乗鞍岳への自転車道

40歳で突如、自転車乗りになろうと発心して早15年。CAAD9少佐と畳平へ駆け上がる日はくるのでしょうか。。。(汗)

乗鞍レポート 本番編

2007年06月06日 | 自転車

前日の試走では、わずか8.4kmの地点でサポートカーに回収されてしまったわたくし……

足きりどころか、下手をするとリタイヤになりかねない状況でございます。

せめて、わたくしの分までも、E嵐さまにがんばっていただきたいのでございますが、

前日の試走では、E嵐さまったら、例の2.8km地点の広場から早々にサポートカーに

乗り込んでしまわれたのでございます!

つまり、E嵐さまったら、たった2.8km走っただけで、その先へ進むことを

断念してしまわれたのでございます!

なんという、いさぎよいお方! ある意味、オオモノ!(大汗)

そんなわけですから……6月3日のレース当日を迎えたE嵐さまとわたくしは、

早朝から鬱々としていたのでございました。

レースのスタートは8時ちょうど。チーム自転車のクルマは、スタート1時間半前の

ちょうど6時半ごろ平湯峠に到着したのでございましたが……

平湯峠に降り立ったE嵐さまとわたくしは、それこそ、びっくり仰天したのでございます!

それは……平湯峠が……ものすごい雰囲気になっていたからでございます~!

その時間帯は、選手のみなさまがウォーミングアップをなさっている真っ最中だったので

ございました。

あたり一面に、3本ローラー台や固定式ローラー台のうなる音が鳴り響き、

みなさま、アドレナリン大分泌のご様子。

ローラー台をお使いにならない選手さま方は、峠付近の坂道を上ったり下ったり、

何度も何度も往復しながら、体を温めていらっしゃるのでした。。。

E嵐さまとわたくしは、その過激な雰囲気に圧倒されて、ただ、呆然と立ち尽くすばかり。

みなさま、鍛え上げられた筋骨隆々の身体に、かっこいいレーシングジャージで、

バッチリ決めていらっしゃる。。。

どう考えても、この選手さま方の中において、わたくしはイリーガル・エイリアンなので

ございます。

あら? わたくしったら、なんでこんなところに居るのかしら?

なにか、場違いでございますわね? わたくしひとり、違和感アリアリでございますのね?

「お・よ・び・で・な・い……失礼しました~!」

そう言って、この場を立ち去ることができたら、どんなに気楽でございましょうか。

しかし、もう、ここまで来てしまっては、わたくしに逃げは許されないのでございます。

E嵐さまとわたくしは、はやくも涙目になってしまうのでした。

ところで、わたくしはレース初体験でございますので、なにも知らなかったのですが、

こういうレースというのは、全員がいっせいにスタートするのではなくて、

カテゴリー別に、少し、間隔をあけてスタートするのでございますね。

先頭をきってスタートするのは、もちろん実業団さまでございます~。

……よく考えてみたら、そりゃ、そうですわよね。

万が一、実業団さまより先に、わたくしのようなヘニョピリンがスタートしていたら、

後からスタートする実業団さまの邪魔になって、足を引っ張ってしまうのですわ。

そういうことのないよう、実業団さまが、いちばん最初にスタートするということは

至極、理屈にあっているのでございます。

午前8時。実業団さまのスタート!

パンッ!というピストルの音とともに、各選手、いっせいにスタート。

うわぁぁぁ! 速! ちょっとお兄さん、最初からそんなにとばして大丈夫?(汗)

いえ、大丈夫なんでございますよ! だって実業団さまなのですもの!

(大丈夫じゃないのは、わたくしオンリー。)

みなさま、最初のカーブの手前からいっせいにダンシングで激坂を駆け上り

あっという間に見えなくなってしまいました。

その次にスタートするのは、男子エリートのカテゴリーです。

エリートなんですって! ちょっと、奥さん、エリートですってよ!

エリートというのは、23歳から29歳までの、これまたメチャクチャ強そうな集団です。

うわ~、ノリノリなのですわ~。フレッシュ・マンなのですわ~。

そうこうするうちに、男子アンダー23(19歳から22歳)の若人グループが出走。

そして、男子ジュニア(13歳から18歳)がスタート地点に集合です。

この男子ジュニアが、これまた、迫力なのでございますぅ~!

