単に卵を食べるだけなのに、卵の調理方法には色々あって、人それぞれ好みがある。
目玉焼き・オムレツ・玉子焼き・ゆで卵・スクランブルエッグなど結構ある。
私はとにかく目玉焼きが一番好きで、それが食べられるというだけで、とっても幸せを感じる程好きなのだ。
しかし、実際に食べれるのは休日の日の自宅にいる時くらいで、普段の日はもとより、旅先ではまず無理だ。
旅館の和食なら生卵か玉子焼きだし、ホテルなどのバイキング形式ならスクランブルエッグが定番である。
だが、米国のホテルによっては、バイキング形式の朝食会場にちゃんとコックさんがいて、お客さんの注文に応じて卵を料理してくれる所があるから驚く。
大抵はリゾートホテルやランクの高いホテルの場合が多い。
「たまご」と言えども侮るなかれ。
目玉焼きだって、シングルかダブルかに始まって、焼き加減とひっくり返すかどうかまで聞かれる。
目玉焼きが好きなわけで、だから、ターンオーバーなんてされたら台無しになるので、「サニーサイドアップ」とハッキリ言っておかないといけない。
たかが目玉焼きを食べるのに何とも面倒くさい手順を踏むのだが、常にチョイスがあることがアメリカ流であり、そこが良いところなのだ。
どこまでもお客の好みを反映させることがサービスの基本だとしていて、画一的では決してない。
そして、そんな「たまご」へのこだわりが、そんな風に反映されるシステムをこれまで日本で体験した事はなかった。
しかしながら、今回の沖縄旅行で泊まったホテルでバイキング方式の朝食会場にコックさんを見かけたのだ。
これは凄いと嬉しさで胸が高鳴った。
しかも二人もいて万全の体制である。
やったー!目玉焼きが食べれる、と一人ほくそえむ私。
幸いに誰も並んでいなかったので、いそいそと目玉焼きを作ってもらおうと思って駆けつけてみたのだが、すぐに期待が落胆に変わってしまった。
オムレツしか作れないと言うのだ。
目玉焼きがとっても好きなので、作ってもらえませんか?と丁寧にお願いしても規則ですのでダメですの一点張りで、取りつくしまもない。
対応がまるで公務員なのだ。
沢山の客が殺到すると一々客の注文に応じるのは混みあう原因になって不都合だからだろうと、一人合点をしてその場を去ったが、気になったので食事をしながらずっとそのコック二人を睨みつけるように観察していた。
お客の入りは70パーセントくらいだったが、30分見ていても、オムレツを頼んだ人は一人いるかどうかで、そのコック二人はバカ面をしてボーっとつっ立っていただけだった。
何のためのサービスなのか、サッパリ分らないままだった。
目玉焼きが食べれると思い込んでいただけに、食べれなかった顛末が残念でならなかったし、その半端なサービスに無性に腹が立って仕方なかった。
このホテルだけだったら、あーそうかという話で終わるのだが、実はそれで終わらなかったのだ。
場所が転じて翌日の石垣島のリゾートホテルでのこと。
同じようにバイキング形式の朝食会場にまたもやコックさんを見かけた。
もう全然期待なんて出来ないが、それでも「もしや」と思って近づくと、なんと目玉焼きを焼いているではないか。
前日の鬱憤を晴らすかのように目玉焼きをゲット!
ついに、国内の旅先で初めて目玉焼きを食べる事に成功したわけだ。
これで勢いづくのは当然の成り行きで、2日目もと期待は膨らむ一方だった。
翌日の朝、昨日のコックのオジサンがいたので、また食べれると思い近づいていった。
「おはようございます、今日も目玉焼き下さい。」と当然のようにオーダーする私。
「おはようございます、今日はダメなんです。」とちょっと申し訳なさそうなオジサン。
「えっ、どうしてダメなんですか? 昨日は作ってくれたじゃないですか。」と訝る私。
「今日はオムレツの日なんです。」
「・・・・・・。」