落ち穂拾い<キリスト教の説教と講釈>

刈り入れをする人たちの後について麦束の間で落ち穂を拾い集めさせてください。(ルツ記2章7節)

<講釈>勇者ギデオン

2007-02-01 20:16:56 | 講釈
2007年 顕現後第5主日 (2007.2.4)
<講釈>勇者ギデオン   士師記6:11-24a

1. 士師記について
3年間の主日日課において、士師記が読まれるのは今日だけなので、士師記というものについて簡単に説明しておきたい。士師記には、ヨシュアの死後、サムエルの登場に至るまでのイスラエル人の歴史が含まれており、オトニエル、エフド、シャムル、デボラ、ギデオン、トラ、ヤイル、エフタ、イプツァン、エロン、アブドン、サムソンなど12人の士師たちが登場する。士師とは、イスラエルの国家統一以前に各地で活躍した軍事的指導者たちのことである。彼らの活動期間を単純に合計すると410年間に及ぶ。列王記上 6章1節には、出エジプトからソロモン王による神殿建設までの期間を480年としており、士師たちが活躍した期間を推定すると約360年間となり、枠におさまらない。従って、士師記は歴史書であるというよりも、水戸黄門記とか宮本武蔵物語に類する豪傑物語とでもいうべき文書であろう。ただ、重要な点は、歴史書ではないにせよ、ヨシュアによるカナン侵入後、サウル王が登場して王制が成立までの時代状況を記憶している点では古代イスラエル史を繋ぐ重要な文書であることには違いはない。
士師記における物語ののスタンスが、第2章1-3節に以下のように述べられている。「わたしはあなたたちをエジプトから導き上り、あなたたちの先祖に与えると誓った土地に入らせ、こう告げた。わたしはあなたたちと交わしたわたしの契約を、決して破棄しない、あなたたちもこの地の住民と契約を結んではならない、住民の祭壇は取り壊さなければならない、と。しかしあなたたちは、わたしの声に聞き従わなかった。なぜこのようなことをしたのか。わたしもこう言わざるをえない。わたしは彼らを追い払って、あなたたちの前から去らせることはしない。彼らはあなたたちと隣り合わせとなり、彼らの神々はあなたたちの罠となろう」(2:1-3)。
この主の使いの予告どおりに、イスラエルの民はカナンの地において先住民たちとの戦い(略奪)と誘惑(偶像礼拝への傾斜)であった。それに対して、ヤーウェなる神がイスラエルの救済者として選び派遣したのが、士師たちであった。12人の士師たちの中でもとくに光っているのが本日取り上げられているギデオンであり、その物語は読む者に信仰と勇気とを与える。
本日は、ギデオン物語を講談調でまとめてみたい。講談であるから、章分けは「何々の段」というようにする。全部で6段に分けられ、序段としてギデオン登場の背景が語られ、最後に結びが付けられている。本日は時間の関係で全部を語ることができないのでもっともドラマティックな「第5段選抜の段(7:1-8)」と「第6段決戦の段(7:9-8:21)」だけを取り上げ、他はあらすじで補うこととする。いずれ別な機会に全段を語りたいと思っている。その場合、少なくとも1時間はかかるであろう。できるだけ聖書に忠実に順を追って語っているつもりである。

