早起き梟のひとりごと

仕事に追われる日々を少しだけ立ち止まって見つめてみると・・・

「遅読のすすめ」

2020-08-01 05:05:09 | 買った本

写真は「遅読のすすめ」 山村 修 ちくま文庫 780円 税別

吉田健一の一文を引いて、山村は記す。

「ものを読むうれしさがわいてくると書いたのは、べつに吉田健一もまた本をゆっくり読む人らしいと分かったからではない。

吉田健一は、ときにいわれるような高踏的な作家などではまったくなくて、むしろあたりまえのこと、ふつうのことだけをかきつづけた人ではなかったか。ただしそれがあたりまえのかきかたではなかった。

たとえば時間について、『冬の朝が晴れてゐれば起きて木の枝の枯れ葉が朝日という水のように流れるものに洗われてゐるのをみてゐるうちに時間がたつて行く』と書かれた文章そのものに、言わば時間が宿っていて、ひそかに拍動しているような気がする。書かれていることの意味は、考えてみればあたりまえのことだが、そのあたりまえことが、朝日に洗われて透明にきらきら光っている。そう思えたときに、ものを読むうれしさがにじんでくる。」

p69

山村が56歳で亡くなって14年がたつ。

山村の文章にふれると、呼吸がだんだん楽になっていく。

ときどき本棚に「狐」をみつけては、まるで深呼吸するかのように、黙読する。

もうすこし生きていてほしかった。