国立西洋美術館 2012年6月13日(水)-2012年9月17日(月・祝)
展覧会の特設サイトはこちら
ベルリン国立美術館展となっていますが、正確にはドイツの首都ベルリンにある、15もの総合美術館・博物館で構成されるベルリン国立美術館群のうちの三つの美術館(「絵画館」、「素描版画館」、「ボーデ美術館」)から作品が来ています。
ちなみに2005年にも「ベルリンの至宝展」が開催されていますが、こちらは「旧博物館」や「ペルガモン博物館」などからの出展がメインで、先史時代に始まり、エジプトやギリシャ・ローマなどの古代美術に加えて近代美術と、全くコンセプトの異なる内容でした。
たまに短いスパンで同じ作品を繰り返し送ってくる海外の美術館がありますが、それとは別次元。英語の副題に”From Renaissance to Rococo”とある通り、今回はルネサンスからロココまでの400年間を、平面、立体作品で観ていく内容です。個人的には素描作品が一番観たかったのですが、彫刻作品も期待以上に見応えがあり、とても楽しめました。
展覧会の構成は以下の通りです:
Ⅰ部 絵画/彫刻
第一章 15世紀:宗教と日常生活
第二章 15‐16世紀:魅惑の肖像画
第三章 16世紀:マニエリスムの身体
第四章 17世紀:絵画の黄金時代
第五章 18世紀:啓蒙の近代へ
Ⅱ部 素描
第六章 魅惑のイタリア・ルネサンス素描
では、印象に残った作品をいくつかご紹介したいと思います。
≪聖母子、通称アレッツォの聖母≫ アンドレア・デッラ・ロッビア (15世紀後半)
アンドレア・デッラ・ロッビアの作品を初めて観たのは、もう10年近くも前にフィレンツェのサン・マルコ修道院(美術館)を訪れた時。前知識もなかったので、初めて目にする、大理石とは異なるそのつるつるとした光沢のある表面が印象的で、不思議な魅力を感じました。彩釉テラコッタ、要するに焼き物なのですね。背景の青は、冬のフィレンツェで見上げた清澄な青空を思い出させます。マリアの手が幼児キリストの足の指を挟んでいるポーズも独特。
≪最後の晩餐≫ ライン川流域の工房 (1420年頃)
画面手前の長椅子の中央に座り、こちらに真後ろの背中を見せているのが裏切り者ユダ。椅子の下に見える弟子たちの衣の襞や、その間からのぞく足など、細部に至るまで美しく繊細に彫られた大理石の彫刻作品です。
≪龍を退治する馬上の聖ゲオルギウス≫ ティルマン・リーメンシュナイダー (1490年頃)
東京藝大の学長、宮田先生が、テレビでこの聖ゲオルギウスを「二日酔いみたいな顔をしている」とおっしゃったので、どうしてもそのように・・・。確かにリーメンシュナイダーの彫る人物は、大方トロンとした垂れ目をしていますよね~。退治される龍も、どことなく笑いを誘います。
ついでに、この作品の素材は菩提樹ですが、その他今回出品されている木彫作品の素材は実にさまざま。樫、胡桃、ツゲ、スモモ。スモモなんて可愛い響きでしょう?ところが、彫られているのはちぎれた人間のスネにかぶりつく老婆。レオンハルト・ケルンという人の≪ガイア、もしくは人喰いの擬人像≫です。
≪コジモ・デ・メディチの肖像≫ アンドレア・デル・ヴェロッキオの工房 (1464年)
図録の画像では普通に横顔を彫ったレリーフにしか観えませんが、さにあらず。作品を横の角度から観ると、ほとんど顔が飛び出しているのです。展示室入口の解説パネルを読みながら、何やら視線を感じると思って横を見やると、コジモがあなたを凝視。こういう意匠は初めて観ました。
≪ヤーコプ・ムッフェルの肖像≫ アルブレヒト・デューラー (1526年)