2. 序の段から第5段まで
序の段 登場の段
ミディアン人は毎年収穫の季節になると、イスラエルに侵入し収穫物を略奪する。それがもう既に7年間も続いている。その度に、イスラエルの農民たちは山の洞窟に避難する有り様であった(6:1-6)。しかし、この災難は、イスラエルの背反が原因だと、託宣が下される。
第1段 召命の段
イスラエルの人々の悔い改めの祈りに応えて、ヤーウェなる神はミディアン人に対抗するために軍師としてマナセ族のギデオンを選ぶ(6:15)。しかし、ギデオンは「わたしは部族の中でも最も臆病者で、家族中でもいちばん頼りにならない者です」と言って断る。しかし、ヤーウェなる神が必要とする人間はそのような弱い者である。ここではことさらに臆病なギデオンが強調されている。
第2段 神の奇跡
ヤーウェなる神はギデオンに一つの奇跡を見せる。神の御使いが杖を差し出すと、岩が燃え上がり、パンと肉を焼く(6:21)。この奇跡を見てギデオンは神の召命を受け入れる。
第3段 挑発の段──最初の仕事──
最初の仕事として、神はギデオンに彼の父親が所有する異教の神、バアル祭壇とアシュラ像を破壊することを命じる。これはギデオンにとってはかなり厳しい命令であったが、ギデオンはその命令に従う。しかし、これがミディアン人やアマレク人などバアルの神を奉じる民族に対する挑発となり、ギデオンは追われる者となる。ここではヤーウェの神とバアルの神との対立関係が重要である。
第4段 招集の段
しかし、ギデオンは、それに恐れることなく対抗し、イスラエルの各部族に使者を送り、協力を要請し、マナセ族を始め、アセル・ゼブルン・ナフタリ族等の協力を得て、ギデオンのもとに3万2千人の農民が集まる。彼らが結集したところで、連帯意識を高め戦意高揚のために、再び神の保証を求め、羊の毛だけに、夜露を降らすという奇跡(6:36~40)が起こる。ミディアン人もアマレク人もそのような状況を許すはずがない。彼らは10万人を越える連合軍を編成し、イスラエルを攻めてくる。イスラエル民族統一への方向性が示唆されている。
さて、ここからが本日の物語の始まり。
3. 第5段 選抜の段(7:1-8)
さて、ギデオン軍は準備も整い、いよいよミディアン・アマレク連合軍と一戦を交える時がきました。敵軍はおよそ10万、ギデオン率いるイスラエル軍は3万2千、ほとんどのイスラエル人は今まで戦争などしたことがありません。武器といったって、たいしたものはなく、昔、先祖がカナンの地にやってきた頃使ったといわれる、古い剣や槍を持っているならまだましで、ほとんどは鍬や鋤、金槌や斧といった具合でにわか仕込みの訓練をした程度の烏合の衆に近かった。それでも、3万2千人も集まったということはたいしたもので、ギデオンもそれには満足していたものと思われる。
敵ミディアン・アマレク連合軍は北の平地モレの丘のふもとに陣を敷き、いつでも迎え撃つ準備は整っている。あちらの方は、熟練した戦士たちで、いかにも貧相なイスラエルの農夫たちを手ぐすね引いて待っている。
戦闘当日の夜明け頃、イスラエルの農夫たちが戦いの準備を整えて集まってきた。その姿を見て、ヤーウエの神はギデオンに言われた。「あなたの率いる民は多すぎるので、ミディアン人をその手に渡すわけにはいかない。渡せば、イスラエルはわたしに向かって心がおごり、自分の手で救いを勝ち取ったと言うであろう。それゆえ今、民にこう呼びかけて聞かせよ。恐れおののいている者は皆帰り、ギレアドの山を去れ」と。
敵は10万、味方はよく集まったとしても3万2千人。しかも、軍事技術ということになれば、もう比べようもない。それなのに、ヤーウェの神は、多すぎるという。この倍の人数でも足りな意ぐらいだと思うが、しかし、それは人間の考え、神が多すぎると仰るならば減らさなければならない。本当の大将はギデオンではなく、神なのだ。それで、ギデオンは3万2千人の農夫たちに、家族のことが心配な者、その他心残りのある者は「戦場を去れ」と命じる。これでかなりの農民たちは帰って行った。その上で、さらにギデオンは敵軍の恐ろしさを語り、怖いと思う者、死ぬのが怖い者は「帰れ」と命じる。このギデオンの命令に従って戦場を離れた者は2万2千人。残りはたった1万人になってしまた。しかし、この1万人は敵を恐れず、命を捨てて、国を守ろうとする勇気ある人々であった。ギデオンは彼らを見て満足した。
しかし、ヤーウェなる神は、ギデオンの気持ちとは異なっていた。「まだ、多すぎる」と言う。勇気だけでは、戦争はできない。用心深さとか、賢さとか、連帯意識とか、秩序を守る自覚が必要である。ヤーウェなる神は、この1万人をテストする、と言う。