なにやら、岐阜には、名門自転車部を持つ高校があるらしいのですわ。

E嵐さまとわたくしは、昨日より、この赤ジャージ集団をマークしていたのでございますが、

とにかく、みなさま丸坊主に刈上げて、全員、自転車はアンカー、白いヘルメット、

しかも、どのお子さまも、瞳がピュアなのでございます~。

この乗鞍スカイラインサイクルヒルクライムというレースが、

こんなにもピュアな瞳の少年たちが参加するレースだったとは~!

(ショップAのバンビちゃんも、高校生の頃はこんな風だったかも……)

などと、わたくしは自らの切迫した立場を忘れて、うっとりと夢想するのでございました。

このピュアで負けず嫌いなボクちゃんたちは、スタートするやいなや、いっせいに

頂上めざして、走り去っていったのでありました。

ぼんやりしている場合ではありません!

次は、わたくしが所属する女子マスターズのスタートです!

この女子マスターズというのは、年齢別に別れておらず、ほとんど20代前半と思われる

強そうなお嬢さま方も、わたくしのようなオバサンも、十把ひとからげになっている

やけっぱちな集団です。

とにかく、みなさまお若いのですわ~。

あら? もしかして、オバサンはわたくしひとり?(汗)

なんだか悲惨なことになりそうな予感です。わたくしは、強そうなお嬢さま方のジャマに

ならないようにと、最後尾について、スタートの瞬間を待ちました。

パンッ! ピストルの音です~! スタートするんです~。

みなさま、ズザザザ~ッ!とこぎ出して、いっせいに坂道を上ります。

わたくしは、ワケもわからないまま、みなさまの背中を追って、乗鞍スカイラインの坂道を

必死に駆け上るのでございました。

でも……なんといっても、このヘボヘボなわたくしのすることでございますから……

最初のカーブを越えたところで、はやくも女子集団から離されてしまうのでございました。

なんとか、もう少し後をついていきたい……そう思うものの、ふと、ポラールの心拍数に

目を落とすと、なんと、スタートから数百メートルしか走っていないのに、もう心拍数が

185になっているではありませんか!

うわ~ん、少佐どの~! わだぐじ、どぼじだらいいんだすか~(涙)

苦しい……苦しい……胸いっぱい空気を吸い込むのですが、肺がなにかで圧迫されて

でもいるように、息ができないのでございます。

もしかしたら、心拍センサーのチェストベルトがきついのかもしれない……

苦しいのをなんとかこらえつつ、片手をハンドルから離して、胸に巻いてある

チェストベルトの締まり具合を確かめてみました。

う~む、そんなにきつく締まっているようでもないのですが……やはりこれは、

スタート地点の標高がすでに1700mという、過酷な条件によるものなのでしょうか。

ベルトを緩めても、いっこうに事態が改善しないので、わたくしは諦めて、

地道にペダルをこぎ続けました。

そうこうするうちに、男子マスターズの方々がスタートなさったようで、後ろから

追い上げてきた男の方が、次々のわたくしを追い抜いていきます。

わたくしは、みなさまのコースどりのジャマにならないよう、必死にキープレフトで

走り続けるのでございました。

このキープレフト……右カーブのときはよいのですが、左カーブの場合は、

インベタになるのでございます。

乗鞍スカイラインのような山岳道路の場合、左カーブのインベタは、ものすごく

傾斜が急でございます。

わたくしは泣きそうになりながら、インベタの激斜面を必死に登るのでございました。

しかし、それも長くは続きません。激斜面になると足の筋肉に力を入れなければならず、

そのせいで酸素欠乏状態に陥るのです。

(もう……もう……ダメ……きっと、あと100mくらいでリタイヤだわ……

E嵐さま、あとのことは、よろしくお願いいたします……)

そんな弱気に陥ったそのときでございます。

「うり坊さんですか?」

見知らぬ男の方が、追い抜き際に、わたくしにそう、お声をかけられたのでした。

わたくしはびっくり。このようなレースの最中に、見知らぬ男の方から、ハンドル・ネームで

声をかけられるなんて、とんでもなく稀有なことではございませんか?(汗)

