ともに家に帰るまで
◇中越沖地震で被災し、トラック生活を送る足立さん夫妻
3匹のゴールデンレトリバーが狂ったようにほえ出した。
めったにほえない犬の様子にヘビを警戒し、海辺から孫を連れて避難すると、今まで経験したことのない激しい揺れに襲われた。
離れて暮らす長男の結婚記念日。
「海の日」に用意されたバーベキューは一瞬のうちに土砂にのみ込まれていた。
中越沖地震が発生し、避難所で夜を過ごす新潟県柏崎市の青果業・足立金五さん(50)と妻の真由美さん(48)は、車中の犬たちのことが頭から離れなかった。
全壊した自宅で飼うことも、避難所に連れて行くこともできない。
人間のことで精いっぱいの被災地で「犬なんか連れて」と思われないかという不安もあった。
子犬の時から一緒に暮らしてきた「家族」との車中生活を決断するのに時間はかからなかった。
仕事で使うトラックでの生活は、朝起きれば「夜はどこに行こうか」と考え、夜になれば「明日のこと」を考える日々。
深夜、警察官に職務質問されることもあるが、真由美さんは「苦労もあるけど楽しいよ。犬の顔を見ると励みになるしね」と笑った。
犬を連れて足立さんと自宅に向かうと、以前は先を競うように家に入った3匹が道路から動こうとしなかった。
「こいつらも分かっているのかな」と足立さんはため息交じりにつぶやいた。
唯一、難を逃れた庭の小さな展望台。
このテラスで夕日が沈む日本海を見下ろしながら、夫婦でビールを飲むのが楽しみだった。
「もう面倒くせえと思っていたけど、こいつらの悲しい顔見てたら、また家に帰りたいよ。こいつら孫まで助けてくれたからね」
またいつか犬たちと寄り添い、妻と乾杯する日を誓った。
【写真・文、佐々木順一】
◇保護センターに預けるケースも
優しい性格のサクラ(4)と、その息子で賢いホクト、どこか頼りないレオンは共に1歳でやんちゃ盛り。
トラックの荷台を店舗にした移動青果店を営む足立さん夫妻は3匹と行動を共にし、買い物客から人気を集めている。
地震から約2週間後に仕事を再開した足立さん夫妻。
スーパーの駐車場に店を広げ、人懐っこい犬たちと客の触れ合いに足立さんは「果物より、犬のほうが人気なんだよね」と笑顔を見せる。
柏崎市の仮設住宅で犬の飼育は可能だが、足立さんは「大型犬3匹を飼うとなると周りの人たちに迷惑がかかるのではないか」と思い、入居は考えていない。
また、同じように大型犬を飼う人の中には動物保護センターに預けるケースも少なくない。
においや騒音、アレルギーなど、被災地に限らず動物と暮らすことは近隣住民の理解が必要不可欠だ。犬を飼う被災者の中には「動物飼育可能なマンションのように、ペットと一緒に生活できる仮設住宅群があれば」という声もあった。
被災した海辺で犬たちとの時間を楽しむ足立さん。またいつの日か日本海が見渡せる我が家に帰る日を思い描いた。
「犬は家族だから」と語る足立さん。被災者となり苦労も多いが、サクラを抱き上げると自然と笑みがこぼれた。
人懐っこい3匹は「看板犬」として子犬の時から買い物客の人気者だ。
2畳ほどのスペースに大人2人と犬3匹が寝る生活だが犬の顔を見て励まされるという。