猫の捕物さわぎ

2016年05月25日 | Weblog


 外猫「リリー」は、昨年(2015年)1月にわが家を訪れるようになった。
目鼻立ちがすっきりした細身のからだ、一才に満たないようなキジトラ猫が、わたしたち夫婦の安穏な生活に騒ぎをもたらすことになる。



 わが家の「サラ」と「ウリ」は、一昨年9月「動物愛護センター」からゆずりうけ、完全な室内猫として生活をはじめた。
箱入り娘たちが長ずるにつれ、茶虎の雄猫が縁側に座って家の中をみつめるようになる。わが箱入り娘たちに懸想したのであろうか。ひたすら正座し家の中を見詰める。
この猫は人懐こく、食事を出すとかすれ声で「ニャー」と鳴く。それでかすれ声の歌手の名をもらって「進一」と名づけた。
「進一」=「シン」は、食事時になるとわが家の縁側に来て、食べ終えると一休みして何処かへ去る。



「シン」が、小柄なキジトラ猫を縁側へ連れてきた。
妻の観察によると、「この家は安心だよ」と云うかのように、キジトラ猫を縁側に誘いあげ見守る。
キジトラ猫が満腹し皿から離れると、交代して食事を始めるのだ。
わたしたちが起きだす朝の5時半には、2匹が縁側にひかえキジトラ猫がガラス戸をカリカリと引っ掻き、食事をさいそくするようになった。
その仕草の愛らしさ、しばらくして女の子だと分かった。目がパッチリと大きく細面の美人である。妻が「映画『男はつらいよ』のマドンナ・浅丘ルリ子演じる『リリー』のようだ」…リリーと名づける。

 娘猫だと分かり、妊娠するのではないかとの心配がつのる。
「餌付をつづけたら慣れてくるだろう…」、せっせと食事を提供するが人慣れしない。
シンは身体に触っても動じないのだが、リリーはぜんぜん触らせない。捕えて避妊手術をする機会がないまま時間が過ぎていく。
5月に入り3日ほどリリーが来ない日がつづいた。
「どうしたのだろう」と気遣っていたら、縁側に置いた小屋にキジトラ2匹、黒猫2匹の合計4匹の子猫がいる。
避妊手術が間に合わず、可愛い子猫が4匹産まれたのだ。



 未使用の猫トイレに座布団を敷いて、訪問猫用のシェルターとして縁側に置いていた小屋は、寒風吹きすさぶ冬場は、ホカホカカイロを座布団の下に敷きつめ、夜を過ごさせる工夫であった。
シンはそこに入って寝ることもあり、すこしは役に立っていたが、暖かくなるにつれそれは無用の長物に化し、全然使われなくなっていたのだ。
そのシェルターにまだ目を開けていない子猫4匹をリリーが連れてきた。
「ここで育てるのなら安全だ」とわたしたちは子育てを応援する気で喜んだが、翌日にはどこかへ連れて行ってしまった。
「もっと安心できる所があるのだろう。子猫を見せにきたんだよ」と、リリーの義理堅さに感じ入り、「子猫の里親探しをしなくてはならないね」……里親探しを始めたが、事はそう簡単ではなかった。
多くの知人・友人に働きかけるがなかなか引き取り手が見つからない。

 リリーが子猫の首を咥えて移動しているのを見かけた。
それを追う。わが家の前のお宅が、庭の樹木を伐採し小山のように積み上げ、整理しないで何年にもなるその下で子育てをしているのをつきとめた。雨が降っても木と木が重なり合っているから凌げるのだろう。でも、湿気も多いにちがいない。
ペットショップに行き、大きなケージを買ってきた。子猫を捕まえて保護しようと思ってのことである。
産まれて5週目の日曜日、リリーが子猫を咥えて移動する姿を見かけた。後を追い、子猫を口から離して一休みしているところを、抱きとって保護した。
一週間後、もう一匹の黒子猫を保護。
その一週間後にキジトラ子猫がリリーといたので近づくと、子猫はすばやくリリーよりも早く逃げた。
先に保護した二匹は、リリーが咥え「一休み」と子猫を地面に置いた瞬間に近づくと、リリーが一瞬たじろぎ後じさりする、子猫はウロウロと地べたを這いずりまわるだけだったから保護できた。
生後七週目に入った三匹目は、かなりの敏捷さを獲得しているので、捉える事ができないのだ。