それでもわたくしは必死に「は、はい! そうです!」と返事をしました。

その方は、もう、10メートルくらい坂の上を登っていらっしゃいましたが、

わたくしのほうを振り返って、「ブログ読んだことがあります! がんばって!」と

力強く仰り、そのまま、どんどんスピードを上げて小さくなっていかれるのでした。

わたくしは、感動のあまり、一瞬呆然自失となってしまいましたが、あわてて

「はい! ありがとうございます!」と叫んだのでございます。

この瞬間、わたくしの体に異変が起こったのでございました。

なんだか、体の表面から、レースに対するネガティブな気持ちが、すぅ~っと蒸発して

しまったような心持ちでございました。

わたくしは、どんどん心が軽くなっていくのを感じていました。

Y編集チョさまから、このレースへの出場を命じられたときから、わたくしは、ずっと

後ろ向きな気分でございました。

自分から望んだことでもないのに、無理やりにレースに出させられている……という、

ネガティブな気分から、どうしても脱することができなかったのでございます。でも……

「ブログ読んだことがあるんですよ、がんばって!」

この温かい励ましの言葉が、わたくしを取り巻いていたマイナス思考の殻を、

いっきに粉砕してくださったのでございます!

(がんばろう! 精一杯、がんばろう!)

わたくしは、体の内側に勇気がみなぎってくるのを感じました。

(足きりでもいい、もし、リタイヤすることになってしまうとしても……

CAAD9少佐のクランクが停止する瞬間まで、全力を尽くそう!)

あの男性のひと言が、わたくしの目を覚ましてくださいました。

そうなのです。わたくしはひとりではないのです。ブログのコメントやBBSで、いつもいつも

わたくしを励まし、元気づけてくださった大勢の方々が応援してくださっている。

出発の前日まで、BBSに次々と応援メッセージを残してくださった方々が、

わたくしには付いていてくださるのです。

インターネットというバーチャルな関係を、希薄なもの、虚しいものと思う人もいるかも

しれません。でも、わたくしを支え、導いてくださる大勢の方のひとりが、たった今、

この乗鞍のレースに参加なさっていて、わたくしに声をかけてくださった。。。

わたくしは、果報者でございます。何の実力もないのに、みなさまにこんなにも

応援していただいて、日本一の幸せ者だったのでございます。

(ありがとうございます。。。ありがとうございます。。。)

わたくしは心の中で何度も何度もみなさまに感謝申し上げながら、

力いっぱいクランクを回すのでした。

涙こそこぼれませんでしたが、鼻の奥がツンとして、どっと鼻水が流れました。

それをたびたびグローブでこすりあげながら、ひたすら畳平を目指すのでございました。

気がつくと森林限界を超え、あたりには高山特有の無機的な岩稜の風景が

広がりはじめています。

ああ、わたくしは……乗鞍岳にきたのでございます。

日本一高いところにある道路を、エンジンに頼らず、自力で走っているのでございます。

胸がいっぱいになりました。うれしくてうれしくて、叫びそうでございました。

沿道に立って旗をふってくださるスタッフの方々が、「あと5kmだよ! がんばれ!」とか、

「そら! もう少しだ! しっかり!」とか、声をかけてくださいます。

そのスタッフの方ひとりひとりに、わたくしは「ありがとうございます!」とか、

「ハイ! がんばります!」と、お返事しながら走りました。

一秒を争って、前の選手を追い抜こうという気持ちは、まったくありませんでした。

このスタッフの方々にお礼を申し上げながら登ることこそ、わたくしの乗鞍ヒルクライム。

わたくしは、みなさまのおかげでここに居させていただいているのでございます。

わたくしのブログを読んでくださっている方々にも、レースのスタッフの方々にも、

そして、一緒に走っている選手の方々にも、感謝の思いがあとからあとから、

溢れてくるのでございました。

雪壁にはさまれた道路を越えると、桔梗ヶ原の広大なハイマツ林が広がります。

ハイマツの濃い緑色と、残雪の白、そして、乗鞍岳の黒々とした岩峰……

なんと神々しいことでございましょう。

ああ、ゴールが見えてきました。畳平です。

最後の急斜面を上りきって、ゴールまでの平坦な道、わたくしはギアをアウターに戻し、

力いっぱいクランクを回しました。

そして、ゴール!

