この10年来毎年のことだが、今年も最初のクリスマス・カードはイングランド在住の友人、アニータとフランシス夫妻から届いた。今回は珍しく絵だ。
その昔、イングランド西部のブリストルという街でホーム・ステイしたことがあり、その家のランドレディであったレベッカの継母・実父にあたるのが彼ら。今は別の場所に越してしまったが、当時はイングランドからセヴァーン川を渡り、ウェールズに入ってほどなくの街にある、大きな美しい邸宅にお住まいだった。絵や彫刻など芸術品がそこかしこに飾られた瀟洒な邸宅もさることながら、車で森の小道に入り込んだところからその家の敷地だと聞かされたから、敷地面積は相当の広さだったと思う。
美しい庭と共にちょっとした菜園もあって、旬の季節にはそこで収穫された、真っ赤に熟れた立派なルバーブがダンボール箱一杯レベッカの家に届き、料理上手の彼女が作る美味しいルバーブのコンポートに舌鼓を打ったりした。初夏に訪ねれば、そこの一角に実ったサヤエンドウをちぎって、そのまま生で食べたりもした。え、生で、と思いつつ促されるままに口に入れると、あまりに柔らかくて甘いので驚いたものだった。
お会いする前、アニータは彫刻家だ、とは聞いていたが、実際どのような作品を作るのか知らずにいた。
初めて彼らの家に招かれてダイニング・ルームに入ったとき、ピカピカの長いダイニング・テーブルやその上に載った銀の蜀台などに目を奪われつつ、出窓のところに置かれたチャールズ皇太子の石膏の胸像が目に入った。日本でも皇室のカレンダーなどを飾っているお宅があるので、そんなノリなのだろうか?などと暢気に思いながら、横に立つアニータに伺ってみた。あの胸像は?
彼女は、こともなげに答えた。「あぁ、あれは私が作ったんですよ。バッキンガム宮殿に招かれて、ご本人にもお会いして。いい方でした」
そして、家の奥の方にある彼女のアトリエに連れて行かれ、中に招じ入れられると、等身大の躍動感あるバレリーナのブロンズ像に迎えられた。これも最近の作品だろうか?
「これはね、私が18歳のとき、ロイヤル・アカデミーに入るときに作った作品です」
今となっては記憶が曖昧だが、確かオーストリアかドイツの美術館から修復を依頼されたという、200年くらい前の風景画も普通に足元に立て掛けられてあった。
なんだかすごい人と知り合ってしまった、と思った。でも、彼女の控え目で温厚なお人柄に私も緊張することなくいろいろお話を伺えたし、それ以後も私が滞英中お会いする度に本当に良くして下さった。彼らの家で過ごした夢のようなクリスマスは、一生忘れることがないだろう。
あれ以来、残念なことにお二人にお会いする機会はないが、こうして毎年欠かさず、温かい言葉を添えてクリスマス・カードを送って下さる。たいてい彼女の彫刻作品を使用したグリーティング・カードだが、今年は珍しく彫刻作品の習作画。レオナルド・ダ・ヴィンチだそうだ。ブロンズ像が出来上がったら、是非また写真でもいいから拝見したい(本当は実作品を拝見したいけど)。
ついでに、これは彼女が写真に撮って送って下さった、2005年の彼女の作品『アラビアのロレンス』。5m近い大作だ。そばに寄ったら、すごい迫力だろう。
さて、私が今年お二人にお送りしたクリスマス・カードは、俵屋宗達の『風神雷神図屏風』。今年はやはりこれでしょう。
先だっての「大琳派展」は、私は前期しか行けなかったので、俵屋宗達、尾形光琳、酒井抱一、鈴木基一の4人による『風神雷神図屏風』4作品揃い踏みには行けなかったが、実際観た光琳の作品でも、神々のダイナミックな姿態と同じくらいに背景のスペース感に惚れ惚れした。これでもかと描き込む西洋画と対極をなす日本の美。
アニータとフランシスに少し説明せねばと、余り考えずに「カードの表は"The God of Wind"、裏は"The God of Thunder"です」と直訳してしまったが、流石に琳派はRinpa Schoolじゃないよな、ニューリン派(Newlyn School)みたいなのとは明らかに違うし(あ、例が渋すぎ?)、と思って何気なく展覧会のチラシを見てみたら、Rinpa Mastersと書いてあった。助かった