 保護した二匹の黒子猫をケージに入れる。
親猫リリーは窓から子猫に呼びかけ、子猫たちもそれにこたえて騒ぐ。
夜はケージで過ごさせ、朝ケージの扉を開ける。食事をモリモリ食べ、ケージの外で二匹の黒子猫は追いつ追われつよく遊びよく眠った。
不思議なのはわが家のサラとウリが、二階に行ったきり降りてこなくなったことだ。階段を下り気配をうかがい、階段を降り切ることがない。
相手は子猫なのだからその内に慣れるだろうと思っていたが、子猫が貰われていく二週間ほどの期間は、二階での生活だった。
子猫たちの里親が見つからなかったら、わが家で面倒をみる覚悟であったが、もしそうなったら、階下と二階に二匹づつが分かれて住みわけなくてはならなかったのだろうか。

 幸いなことに友人が里親を見つけてくれた。引き取られる際に記した経歴書がこれだ。


             黒猫A,Bの成長記録
 母親はわが家に訪問してくるキジトラ(推定1歳半)のリリーです。
今年のはじめ、前からやって来ていた茶虎の雄猫に案内されて来るようになりました。
避妊手術を受けるため保護の機会をうかがっていましたが、用心深く保護できずにいたところ、2015年5月20日に黒猫2匹、キジトラ2匹を出産しました。

授乳期は母猫に任せよう、離乳期に保護しようと時期を待ちました。

黒猫A(尾が細く先っぽが折れている)
6月28日(日)に保護。
 動物病院で診察。体重320グラムで「5週目としては小さい」。その他栄養不足による「結膜炎」、風邪もひいているとの事で、飲み薬と点眼薬を調剤してもらった他、ノミ駆除をしました。
その後、体重は日ごとに増加し、一週間後に375グラムになり、動物病院でも「順調に育っています」。
現在の体重は、680g(14日夕)です。

黒猫B(尾が丸丸している)
7月5日(日)に保護。
 動物病院へ直行。体重420グラムでした。病院での処置は、黒猫Aと同じでしたが、身体がAより大きかったので、飲み薬は「やや強めにしてあります」と調剤してくれました。
現在の体重は、700g(14日夕)です。
                                2015・7・15

                            
 わたしたちは、子猫の里親探しの苦労を身にしみて味わった。
四匹の子猫を咥え、安心できる所をもとめてあちこち移動、心やすまらない日々を過ごさねばならないリリーの子育ての大変さもみた。四匹産まれた内の一匹は行方知れずになっている。
避妊手術をはやくやりたいとわたしたちは熱望し、動物病院に相談したら「捕獲器」を貸してくれるという。避妊手術の予約日は一ヶ月先に決まった。
避妊手術前夜は、手術にそなえて絶食させなければならないので、夜の餌だしはせず、翌朝「捕獲器」の中にいつもよりご馳走と思われる猫缶をお皿いっぱいに盛った。
いつも食事に来る縁側に設置しリリーが来るのを待つ。
リリーがやって来て、捕獲器のまわりを巡るのだがなかなか入口を見つけられない。入口を気づかせようといつものカリカリ食事を入口に置く。
ようようリリーが気づいて入口に来た。入口に入って缶詰のご馳走がある奥に進めば「ガッシャン」と扉が閉まる仕掛けなのだ。
「成功は目前」と見守っている矢先、キジトラ子猫が母猫リリーに先んじて捕獲器の奥に突進、「ガッシャン」の大きな音にリリーは逃げ一日中姿を現さなかった。
この子猫を動物病院へ連れて行ったら男の子と判明。さきに保護した子猫たちも男の子だったから、三男坊の「三太」=サンと名づける。
サンも病院で処置を受け、目薬・飲み薬を調剤してもらい、わが家のゲージに保護して一夜を明かす。
翌朝、ガラス戸越しにリリーがケージの子猫を呼び喚く。ケージの中で子猫も鳴きかえす。
このままにしておくのは「不憫だ」と、外に向けケージを開くとサンが飛びだし、リリーともつれ合うようにして、母子はどこかに消えていった。

 次の避妊手術予約日はやはり一ヶ月先に決まった。
再び「捕獲器」を借りて用意万端ととのえる。
ところが「捕獲器」をみたリリーは寄って来ない。前回の捕獲作戦から一ヶ月も経っているから、捕獲器の記憶はないとの思い込みは人間の方で、用心したリリーは夕方までわが家に寄りつかなかった。
動物病院に捕獲器を返し、次の避妊手術予約をした。「予約がキャンセルになって…」と一週間先が指定された。
「今度こそ…」と、ホームセンターで補虫網の大きなのを買い、手ぐすね引いて待つ。
「来た来た、リリーがやってきたぞ」。食事皿に口をつけ一口食べた。そこを狙ってガラス戸の隙間から網をかぶせた。
みごと網の中に入った。と思うや否や網をかいくぐって一目散に逃走。
「予約していたのに今回も捕獲できませんでした」と、動物病院に詫びをいれ第三回目の捕獲作戦は失敗に終わり、一ヶ月先の予約をした。
一ヶ月が待ち遠しい。「今度こそ」と、日が経つにしたがって気分が昂ぶり、緊張感が増し息遣いがあらくなる。
予約日は決まっている。手すきの時に捕えて「持ちこむ」わけにはいかず、「決められた日、10時までに」という刻限を守らなくてはならないのだ。
日が近づくにつれわたしは失敗へのおそれと焦りに心騒ぐ。
第四回目の捕獲作戦…息を整え、網を差し出しリリーを捕えた。が、今度は網を破って逃走してしまった。
8月から10月にかけての捕獲作戦はことごとく失敗、「予約がいっぱい」との事で次の避妊手術予約日は年を越しての2月に決められた。
わたしはその日に向け、釣り具屋へ行き大きなタモ網を購入、準備を整えインターネットでの捕獲情報を読み漁り知恵をみがく。

 朗から「猫の捕獲に苦労しているようだね」との電話が入った。わたしが捕獲作戦失敗をフェスブックに逐一投稿しているのを見たらしい。
「猫は避妊手術だなんて知らないから命がけで逃げる」、「避妊予約の2月ではすでに孕んでしまうにちがいない。捕える事、手術できる病院を見つける事を手伝うよ」と云ってくれた。
信州の朗宅には、中型犬が一頭と猫が5匹暮らしている。猫の習性にも詳しい朗がそう請け合ってくれ、わたしは肩の荷が下り緊張の日々からようやく解放された気分になった。
「捕獲する道具を作ったので、これを食事に来る縁側に設置し猫が慣れるようにしておいてください」。
送られてきた道具は、縁側に網を敷き、余裕の網を縁側下部に置き、長い棒に巻き付け、食事を始めたら持ちあげ上から網をかぶせる仕掛けであった。

 朗が動物病院探しを始めたら、野田市に住む昵懇のOさんが「ここだったら」とさっそく紹介してくれた。
病院への連絡も手術予約も朗がやり、2016年1月12日(月)に決行することになった。
前日、朗がわが家に到着。
朗は送ってくれ設置した道具を撤去し、新たなものに取り換える作業をはじめた。
今までは、上から網を被せて捕獲する方法だったが、新たに持ちこんできたのは、網を下から上にたぐり上げる仕掛けであった。
軒下に滑車を三ヶ所とりつけ、網の上に食器皿を置き猫が乗ったら室内から紐を引っ張って絡め取る作戦である。
朝5時半、リリーとサンが網の上で食事を待っている。食器皿を置く。リリーとサンが食器皿に向かう。
「今だ」と朗が紐を引いて網を手繰り上げた。「成功」と思いきや、網を破って二匹は逃走してしまった。
「網が弱かったようだ」と、朗はすぐさま次の準備にとりかかる。家に置いてあった園芸用ネット網に取り換え待つ。
待つこと一時間ほどしたら空腹に耐えかねたかサンが縁側に登る。園芸用ネット網は丈夫でサンだけを保護して朗が病院に連れて行き去勢手術を行うことができた。リリーはこの日も終日来なかった。
同時に行ったサンの血液検査はすべて正常値であった。
翌日、朗は成田から出航しアメリカに向かった。

 サンの手術の際、リリーの避妊手術日を朗が予約した。2月1日(月)である。
前日1月31日(日)には、「和力野田市公演」があり、野田公演が終わったら朗が家に寄ってリリーを保護し、朗は信州に帰る段取りだった。
捕えたリリーを一夜そこに保護するつもりで、子猫たちがすごしたケージを再び組み立ててある。
家に到着し待つがなかなかリリーがやって来ない。
「明日の朝に賭けよう」と、朗は信州に帰る予定を変更してくれた。
翌朝5時半に起床、シン、リリー、サンが集まっている。ガラス戸越しに朗の姿を見たリリーはそそくさと退散。他の二匹は食事を済ませた。
朗は「リリーに顔を覚えられてしまったようだ」…と云う。
障子を閉めリリーの登場を待つこと2時間、リリーが縁側に登った。障子の破れ目からそれを確認していた朗が「それっ」と綱を引く。みごとにリリーを保護できた。

 6回目にしてようやくリリーの捕獲が成功した。
朗が工夫した道具と立ち会いがなければ、わたしと妻だけでは今だにリリーとの追いかけっこがつづいていたに違いない。
家にやって来る訪問猫シン・リリー・サンは去勢、避妊手術をしたから、近隣の方々もあるていどは「地域猫」として認めてくれているようだ。

 バイトなどでわたしたちの帰りが遅いと、訪問猫の3匹が路地で待っていて、わたしたちを駆け足で追い越し、縁側に登りガラス戸が開くのを待つ。
捕獲が失敗していたとき、一時は「餌絶ち」をして、訪問猫たちとの関係を切ろうかと思いつめた。
命あるものをむげにはできず、今また信頼関係を築けてよかったと思う日々を過ごせている。
わたしは猫たちとの付き合いを通して、ひとつの変化がある。
畑仕事をしていると、モコモコした虫に出くわす。たぶん「根切り虫」や蛾の幼虫など作物の害虫にちがいない。
前だったら、鍬やスコップで「害虫退治」とばかり駆除していたが、モコモコした猫と接するようになり、モコモコした虫にも目鼻口があり一生懸命に生きているんだと思うと、殺生ができなくなり、「作物の少しばかりの損害より、この子たちの命が大切だろう」と、そっと土に戻すようになったのだ。
猫との生活でゆったりした心が芽生えているのだろうか。

 いずれにしても昨年は、リリーの出産、子猫たちの里親探し、避妊手術のための捕獲作戦で気疲れの多い日々を送っていた。
今年はそれらの心労から開放され行く春を楽しめているのである。

※捕獲器、朗作製の捕獲設計図、その仕掛けなどの写真を掲載したかったのだが、写真「縮小ソフト」がとつぜん使えなくなった。いろいろなことを試したが縮小できず、日ばかりが経ってしまう。残念なことであるがアップをいそいだ。
 

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