わたくしは畳平の清廉な空気を胸いっぱい吸い込み、心の中でもう一度、

「ありがとうございました!」と、叫んだのでした。

(乗鞍レポート・完)


乗鞍レポート 前日編

2007年06月06日 | 自転車

みなさま、このたびは、

飛騨高山サイクル フェスティバル

乗鞍スカイライン・サイクル・ヒルクライム

への参加に際しまして、数々の応援を頂戴いたしましたこと、

まことにありがとうございました。

みなさまのご声援が力となり、どうにかゴールさせていただくことができました。

ほんとうに、ありがとうございました。

これから、その中身が、いったい、いかなるものであったのか、ご報告させていただこうと

思いますので、どうぞ、しばし、お付き合いくださいませ。

      *      *      *      *      *

6月2日(土) 朝8時 高尾駅南口に結集した「チーム自転車人」。

メンバーは、Y編集チョさま、カメラマンのK倉さま、自転車人編集部員のE嵐さま、

そして、下請けの地図屋(わたくし)の4名でございます。

うち、レースに出場いたしますのは、E嵐さま(34歳)と、わたくし(41歳)の2人。

E嵐さまは、コルナゴのフルカーボン(もちろん、モノコック・デザイン)の、ものすごく

軽いバイクを調達なさってのご出場です。

わたくしは、むろん、少佐どの(CAAD9.3)との同行二人。

どこへ行くにも、何に参加するにも、CAAD9少佐どのとわたくしとは、

常にセットなのでございますからして、ヒルクライムだろうと、ロングライドだろうと、

少佐どのと同行二人なのでございます。

そのメンバーで、相模湖ICから中央自動車道に入り、一路、北アルプスの乗鞍岳を

目指すのでありました。

6月2日(土)は、レースの前日であるわけですが、平湯峠下の、ほおのき平駐車場にて、

参加申し込みの最終チェックインをする必要があるので、お昼すぎには

ほうのき平に到着していなくてはいけなかったのでございました。

駐車場に到着したわたくしたちは、さっそくレースのチェックインを行い、

バイクの車検をしてもらうことにいたしました。

車検場には、ナガサワ・レーシング・サイクルの長澤さまが、せっせと点検を

なさっていらっしゃいました。

長澤さまと、もうお一人の整備士の方、お二人でもって、一台一台、

選手の自転車をチェックなさるのですから、たいへんなのでございます。

わたくし、その車検だけでも大緊張してしまいまして、自分の番がまわってきたときには、

しどろもどろになりながら「あのあのあの、よろしくお願いシマス」などと口ごもりつつ、

CAAD9少佐を差し出したのでございました。

その折、「どっか、具合のわるいところ、ある?」と訊ねられたのでございますが、

そのときだけ、妙に野太い声で自信満々に、「いいえ、ありません!」と豪語してしまい、

「それじゃ、もう、いってよし!」と、いとも簡単に、車検をパス。

なんだか拍子抜けした感じでございました。

ところで、わたくしは、ロードバイクに乗り始めてからわずか8ヶ月の超初心者。

しかも、レースなどというものに参加したことなど、皆無なのでございますから、

まったく勝手がわかりません。

Y編集チョの後ろを、おろおろしながら、付き従っていくばかりで、まったく自主性のない、

「アタチ、なにもわからないんでち」な状態で、駐車場をうろうろするのでございました。

いっぽう、Y編集チョさまは、お顔が広いのでございますから、あちこちの方々に

挨拶をなさったり、会話をかわしたりなさっていらっしゃるのでした。

その中のおひとりに、かつてのトップ・ロードレーサーにして、現在は安曇野で

サイクルショップ(ラヴニール)を経営されている、大石一夫さまがいらっしゃったので

ございました。

大石さまは、とても気さくなお人柄で、わたくしのような者にも、気軽にお声をかけて

くださるのでした。

E嵐さまが、「ヒルクライム初心者に、なにかアドバイスはありますか?」と質問すると、

的確なアドバイスをいろいろと話してくださったのでした。

