この写真には多くの物が写っている。後方の雪を頂いた山波はアマダブラム(6814m)右手手前にタムセルク(6341m)その左奥に、山の頂だけ顔を出しているのがカンテガ(6685m)。一番左側に尾根の末端だけ姿を現しているのがラマ教の聖山、クーンビエラ(5761m)、その手間の集落がクムジュンの村。その村とアマダブラムの中間の尾根の上に小さく見えるのがタンボチェの僧院。中央右手にシャンボチェの空港。今は定期便は無くヘリコプターだけが飛んでいるようだ。滑走路の手前端に建物があって、その左に途中で枝分かれしたトレイルが見える。滑走路の先端部分から左側稜線上にホテルの建物が小さく写っている。日本人が建てた有名なエベレスト・ビューホテルは広い面積を占める中央の「公園」のような空間の奥にあるが、丘の影になってこの写真には写っていない。そして、何と言っても不思議なのは中央の「公園」の様に見える所だ。珍しくなだらなか丘状になっていて、樹木が生えている。この中を歩いていると、人工的に作られた「公園」にも思える所だ。当たり前の事だが、写真を写した、と言う事は、私がこの景色が見える場所にいた、と言う事だ。この写真を写した時は、今回の旅の中でも、最も「平和で心満ち足りた」気分に浸った時であった。目的の山は登り、あとは下山するだけ、空は抜ける様に青く、背景に雪を頂くヒマラヤの山々、そして、楽園のような緑の広がる丘。これ以上、望むべくも無い瞬間だった。だが、好事魔多し、この写真は天国と地獄の分かれ目であった、と後で判った。二晩、クンデ村のガイドのダワさんの御宅にお世話になり、カトマンズ行きの飛行機の出るルクラの空港まで歩いて2日の行程に出る、翌日。私の体に異変が起こった。未だに何が起ったのかは不明だが、多分「ウイルス性胃腸炎」、今流行りの「ノロウイルス」にやられたのだろう。とにかく何も食べられない、食べた物は戻す、と言う状態。普通なら、安静にして回復を待つ、と言うのが常識だ。しかしながら、私の選択肢は唯一つ、予定された飛行機に乗る、と言う事。ルクラからカトマンズ行きの飛行機は全便全て満席状態だから、一度手放した座席は、2度と戻って来ないのだ。翌日から2日間、飲まず食わずで、山道を歩くことを余儀なくされた。殆ど空身とは言え、今までの疲労の蓄積やストレスで辛い歩行であった。
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