者が怠った場合の負担を労働者に課すのは相当でなく,使用者が負担すべきであるという発想が強くなってきています。
 また,労働者の労働時間管理を怠っていた結果,水増しされた残業時間が記載された証拠を根拠として残業代請求がなされ,使用者が労働時間管理を怠っていなければ計算できたはずの本来の残業代よりも高額の残業代の支払が命じられるリスクもあります。
 労働時間を把握した記録がないと,訴訟で手間暇かけて反証活動をしても,思ったほど功を奏さないことがありますが,労働時間を把握するための記録がある場合には,単にそれを証拠として提出すればいいだけなのですから,反証活動の手間暇がかかりませんし,しかも客観的証拠による反証は認められやすい傾向にあります。
 使用者が社員の労働時間を把握することは,割増賃金(残業代)請求との関係では,社員から水増しした時間外労働・休日労働時間を主張されないようにするとともに,訴訟における反証活動を容易にし,使用者が負担する割増賃金の上限を画することができるというメリットがあります。
 今や,タイムカード等の記録は,水増しされた労働時間に基づき残業代が請求されるのを防ぐための証拠でもあるのです。

弁護士 藤田 進太郎

労働時間を記載した社員の日記,手帳へのメモ等による残業代の請求

2011-07-30 | 日記
Q66 労働時間を記載した社員の日記,手帳へのメモ等によって,残業代の請求が認められることがありますか?

 使用者が労働時間管理を怠っている場合,割増賃金の請求をしようとする社員側としては残業時間の正確な立証が困難となりますが,使用者には労働時間の管理を適切に行う責務があること(平成13年4月6日基発339号「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」)もあり,裁判所は,直ちに時間外労働・休日労働の立証がなされていないとはせず,社員の日記,手帳へのメモ等の証拠から,時間外労働・休日労働時間を推認することができるかどうかが審理されるのが通常です。
 使用者としては,タイムカードのない会社で,入社直後から出社時刻と退社時刻の記録をメモ等に残してきた(と労働者が主張している)ケースも多くなっている現状(≒退職したら残業代を請求してやろうと考えながら,在職中は黙ったまま仕事を続け,残業している労働者が増えている現状)を,使用者はよく認識しておく必要があります。
 こういった社員は,在職している限りは残業代を請求してくる可能性が低いのですが,何らかの問題を起こして退職させられそうになったり,経営者や上司に嫌われたと感じて傷ついたりした途端,残業代の請求をしてくることになります。

 社員の日記,手帳へのメモ等は,実際の労働時間に合致した内容で記載されているとは限らず,後になってまとめて適当に作成された可能性もあり,残業代請求をする意図で労働時間を記載したとなると,いきおい労働時間を水増しして記載する動機が働くなど,それだけでは証明力が高いとはいえませんので,社員が作成したメモ等だけから労働時間を推認することができる事例はそれ程多くありません。
 しかし,社員の日記,手帳へのメモ等であっても,その記載内容が詳細なものだったり,全部又は一部が客観的証拠に合致していて矛盾点がないような場合は,そのメモ等により労働時間について一応の立証がなされていると評価できる場合もあります。
 これに対して使用者側が有効かつ適切な反証ができなければ,メモ等によって労働時間が推認され,残業代の支払を命じられるリスクが生じることになります。
 労働時間の管理を怠っていた使用者が,1年も2年も前の社員の時間外労働・休日労働時間について,有効かつ適切な反論をすることは困難なことが多く,手間の割には反論が功を奏しないことも珍しくありません。

 なお,労働者の手帳等の記載の信用性が不十分な事案であっても,民訴法248条の精神に鑑み,割合的に時間外手当を認容することも許されるとして,労働者請求の時間外手当の額の6割を認容するのを相当とした裁判例もあります。
 どのようなイメージかというと,250万円の時間外手当が未払となっていると主張して労働者が訴訟を提起したのに対し,労働者の手帳等の記載の信用性が十分ではないとしつつ,裁判官が諸事情を検討し,150万円の時間外手当の支払を命じたというようなイメージです。

弁護士 藤田 進太郎