和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

お経のように読んで。

2012-11-13 | 短文紹介
徳間書店「まあだだよ 黒澤明」。
大判A4サイズ。1993年発行。定価4800円。
これがネット古書店で安いのが840円。
つぎに安いのが1500円。
けっして映画パンフではありません。

第一部は黒澤明の文が32ページもあります。
それも引用したいのはやまやまですが、
ここでは、第二部の絵コンテとシナリオを紹介。

ナレーション 「この先生の家も空襲で焼けて了った」
   ・・・・・・
先生「いやいや・・・不思議と焼け残ったこの小屋にめぐり合ったのは望外の幸運だ・・・しかも、この持ち主は面識のあるバロンでね」
高山「バロン」
先生「男爵だ」
高山「男爵がこんな家に?!」
先生「馬鹿言っちゃいかん・・・ここはね、その男爵の屋敷の庭番の爺さんの小屋だ・・・屋敷の方は、私の家と一緒に焼けた・・・焼け出されたその朝、私達がこの小屋を見つけて一休みしている時、屋敷の焼け跡を見に来たそのバロンに会ってね・・・この小屋を貸してくれないか、と頼んだら、どうぞどうぞって訳でね・・助かったよ、全く」
 先生、ふところから本を出して見せる、
 その本の表紙。

   方丈記 鴨長明

先生「これ、知ってるだろう」
 みんな、うなずく。
高山「はい」
  と、手にとて見て、返す。
先生「本は重くてね・・・・好きなこの本だけ持って逃げた・・・この鴨長明という人は、平安時代の都に住み、戦乱、大火、飢饉、その他いろいろな災厄を経験し、この世の無常を儚んで、山の中に庵をむすんで隠遁した、私も近頃、全くこの鴨長明の心境だよ。・・・」

ちょうど、この本の真ん中へん。
p94~95には
絵コンテで先生が小屋の中で本を両手でもって読んでいる図。
ちゃんと本には、表紙に方丈記と書いてあります。

そのコンテの少し前のページにはシナリオがありまして、そこを引用。

  先生、『方丈記』を声を出して、お経の様に読んでいる。
『たびたびの炎上に、ほろびたる家、またいくそばくぞ・・・ただ仮りの庵のみのどけくして、おそれなし・・・ほどせばしといえども、夜臥す床あり、昼いる座あり、一身をやどすに不足なし』
  秋―冬―春。
 方丈よりなお狭い家で、ひっそりと暮している先生と奥さん。秋は、二人、トタン屋根をころがる落葉の音を聞いているかも知れない。冬は、二人、七輪に身を寄せて窓の雪を見ているかもしれない。春は、二人、硝子戸を開けて、春の陽射しを浴びているかも知れない。そして、青葉の五月が来る。


コメント
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