和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

あれは何やろか。

2020-01-10 | 京都
桑原武夫・司馬遼太郎の対談を
いつ読んだのだったか。忘れちゃった(笑)。
そこで、気になっていた言葉があります。
途中からですが、引用してみます。

司馬】 実をいいますと、いまの発言は、わたしが
多年桑原先生を観察していての結論なんです(笑)。

大変に即物的で恐れいりますが、
先生は問題を論じていかれるのには
標準語をお使いになる。
が、問題が非常に微妙なところに来たり、
ご自分の論理が次の論理の結論にまで
到達しない場合、急に開きなおって、

それでやなあ、そうなりまっせ、
と上方弁を使われる(笑)。
あれは何やろかと・・・・。


桑原】 批判していたわけだ(笑)。

司馬】 いや、批判じゃなくて、
これはやはり標準日本語がまだ
不自由で足りないところがある
せいだろうと思っております(笑)。

喋り言葉としての標準語は論理的であるにしても、
おっしゃるように100パーセントの論理性はない。
そこで、感情論理学を背負っている
京都弁で栓をしてしまう。

桑原】 ぼくは標準語を使ってはいるが、
意をつくせないときはたしかにありますね。
そこで思うんですが、社会科学などの論文に、
もっと俗語を使って、『さよか』とか・・・(笑)。

司馬】 『そうだっしゃろ』とか・・・。

桑原】 『たれ流し、よういわんわ』というような
言葉が入るようになればおもしろいと思うんですがね(笑)。

司馬】 そうですな。

〈 桑原武夫対談集『日本語考』(潮出版社)p57~58 〉


私がこの対談を読んだのは、はっきりしませんが、
おそらく、30年も前のことだと思います。

それから『あれは何やろかと・・・。』が
数年ごとに、思い浮かんでくる。
まるで、オバケだなあ(笑)。

昨年は、
偶然その疑問の入り口の玄関前に
立ったような気分を味わいました。

それが、京ことばなのでした(笑)。
うれしい驚きは、梅棹忠夫著作集の
月報でした(著作集第17巻の月報18)。
寿岳章子さんの短文でした。
その短文での
最初の場面紹介は、
ある年の正月、NHKの『とそ機嫌』とか
名づけた一時間の放談会でした。

「今は亡き桑原武夫、梅棹忠夫・・・
というような中に私も仲間にして頂いた。
とにかく、桑原、梅棹二氏の談論風発ぶりは
すごかった。それも・・全くの京ことばのおしゃべり」

次に紹介されていた場面は古くって
昭和31年筑摩書房発行の「言語生活」に掲載された
座談会『動物のことば』でした。
座談のメンバーは今西錦司・上山春平・伊谷純一郎
川村俊蔵・梅棹忠夫。

寿岳章子さんは無理に出版社の同伴ということで
その場に立ち会っていらっしゃったらしい。
月報にこう記されておられます。

「愉快な座談が始まった。とびきりおもしろいニホンザルの話。
メンバーはそれぞれニホンザルの社会形成に深くかかわる
人たちで、どの発言もまことに内容ゆたかであった。もともと
私はサルの鳴声と言語との関連にまず興味があったのであるが、
やがてその座談会の無類のおもしろさが
もう一つあることにいやでも気付いた。

今西、梅棹二氏は全くの京ことば、
伊谷、上山二氏は共通語という
二パターンで座談会は形成されていて、
その京ことばの自在さに私は圧倒された。」

せっかくなので、
寿岳さんの、この箇所もうすこし引用。

「だから私はそのお二人の京ことばぶりが
十分に文字化されるよう、文末のデリケートな
特に助辞をていねいにメモした。念のため、
ゲラ刷りにも目を通させてもらった。
その、京都ことばで学問的内容が語られる
ということじたいに、おそらく歴史的価値が
生じるにちがいないと判断したからである。
 ・・・・・・・

あるのやで・・・つかめてへんわ・・・・どうやいな
・・・・逃げはったんやな・・・・作るのんや・・・。
堂々とこういう形で京都方言を駆使して話す
サル話はとても楽しくもありおもしろかった。
私の大収穫は、
『東京ことばでしゃべらんかてもええのや』
というテーマを得たことであった。・・・・」

ちなみに、特集「動物のことば・人間のことば」が
はいったのは、『言語生活』第55号(昭和31年4月)。

今年の『わたしの京都』は、
この雑誌を読み直すところから
はじめられますように。
この古い『座談』に、はたして
『歴史的価値が生じ』ているか?








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