ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

『草原の実験』を観て

2016年06月02日 | 2010年代映画(外国)
気になっていた『草原の実験』(アレクサンドル・コット監督、2014年)が、レンタルDVDになっていたので借りてきた。

その少女は、大草原にポツンと建つ小さな家で父親と暮らしていた。
家の前には家族を見守る一本の樹。
毎朝、どこかへと働きにでかける父親を見送ってはその帰りを待つ少女。
壁に世界地図が貼られた部屋でスクラップブックを眺め、遠い世界へ思いを馳せながらも、繰り返される穏やかな生活にささやかな幸せを感じていた。
幼なじみの少年が少女に想いを寄せている。
どこからかやってきた青い瞳の少年もまた、美しい彼女に恋をする。3人のほのかな三角関係。
そんな静かな日々に突如、暗い影がさしてくる・・・・
(公式サイトより)

旧式のトラックの荷台で、羊にもたれて男が寝ている。
それを高い高い所から俯瞰した映像で、映画は始まる。
辺りは見渡す限りの大草原。といっても草は疎ら。
そんな中に家が一軒だけある。男が帰ってくると、ひとり少女がいる。
それがどこなのか、親子の名は何なのか、それは特定されていない。
そして日常生活が、不思議な魅力を伴って、静かに描かれる。
だから、あらすじはあまり意味をなさない。

観ていると、あれ?まだ会話が出て来ない。と思っていたら、この映画には最後までセリフがない。
言葉がない分、映像で物語を創る。その映像の光と影のコントラスト。
緻密に計算された画面作りのはずなのに、観る側にそれを意識させず、飽きがこない自然な風景として納得させる。
少女の表情にしても、無表情に近い顔立ちの中に現れる感情が手に取るようにわかる。
それを導き出す監督の力量がすばらしい。



内容も、
父親はどこへ仕事にいくのか。
少年はどこに住んでいるのか。
もう一人の青い瞳の少年はどこから来たのか。
という説明は一切ない。
しかし、観終われば、しっかりと想像できるようになっている。
この一見、のんびりそうな生活に、ラストで待ち構えていることは・・・・

ロシアのコット監督は、旧ソ連のカザフスタンで起きた実際の出来事に着想を得て作り上げた、という。
作品は寡黙であっても、監督が世界に向かって言わんとするアピールは、この内容から透けて滲み出てくる。

私にとって、探し求めていた映画がここにある、と言えるほどの作品に出会った思いであり、大傑作だと意識が働く。
アクション。娯楽。ストーリー。会話体、等。その対極にあるこの作品に、ものすごく愛着が湧く。
だから映画はやめられない。
コメント (5)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする