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サリーが浮き彫りにする日本の後進性

2018-12-18 06:04:48 | 新聞記事・Webニュース・テレビ・書籍・ブログなど

サリーが浮き彫りにする日本の後進性

2018年12月10日(月) JB PRESS

1枚の写真が、世界中の人々の涙を誘った――。
その写真に映し出されていたのは、先頃亡くなったジョージ・H・W・ブッシュ第41代米大統領の棺の傍らで、自分の前足にあごを乗せ、仮眠をとりながら、最後までブッシュ氏を見守り、そっと寄り添うやさしい寝顔のサリーの姿だった。


【写真】故ジョージ・H・W・ブッシュ米元大統領を見送る式典に参列した介助犬のサリー

サリーとは、「サリー(Sully)・H・W・ブッシュ」のこと。
4月にブッシュ氏の妻、バーバラ夫人が亡くなった後、車椅子に乗ることが多くなった同氏の介助犬として、いつも行動を共にしてきた、クリーム色の毛を纏った2歳のラブラドール犬(雄)だ。
介助犬は、ペットではない。
身体障害者の体の一部となり、介助を受ける人にとっては、「欠けがえのない人生のパートナー」だ。
晩年、パーキンソン病で体が思うように動かなかったブッシュ氏にとっても、日常、ひいては人生そのものを支えてくれた「心の友」(参照=https://www.youtube.com/watch? v=zXYfTh7RGQQ)でもあった。
ブッシュ一家の広報担当、ジム・マグラス氏はブッシュ氏の死去の数日後、「ミッション・コンプリート(任務完了)」というメッセージを添え、同氏のインスタグラムにこの写真を掲載した。
ブッシュ氏が溺愛したサリーの真摯な献身的姿を世間に伝えたかったのだろう。
このサリーの姿は、瞬く間に大きな反響を呼び、世界中の人々が心打たれた。
ちなみに、サリー自身もインスタアカウント(https://www.instagram.com/sullyhwbush/? utm_source=ig_embed)を持っている。
この写真が拡散するやいなや、フォロワーが倍増し、現在、26万人近くにまで膨れ上がっている。
米大統領の公式エンブレムが施された星条旗のハーネスを見に纏った「サリー・H・W・ブッシュ」は、ブッシュ家の一員、いや、「ブッシュ氏の末息子」として、ブッシュ氏がテキサス州のバーバラ夫人の横に埋葬されるまで、“父親の最後の旅”に同行した。
「エアフォース・ワン」と呼ばれる米大統領専用機は、一時的に「特別空中作戦41」と名称に変更され、テキサスのブッシュ氏の自宅から同氏の棺を乗せ首都・ワシントンに向かった。
同氏の棺を連邦議会の円形広間に安置し、国葬を執り行うためだ。
機内には、息子のジョージ・W・ブッシュ第43代米大統領とローラ夫人とともに、サリーがずっと付き添った。
ネット上では、ブッシュ氏の大統領としての功績に対して賛否両論が飛び交う。
しかし、ブッシュ氏を最後の最後まで見守り、「クオリティー・オブ・ライフ(=QOL、充実した晩年)」を捧げたサリーに対しては、誰もが「何て素晴らしい男の子!」と今でも絶賛の声がやまない。
サリーは今年6月から、ブッシュ・ファミリーに迎え入れられた。
介助犬を退役米兵に提供する慈善団体「アメリカズ・ヴェット・ドッグス(Vet Dogs)」が仲介して、元大統領にサリーを提供した。
フランクリン・ルーズベルト元大統領など、米国の大統領は犬好きで知られるが、ブッシュ氏も無類の「ドッグラバー」。
介助犬サリーを迎えたその喜びを次のようにツイッターに書き込んだ。
「新しい家族の一員を我が家に迎えられ、非常にうれしい。『サリー』は美しく、そして素晴らしい訓練を受けた、アメリカズ・ヴェット・ドッグスからやって来た。大変感謝している」

介助犬は、体が思うように動かすことのできない使用者の「手足」となる。
電話への応答、電灯のオン・オフ、さらには品物を運ぶ、人を呼びに行く、緊急ボタンを押すなど、介助される側の様々な不自由さの種類によって、特別な役割を果たすよう訓練を受ける。
先のブッシュ一家のマグラス広報担当は、次のように話す。
「サリーは、何でもできるんだよ。唯一できないのは、『マティーニ(カクテルの王様)を作ること』(笑)ぐらいかな」
「だけど、心配は無用さ。サリーは、マティーニを作れる最良の“人間”を連れてこられるんだからね!」
それくらい介助犬は万能選手なのだ。
また、人の代わりにものを拾ったり、渡したりするだけでなく、それをどのようにして渡したら、その人の身体に負担にならずに済むかまで想定して行動する。
非常にインテリジェントな資質が必要な犬でもある。
さらに、難関なのは、付添い人の思いやリクエストに応えるまで、ひたすらじっと傍らに待機していなければならないこと。
気になる雑音や食べ物などの誘惑に負けないように自制が求められ、介助犬の仕事は非常にストレスが高い。
そして、最も重要なのは、心や感情を移入できる人間と全く同じ生き物で、日常生活のアシスタントをするだけでなく、介助を受ける人が直面するだろう新たな困難を乗り越えるモチベーションをも与えてくれること。
こういう点は、昨今、注目のAI(人工知能)とは違う点だ。
介助犬は、補助犬と総称される犬の仲間で、ほかには「盲導犬」「聴導犬」「セラピー犬」などがいる。
筆者は新聞記者時代、阪神大震災時に初めてスイスから日本にやって来た救助犬を取材したが、「救助犬」は災害大国の日本には、特になくてはならない存在だ。
そもそも介助犬は、1970年代後半に米国で、障害を持つ人たちと犬たちとの関係を考えるという試みから始まった。
日本には、米国在住だった日本人女性が1992年に、米国で訓練された介助犬とともに帰国したのが始まりだ。
特に高齢社会の日本では、手足に不自由を持つ人にとっては、ブッシュ氏がサリーをかけがえのない存在として日常をともにしたように、今後さらに重要な役割を果たすことになるだろう。
欧米では、自閉症の子供たちの友人としても介助犬が人気だ。
一方、日本は補助犬が全般的に少ない。
特に介助犬は極端に少ない「介助犬後進国」だ。
今、日本には、75頭ほどしかいない。
3000頭が活躍する米国とは比較にならないほど少ない。
日本では、需要が少ないということではなく、その逆で多くの人が介助犬を必要としているが、絶対的にその数が足りないのだ。
背景には様々な要因があるが、介助犬の育成が難しい点が大きい。
日本では、社会福祉法人の日本介助犬協会所有の繁殖犬から生まれた子犬が、数か月間、母犬や兄弟たちと暮らす。
その後、将来の補助犬を訓練する子犬を、生後2か月から約1歳になるまで飼育するボランティアの「パピーファミリー」が預かり、人間との生活と習慣を身につけさせる。
しかし、その育成にはお金がかかる。
募金によって成り立っている同協会は、資金不足に悩んでいる。
また、パピーファミリーのボランティアも極端に少ない。
さらに、介助犬のトレーナーの公的資格もない。
こうした点から日本は後進国から抜け出せていないのだ。
ブッシュ氏が提供されたサリーを育成するヴェットドッグなどでは、1頭の介助犬育成に5万ドルを要するといわれている。
これらは公的、私的の補助で成り立ち、トレーナーの資格も保証されている。
寄付金頼みの日本の場合、育成環境がどうしても不十分になってしまう。
さらに、介助犬不足の背景には、社会的理解や認識の低さもある。
日本では2003年に「身体障害者補助犬法」が施行され、公共施設への介助犬同伴の受け入れが義務化された。
すでに15年経ているが、受け入れを拒否する施設が後を絶たない。
一般店舗への入店でも、「他の客の犬アレルギーなどを理由」に、入店拒否する店舗がまだまだ多い。
また、今問題になっているのが、偽の介助犬の問題だ。
飲食店に愛犬を連れて行きたいがために、偽の「介助犬」という胴着を着せて入店する人が増えている。
特別な訓練を受けていない犬が入店すると、騒いだり、本物の介助犬や人に吠えかかったりする場合があり、結果的に、飲食店側が補助犬同伴を拒むような現象を生んでしまっている。
今回、ブッシュ元大統領の死に付き添い、最後まで同氏を労わる「心」を持ったサリーの存在は、特に日本にとって、人間の良きパートナーとしての介助犬の大切さを教えてくれた貴重な“戒め”だったのではないか。
資金面で国や自治体が介助犬育成に助成するとともに、喫煙席と禁煙席があるように、日本は先駆的施策で「補助犬席」を設けてはどうか。
そうすれば、少しはこの理解が深まるだけではなく、「後進国・日本」の汚名を晴らすことができるかもしれない。
(取材・文 末永 恵)


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