源太郎のブログ

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「山小屋」

2012年08月04日 | エッセイ
 鳳凰三山の薬師岳から観音岳を過ぎて地蔵岳へ向かう分岐が赤抜沢ノ頭。ここまでは多くの登山者で賑う。ここから先は急にひっそりとして正面に見える甲斐駒ヶ岳が歩くに従ってどんどん大きくなって迫ってくる。最初の峠、白鳳峠を越えると次は広河原峠。その先に続くのが早川尾根だ。その尾根の途中に地味な山小屋がある。早川尾根小屋だ。山小屋は常々「独立王国」だと私は思っている。小屋の決めた「法律」が支配する「独立国」と言っても良いかもしれない。「法律」と言って大袈裟なら「ルール」だろう。そのルールが見事なほどに小屋毎に違うのだ。それは、靴やザックの置き方、朝夕食の時間、トイレの作法、寝具の取り扱い、食器の片付け方、消灯時間等々事細かに決められている。我々は色々な小屋を泊り歩くから、その違いを意識するが、小屋の方は、他の小屋のあり様は余り気にならないのではないか。だから山小屋一軒一軒が「独立王国」だと思うのだ。


 広河原峠から一登りでピークを越えると、この辺りでは珍しいなだらかで快適な樹林の道が標高2400mの小屋まで続いている。定員は30人と言うから、小ぶりの質素な小屋だ。到着を告げるとノートに住所・氏名・電話・翌日の行き先を書く様求められた。二行で!ときっぱりとした口調。これも、此の小屋のルールなのだろう。小屋代は一泊二食付で5千円。安い!小屋が汚いとか、古いだとか、狭いだとか、そんな事より、5千円で何が出てくるのか、一抹の不安を覚えた。夕食・朝食共、4時半だと告げられた。お~、早い。でも「法律」には従うしかない。そして、すぐにサービスされたのが「冷たい麦茶」。どうしたらここで、そんなに冷たく出来るの?と思う位、冷えて美味しい麦茶。9時間も炎天下歩いてきた身にはこの上ないおもてなしだった。


 入口の些か建てつけの悪い引き戸をガラリと引いてなかに入ると、すぐ土間を隔てて左右に寝床が広がる、昔ながらのシンプルな構造。土間に靴を脱いで、寝場所を確保すれば、あとはもうする事が無い。


 夕食の時間になると、と言っても夏の太陽はまだまだ高い時間、小屋の人がテーブルをセット。本日のお仲間は私を含めて一人旅の4人と4人組のグループが一つ、全部で8人。小屋の人が今晩は「親子丼」なんですが、大盛が良いか普通で良いか、聞いて回る。へ~「親子丼」なんだ~。珍しい。「山小屋」で親子丼の夕食、と言うのは初めて。でも、旨ければ良い。そして、告げられる。「お箸は夕食・朝食兼用です」。はは~、これが此の小屋の「法律」だ。これも珍しい。でも、合理的。そして、「親子丼」とみそ汁が運ばれた。「親」が殆ど見当たらず、「子」ばかり、おやおや、と言う感じ。でも、空きっ腹にはどうでも良い。味もまずまずで完食。後はお箸を箸袋に戻して仕舞うだけ。食後、単身4人組みで「山談義」が始まる。主役は南アルプスの一人旅9泊目、と言いう40歳の学校の先生。畑薙ダムから光岳、聖岳、赤石岳、荒川岳、塩見岳、仙丈ヶ岳、甲斐駒ケ岳と縦走して、10日目の明日、地蔵岳から御座石鉱泉に下る、と言うスケジュール。どひゃ~。凄い!


 翌朝、起床は3時50分、寒くまだ暗い。寝具を片づけてテーブルをセットすると、そこは「ダイニングルーム」に変身。今朝は、何が出てくるのか? じゃ~ん、「おでん」だ。意外な展開。大きなどんぶりに一通りのおでんの具がたっぷりおつゆの中に沈んでいる。ご飯とおでん。これもシンプル。食べて見ると以外に美味しい。おつゆの味も良い。「親子丼」の夕食と「おでん」の朝食、山小屋のメニューとしては実に斬新だ。


 今回の旅、ずっと前から歩きたかったルート。韮崎から行く甘利山から千頭星山を経由して苺平、南御室小屋に泊って鳳凰三山を巡り早川尾根からアサヨ峰、栗沢山を経て北沢峠までと言う行程。3日間の行動時間は、景色を見ながらのゆっくり歩きで24時間5分の久し振りに山の醍醐味を味わう事の出来た山旅だった。


写真① 初代の「早川尾根小屋」
写真② 一泊二食で五千円
写真③ 注意書き
写真④ 夕食
写真⑤ 9泊10日の先生
写真⑥ 朝食
写真⑦ 甲斐駒ケ岳と八ヶ岳連峰全景


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