高校時代の友人と会う

2022年10月31日 | Weblog

 

 10月某日、小雨そぼ降る中を駅に向かう。

一週間ほど前、「次の木曜日、都合つくか」と友人のMから電話があった。

いつものメンバーで久しぶりに一杯やろうじゃないか…との誘いである。年に数回は会う仲間たちだ。

定時制高校の同級生である。卒業して65年ほど経つ。長い長い付き合いだ。

 

 高校生の頃には、夏休みになると山登り、キャンプにいそしんだものだ。男性5人に女性5人の気の合ったグループで、「夜灯虫」(やとうちゅう)と名づけて、大学ノートに好き勝手なことを書いて回していた。

このグループは、40人ほどいた同級生の中で、勉学に抜きんでたり、気障を売り物にするグループとは一味ちがうものだった。

向上心がほどほどにあり、成績にはあまり拘らず、さりとて学業に置いてけぼりを食うわけでもない。

M君は生徒会長、わたしは「定高協」(定時制高校連絡協議会)役員に立候補し、その任を果たしたこともある。

 

 この生徒会選挙でわたしがぶった演説が、後に大騒ぎになる。

「最近、マンボズボンやらが流行っている。これをはいて喜んでいる輩がいるが、おかしな事だ。そんなにはきたいなら、いっそのことお百姓さんが身に着けている、『股引』でもはけばよい」…。(マンボズボン=裾が狭まった細ーい仕立て)。

役員選挙の中身に関係ないこの演説は、気障を気取るグループの機嫌を損じた。

下級生が「加藤木さん、ちょっと顔をかして」と教室に呼びに来て、階段上の暗がりに行くと待ち構えていた数人が、「この野郎」とわたしをボコボコにしたのだ。

上級生にボコボコにされたのはこれで2回目となる。

定時制に移ったのは、高校12学期からであった。都心の都立高に合格したが経済的に逼迫して1学期しか通わなかった。

この全日製高校では「新聞部」に所属した。コラム欄でわたしが書いた文章が上級生を怒らせた。

「校舎屋上で南蛮渡来のタバコとやらを吸って粋がっている輩がいるとの風評がある。吸っては白い煙を吐きだす。なにが面白いのだろう。忍術使いの児雷也が大きなガマ蛙の上に乗って印を結ぶと、ガマは白い煙を吐き出し姿を覆い隠す。いくら粋がってもそれには負けるではないか」。

このコラムは匿名であったから、だれが書いたか分からないはずだ。ところが敵は新聞部長を締め上げたにちがいない。わたしを屋上に呼び出しボコボコにした。

それが原因で退学したのではないのだが、2度も同じ目にあったのだ。

 

 ただこのボコボコ事件、わたしは学校に訴えることはしなかった。

ただ2回目のことは、クラスの友人たちの知るところとなり、HRで大騒ぎになった。

わたしは教員室に呼び出されて、ボコボコは「誰にやられたか」問いただされたが、「暗くて分からない」と…。

名前を明かさなかったことに恩義を感じたのだろう、親しくなりはしなかったが、以後何事もなかった。

 

 授業を抜け出して近所を散策、柿をもぎって食したりもした。

近くに早稲田大学があり、その当時は街に溶け込んだ学園として塀などはなく、誰でもいつでも学内に入れたものだ。

われわれは大隅公の銅像前の池に向かい、鯉を生け捕りにしようと努力した覚えもある。

 

 Mは卒業後、地元の区役所に勤め堅実な生活を送る。がしかしどこかおかしなところがあり、酒をしたたかに吞んで家に帰りついたはいいが、バス停の標識をゴロゴロ曳づって玄関先でそれを枕に寝入って、家族を途方にくれさせる…いまであれば「公務員の悪行」と新聞種になりそうなことを仕出かしたりもした。

彼は新婚旅行先の一つに「わらび座」を選んでくれ、あまりおもてなしは出来なかったが奥さんともども秋田の風景を楽しんでもらった。

 

 それから幾星霜、Mにはいろいろお世話になった。

福祉分野一途に勤め上げた彼は、定年後 区内の労働組合・団体が「運営委員会」に結集する「障がい者福祉事業所」の所長に迎えられる。

バーベキュー大会、総会パーティーなどのときには、わたしに「ソーラン節」などを躍らせみなさんの馴染みになるよう計らってくれた。

おかげで「運営委員会」などで、わたしの息子が主宰する「和力」のアピールもでき、公演では労働組合・団体の協力を大いに受け、「和力」ファンを拡大できた。

 

 長い長い付き合い、Mは杖を頼りに、Wは奥さんに付き添われて待ち合わせ場に現れる。

一杯吞んでの話題はもっぱら体調の報告会である。

かっての悪戯っ子の面影はもはやないが、人生を全うに生き切った安堵はお互いにあるのだが、この先どれほど会える機会があるのだろうか。

 

 帰りには雨が上がり、歩道の片隅に溜まる水面に外灯の光が揺らめいていた。

 

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