「彼らを連れて水辺に下れ。そこで、あなたのために彼らをえり分けることにする。あなたと共に行くべきだとわたしが告げる者はあなたと共に行き、あなたと共に行くべきではないと告げる者は行かせてはならない」。ギデオン軍に相応しくない者が一人でもいると、全軍が乱れる。では、どのようにして神は彼らをテストしたのだろうか。
1万人の勇士たちの喉が渇いた頃を見計らって、彼らを水辺に連れて行き、そこで、充分に水を飲ませた。喉がカラカラに渇いていた勇士たちは、われ先に水辺に行き、水を飲み始めた。ヤーウェは「彼らが水を飲む格好をよく見よ」とギデオンに命じる。喉が渇いていた彼らは、まるで犬が水を飲むように口を川の中に突っ込んで水を飲んでいた。しかし、中には周囲の様子を油断無く見張りながら、片膝をついて、水を手ですくい口に運ぶ者もいた。ヤーウェはギデオンに命じた。
口を川に突っ込んで飲んでいる者はすべて不合格。膝をついて手ですくって飲む者だけが合格だ。戦場にきて、不注意な者、警戒心のない者は、他の人の命も危険にさらす。そのテストの結果、合格者は僅かに300人であった。ヤーウェはこの300人で敵と戦うと宣言する。
見上げると、ミディアン・アマレク連合軍の陣営が眼下に広がっている。そこには10万の勢力を持って大軍が戦闘開始を待っている。
4. 第6段 決戦の段
さて、その夜、ヤーウェはギデオンに細かい作戦をあかす。「今晩、お前は部下を一人だけ連れて敵陣を偵察してこい。そして、敵兵が何を話しているのかよーく聞いてこい」と命じられた。ギデオンと共の者は夜陰に紛れて敵陣に入り込み、あちらこちらを偵察して回った。そこには自分たちの陣営とは比べものにならないほど充実した武器や装備が溢れていた。ふと、あるテントの側で中の様子をうかがっていると、テントの中から話し声が聞こえてきた。よく聞いていみると、一人の男が仲間に夢の話しをしていた。
「わしは昨日の晩一つの夢を見たのだ。おかしなことに、大きな大麦の丸いパンがミディアンの陣営に転がり込んできて、テントを倒し、ひっくり返したのだ」。それを聞いていた仲間は「それは、きっとイスラエルの軍勢で、ギデオンの攻撃を予言しているに違いない。わたしたちはギデオンに負けるかも知れない」。ギデオンは、彼らの会話を聞いて、嬉しくなってしまった。きっと、この勝負は勝つと確信したのだ。
陣営に帰ったギデオンは、さっそく300人の勇士たちに、今回の戦いでは剣や槍は必要ないと言い、それらをすべて剣や槍を片付けさせた。そして、300人の勇士たちを3つの小隊に分け、全員に角笛と空の水がめを持たせ、その水がめの中には松明を入れさせた。
「いいか、これからは、わたしをよく見て、わたしのするとおりにせよ。わたしが敵陣の端に着いたら、わたしがするとおりにせよ。わたしとわたしの率いる者が角笛を吹いたら、あなたたちも敵の陣営全体を包囲して角笛を吹き、『主のために、ギデオンのために』と叫ぶのだ」。
ギデオンと彼の率いる100人が、真夜中頃、敵陣の端に着いたとき、ちょうど歩哨が交代したところであった。彼らは歩哨の動きに注意を払い、チャンスを見て、一気に角笛を吹き、持っていた水がめを砕いた。その角笛の音を聞いた他の2つの小隊も一斉に角笛を吹き、水がめを割った。300人の角笛の音と、300の水がめを割った音とは凄まじかった。それに加えて、水がめの中の松明の火が一斉に輝き、辺りはまぶしいばかりに輝いた。そこでイスラエル軍は松明を左手にかざし、右手で角笛を吹き続け、「主のために、ギデオンのために剣を」と叫んだ。各自持ち場を守り、敵陣を包囲したので、敵の陣営は至るところで総立ちになり、叫び声をあげて、大混乱。300人が角笛を吹くと、敵の陣営では至るところで、同士討ちをし、彼らは敗走を始めた。イスラエル軍は剣一つ、槍一つ用いることなく、敵を完全に打ち破ぶり、逃げるミディアン・アマレク連合軍を徹底的に追撃した。

5. 結びの段 王になることの辞退
そして戦後、イスラエルの人々はギデオンを王に推戴しようとするが、ギデオンは辞退する(8:23)。イスラエルの真の支配者は神であるというのがギデオンの辞退の理由であった。これが、シナイ契約に基づく信仰共同体、イスラエル部族連合の基本理念である。ギデオンは功労として、王位の代わり、戦利品の金の耳輪を民から貰う(8:24-27)。彼はそれを用いてエフォドを作るが、これが却って災いとなり、偶像崇拝の対象のとなった。

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