ヤーコプ・ムッフェルはデューラーと同年の生まれで、ニュルンベルグ市長なども務めた貴族だそうです。デューラーと親交があったムッフェルが55歳の時にこの肖像画が制作されましたが、彼はまさに55歳で亡くなっているので、今でいう遺影の意味合いが強い作品かもしれません。顔の微妙な皺、独特な鼻の形、そして毛皮の質感と、デューラーの細密描写には毎度ながら感嘆のひとことです。
≪逆立ちする青年≫ バルテルミ・プリウール (1600年頃)
高さ30cm足らずのブロンズ像の作品ですが、単純にビックリしました。見たとおりの題名だったのでよくわからなかったのですが、あとで気づいた英語のタイトルはAcrobat。日本語も軽業師とかにすればピンときたのに?ということはさておき、制作するにはバランスを取るのが難しそうな作品です。
≪黄金の兜の男≫ レンブラント派 (1650‐1655年頃)
油絵具のマジックってすごいなぁ、と兜に観入りました。
≪キリストの割礼≫ フェデリコ・バロッチ (1581‐1590年)
油彩画などの見事な完成作の陰には、一体どれだけの素描習作が描かれるのでしょうか。第Ⅱ部は、ボッティチェッリもミケランジェロも、まずは地道に素描をしながら作品の構想を練っていくのだ、という当然のことを体感させてくれる展示です。
ここに挙げたバロッチは、彼の他の出展作も含め、飽くことなく手の表情を捉えようと紙の上で試行錯誤を繰り返しています。本作の左下に描かれた手は角度からいって画家本人の左手だと思うのですが、真似したらツリそうになりました。
最後に、フェルメールの≪真珠の首飾りの少女≫。想像していたより絵のそばに近寄ることができてよかったです。画中の、窓際に置かれた陶器の放つ光沢の見事な表現や、少女の横顔(おでこから鼻にかけてのラインが特徴的)など、わりとじっくり観られました。
9月17日(月・祝)までです。
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ベルリン国立美術館展となっていますが、正確にはドイツの首都ベルリンにある、15もの総合美術館・博物館で構成されるベルリン国立美術館群のうちの三つの美術館(「絵画館」、「素描版画館」、「ボーデ美術館」)から作品が来ています。
ちなみに2005年にも「ベルリンの至宝展」が開催されていますが、こちらは「旧博物館」や「ペルガモン博物館」などからの出展がメインで、先史時代に始まり、エジプトやギリシャ・ローマなどの古代美術に加えて近代美術と、全くコンセプトの異なる内容でした。
たまに短いスパンで同じ作品を繰り返し送ってくる海外の美術館がありますが、それとは別次元。英語の副題に”From Renaissance to Rococo”とある通り、今回はルネサンスからロココまでの400年間を、平面、立体作品で観ていく内容です。個人的には素描作品が一番観たかったのですが、彫刻作品も期待以上に見応えがあり、とても楽しめました。
展覧会の構成は以下の通りです:
Ⅰ部 絵画/彫刻
第一章 15世紀:宗教と日常生活
第二章 15‐16世紀:魅惑の肖像画
第三章 16世紀:マニエリスムの身体
第四章 17世紀:絵画の黄金時代
第五章 18世紀:啓蒙の近代へ
Ⅱ部 素描
第六章 魅惑のイタリア・ルネサンス素描
では、印象に残った作品をいくつかご紹介したいと思います。
≪聖母子、通称アレッツォの聖母≫ アンドレア・デッラ・ロッビア (15世紀後半)
アンドレア・デッラ・ロッビアの作品を初めて観たのは、もう10年近くも前にフィレンツェのサン・マルコ修道院(美術館)を訪れた時。前知識もなかったので、初めて目にする、大理石とは異なるそのつるつるとした光沢のある表面が印象的で、不思議な魅力を感じました。彩釉テラコッタ、要するに焼き物なのですね。背景の青は、冬のフィレンツェで見上げた清澄な青空を思い出させます。マリアの手が幼児キリストの足の指を挟んでいるポーズも独特。