そのどれもが、ほんとうに説得力があり、ためになる、いいお話ばかりだったので

ございますが……

いかんせん、今日はレースの前日。もう、今からでは間に合わないことばかり。。。

ああ、大石さまのこのお言葉を、せめて1ヶ月前に伺うことができたなら、

わたくしはどんなにか、日常のトレーニングに、それを活かしたことでございましょう……

しかし、なにもかもが、もう遅い……遅すぎるのでございました……

だって、レースは明日なのですもの……

しかし、大石さまのようなご立派なレーサーの方のお話を、間近でお聞きできただけで、

わたくしには身に余る光栄というものでございます。

わたくしは、大石さまの後姿に手を合わせて、どうか、ヒルクライムの神様が、

ほんの少し、わたくしに力を与えてくださるようにと、はやくも他力本願に陥っている

のでございました。

さてさて、周囲の人を見回してみますと、車検が終わった選手の方々は、

明日のコースの試走をするために、次々と乗鞍スカイラインのほうへと

走っていかれます。

その様子を眺めているうちに、E嵐さまとわたくしも、なんとなく落ち着かなくなり、

「それじゃ、少し、登ってみようか?」ということになり、乗鞍スカイラインを自転車で

走ってみることになったのでございます。

明日のレースのスタート地点・平湯峠(標高1684m)から、出発。

乗鞍スカイラインのゲートのところに、大会のスタッフらしき人が立っていて、

通り過ぎざまに「5時半になったらゲートを閉めますからね。それまでには

戻ってきてください」と、声をかけてくださいました。

わたくしは「はい、わかりました」と返事して、乗鞍スカイラインの本コースへと

突入したのでございました。

ところが! うぐ! いきなり、キツイ!

平湯峠をスタートして500mくらいしか走っていないというのに、わたくしの呼吸は

非常に困難なことになってしまったのでございました。

それも、ふだんの和田アタックのときに陥る呼吸の辛さとは、ちょっと様子が違うのです。

息があがる…というのではなくて、呼吸しているのに、酸素が体に入っていないという

奇妙な感じ。まるで、水の中で溺れているような感覚です。

そのとき、わたくしは気がついたのでした。

ここは、標高が高い分、酸素がうすいのでございます!

わたくしがこれまで越えてきた峠は、どんなに高いところでも標高1000mくらいしか

ありません。

今まで登ったところで、もっとも標高が高いところは、おそらく、富士スバルラインの

五合目(標高2300m)だと思いますが、それでも、麓の富士吉田駅の標高は800m

しかないのです。

ところが、この乗鞍岳という山は、麓の平湯峠でさえ、1700m近い高さです。

わたくしの心臓は、いきなりの高稼動で、悲鳴をあげていたのでございました。

E嵐さまは……といいますと、さすが、でございます。一緒にスタートしましたのに、

あっという間にわたくしとの距離を広げて、どんどん先へと登っていかれるので

ございました。

わたくしは、心肺機能の限界を感じておりました。

額に冷や汗が流れます。

(もう、高尾に生きては帰れないかもしれない……)

冗談ではなく、そんなことを考えました。

それくらい、わたくしの身体機能は異常な状況になっていたのでございます。

しかし、わたくしはシングルマザーなのでございますから、もしも、わたくしの身になにかが

起こったら、娘はどうなってしまうのでございましょう。

(いいや、死ねない! 生きて畳平に登らなくては! そして、生きて高尾に帰るのだ!)

そんなクソばかばかしいことを考えながら、必死に坂を上っておりますと、

2.8kmほど走ったところで、右手に大きな広場のようなスペースが広がっている

ところへ出ました。

ふと視線を向けると、E嵐さまが、コルナゴのカーボン・バイクを草むらに横倒しにして、

両足を投げ出して、悠々と休憩をなさっていらっしゃるではありませんか!

こうゆう有様を目撃してしまったら、もうオシマイなのでございます。

(うわ~ん! ズルイよう~! わたくしも、わたくしも、休憩いたします~!)