その昔、イングランド西部のブリストルという街でホーム・ステイしたことがあり、その家のランドレディであったレベッカの継母・実父にあたるのが彼ら。今は別の場所に越してしまったが、当時はイングランドからセヴァーン川を渡り、ウェールズに入ってほどなくの街にある、大きな美しい邸宅にお住まいだった。絵や彫刻など芸術品がそこかしこに飾られた瀟洒な邸宅もさることながら、車で森の小道に入り込んだところからその家の敷地だと聞かされたから、敷地面積は相当の広さだったと思う。
美しい庭と共にちょっとした菜園もあって、旬の季節にはそこで収穫された、真っ赤に熟れた立派なルバーブがダンボール箱一杯レベッカの家に届き、料理上手の彼女が作る美味しいルバーブのコンポートに舌鼓を打ったりした。初夏に訪ねれば、そこの一角に実ったサヤエンドウをちぎって、そのまま生で食べたりもした。え、生で、と思いつつ促されるままに口に入れると、あまりに柔らかくて甘いので驚いたものだった。
お会いする前、アニータは彫刻家だ、とは聞いていたが、実際どのような作品を作るのか知らずにいた。
初めて彼らの家に招かれてダイニング・ルームに入ったとき、ピカピカの長いダイニング・テーブルやその上に載った銀の蜀台などに目を奪われつつ、出窓のところに置かれたチャールズ皇太子の石膏の胸像が目に入った。日本でも皇室のカレンダーなどを飾っているお宅があるので、そんなノリなのだろうか?などと暢気に思いながら、横に立つアニータに伺ってみた。あの胸像は?
彼女は、こともなげに答えた。「あぁ、あれは私が作ったんですよ。バッキンガム宮殿に招かれて、ご本人にもお会いして。いい方でした」
そして、家の奥の方にある彼女のアトリエに連れて行かれ、中に招じ入れられると、等身大の躍動感あるバレリーナのブロンズ像に迎えられた。これも最近の作品だろうか?
「これはね、私が18歳のとき、ロイヤル・アカデミーに入るときに作った作品です」
今となっては記憶が曖昧だが、確かオーストリアかドイツの美術館から修復を依頼されたという、200年くらい前の風景画も普通に足元に立て掛けられてあった。
なんだかすごい人と知り合ってしまった、と思った。でも、彼女の控え目で温厚なお人柄に私も緊張することなくいろいろお話を伺えたし、それ以後も私が滞英中お会いする度に本当に良くして下さった。彼らの家で過ごした夢のようなクリスマスは、一生忘れることがないだろう。
あれ以来、残念なことにお二人にお会いする機会はないが、こうして毎年欠かさず、温かい言葉を添えてクリスマス・カードを送って下さる。たいてい彼女の彫刻作品を使用したグリーティング・カードだが、今年は珍しく彫刻作品の習作画。レオナルド・ダ・ヴィンチだそうだ。ブロンズ像が出来上がったら、是非また写真でもいいから拝見したい(本当は実作品を拝見したいけど)。
ついでに、これは彼女が写真に撮って送って下さった、2005年の彼女の作品『アラビアのロレンス』。5m近い大作だ。そばに寄ったら、すごい迫力だろう。
さて、私が今年お二人にお送りしたクリスマス・カードは、俵屋宗達の『風神雷神図屏風』。今年はやはりこれでしょう。
先だっての「大琳派展」は、私は前期しか行けなかったので、俵屋宗達、尾形光琳、酒井抱一、鈴木基一の4人による『風神雷神図屏風』4作品揃い踏みには行けなかったが、実際観た光琳の作品でも、神々のダイナミックな姿態と同じくらいに背景のスペース感に惚れ惚れした。これでもかと描き込む西洋画と対極をなす日本の美。
アニータとフランシスに少し説明せねばと、余り考えずに「カードの表は"The God of Wind"、裏は"The God of Thunder"です」と直訳してしまったが、流石に琳派はRinpa Schoolじゃないよな、ニューリン派(Newlyn School)みたいなのとは明らかに違うし(あ、例が渋すぎ?)、と思って何気なく展覧会のチラシを見てみたら、Rinpa Mastersと書いてあった。助かった