≪最後の晩餐≫ ライン川流域の工房 (1420年頃)
画面手前の長椅子の中央に座り、こちらに真後ろの背中を見せているのが裏切り者ユダ。椅子の下に見える弟子たちの衣の襞や、その間からのぞく足など、細部に至るまで美しく繊細に彫られた大理石の彫刻作品です。
≪龍を退治する馬上の聖ゲオルギウス≫ ティルマン・リーメンシュナイダー (1490年頃)
東京藝大の学長、宮田先生が、テレビでこの聖ゲオルギウスを「二日酔いみたいな顔をしている」とおっしゃったので、どうしてもそのように・・・。確かにリーメンシュナイダーの彫る人物は、大方トロンとした垂れ目をしていますよね~。退治される龍も、どことなく笑いを誘います。
ついでに、この作品の素材は菩提樹ですが、その他今回出品されている木彫作品の素材は実にさまざま。樫、胡桃、ツゲ、スモモ。スモモなんて可愛い響きでしょう?ところが、彫られているのはちぎれた人間のスネにかぶりつく老婆。レオンハルト・ケルンという人の≪ガイア、もしくは人喰いの擬人像≫です。
≪コジモ・デ・メディチの肖像≫ アンドレア・デル・ヴェロッキオの工房 (1464年)
図録の画像では普通に横顔を彫ったレリーフにしか観えませんが、さにあらず。作品を横の角度から観ると、ほとんど顔が飛び出しているのです。展示室入口の解説パネルを読みながら、何やら視線を感じると思って横を見やると、コジモがあなたを凝視。こういう意匠は初めて観ました。
≪ヤーコプ・ムッフェルの肖像≫ アルブレヒト・デューラー (1526年)
ヤーコプ・ムッフェルはデューラーと同年の生まれで、ニュルンベルグ市長なども務めた貴族だそうです。デューラーと親交があったムッフェルが55歳の時にこの肖像画が制作されましたが、彼はまさに55歳で亡くなっているので、今でいう遺影の意味合いが強い作品かもしれません。顔の微妙な皺、独特な鼻の形、そして毛皮の質感と、デューラーの細密描写には毎度ながら感嘆のひとことです。
≪逆立ちする青年≫ バルテルミ・プリウール (1600年頃)
高さ30cm足らずのブロンズ像の作品ですが、単純にビックリしました。見たとおりの題名だったのでよくわからなかったのですが、あとで気づいた英語のタイトルはAcrobat。日本語も軽業師とかにすればピンときたのに?ということはさておき、制作するにはバランスを取るのが難しそうな作品です。
≪黄金の兜の男≫ レンブラント派 (1650‐1655年頃)
油絵具のマジックってすごいなぁ、と兜に観入りました。
≪キリストの割礼≫ フェデリコ・バロッチ (1581‐1590年)
油彩画などの見事な完成作の陰には、一体どれだけの素描習作が描かれるのでしょうか。第Ⅱ部は、ボッティチェッリもミケランジェロも、まずは地道に素描をしながら作品の構想を練っていくのだ、という当然のことを体感させてくれる展示です。
ここに挙げたバロッチは、彼の他の出展作も含め、飽くことなく手の表情を捉えようと紙の上で試行錯誤を繰り返しています。本作の左下に描かれた手は角度からいって画家本人の左手だと思うのですが、真似したらツリそうになりました。
最後に、フェルメールの≪真珠の首飾りの少女≫。想像していたより絵のそばに近寄ることができてよかったです。画中の、窓際に置かれた陶器の放つ光沢の見事な表現や、少女の横顔(おでこから鼻にかけてのラインが特徴的)など、わりとじっくり観られました。
9月17日(月・祝)までです。