Q102 裁判官(労働審判官)が直接関与して権利義務関係を踏まえた調停が試みられ,調停がまとまらない場合には労働審判が行われ,労働審判に対して異議を申し立てた場合には,訴訟に移行することが重要なのはどうしてですか?
この点は,
労働審判を通常の民事調停と比較して考えると分かりやすいでしょう。
通常の民事調停を利用した場合,裁判官は,調停期日のほとんどの時間は調停の場に同席せず,調停が成立することになったとき等,わずかな時間しか調停の場に現れないということになりがちですし,必ずしも
労働問題の専門的な知識経験を有するとはいえない調停委員が,調停をまとめることばかりに熱心になってしまい,権利義務関係を十分に踏まえずに,歩み寄りに難色を示している当事者の説得にかかることがありますが,
労働審判手続では,裁判官(
労働審判官)1名が,常時,期日に同席しており,労働関係に関する専門的な知識経験を有する
労働審判員2名とともに,権利義務関係を踏まえた調停を行うため,調停内容は合理的なもの(社内で説明がつきやすいもの,労働者が納得しやすいもの)となりやすくなります。
また,民事調停であれば,調停不成立の場合には何らの判断もなされないまま調停手続が終了してしまい,そのまま紛争が立ち消えになる可能性もありますが,
労働審判手続で調停がまとまらなければ,たいていは調停案とほぼ同内容の労働審判が出され,労働審判に対して当事者いずれかが異議を申し立てれば自動的に訴訟に移行することになりますので,うやむやなまま紛争が立ち消えになることは期待できません。
さらに,異議を出した後の訴訟で争っても,裁判官(
労働審判官)が直接関与し,権利義務関係を踏まえて出された労働審判の内容よりも自分に有利に解決する見込みが大きい事案はそれほど多くはありませんし,訴訟が長引けば労力・金銭等での負担が重くなり,コストパフォーマンスが悪くなってしまいます。
これらの点が相まって,ある程度は譲歩してでも調停をまとめる大きなモチベーションとなり,
労働審判制度の紛争解決機能を飛躍的に高めているものといえるでしょう。
弁護士 藤田 進太郎