源太郎のブログ

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Cunard

2009年03月08日 | エッセイ

Queen_mary_09_012

早朝、船の大きな霧笛の音で目が覚めた。野太い霧笛が3度、港の方から聞こえた。クイーン・メリー2号が横浜の港に着いたのだと、後で知った。

Cunard Line(キュナード・ライン)の所有する世界最大級の豪華客船が世界一周クルーズの途中、横浜に寄ったのだ。「世界で最も有名なオーシャン・ライナー」と自ら称するキュナード社は大英帝国華やかりし頃創立の船会社である。1840年、と言うからもうかれこれ170年前になる。有名なクイーン・エリザベス2号(QE2)の会社でもある。QE2は現在、キュナード社の所有を離れ中東のドバイで水上ホテルとして使われている。

「豪華客船」のスケジュールは何年も前から決まっているから、今回の寄港も相当前に決められたものなのだろう。バブルの象徴の様なこの船の一番高いキャビンが2600万円だと言うからやはり「豪華客船」とはセレブの乗るものなのだろう。が、この船が実際の航海に出る時、世の中の事情がこれ程までに変わっている事を誰が想像出来ただろうか。「懐具合」の激変で乗りたかった船を諦めた人、辛うじて乗ってはみたが航海の最中も心安からぬ人等様々に違いない。本来、「豪華客船」は横浜では大桟橋(おおさんばし)に接岸する事になっている。税関などの施設や旅客ターミナルとしての機能も充実し、市内に出るのも便利な場所だからだ。だが、この船は違った。大き過ぎて港の入口にかかる「ベイブリッジ」の下を通れないのだ。だから、ベイブリッジの手前にある普段は貨物の積み下ろしに利用される殺風景な「大黒埠頭」に接岸する事を余儀なくされた。

そこはたまたま家からそう遠くない所だったので、巨船を見たかった私は雨の中、普段は入る事の出来ない「大黒埠頭」まで行ってみた。そこは華やかな「豪華客船」の着く場所としては余り似つかわしいとは言えない場所であった。その上、埠頭は冬の冷たい雨が降り、その上風も強く寒々しい場所であった。そこは今の、世界の、日本の「世情」を象徴するような寒々しい場所でもあった。船はとにかくでかい。長さ345m。東京タワーが332mだから船を立てるとそれより長いのだ。重さは15万トン。QE2が7万トンだからゆうに2倍以上だ。まさしくバブルを象徴する巨大さで埠頭に停泊していた。「船」と言うよりは巨大なホテルが海の上を移動して来た、と言う感じだった。その「停泊」も束の間。船は朝着いて、夕方にはもう香港に向けて出港する。その香港には同じくキュナード社が所有していた初代のクイーン・エリザベス号(QE1)が海底に眠っている。QE2の先代のその船は戦中の1940年に造られたが船の修理中に火災の為、香港の沖合で沈没してしまったのだ。

大分以前の事だが、私はその船に乗った事がある。造られた当時は「豪華船」だったのだろうが私が乗ったのは窓もない船底の大部屋で既に老朽化し「豪華船」とは程遠い存在であった。久し振りにキュナード社の船を目の当たりにし、私の遠い過去の思い出がよみがえった。