本ブログ2009年2月5日の投稿でも少し触れた野外系月刊誌『
fenek』の版元の名称が今月1日から、三推社から講談社ビーシーに変更されたことを祝したのかしないのかはわからないが、10日発売の09年7月号を手に取るとなんだか不思議な気分である。
というのも、なぜかこの号に限って顔馴染みかそれ以上の知り合いが多く登場しているからだ。まあこれまでは釣り記事が主体の号が続いていたところに今月号は僕の好む登山特集を組んでくれたからでもあるのだが、それにしては多いな、と驚く。
試しに、この号への寄稿でかかわった編集部員以外で署名されている執筆者、またはそれぞれの記事の主役として登場した人物の名前を記事掲載順に挙げてみる。
石川直樹、竹内洋岳(特集、連載)、岩崎元郎、安東浩正(特集、特別記事)、中込幸子、鈴木博子、花谷泰広、中川祐二(特集、連載)、かとうちあき、山崎美緒、松澤亮、高桑信一、中村みつを、塩野米松(連載)、上杉剛嗣、大越紀之、大黒敬太
とりあえず17人挙げたが、このうち同業他誌などの各種媒体や野外系の催しなどで僕が前々から一方的に知っているのは13人。そのうち半分が、相手方も僕のことを知っている(はずの)顔見知りかそれ以上の関係の方か。まあみなさん、野外業界の各分野でその道に秀でている、というか僕以上に一般社会から足を大きく踏み外した? 方々とも言えなくもない。
たぶん、この17人のうち毎月一定額の収入(確定申告風に言うと給与収入)があるという方は3、4人くらいだろう。大半は事業収入(出版印税や原稿料などの報酬)で生計を立てていると思う。
それぞれの掲載記事についてすべて事細かに挙げると面倒だし雑誌を読む面白味に欠けるので、割愛する。まあでも例えば、最初のほうの石川直樹くんや竹内洋岳さんについては本ブログの過去の投稿でも少し触れているので、探し出して読んでみてちょ。
ああでも、せっかくなので特筆モノの記事についてひとつだけ裏話を。といってもほぼ伝聞だけど。
先月末のタムラアキオ報告会でもお世話になった
安東浩正さんが序盤の「快感体験」という大特集? で担当した14~17ページの神奈川県・西丹沢の小川谷廊下での沢登り記事について。
これにサッカー元日本代表で2002年日韓と2006年ドイツのW杯本選の試合にも出場経験があって昨季で引退した福西崇史氏が(中田英寿・楢崎正剛・宮本恒靖・松田直樹などと同学年。僕ともほぼ同年代)、この雑誌を通じて今後いろいろな野遊びに挑む、という継続企画の一環として今月号では安東さんをコーチ役に迎えて沢登り(※1)に行ったが、実はこの一行のうち福西氏と同行した編集部員さん以外は全員知り合い。最近ほとんど会っていないひともいるけど。
また、この記事中でひとつハッとしたことがあって、“ハセツネ”を中心に年々加熱傾向のトレイルランニングの女子選手のなかでは日本を代表する存在の
鈴木博子さんもこの沢登りに同行していたのだが(彼女のことも地平線会議を通じて今ほど有名になる数年前から知っているっちゃあ知っている。トレランにぞっこんになる前はバックパッカーだったとか)、記事中のある注釈に福西氏と鈴木さんが(ともに運動神経抜群であるという意味で)「種目は違えどトップアスリート同士」と評していたのだが、ホントにそうだよな、とそこは同感。
実はこの沢登り取材の当夜にも安東さんと東京都内で打ち合わせなどで会っていたのだが、ふたりともほとんど初めての沢登りなのに登り方は上手いよ! 凄いよ! とベタ褒めで、予想以上に順調な登山だった旨を(アキオ報告会の打ち合わせのときに)熱く聞かされた。
天気はあまり良くなかったようだが、全体的には大充実の沢だったようで。
ただ『fenek』というと、ほかの旅関連の仲間内からも出ている意見で僕も感じていることなのだが、出版関係者目線で読むと誌面の編集が全体的に他誌に比べて雑然として読みにくかったり(読んでいて次の段組と次ページへの送り先が探しにくい、写真の挿入位置が飛び飛びでページごとに不安定、などなど)、誤植が結構あったりもして、校正者的にはツッコミどころ満載でうーむ残念、と多々思ってしまう誌面づくりが毎号気になる。良く言えば賑やかと評することもできるが正直、この分野の先駆的な雑誌である『BE-PAL』や『山と溪谷』なんかと比べると質は確実に劣っている。
しかし、それでも今月号で先に挙げたような幅広い執筆者を揃えることができたのはなかなか良いことで、他誌でも真似できないかなりの大技? 荒技? かと感心できるふしもある。
