l'esquisse

アート鑑賞の感想を中心に、日々思ったことをつらつらと。

丸紅創業150周年記念 丸紅コレクション展-衣裳から絵画へ 美の競演

2008-12-28 | アート鑑賞
損保ジャパン東郷青児美術館 2008年11月22日-12月28日



数ヶ月前に、ボッティチェリ作『美しきシモネッタ』が使われた本展のチラシを観た瞬間から行く気満々だったのに、ふと気づいたら今日が最終日。ただただこの作品を観たくて、大掃除を投げ打って新宿へ向かった。

やはり最終日ということでエレベーターの前には列ができており、少し待つこととなった。エレベーターを降りて、チケット売り場の手前でお財布を出そうとバッグに手を突っ込んでガサゴソやっていると、見知らぬシルバー・グレイのおじさまが近寄っていらして「どうぞ」と招待券を下さった。嬉しい。ありがとうございます!

本当は『美しきシモネッタ』以外はざっと観て、すぐ家に帰って大掃除に戻るつもりであったが、最初の部屋に展示されていた第1部「衣裳(きもの)」からしてその美しさに足が止まってしまった。このところ忙しなく、味気ない日々が続いていたので、綺麗な色彩がとりわけ胸に染みたのかもしれない。結局、続く「意匠図案」、「近代日本の絵画」、「西洋の絵画」と4部構成で展示されていた全作品を、一つ一つ解説を読みながら観ることに。特に「近代日本の絵画」と「西洋の絵画」では名だたる画家の作品が揃っていて、珍しいものも多かったように思う。例えば「近代日本の絵画」では、熊谷守一(1880-1977)の『熱海』や肌の微妙な陰影が素晴らしい小磯良平(1903-1988)の『横向裸婦』が良かったし、「西洋の絵画」では以下の作品が印象に残った:

『イオカステ(神殿の舞)』(1895年作) ピエール=オーギュスト・ルノワール(1841-1919)
オイディプス王の悲劇を題材にした、ルノワールっぽくない珍しい作品。夫を殺した自分の息子と結婚してしまったという事実を知り、驚愕のあまり身をよじるイオカステの姿態はこの大きさだからいいが、もっと大きい作品だったら崩れそうな気もする。個人的には苦手な画家だが、もう一つの風景画『エスタックのオリーブ畑』も悪くはなかった。

『池の端』(1911-12頃作) モーリス・ド・ヴラマンク(1876-1958)
今年の個展でも強烈な印象を残したヴラマンクの、セザンヌの影響を感じさせる風景画。筆致こそセザンヌを思わせるが、この人の紺がかった緑色の深さは独自の色。

『冬景色』(制作年不詳) 同
スピード感のある筆捌きで描かれた雪景色の大作。解説にあった「自分が何か速い乗り物に乗っているような気になる」は言い得ている。息を吸い込むと、湿気をはらんだ冷気が鼻の奥を刺しそうだ。今の季節に鑑賞するにはぴったりの作品。

『ミモザの花』(1952年作) モイーズ・キスリング(1891-1953)
画面の大部分を占める黄色い花の部分の、フジツボが貼りついたような絵の具の盛り方がおもしろい(絵の具のチューブから少しずつ絞り出して、そのまま点描のようにキャンヴァスに載せていったのだろうか?)。離れて観てみると、花が立体的に立ち上がる。

『木のある風景-乳搾りの娘に求愛する農夫』(1755-59作) トーマス・ゲインズバラ(1727-1788)
久しぶりに観るイギリス人画家の風景画。年末の慌ただしい時に、このような落ち着いたイングランドのカントリー・サイドの情景を観ると気分がほっとするものだ。ゲインズバラは、肖像画家としてより名声を馳せた画家だが、私は肖像画より彼の風景画の方を好む。ところで画中の娘はなぜこんなに浮かない顔をしているのだろう?
 
『夜明け(羽毛のような雲あるいは湖と空あるいは農園)」(制作年不詳) エドワード・バーン=ジョーンズ(1833-1898)
長い題名のごとく、90cmx213cmの横長の作品。もともと上・中・下の縦三連の「上」の部分として描かれていたとも考えられるとあるが、確かに大きい割には主題が判然としない作品。彼のこのような作品は初めて観た。

『美しきシモネッタ』(1480-85頃作) サンドロ・ボッティチェリ(1444/45-1510)
日本にある唯一のボッティチェリ作品で、1969年に開催された展覧会以来まだ5回しか一般公開されていないそうだ。私は今回が初見。イタリア・ルネッサンス、フィレンツェが大好きな私には、直球でストライク・ゾーンに入って来る作品である。

シモネッタは絶世の美女で、美男の誉れ高いジュリアーノ・メディチ(ロレンツォ豪華王の弟)と恋仲であったとか、ボッティチェリの『春』の登場人物としても描かれているとか、彼女が23歳の若さで亡くなったことから「命短し、恋せよ乙女」という詩が生まれた等、様々なエピソードを残す伝説的な美女だ。

この作品ではほぼ真横から描かれているが、色白で鼻筋の通った、すっきりとした端正な顔立ちの女性。広い額、グレーの瞳、ややひしゃげた顎をもつ彼女は、落ち着いていて可愛いというよりハンサムな感じである。髪の毛は、実際こんな風に仕上げられるのかと思うほどとても複雑に編み込まれ、紫の布と真珠で飾られている。赤い布を薄いレースで覆ったドレス生地はふんわりと柔らかく彼女の腕を包む。綺麗だなぁ、としか言いようがない。観にきてよかった。


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