わたくしは、これまでのストイックな精神性をすべてブン投げて、

たまらず草むらに飛び込みました。

腰をおろして深呼吸すると、次第に呼吸が楽になってまいります。

ああ、なんというシアワセ……息がしやすいって、こんなにもシアワセなことなのです。

わたくしが、呼吸するシアワセを噛み締めておりますと、付近には、

Y編集チョさまがいらしゃって、なにやらシブイお顔をなさっています。

きっと、わたくしが、己の任務を放棄して、休憩をしたりしたのがいけなかったのですわ。

「こんなトコで休んでいないで、もっと走らなくちゃ、ダメでしょ」 

そう、笑いながら仰いますけれど、目が笑っていらっしゃいませんの。。。

わたくしは、たまらず少佐どのにまたがって、再びペダルをこぎはじめました。

すぐに、編集部のカメラカーが、颯爽とわたくしを追い抜いていき、わたくしは置き去りに

されたような不安を抱きつつ、ノロノロとクルマの後を追います。

道が少し平坦になったところで、E嵐さまがいらっしゃるかしらと後ろを振り返りました

けれど、E嵐さまのお姿は、どこにもないのでございました。

もしかしたら、わたくし、追い抜かれたことに気がつかなかったのかもしれません。

孤独な気持ちでペダルをこいでまいります。

ところで、この乗鞍スカイラインでございますが、わたくしの記憶によりますと、

たしか、大学生だった頃に一度、クルマで通ったことがあったと思うのですが……

コースの様子など、細かい記憶があるハズもなく、今のわたくしにとりましては

まったくの未知なる世界だったのでございました。

この先に、どのくらいキツイ坂があるのか、あるいは少しは平坦になる箇所があるのか、

皆目わからずに、がむしゃらに走るのみでございます。

あいかわらず、呼吸はアップアップ状態です。おまけに足も鉛のように重くなって

参りました。スタート地点から8.3kmほどのところで、速度がどんどん落ち、

時速6.5kmになってしまいました。

この乗鞍のレースは、制限時間が2時間と決まっているのですから、平均速度が

時速7kmを切ったら、足きりになってしまいます。

わたくしはイヤな気分になりました。必死にスピードを上げようとするのですが、

今度は心肺が限界に達してしまい、卒倒しそうな勢いです。

しかも、標高があがるにつれて、しだいに周辺がガスってきて、なにやら、

オドロオドロシイ感じなのでございます。

冷たい風が、わたくしの体から放射される熱を次々と奪っていき、暑いのか寒いのか

よくわからなくなってきました。

(寒いよ、暑いよ、コワイよ~!)

わたくしは、濃いガスの中を、たったひとりで、ひたすら登り続けるのでございました。

すると、上部から、1台のワゴン車が!

編集部のクルマでございますぅ~! 

(うわ~ん! わたくしはココでございます~! 乗せてくださいませ~!)

平湯峠から8.4km地点。ここで、わたくしの予行練習は終了いたしました。

ハイ。編集部のクルマに拾っていただいてしまったのでございます。

暖房が効いているクルマの中でも、わたくしは寒さに凍えて、ガタガタ震えておりました。

走っているときは、さほどでもありませんでしたが、クルマに自転車を積むために、

前輪をはずしたりしている、ほんのちょっとの時間で、わたくしの体温は、いっきに

下がってしまったのでした。

なんという恐ろしい気象条件なのでございましょう!

やはり、北アルプスの名峰・乗鞍岳は、そこいらの低山とは、自然の厳しさという意味でも

ワケが違うのでございました。

クルマの後部座席で、わたくしは疲労のあまりウトウトまどろみつつ、寒さでガタガタ震え、

朦朧とした頭で考えました。

スタートからわずか、8.4kmの地点で、この有様では……明日のレースは、間違いなく、

足きり決定でございましょう。。。

ああ、わたくしのような者を応援してくださったブログをロムしてくださっているみなさまに、

いったいなんと、お詫びしてよいやら……

しかも、足きりになってしまったら、『自転車人』の乗鞍ルポを、どうやってまとめたら

よろしいのでしょう。ゴールまでたどり着けなかった者のルポなんて、成立しないので

ございますわ。。。

ありとあらゆる困難に打ちひしがれ、憔悴しつつ、コースの試走にすら失敗するという

ヘタレぶりを発揮して、わたくしはレース前日のメニューを終えたのでございました。