野外専門誌としての歴史と蓄積がないぶん、逆に言うとその新鮮な心持ちでこのような冒険的な誌面づくりが毎号できるのか、と今後への可能性というか伸びしろが多いと前向きに捉えることもできる。現在の登山業界では最も旬な人物である竹内さんの連載(※2)を設けたのは特に評価できる(偉そうな言い草ですみません)。
ほかにも過去の釣り特集の号では往年の名作釣りマンガ『釣りキチ三平』の過去原稿を引っ張ってきたり、その原作者の矢口高雄氏へのインタビューを掲載したりということもさらっとできたりもするし(まあ『週刊少年マガジン』を擁する講談社の関連会社だから当たり前か)、そんな感じの大胆不敵な雑誌の継続は観ていて面白い。
あとは編集より外側の社内の経営面がどういう状況なのかも気になるねえ。最近、出版不況の煽りで休刊される雑誌が多いからなあ。
実は先月に安東さんを介して『fenek』の編集者のひとりと酒席で少し話す機会があったのだが、さすがに誌面づくりでそんな感じの物申したい、もとい気になることを初対面のうちから、しかも出版業界内では若輩者の立場から直球でいろいろ意見することはさすがにできなかったが、今後は『BE-PAL』読者歴20年、『山と溪谷』読者歴17年とかいうくらいの現代の“アウトドアマニア”(※3)の視点から少しは進言してもいいのかな、とはうっすら思った。2月号からの誌面づくりを見ると作り手も受け手もまだまだ未知の分野で模索を続けながら編集している、というのが容易に見て取れるもので。
だからまあ、良くも悪くもこの雑誌には今後も目が離せない。来年以降も定期的に山特集というかとにかく「人力」を強く意識した旅や生活に関するネタをより多く扱って、ほかにも過去の冒険・探検史に触れたり(最低でも『モノ・マガジン』や『BRUTUS』以上の質にしてほしい)、自転車特集なんかも組んでくれたりすると嬉しいのだが。
あとは野外業界内のどの分野でもよいので、ほかの媒体でほとんど見かけない若手をもっと多く登用してほしいなあ。例えば今月号の花谷氏のように(でも彼も昨年から『山と溪谷』や『ヤマケイJOY』の初級者的記事に頻出するようになってきた)。そのへんも期待する。
注釈
※1 一般的な登山道ではない水流のある沢をあえて登り詰めてゆく登山形態。完全に日本発祥で固有の登り方なのかどうかはよくわからないが、日本・台湾や赤道直下の温暖な気候の国で沢のある山だったら基本的にできる、はず。僕もまだ低レベルゆえに簡単なところにしか行けないが、ここ数年はまっている。好き。ちなみに、小川谷廊下は安東さんほか数人と一昨年に行ったことがある。本ブログ2007年9月18日の投稿を参照のこと。
最近は軟派な媒体や、モンベル・アウトドア・チャレンジ(MOC)をはじめとする全国各地の野外体験ツアーの案内などでは横文字で「シャワークライミング」と表記するよねえ。日本では旧来のわらじや和竿による釣りや焚き火のような伝統美が似合う日本らしい「沢登り」という表記に統一してほしいものだ、と憂いている“沢ヤ”さんは多いはず。
※2 過去に仲間内? のメールマガジンのようなカタチで(立正大学や日本山岳会の複雑なしがらみから離れた?)2003年以降の国際公募登山のことを書いていた時期はあって、僕もそれをある登山家のウェブサイトへの転載で間接的に読んでいたが(現在開設中の自身の
公式ブログを開設する以前のこと)、一般商業誌では『山と渓谷』で数年前にそのメルマガの焼き増しのような短期集中連載があったこと以外には、(現在進行形の内容では)おそらく初連載のはず。
※3 本文でも『BE-PAL』などの事例で触れたように僕が現在の旅や野外系媒体の熱心な読者で、ほかにも様々な手段を駆使してそれに関連する人物や事象の情報を有名無名問わず集めて蓄積していることを、最近よく会う安東さんから簡単にこう評された。
まあたしかに、例えば、登山では江本嘉伸・柏澄子、自転車では山本修二・疋田智、徒歩では山浦正昭・加藤則芳、探検・冒険では新谷暁生・九里徳泰、島旅では河田真智子・カベルナリア吉田、野宿では村上宣寛・かとうちあき、野外道具類では村石太郎・高橋庄太郎、などの主に物書きの立場からそれぞれの専門分野に長けていて「深く狭く」精通する方は多々いらっしゃるが、僕はそれらの異分野? で活躍する方々を横断的につなぎ合わせて「浅く広く」視たうえで結構知っている、という自負はある。でなければ、こんなブログは続けていません。
この業界内でどの人とどの人が仲良い・悪い、みたいな相関図も書こうと思えば結構大きめのものが書けるかも。
という意味で、日本を代表する冒険野郎からこう呼ばれるのは誠に光栄なこと? なのかもしれない。でも「マニア」ではあっても「オタク」というほどではないと思う。あまりにオタク化が進みすぎて言動と行動が乖離し続けると、本末転倒だからなあ。